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『蛍 〜 永遠を胸に抱いて 〜 』
フレイヤja0715



 不思議な感覚だった。
 気持ちがそわそわと落ち着かない。
 足元のあたりがふわふわする。
 青薔薇の浴衣を着付ける時も、会場へと向かう今だって胸がどきどきしてたまらない。
 理由なんて分かっている。分からないはずがない。
 けれどそれを押し殺し、フレイヤ(ja0715)は青い瞳をキリッと上げて歩いた。その足取りは羽根が生えているかのように軽い。
 途中で合流した若杉英斗(ja4230)がこちらを見て一瞬「おや?」という顔になった。
 そうして笑顔で言う。
「へぇ。似合うなぁ」
 まんざらでもなかった。





「マジか! よし着よう! 明日も浴衣な!?」
「え!? 本気!?」
 歩くことしばし、前方から聞こえてきた声にフレイヤは苦笑した。
「何故、往来で浴衣掴んでいるのかね……」
 視線の先にいるのは四名。何故かカタリナ(ja5119)の浴衣を鷲掴みにしている七種戒(ja1267)と、それを笑って見ている百々清世(ja3082)とギィネシアヌ(ja5565)だ。
 外見だけは見目麗し集団に、フレイヤは苦笑する。これでリア充が少ないのはどういうことだ、と。
(ん?)
 と、視線を感じてギィネシアヌを見た。
 その瞬間、ピンときた。
 理由は分からない。ただ感じたのだ。雷が走ったかのような衝撃を!

 同じ匂いを感じる……!

 言うなれば、そう、魂の共鳴!
(こやつ……出来る!)
 ピキーンッと効果音さえ鳴りそうな緊迫感。しかし脳内会話の為誰も突っ込まない。
「いい結果だといいよなー。うん」
 と、その耳が戒達の会話を拾った。二人して我にかえったようにカタリナと戒を見る。
 彼女等が話しているのは、この場には居ない久遠栄(ja2400)のことだった。ちょうど依頼が入っていた彼は先にこの地方に飛んでいる。だが、約束の時間が迫ってもまだその姿は見えなかった。
(戦闘依頼、だったのよね)
 封都があって以降、戦場は激化の一途をたどり、張り出される依頼にも危険を訴える項目付きのものが増えた気がする。
(……誰一人欠けることなく)
 ずっとこの大切な人達と共に。そんな願いさえも容赦なく奪っていくのが天魔だ。
 国内において著名な久遠ヶ原学園でも、依頼で命を落とした人はいる。それが自分の友人や知り合いでなかったからといって、胸が痛まないわけではない。だがもし、大切な友達が同じように依頼で命を落としたら……
(……冗談じゃ、ないわ)
 フレイヤはぐっと拳を握った。
 大丈夫だ。大丈夫だ。心の中で何度もそう呟く。本当には、不安で震える心を押し隠して。
「きっといい結果を持ってくるよー」
 心配げな戒を慰める声に、フレイヤも深く頷いた。
「何より、無事であるのが一番の吉報よね。どの依頼でも」
 いつも通りの声で言ったはずなのに、戒がこちらを見てちょっと笑った。
 フレイヤはそっと視線を逸らす。
 仲間を案じる気持ちは同じだろう。だからきっと虚勢なんてすぐにバレてしまう。それでも、まだ本心を語るのは少し恥ずかしい。
 たとえその本心も、わりと皆にバレているとしても、だ。





 祭会場はなかなかの盛況ぶりだった。
 あの後すぐ合流を果たした栄も無事。待たせおって、と心配の裏返しな気持ちがわき上がったが、大成功だったという笑顔に腹パンは堪えることにした。
(にしても、とにもかくにもお祭りなんて久しぶりだから何があるのか全然分からないわけよね……)
 並ぶ屋台も皆同じように見える。
「リンゴ飴とか超気になるんだけど……あるかなぁ」
 正直、どれがリンゴ飴の屋台なのかもさっぱりだ。
「あるある! 買ってやんよ」
 思わずの呟きに、清世が笑って屋台へと向かった。フレイヤは慌てた。
「じ、自分でちゃんと払うにょよ!」
 嗚呼! 何故ここでどもるの私!
 内心頭を抱えたフレイヤだったが、清世がすでに勘定を済ませているのを見てさらに頭を抱えたくなった。
「えー。別にいいのに。お兄さんが奢ってあげるよー?」
「あ、ぅ、ぅん」
 笑顔で言われてフレイヤは思わず言葉を濁す。ありがと、言った言葉は我ながら小さい気がしたが、ちゃんと聞こえたのだろう、笑顔が返ってきた。





