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『まぼろし遊園地/すべては愛しき日々 』
百々 清世ja3082

●まぼろし遊園地
 月の綺麗な夜には、不思議が起こる。
 素敵で愉快で、目を閉じれば消えてしまう泡沫の物語。
 この夜、この時、この人たちとしか行けない場所が、ある。
 さあさ、音の示す侭。
 転ばず、焦らず、けれど少しだけ急いで?
 夏は短く、この夜は一度しか来ないのだから。

 
●百々清世――月の綺麗な夜だから
「うん、気を付けてね。じゃーねー」
 今日は帰らなくちゃ、と残念そうに言う女友達を家まで送り届けて行ったのはついさっきのこと。
 百々清世という男は、そんな風に夜を過ごしていた。
「どーしよっかなー?」
 帰る、という言葉はあまり彼にはふさわしくはない。
 泊めてくれるベッドを渡り歩くのが常だから。
 けれど、彼も今日ばかりは次の行き先を決めかねていた。
 やけに胸が騒いで、じっとしてられない。
 そんな時に。
 見慣れたネオンより、余程安っぽくけれど、優しく瞬く光を見つける。
 遊園地だ。
 中からは、賑やかな人の声、優しい笑い方。
 行ってみようか、と口の中だけで小さく呟く。
 一人で動くことにはためらいは無い。
 何処にだって、彼と触れ合う体温はあるのだし。
 入口で仮面をつけて、顔の殆どを内側に隠すのもためらわず。
 音楽に合わせて、楽しげな鼻歌。
 更に奥へ、と進む足はふと止まった。
 そうして、彼は仮面に手をかけ素の表情を晒して笑う。
「あーらま、皆さんお揃いで?」
 奇遇だねーと首を傾げて。


●まぼろし月夜
 遊園地で、皆は出会う。
「なんや、先にきとったん?」
 友真が、当たり前みたいな声を清世にかける。
「んー、月が綺麗だったかんねー」
 早速清世にじゃれつく友真の髪をぐしゃぐしゃと撫でて、目が合えば親しげな笑み。
「その仮面かっこいいねー!!」
 二人のやり取りを好ましげに見ていた千尋が柔らかく笑うと一臣が人数分の配布物を荷物持ちとばかり預かってくる。
「あっちで配ってたよ。カーニバルってことかね?」
「ふむ、ならばつけるしかあるまい…!」
 はい、と千尋に手渡す一臣に、こういった小道具が結構好きな戒も早速装着。
「どうせ、屋台で買い食いするときに邪魔になるんだけどね」
 そんなことを言いながら、夜鈴も結局は、仮面を眺めてそっと重ねてみる。
 各々がつけてしまえば、何とも不思議な夜の雰囲気。
 直ぐに皆外すのかもしれないが、これもまた楽しい。
 どうしてここに居るのか、とか。
 これから何をしようか、とか。
 そんな言葉は、誰にも必要なかった。
「とても、綺麗な夜ですね。――朱星は、皆様と遊べて幸せです」
 うっとりと手を組み合わせて、観月朱星が笑う。
 肩を並べ、声を弾ませて。
 
