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『蛍 〜 まほろばの夢 〜 』
百々 清世ja3082



「蛍ねー、そういや久しく見てねぇな」
 話を聞いた時、百々清世(ja3082)は思わずそう零していた。
 可愛い後輩達が楽しげに計画しているのを見ると、なんとなく胸が温かくなってくる。
(最近、キツイ依頼も多かったしな)
 辛い思いをした者も多いと聞く。なんとなく頭を撫でてやりたい気持ちだった。



 

 祭り当日は、昼頃から小雨が降り始めていた。
 あまり雨がひどいようだと祭りも中断がちになる。なにより、話に聞く高瀬舟が出せなくなってしまう。
 内心(どうしたもんかね)と思っていた清世は、夕方に止んだ雨にほっと胸をなで下ろした。
「雨、やんでよかったねぇ!」
 同じ気持ちだったのだろう、祭へと向かう道すがら、雲間から挿す光に目を細めて、青空・アルベール(ja0732)は嬉しげに両手を広げていた。水気を含んだ夜の空気を抱きしめる感じだ。
「皆がいい子だから止んだんだろうな」
「清兄ちゃんが保護者してる」
「なんで驚いた目で見るー?」
 ぴょっ? と目を見開いてこちらを見ていた青空は、清世の声に笑った。
「うん。兄ちゃんはいつも皆のお兄ちゃんだ」
「おー」
 こくり、と頷いた青空が、清世の後ろに気づいて手を振った。
「なたねえー! ネアー! カタリナー!」
 振り返れば、七種戒(ja1267)、ギィネシアヌ(ja5565)、カタリナ(ja5119)がからころと下駄の音を鳴らして歩いてきていた。
「おー。華やかだなー。よく似合ってる」
「ちょー着付けがんばった!」
 清世の声に戒が笑顔でサムズアップする。その後方から、三人と同じく浴衣を着用したフレイヤ(ja0715)と若杉英斗(ja4230)が合流した。
「さかえんは依頼だったかー」
「作戦が上手くいけば午前には終了するだったし、わりと近場だったからそろそろ合流するかな、とは思うけれど」
 戒の声には心配そうな色がある。激化する戦いは、否応なく友の身への危惧に繋がっていくのだ。カタリナは言葉を重ねた。
「このあたりだと電車でなく汽車だから、それで合流に時間がかかってるんだと思うわよ」
 大丈夫、という励ましのニュアンスに、戒は頬を掻いた。
「いい結果だといいよなー。うん」
「きっといい結果を持ってくるよー」
「何より、無事であるのが一番の吉報よね。どの依頼でも」
 金色の髪を背へと流して、フレイヤが言う。僅かに感じられる願うような声色に、清世は頭を撫でた。
「な、何故頭をなぜうー」
 フレイヤ。言葉が軽く動揺している。
「うーん。いいこいいこしたくなる気分。……と、ひでとんはー……?」
 ふと声のしない友達を捜せば、何故か少し離れた川面に立っていた。その向こうから話に上っていた久遠栄(ja2400)が競歩みたいな早さで歩み寄っている。
 栄に気づいて待ってやっていたのだろうか?
 その栄はすぐにこちらに気づいて手を振ってきた。
「おーい!」
 戒と清世は声を揃えた。
『さかえんおつー!』






「あ! いいもの買ってる! 黄昏も食べない?」
 焼きそば屋に向かった英斗とギィネシアヌを見て青空が走る。ふわふわした足取りで歩いていたフレイヤが慌てて反応した。
「あ、青のりつくと大変なのよ。食べないとは言ってないわよ?!」
 ちょっと声のトーンがいつもより上がってる気がする。上気した頬を見るに、祭の気にあてられたのだろうか。
「リンゴ飴とか超気になるんだけど……あるかなぁ」
「あるある! 買ってやんよ」
 もぐもぐしつつ呟いたフレイヤに、清世は笑って屋台へと向かった。フレイヤが慌てて追いかけてくる。
「じ、自分でちゃんと払うにょよ!」
「えー。別にいいのに。お兄さんが奢ってあげるよー?」
「あ、ぅ、ぅん」
 ごにょごにょとフレイヤが言葉を濁す。ありがと、の言葉は小さかったが、ちゃんと聞こえた。
 最初は食べ物屋に走るのは若い証拠だろう。たこ焼き、お好み焼き、たまご焼き、フランクフルト、と胃の中に収めている後輩達を微笑ましく眺めていた清世は、屋台の端に立っている看板に目をとめ、お、と声を上げた。
「船、乗れんの?折角だし乗ろーぜ」
 高瀬舟の看板だった。何人か並んでいるようだが、舟の容量もそれなりにあるためさほど長い時間待たされずにすみそうだ。戒が目を輝かせて号令を発した。
「突撃じゃー!」





