▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『蛍 〜 幻想と現の楽園 〜 』
若杉 英斗ja4230



 蛍は美しかった。
 闇に描かれる緑光。残像のように残るその軌跡が、夜の帳をキャンパスに様々な形を描く。人には読めない恋文のように。
(思うことがある)
 友と祭り。非常に楽しみである。
 楽しみであるが、思うことがある。

(『彼女』と来たかった!)

 不服というわけでは断じて無い!
 ただ思うのだ。『彼女』とも来たかったと!
 心が血の涙を流すのを感じながら、非モテ系ディバインナイト友の会会員もとい若杉英斗(ja4230)は妄想する。もしここに『彼女』と来ていたなら。来ていたなら!

「きれいね」
 エア彼女はそう言って淡く微笑むのだろう。綺麗な髪、綺麗な眼差し。嗚呼! 理想をつきつめたエア彼女のなんと美しいことか!(他の人には見えません)
「そうだね。でも、君の方がもっと綺麗だよ…」
 心の底から英斗はそう言った。本心だった。それほどまでに脳内の彼女は美しかった。けれど控えめなエア彼女は少し拗ねた顔で英斗を見上げて言う。
「…だれにでも同じ事を言ってるんでしょ」
「そんなことないよ。君にだけ、だよ」
 ああなんて愛らしいのだろう。本当には信頼しているからこその遣り取りは愛情の確認だ。
「ホントに!?…うれしい」
 エア彼女は頬を染め笑顔を浮かべる。わき上がる愛おしさ。さぁ、ちゅっちゅ開始だ!

 はっ!

 ふと我に返り、英斗は大きく肩を落とした。
「むなしいな…。焼きそば食べよ」
 嘆くことはない。君の潜在能力ならばきっと素敵な彼女が出来るはず。僅かなりとも今嘆くことがあるとすれば、

 全部声に出ていたことだ。

 ぱきっ、という音を耳に拾って英斗は振り返った。
 ……おや? 久遠栄(ja2400)が頭を抱えているぞ?
 頭痛にでも見舞われたのだろうか。しかし、チラッとこちらを見た彼の顔は別に苦痛を堪える系ではない。……何か別のものを堪えてそうな顔ではあるが。
「栄さん。依頼お疲れ様でした」
「あ、うん。いやー間に合うかなーって焦ったよー(棒読み)」
 声をかけるとものすごい早さで歩いてきた。競歩レベルだ。
 そしてガシッと腕をとられる。
「お腹空いたな! あ、百々ちゃん達発見! おーい!」
 そのまま仲間の元へと引っ張られた。
『さかえんおつー!』
「依頼、お疲れ様でした」
 七種戒(ja1267)と百々清世(ja3082)が笑いながら声を揃え、カタリナ(ja5119)が笑って手招きする。
「む? 焼きそばであるな」
 まぁいいかと焼きそば屋に向かった英斗にギィネシアヌ(ja5565)がちょこちょことついて来る。キリッとした表情の少女は、蛇紋に似た模様の白浴衣に銀髪のため、闇の中でも一際目立ちそうな姿をしている。
「食べるか?」
「むむ。相伴に預かりたいところだが、ちゃんと自分で買うのである。でも、ありがとうだ!」
「あ! いいもの買ってる! 黄昏も食べない?」
 二人を見て青空・アルベール(ja0732)も走って来た。目がきらきらと輝いてる。
「あ、青のりつくと大変なのよ。食べないとは言ってないわよ?!」
 話題を振られて、どこかふわふわした足取りの黄昏の魔女ことフレイヤ(ja0715)が慌てて声をあげる。ちょっと声のトーンがいつもより上がってる気がするが、たぶん祭のテンションだろう。受け取った焼きそばを頬張る頬もいつもより上気していた。
「リンゴ飴とか超気になるんだけど……あるかなぁ」
「あるある! 買ってやんよ」
 もぐもぐしつつ呟いたフレイヤに、清世が笑ってそれらしき屋台へと向かう。フレイヤは慌てた。
「じ、自分でちゃんと払うにょよ!」
 戒がによによとした顔でそんなフレイヤ達を見送っていた。
 英斗はたこ焼きを一箱平らげ、お好み焼きを制覇する。美しい蛍観賞より、食欲の方が勝った。そんな高2の夏。
「お、船、乗れんの?折角だし乗ろーぜ」
 清世の声に、皆が視線をそちらへと向けた。なるほど、少し距離はあるが川縁に高瀬舟の看板が出ている。
「突撃じゃー!」
 戒の号令に全員が笑いながら走りだした。