 遊びにゆこう、何処までも。



●スート遊び
「なになに? 園内に幾つもカードが隠されている。指令を達成して、四種のスートを集めれば褒美はジャンボパフェ、と…」
「ジャンボパフェ…!」
 一臣が読み上げる遊園地の催しに友真の歓声が重なる。
 更に、ぴくんと耳をそばだてるもの一名。
「ふむ、成程。ならばやるのだ、やらねば、やるとも!! 者ども、カード探しだーー!」
 言わずと知れたお祭り女、七種戒。颯爽と片手にはいつの間にか綿あめを装備して、辺りへと視線を巡らせる。
「じゃー、ゆっくり回るとしようかね」
 こういう時ばかりは年上の貫録で、一臣は少し後ろを見守って歩く。
 ――、と、少し先、丁度男性の視点でなければ見えない高さ、街灯の辺りにカードが引っかかっているのが見えた。
「お、そこ」
「んー、おにーさんに任せろー」
 一臣の声に、清世が察して大股に近づき。腕を伸ばして、軽々と高い位置のカードをゲットする。
 目の前でくるりと回してから、ホストの如く跪いて戒にカードを献上。
「はい、どーぞ。お姫様?」
 カードの向こうでに、と笑って悪戯げにウィンク。
「……む、ああありがとう」
 多少の動揺はなんのその、本人ばかりは弱点:イケメン属性は押し隠せると思っている。
 ひら、と翻るカードのスートは――スペード。
「スペード:気恥ずかしくて言えなかった秘密をひとつ、全員の前で白状して下さい」
 観月が、わざわざパンフレットからカードを引いた相手への指示を朗読する。
「秘密かー。何?」
 夜鈴が少しだけ楽しげに声を弾ませ、自然彼女へと注目は集まる。
 ここでいやーんやっぱりできなぁい、と可愛く逃げられる程リア充女の単位を取得していたら、残念清純乙女と言われることもなかろう。
 挑戦してしまうからこその、七種戒である。
 皆の中央に立ち、己の胸に手を当て。
「じ、じつは、あんまn・・・・・やっぱ言えるかああああ!!!!」
「あっ、戒ちゃんしっかりして下さいませ。それに、いまさら秘密では……」
「えっ」
「…えっ」
 崩れ落ちる戒、慰める観月。そして、沈黙。
「―――さ、次のカードを探そうか」
「そうやな! カード探し楽しいなーー!!」
 空気を読める男達、夜鈴と友真であった。
 一連のやり取りを、少し笑ってみていたのは、千尋。
 こんな風に、年上の多いこの場所で夜通し遊ぶ素敵に、胸がどきどきする。
 初対面の人もいたけれど、もう、初対面じゃない。
 戒が千尋を見て、優しくウィンクしてくれるのはもう、友達の顔だ。
 分かっているから、不安は無くて。
 ただ、――此処にはいない、年上の兄弟を少しだけ思う。
「こんな風に、遊べるのかな?」
 また、それとも違うだろうか。
 夜の遊園地は、不思議。
 新しいときめきと、懐かしい郷愁を一緒に運んでくるのだから。
「千尋ちゃーん、カード引いてー!!」
 大好きな、友達の誘いにけれど、今は走り出す。


●鰹節、有ります
「カード発見ー♪」
 次のカード探しは、一臣の勝ち。生垣からそうっと花を傷めないよう、引き出す。
「なんか予感がするね!」
「ここで引きを外さないオミーじゃないからなー」
 千尋と夜鈴は、顔を見合わせて頷き合う。
「ダイヤ:覚悟を決めて屋台の前で『ここの品物は全部おごりだー!!』と気前よく友達に奢って下さい……だそうですよ?」
「待って朱星ちゃん俺まだ捲ってないよね…?」
 パンフレットの解説を入れる観月に、一臣の力ない微笑み。
 が。 
「――おい。待て、おい。どういうことなの…」
 本人以外は、あらかじめ分かっていたことだった。
 既に、運命と言ってもいい。
 崩れ落ちる一臣の頭を、そっと友真が撫でる。
「ほんまはわかっとったやろ…?」
「予感は…な…」
 暫く項垂れていたものの、幸いにも一臣の懐は温かい。
 年上の顔で、友人たちに奢るのが嫌いなわけでも、ないし。
 立ち上がり、土を払ってから友真の頭を軽く叩いて笑い、両腕を広げる。
「…まぁいい。ここは俺の奢りだ。楽しんだモン勝ちさ、満喫しろい!」
 堂々の、宣言。
「ごちそうになりまーす!!」
「千尋ちゃん、朱星と一緒にキャンディを買いに行きませんか!」
「私はかき氷を買うか!」
「ほら、早く来いよオミー」
 女性三人の声が明るく弾けて、最後に夜鈴が財布役の一臣に声をかけるまでがお約束。
 はいはい、と引っ張られながらも一臣は躊躇わず財布の蓋を開いては、札と駄菓子を交換しては少女達に渡していく。
 華やかな歓声が、夜を彩って。
 しかしながら、夜鈴が店先で見つけたカードはクラブ。
「クラブ:誰か一人にお願い事を聞いて、それを叶えてあげて下さい……だって」
 夜鈴がカードで一臣を示す。どうする、とばかり首を傾げ。
「俺?おーマジか!じゃー…可哀想なお兄さんに何か奢って♪」
「なら、鰹節」
 ソークール、柊夜鈴。
「わーい!…ねぇよ!鰹節屋台とか!ねぇから!」
 対してノリ突込みの出来る絶望系イケメン、一臣は渾身の力で近くの壁に悲しみをぶつけ、叩く!
 しかしながら夜鈴も口だけではない、実行とばかり辺りを見渡して。
「すみません、乾物屋の屋台はありますか。……あるそうだぜー」
 流石、まぼろし遊園地。
 残念だっていい、あなたのニーズにこたえたい(キャッチフレーズ)。
「あんの!? おかしいだろ!」
「どうあっても奢らないとだな」
 更にサービスとばかりダイヤのカードを従業員に渡されてしまえば、道は一つ。
 有言実行紅いおりぼんをつけてラッピングまでしてもらった鰹節を買い求めた夜鈴だが、ふむ、と少し考える顔で。
「またクラブだー!!」
 丁度カードを引いたところの、千尋の方にこっそりと寄っていく。
「これ、頼めるかな」
「オッケー、任せてー!!」
 ぐ、と親指を立てて応じる千尋。それから、満面の笑みで壁ドンポーズ固定の男に。
 つんつん、と指でつつく。
「何かな、千尋ちゃん」
 女子に声を掛けられれば笑顔で応える、その笑顔が――。
「あちらのお客様からです」
 すっと差し出された鰹節。そして、忍びの如くすっと姿はまた遠ざかり。
 後には、鰹節を大事に両手で受け取った一臣が残されるのみであった。


