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『蛍 〜 その華の名を 〜 』
七種 戒ja1267


 祭り当日は昼から雨が降りやがった。
 おのれ朝まで晴れてたくせに何事か!
 今日という日を楽しみにしていた七種戒(ja1267)は涙目で空を見上げる。祭りが始まるのは夕刻以降。頼むから晴れてくれと祈る思いでてるてる坊主を作成した。
 百八体ほど。
 そうして待つこと数時間。

 祭りに向かう頃には、雨はすっかり止んでいた。





「雨、やんでよかったねぇ!」
 青空・アルベール(ja0732)の声が聞こえた。両手を広げてはしゃいでいる友人に、戒もうきうきと足取り軽く歩む。
「でも、本当に晴れてよかったですね。せっかくの祭りで雨というのは悲しいですから」
 カタリナ(ja5119)が微笑みながら呟き、ギィネシアヌ(ja5565)も深々と頷く。
「客も少ないし、濡れるしで散々である」
 顔を上げれば、青空がこちらに気づいて大きく手を振っている。一緒に居た百々清世(ja3082)もこちらに気づいて目を瞠った後に破顔した。
「おー。華やかだなー。よく似合ってる」
「ちょー着付けがんばった!」
 戒はグッとサムズアップした。
 三人の装いは夏祭りの正装とも言うべき浴衣。戒は白地に藤色の花模様。ギィネシアヌは蛇鱗模様の白の浴衣。カタリナは落ち着いた緑地だ。
「浴衣って、こういう時ぐらいしか着ませんしね」
「着慣れなくて落ち着かないのぜ」
「え!? 二人とももっといっぱい着ていいと思うのよ? よ?」
 二人の麗しい姿に戒は渾身の思いで告げる。カタリナがにこー、と笑った。
「その時はもちろん一緒に浴衣よね?」
「マジか! よし着よう! 明日も浴衣な!?」
「え!? 本気!?」
 無論、本気である。
「何故、往来で浴衣掴んでいるのかね……」
 そこへフレイヤ(ja0715)と若杉英斗(ja4230)が合流した。カタリナの浴衣を鷲掴みにしている戒への言葉だったのだが、ギィネシアヌの方が反応した。しばし二人で見つめ合っている。
 それを余所に、戒は「うーむ」と唸った。
「さかえんは依頼だったかー」
「作戦が上手くいけば午前には終了する依頼だったし、わりと近場だったからそろそろ合流するかな、とは思うけれど」
 激化する戦い。増える危険条件の重なった依頼。戦場へ赴く友を見送る度に、祈らずにはいられない。
 どうか無事に、と。
 そんな戒に、カタリナは言葉を重ねた。
「このあたりだと電車でなく汽車だから、それで合流に時間がかかってるんだと思うわよ」
 大丈夫、という励ましのニュアンスに、戒は頬を掻いた。
「いい結果だといいよなー。うん」
「きっといい結果を持ってくるよー」
「何より、無事であるのが一番の吉報よね。どの依頼でも」
 ギィネシアと見つめ合っていたフレイヤが会話に混じる。清世とのやり取りを微笑ましいような羨ましいような気持ちで眺めていると、清世がふと視線を上げて遠くを見た。それを追った戒は思わず破顔する。
 足早にこちらへと向かってくる久遠栄(ja2400)の姿に、大きく手を振った。
「さかえんおつー!」





 若い胃袋が反乱を起こす前にと、一同は食べ物系の制覇に乗り出す。
 動揺すると言葉がどもるフレイヤをにやにや見守りつつ、戒は食べ終えた焼きそばの器をきちんとゴミ箱に入れた。すでに男達は次の屋台で買ったお好み焼き等に移っている。
「なたねえ! これ美味しいよー」
 はい、と青空に差し出されたのはたこ焼き。ほこほこと湯気をあげているのがなんとも美味しそうだ。
「お。さんくすなー!」
 大喜びで頬張っていたら、目の前に食べ物の入った器が並んだ。
「お好み焼き、半分あげるよん」
「たまご焼き買ったから、摘んでいいわよ」
「戒。ダブルまででしたらアイスもあげますよ」
「……清にぃ、よしこ、リナさん。なんで食べ物を持ってくる……?」
「よしこ言うな!」
 キッと怒りつつ、よsもといフレイヤは胸を張って言う。
「もやし生活じゃ力でないでしょ?」
 何故だ。何故もやし生活がバレている。なんでじゃー!
 絶望戦隊モウダメジャーだからだろう。
 がっくりと項垂れつつしっかり食べさせてもらっていると、「お」と清世が声を上げた。
「船、乗れんの?折角だし乗ろーぜ」
 はっと視線を追えば、高瀬舟の看板が。舟の上の蛍見物! 戒は目を輝かせた。
「突撃じゃー!」