「おおー。揺れる! 揺れる!」
「ふははは! 揺れ揺れである!」
「って揺らさないで! ゆっくり見えないでしょう?」
 八人を乗せた高瀬舟が岸辺を発ったのは、順番に並んで後、三隻の舟が発ってからだった。
 賑やかな声をあげる戒&ギィネシアヌがゆっさゆっさと遊び、カタリナが顔を赤らめながら叱る。
 そして、あわあわしている影一つ。
「ちょ、ちょ、揺れすぎじゃない!?」
「はいはーい。七種ちゃん、山田ちゃん、船頭さん達も困ってるからストップねー」
「おっと。ごめんなー」
「すまぬである!」
 ぷちパニックなフレイヤをそっと支えて、清世が笑いながら悪戯っ子二人に言う。めっ、と二人を見るカタリナもその実口元に笑みを浮かべている。
「蛍ってさ、綺麗な水のところにしか住まないらしいぜ。フフフ…ここはいい処なんだろうな」
 ギィネシアヌが少し遠い目でそう語る。蛍の向こうに何を見ているのだろうか。やや寂しげな眼差しに、戒がぎゅーっとその体を抱きしめた。
「うにょら!?」
「ネアちゃんが儚げ系をアップしたと見て!」
「してねぇええええ!?」
 わいわいやってる女性二人に、見ていたカタリナがふっと笑みを零す。
「確か遙か上流に遡れば日本の滝百選に選ばれた滝があったはずですね。写真にあった昼の川の透明度を見るにかなり水質も良さそうです。あと、カワニナもタニシも豊富だと解説にありましたね」
 資料にしっかりと目を通しているカタリナ女史の声に、ほぇー、と感嘆の声をあげる一同。ふむふむ、とフレイヤが頷いた。
「そしてこの光景である。ということであるか」
「あ。よしこ。髪に蛍とまっとる」
「よしこ言うなし!」
 何故に貝ちゃんは我をよしこと呼ぶかー! えー黄昏マジよしこー。繰り広げられるいつもの光景に周りがほんのりとした笑顔になった。
 愛だ。
「あー。ほら、あんまり動くと蛍もからまっちゃうから、ね?」
 笑いながら清世がフレイヤの髪から蛍を回収する。至近距離にフレイヤがぎょっとなって顔を赤らめた。
「あ、あ、あ、あ」
 ありがとう。それがどもって出てこない。清世は笑ってその頭を撫でてやった。



 流れのままに川を下ってしばし、
「わっ」
「わぁっ」
 ふいに明かりが増した。
 緑光の固まりが至近距離に迫っていた。
「なにこれすごい!」
「お、うは、口開けると入ってくるんじゃないか? これ!」
 きゃー! と笑い混じりの悲鳴が混じる。光の群れは清世とフレイヤの近くにも迫っている。
「おー、やっぱ綺麗なもんね」
 清世は笑いつつ後輩の様子見守った。すぐに口元が綻んでしまうのは仕方がない。なにしろ皆、目を輝かせて光りに魅入っているのだ。
「こんだけ綺麗だとお願い事とか叶いそうねー。フレイヤちゃん、彼氏できるようにゆっとけば?」
「な、なァ!?」
 からかわれてフレイヤが目を剥く。その向こうで、何故か戒達がものすごい真剣な目で蛍を見ていた。
「あっ、この、何故逃げる!?」
「食欲でも感じ取ったのかしら……」
「ちょー待って!? いくらなんでも食欲はわかないよ!?」
 いつもの遣り取りをする面々に、蛍を呼ぶ歌を歌う青空と栄。
 微笑んで、清世は無意識の動作で煙草を取り出す。が、自身の動作に気づいて苦笑した。
(ん…や、今は我慢しとくか)
 喫煙は無粋だろう。そう思った。
 箱から出しかけた煙草をそっと戻し、賑やかな後輩達の声に耳を傾ける。
 口元の微笑がそっと深まった。






「腹も落ち着いてるし、いいものも見たし……このへんで皆で遊びたいな」
「射的とかないのかな」
 舟を降り、そう口にした清世に英斗が屋台を見渡した。
「ほら、みんな、射的やろうぜ!」
 即座にノる一同に、清世はにこにこと後に続いた。
「かっこいいよねー」
「やー。お兄さん負けそうだ」
「……かっこいいは否定しない」
 英斗はうなだれつつ頷いた。
 と、栄が遠くを見つめて後、カッと目を見開く。
「盆踊り会場発見!」
「なぬぅううう!?」
 戒が反応して叫ぶ。
「行かねば!」
「ちょ! 勝負どうなった!?」
「譲ってやるわぁ! 行くぞさかえん!」
「よしきた!」
 ダッシュで向かう戒と栄。
「七種ちゃん裾に気をつけてー」
 声を放った清世に手で「任セロ☆」の返事をしてあっという間に遠くなった。
 屋台に残された面々が笑いながら勝負を再開する。ギィネシアヌとフレイヤが張り合ったり、カタリナと英斗が同じ獲物を落としたり、フレイヤの装いにコンボルブルスのコサージュが追加されたり。
 清世はふと自分の口元を手で隠し、視線を空へと逃がした。
 緩みっぱなしの自分が少しばかり照れくさい。
 けれど、後輩達が笑っているのだから仕方がない。


 大切なものは、今ここにあるのだから。



登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0715/フレイヤ/女/20才/ダアト】
【ja0732/青空・アルベール/男/16才/インフィルトレイター】
【ja1267/七種 戒/女/18才/インフィルトレイター】
【ja2400/久遠 栄/男/19才/インフィルトレイター】
【ja3082/百々 清世/男/21才/インフィルトレイター】
【ja4230/若杉 英斗/男/17才/ディバインナイト】
【ja5119/カタリナ/女/23才/ディバインナイト】
【ja5565/ギィネシアヌ/女/12才/インフィルトレイター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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愛おしいものは何気ない日常の中に。
皆様に良い日々が訪れますように……
綴らせてくださり、ありがとうございました^^
常夏のドリームノベル -
九三 壱八 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年09月12日

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