「おおー。揺れる! 揺れる!」
「ふははは! 揺れ揺れである!」
「って揺らさないで! ゆっくり見えないでしょう?」
 賑やかな声をあげる戒&ギィネシアヌがゆっさゆっさと遊び、カタリナが顔を赤らめながら叱る。
 騒動も楽しむ面々に、同じく揺れそのものも楽しんでいた英斗は笑いながら川面へと視線を投じた。
(綺麗だな……)
 岸辺から見る蛍達も美しかったが、川の上、その光を間近で見る船での光景はそれを遙かに上回る。なにせ緑の光の固まりがすぐ近くで瞬いているのだ。思わず手を差し伸べたくなる光景だった。
「わっ」
「わぁっ」
 その緑光の固まりが至近距離に迫り、青空と栄が歓声を上げた。
「なにこれすごい!」
「お、うは、口開けると入ってくるんじゃないか? これ!」
 きゃー! と笑い混じりの悲鳴が混じる。光の群れは清世とフレイヤの近くにも迫っている。
「おー、やっぱ綺麗なもんね」
 清世が笑いつつ後輩二人の様子を伺っている。我が事のように嬉しそうな顔をしていた清世は、笑みを浮かべたまま隣のフレイヤに視線を返した。
「こんだけ綺麗だとお願い事とか叶いそうねー。フレイヤちゃん、彼氏できるようにゆっとけば?」
「な、なァ!?」
 フレイヤが慌てて清世を見る。いつも通りの光景に笑いつつ、英斗もふと真顔で考えた。
(確かに、御利益ありそうな……い、いや、ここで蛍頼みというのもアレじゃないか。ハハッ)
 しかし眼差しは真剣だ。ある種の危機でも察したのか、蛍が変な軌跡を描きながらちょっと逃げた。
「あっ、この、何故逃げる!?」
 え、俺、心の声漏らしたか!?
 一瞬ぎょっとなったが、違っていた。見れば戒の近くにいた蛍も軌道変更なぅ。
 待て、戒 。貴様もか!
「食欲でも感じ取ったのかしら……」
「ちょー待って!? いくらなんでも食欲はわかないよ!?」
 不憫である。我が身を見る気持ちで英斗はそっと合掌しかけた両手を降ろした。
 蛍が軌道修正を止めて戻ってくる。なにやらちょっと小憎らしい。
 だが、腕にとまってちまちまと光を発しているのを見れば、なんだかそんな小憎らしさも消えてしまった。
(今年は無理だったけど、来年の蛍祭りはかわいい彼女と一緒に来られるといいなぁ)
 そう思う。けれど、
「ホーホー蛍来い♪」
「こっちの水は甘いぞ♪」
 歌う青空と栄、笑っているカタリナ達。
(……これも、大切なんだよな)
 胸の中がほっこりと暖かい日常。
 いまはいまを思いっきり楽しもう。
 そう思うほどに、それもまた、彼にとっては大切な宝物だった。





「すごかったなー!」
「あれは心に残る光景でしたね」
 高瀬舟を降り、英斗は次の戒に手を差し伸べた。
「はい」
「おっ! 流石若様!」
「浴衣じゃ動きにくいだろうしな」
 笑顔の戒に頬を掻きつつ英斗は少しだけ笑う。
 男性陣と違い、女性陣は全員浴衣であわせてきている。それぞれが美しい装いは、見慣れた友人を少し特別な位置に押し上げるようでもあった。
(せっかくの浴衣が汚れちゃ可哀想だしな)
 英斗はそう思う。何故彼が非モテ枠なのかは関係者一同が深く首を横倒しにする事象である。
「腹も落ち着いてるし……このへんで皆で遊びたいな」
「射的とかないのかな」
 清世の声に英斗は屋台を見渡す。すぐに顔を輝かせた。
「ほら、みんな、射的やろうぜ!」
「ふっ。インフィルの私が優勝じゃ!」
「む? 勝負だな!?」
「なぜいきなりバトるんだ!?」
 ばさぁ! と黒髪を靡かせる戒に、ギィネシアヌが応え、英斗が顔を覆った。
「仕方ありませんね」
「だ、ダアトの限界に挑戦してやんよ!」
 勇ましく浴衣の裾を(少しだけ)翻して赴く女性一同。青空と清世はにこにこと後に続いた。
「かっこいいよねー」
「やー。お兄さん負けそうだ」
「……かっこいいは否定しない」
 英斗はうなだれつつ頷いた。
 とはいえ、さすがに撃退士、それもインフィルトレイターが揃うととんでもない事態になる。店の親父が涙目だ。
 そんな折り、ふと遠くを見た栄がカッと目を見開いた。
「盆踊り会場発見!」
「なぬぅううう!?」
 戒が反応した。速度0.1秒。
「行かねば!」
「ちょ! 勝負どうなった!?」
「譲ってやるわぁ! 行くぞさかえん!」
「よしきた!」
 ダッシュで向かう戒と栄。
「七種ちゃん裾に気をつけてー」
 声を放った清世に手で「任セロ☆」の返事をしながらあっという間に遠くなった。
「俺達も射的で遊んでから行くか」
「ですね」
 英斗の声にカタリナが頷く。慣れた手つきで銃を構えて、一撃で可愛らしいぬいぐるみを射落とした。
「さぁ、フレイヤ様、勝負といきましょう」
「ぅぬぅ。ま、負けないわよ!?」
 ちょっぴり涙目なフレイヤが叫ぶ。
 それに笑ってから、英斗は後にした川向こうへと視線を投じた。
 闇の中で光が舞っている。夢幻のように。
 英斗は目を細めて微笑った。
 幻想の楽園はあまりにも美しい。


 けれどそれに負けない現の楽園こそが、自分達の生きる世界なのだ。




登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja0715/フレイヤ/女/20才/ダアト】
【ja0732/青空・アルベール/男/16才/インフィルトレイター】
【ja1267/七種 戒/女/18才/インフィルトレイター】
【ja2400/久遠 栄/男/19才/インフィルトレイター】
【ja3082/百々 清世/男/21才/インフィルトレイター】
【ja4230/若杉 英斗/男/17才/ディバインナイト】
【ja5119/カタリナ/女/23才/ディバインナイト】
【ja5565/ギィネシアヌ/女/12才/インフィルトレイター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
愛おしいものは何気ない日常の中に。
皆様に良い日々が訪れますように……
綴らせてくださり、ありがとうございました^^
常夏のドリームノベル -
九三 壱八 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年09月12日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.