 清世の手を借りて揺れる舟の上に乗ると、不安定な足元に水の気配を感じた。
「おおー。揺れる! 揺れる!」
「ふははは! 揺れ揺れである!」
「って揺らさないで! ゆっくり見えないでしょう?」
 出発する舟で思わずはしゃぐと、素早くカタリナに「めっ」される。
「ちょ、ちょ、揺れすぎじゃない!?」
「はいはーい。七種ちゃん、山田ちゃん、船頭さん達も困ってるからストップねー」
「おっと。ごめんなー」
「すまぬである!」
 フレイヤがあわあわしていたが、他の一同はむしろ揺れそのものも楽しんでいたようだ。苦笑する船頭さん達に挨拶すると笑顔が返ってくる。
「蛍ってさ、綺麗な水のところにしか住まないらしいぜ。フフフ…ここはいい処なんだろうな」
 相好を崩して光景に視線を投じたところで、隣に座るギィネシアヌが遠い目でそう語る。蛍を通してどこか違う場所を見る眼差しは、少しだけ寂しげだ。
 戒はぎゅーっとその体を抱きしめた。
「うにょら!?」
 ギィネシアヌが驚いて変な声をあげる。
 戒は一度口を開きかけ、言葉を飲み込み、別の言葉を発した。
「ネアちゃんが儚げ系をアップしたと見て!」
「してねぇええええ!?」
 思ったとおり元気のいい答えが返ってくる。戒は笑った。
 寂しい? とは尋ねてはいけない。
 どうしたの? と聞くのも野暮だろう。
 人にはそれぞれに負う過去がある。あえて踏み入らず、語りを待つべきなのだと思うから。
「確か遙か上流に遡れば日本の滝百選に選ばれた滝があったはずですね。写真にあった昼の川の透明度を見るにかなり水質も良さそうです。あと、カワニナもタニシも豊富だと解説にありましたね」
 カタリナ女史がそれとなく話題をふってくれる。ふむふむ、とフレイヤが頷いた。蛍のヘアピンをくっつけて。
「そしてこの光景である。ということであるか」
「あ。よしこ。髪に蛍とまっとる」
「よしこ言うなし!」
 何故に貝ちゃんは我をよしこと呼ぶかー! と叫ばれて、えー黄昏マジよしこー、と戒は笑顔で返した。愛である。
 そうやって遊んでいると、カタリナが笑顔で語りかけてきた。
「ところで戒、船縁からあまり乗り出すと、川から手が出てきて引きずり込まれますよ」
「ええ!?」
 戒とギィネシアヌがぎょっとなって抱き合う。
「最も禁忌なのはお盆以降だそうですけど。お盆以降は川や海では泳がないのが、この辺りの風習だそうです。たまに泳ぐと……」
「お、泳ぐと……?」
「決まって行方不明者が……」
 明かりの届かぬ高瀬舟の上。静かな夜の冷気。冷光を発する蛍。雰囲気としてはこの上ない。思わず震える二人に、カタリナはにこっと暖かい笑顔になって言った。
「まぁ、言い伝えですけれど」
 言い伝え、という部分がむしろ怖かった。その刹那、ぶわっと緑光が後ろから迫る。
 歓声をあげたのは青空と栄か。一瞬ビクッとなった戒は辺りに溢れた光に徐々に相好を崩した。
「こんだけ綺麗だとお願い事とか叶いそうねー。フレイヤちゃん、彼氏できるようにゆっとけば?」
 清世の言葉に戒もハッとなる。
(確かに、御利益ありそうな……!)
 心が躍った。瞬間、蛍が逃げた。
「あっ、この、何故逃げる!?」
「食欲でも感じ取ったのかしら……」
 わりと本気の口調でカタリナが呟く。戒は涙目で叫んだ。
「ちょー待って!? いくらなんでも食欲はわかないよ!?」





 高瀬舟を降り際、英斗がそっと手を差し伸べてくれた。
「はい」
「おっ! 流石若様!」
「浴衣じゃ動きにくいだろうしな」
 感謝すると、英斗が少しだけ照れくさそうに笑う。
「下駄も慣れないと擦れて痛いですしね」
 同じく手を貸してもらったカタリナが苦笑がてら呟いた。
 腹が満たされ、見るものも見たとあっては次に向かうは遊び場!
「よーし! ぬこぐるみゲットォ!」
「あー! 狙ってたのにー!」
「早い者勝ちである! が! たこ焼きのお礼だー!」
「ありがとー!」
 笑顔で猫のぬいぐるみを抱く青空。可愛さがハンパ無い。ニッと男前笑顔を煌めかせた戒が次の獲物へと照準を合わせた瞬間、友が叫んだ。
「盆踊り会場発見!」
「なぬぅううう!?」
 反応速度0.1秒である。
「行かねば!」
「ちょ! 勝負どうなった!?」
 フレイヤが叫ぶ。戒はコルク銃をカタリナに押しつけて走った。
「譲ってやるわぁ! 行くぞさかえん!」
「よしきた!」
「七種ちゃん裾に気をつけてー」
 即座に栄が続く。その背後から負ってきた清世の声に、戒は手で「任セロ☆」と返事した。
「盆踊り。即ち、浴衣の美男美女!」
「待てそっち!?」
 心の叫びにさかえんが突っ込む。笑んで戒は踊りの輪へと走った。
「人生、楽しんでなんぼじゃろ!?」
 鮮やかな華のような笑顔だった。
 



登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0715/フレイヤ/女/20才/ダアト】
【ja0732/青空・アルベール/男/16才/インフィルトレイター】
【ja1267/七種 戒/女/18才/インフィルトレイター】
【ja2400/久遠 栄/男/19才/インフィルトレイター】
【ja3082/百々 清世/男/21才/インフィルトレイター】
【ja4230/若杉 英斗/男/17才/ディバインナイト】
【ja5119/カタリナ/女/23才/ディバインナイト】
【ja5565/ギィネシアヌ/女/12才/インフィルトレイター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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愛おしいものは何気ない日常の中に。
皆様に良い日々が訪れますように……
綴らせてくださり、ありがとうございました^^
常夏のドリームノベル -
九三 壱八 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年09月12日

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