●カードに願いを
「皆ええなー、あっ、また清世おにーさん見つけたんー!」
 カードで遊ぶ仲の良い先輩のところに友真が顔を覗かせると、彼が指の間に挟んでいるのはクラブ。
「んー、おにーさんがなんでもおのちんのお願い叶えちゃうよー」
 気風よく胸を張って見せる清世に、少し腕組みで考えて。
 離れたところでガラス細工を眺めている少女を眼差しで示す、悪戯な子供の顔。
「…戒ちゃんをお姫様扱い、したって?」
 小さな耳打ちに、清世も浅く喉を鳴らして可愛い後輩へとサムズアップ。
「おー、任せろ。そゆのは得意だ」
「あら、じゃあお手伝いして宜しいですか?」
 二人の会話を拾って、そういう話は逃さないのが観月。
「みてみてー! 衣装の貸し出しゾーンだってー!!」
 丁度親しげに声をかけてくれた千尋に向かって、こちらも思い切り何かたくらむような顔でにっこりと笑う。
「千尋ちゃん。朱星と衣装選びを、致しましょうね」
 断定でのお誘い。それから、ちら、と男連中を見遣る。
「宜しいでしょうか?」
「おにーさんが女の子のお願いを断るわけないよねー!」
 ならば、と満足げに微笑んで。
「服選ぶの? 楽しそうー!!」
 千尋と手を取り合い、一足早く衣裳部屋へ。
「女の子ってこういう時強いよなー」
 しみじみと見遣る友真に、こういう時に決して逆らわないのが上手くやる秘訣なのだと先輩たる清世は真面目に説くのだった。
 彼の手元には、もう一枚のクラブ。
「七種ちゃんおいでー、お願いゆってみー」
 ひら、と手招きすれば問答無用で戒が連れる。
「清にぃに一緒に観覧車かコーヒーカップか…なんでもイイからアトラクション乗って欲しいー!そんでデート風味にきゃっきゃしたい!」
 好みのイケメン、清世には遠慮なく甘える戒。
 女の子扱いに慣れた彼には、変な誤解無しにお互い楽しめるという信頼がある故に。
「もっちろーん!」
「おー、じゃあ」
 行こうか、と誘う戒の片手を、観月が捕獲する。
「戒ちゃんには、こちらに来ていただかなければなりません」
「ねー、こっちちょっと来て欲しいのだよー!!」
 もう片手は、千尋が捕獲。
「なんだ? 両手に華だな…?」
 ずるずる、と連行されていく戒に、思わず顔を見合わせて笑う二人。
「――そして、ももちゃんとゆーまにもノルマがある訳だぜ」
 自分ばかり素知らぬ顔、と言う訳でもない夜鈴。
 何故なら彼は真っ先に、女子二人(主犯:観月)の選んだドレスシャツとビロードも麗しい、青年貴族風の服装にチェンジしているからだ。
「俺もなん…?」
 王子さまは清世の筈、と自分を指さす友真に遠くを見る目で頷く夜鈴。
 夜のカーニバルは、まだまだ中盤戦だった。
「千尋ちゃんは、ふわふわの真っ白なワンピースを着て下さいますよね? ティアラを付ける奴です」
「えー!!?」
 そんな、遠くからの悲鳴も聞こえたとか、聞こえないとか。