(そして何故舟で暴れるー!?)
 フレイヤは慌てていた。ものすごく慌てていた。
 なにせ足場が盛大にゆっさゆっさ揺れているのだ。
 原因は一緒に乗っている戒とギィネシアヌである。
「ちょ、ちょ、揺れすぎじゃない!?」
 フレイヤは掴まる場所を探してあわてふためいた。何故か一緒に乗ってる他面々はほんのり笑っている。
 と、清世が不安定なフレイヤを軽く支えて二人に声をかけた。
「はいはーい。七種ちゃん、山田ちゃん、船頭さん達も困ってるからストップねー」
「おっと。ごめんなー」
「すまぬである!」
 あっさりと二人が止まる。船頭達の笑い声を聞きながら、フレイヤはほっと息を吐いた。
「もー」
 と口を尖らせつつ、きゃっきゃしている二人を見ると拗ね顔も微苦笑に溶けてしまった。
(まぁ、せっかくの祭りだしね)
 テンションが高いのは、自分だってそうだ。
 ずっと朝からわくわくが止まらなかった。会場に着くまで、いや、会場に着いてもどきどきが止まらない。
 楽しみだったのだ。こうして、友達と一緒に祭りに行くことが。 
(久遠ヶ原に来るまではお祭りなんて縁のないものだったのよね、ぼっち的に考えて)
 でも今は皆と一緒に遊びに来れる。
 それがどれだけ嬉しいことなのか、分かる人は少ないだろう。
 自分だって口にしようとは思わない。というか、出来ない。
(い、言えるわけ、ないわよねっ)
 どれだけ感謝しているか、とか。
 どれだけ大好きだと思っているか、とか。
 でも、
 それでも、
(すごく楽しみだったのよ)
 一緒の買い物。
 遊び。
 何気ない会話。
 ほんの些細な事も、そうでない事も、自分以外の誰かが居るからこそ初めて生まれるもの。
 ねぇ、と声をかければ、何? と振り返って尋ね返してくれることとか。
(……皆、大好きだよ)
 なんて、
 ……まぁ恥ずかしくて絶対に言わんがな!
(からかわれるに決まってるし!)
 頬を染め、イキイキとした瞳で蛍を見つめながら、フレイヤはむふー、と息を吐いた。
 確かにフレイヤは口に出しては何も言わない。
 が、体からものすごい勢いでいろんなものが放出されていた。大好きオーラとか楽しみオーラとかが。
 わっと群れ飛ぶ蛍火が目の前に迫る。
 清世が笑って声をかけてきた。
「こんだけ綺麗だとお願い事とか叶いそうねー。フレイヤちゃん、彼氏できるようにゆっとけば?」
「な、なァ!?」
 フレイヤは慌てて清世を見た。心の中を見透かされたかと思ったのだ。
 残念ながら、願う対象は彼氏ではなかったけれど。
「あっ、この、何故逃げる!?」
 そんなフレイヤの後ろで戒が叫ぶ。蛍に向かって本当に願い事するつもりだったのだろうか。
 そして何故逃げられているのか。
 フレイヤは唖然とした顔で戒を見る。
 そうして、子供のような笑顔で笑った。





 舟から降りて後は射的大会となった。どうしてかは不明だ。たぶん、皆負けず嫌いなのだろう。
 同じく銃を構えつつ、フレイヤはきゅっと唇を尖らせる。命中特化のインフィルトレイターと違い、ダアトの物理命中力は大変悲しいものがある。正直勝負にならない状態だが、そこはそれ。もともと身体能力の高い撃退士だ。根性も手伝っていい勝負を続けていた。
(勝負は、気力!)
 撃った弾が可愛い髪飾りの入った箱を落とした。
「ふっ。こんなものよ」
 するとすかさずギィネシアヌが別の商品を射倒した。
「なぜだかとっても、キミには負けたくないのである…!」
「その勝負、受けた!」
 何故かお互いライバル心。強敵と書いてともと呼ぶ。そんな感じのノリである。
「白熱してるねー」
 青空が笑い、ふと目があった拍子に何故かわたわたしだした。何だ? というか、ベル子可愛すぎワロタ。
「あ、と。黄昏、えっとね」
 あわあわしながら、青空が何かを取り出す。どうも渡すタイミングを探していたらしい。何だろうと首を傾げたフレイヤは、差し出された品に目を丸くした。
 綺麗なコサージュだった。
「コンボルブルスの花をね、象ったんだ。花言葉は縁とか、絆」
 縁や、絆。
 言われて、フレイヤは息を止めた。
 それはフレイヤが大切にしているもの。
 青空は慌て顔のまま、照れくさそうに言葉を探し、ややあって笑顔でこう言った。
「は、はやくぼっちじゃなくなるといいな!」
「……一言多いーっ!」
 フレイヤは軽く腹パンする真似をして、思わず吹き出した。
 青空も笑う。
 何故か勝負をしていた戒が栄と一緒に盆踊り会場に走り出したり、戒の勝負をカタリナが引き継いだりするのに対応しながら、フレイヤは眼差しを川向こうに馳せた。
 闇夜に在る光。
 その光が、願いを叶えてくれるのなら、どうか、


 どうか、この時間が永く続きますように。
 大切な友達がずっと元気でいてくれますように。




 この大切な宝物が、永遠でありますように。








登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0715/フレイヤ/女/20才/ダアト】
【ja0732/青空・アルベール/男/16才/インフィルトレイター】
【ja1267/七種 戒/女/18才/インフィルトレイター】
【ja2400/久遠 栄/男/19才/インフィルトレイター】
【ja3082/百々 清世/男/21才/インフィルトレイター】
【ja4230/若杉 英斗/男/17才/ディバインナイト】
【ja5119/カタリナ/女/23才/ディバインナイト】
【ja5565/ギィネシアヌ/女/12才/インフィルトレイター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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愛おしいものは何気ない日常の中に。
皆様に良い日々が訪れますように……
綴らせてくださり、ありがとうございました^^
常夏のドリームノベル -
九三 壱八 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年09月12日

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