●夏の夜の、
 裾を引く華やかなマーメイドラインに胸元は艶のあるカシュクールで。
 ドレスの色は、鮮やかに真紅。腕には長手袋まで嵌めての、戒の姿。
「それじゃ、お姫様。お手をどうぞ?」
 夜の藍色を映して騎士風の長衣に身を包んだ清世が、腕を曲げて差し出せばエスコートの姿勢とわかり戒も覚悟を決めて腕を組む。
 まるでお城にでも向かうかのような風情で、人気の少ない観覧車へと。
「お、おおーう……」
 観覧車から見下ろす、夜の遊園地は謎めいたおもちゃ箱のようで。
 あちらこちらで音楽が聞こえては、儚く愛おしい光が瞬く。
 高く、高く――上っていく景色は堪らなく美しいのだけれど。
 横には、イケメンがいる訳で。
 それでもせっかくの状況を楽しもうとすまし顔のところに。
「もうすぐてっぺんだー?」
 項の後ろの方から、柔らかく笑う吐息。背の高い気配は、すぐ後ろにあるのが分かった。
 窓に面している戒の背後から、覆い被さるように身が寄せられ、まるで抱き締めるみたいな―――。
 心臓の音が一気に跳ね上がったところで、硝子の擦れる涼やかな音。
 ひやりと冷たい感触と共に、繊細なガラス細工を組み合わせたネックレスが戒へとつけられる。
「ん、よかった。似合う」
 さっき見てた、と安堵交じりに緩く笑う清世の眼差しと、硝子越しに目が合って。
 それが、―――限界。
「あかんコレちょと破壊力高くねしぬよ!?」
 ノンブレスでギブアップ宣言。壁にぺたんと懐くようにして、崩れ落ちる。
「まだ下りるまで時間あんのにー」
 笑いながら手を差し出す清世に縋りながら、緊張と動揺マックスの観覧車タイムはゆっくりと終えていく。
 リア充を呪詛る心の余裕すら今の戒には無かった……。


 一方で。着せ替え遊びもひと段落、皆で食べるものの買い出しにと繰り出したのは友真と一臣だ。
「なあ、リンゴ飴買うていい?」
「はいはい、好きなだけ買いなさいねー」
 屋台の通りは目にも楽しい。友真は、結局あれもこれもと腕の中に荷物を溜めていく。
「あ、桃やー!」
 今度見つけたのは、よく熟れた水蜜桃。両手の荷物とカップに入った新しい甘いものに目移りする彼を横目に、一臣はさっさと買い求めてしまう。
 手ずから与えられるそれに、雛鳥が餌を貰うみたいに無防備な顔で迷わず友真は齧りつく。
「…ん、この桃めっちゃ美味しい。もっと」
「…ったく、どんだけ食うつもりよ」
 口端を上げて仕方ないとばかり笑いながらも、果汁のしたたる桃を彼の口元へまた重ねる。
 信頼しきった表情が、何処か眩しい。どんなものを差し出したって、友真は一臣を信じるのだろう。
 いつだって側に在る、手を。
「一臣さんー、カップの中ー。俺にお願いごとないー?」
 明るい声が、零れる。桃の入ったカップの中には、お願いを聞くクラブのカード。
「おや。今日は俺、当たりがいいねぇ。ふぅん…そうだな」
 少しだけ、考える。彼から欲しいものは、もういつだって山ほど貰っているのだけど。
 零れた果汁を指先で拭って、己の指をちらりと舐めてから。
「――じゃ、帰るまで俺を呼び捨ての刑でよろしく?」
 少し腰をかがめて、視線を合わせて小さく片目を瞑って見せる。
「えっ…あー、ハイ。……一臣?」
「宜しい」
 鷹揚に頷いての腕組みは、何処か満足げに。
 褒美とばかり、最後の桃の一かけらを恋人の口に、放り込む。


●ハートの告白タイム
「クラブにダイヤにスペードに、後はハートでしょうか」
 目の前には、パフェを振る舞う売店。だがまだ条件がそろっていない、と朱星が残念そうに言う。
「じゃーん! 見てー! ハートだよ!! この機会に、その場にいる友達に全力でラブをぶつけて下さいだってー!!」
「僕もだ。……お先にどうぞ?」
 同じカードを持てあます顔で勇者に敬意を表し、夜鈴が先を譲る。
「ゆーま、ゆーまこっちきて!!」
「俺かー! 喜んでーー!!」
 気心知れた仲ならではのやり取りに、遊園地の真ん中で友真と千尋は向き合う。
 そこで、彼女は咳払い。少しばかり、真面目な顔で。
「ゆーま、ずーっと大好きだよ!!今日ここに来れたのもゆーまが居たからだよ、ありがとう。ゆーまがずっとずーっと、幸せだったらわたし嬉しいな!!」
 大事なことは、きちんと目を見て。
 新しい出会いと、大事な友情と。友真の「彼氏さん」を見て、解けるように千尋は笑う。
 大事な友達が、大事な人を見つけて幸せになって。
 こんなにうれしいことはないのだから。
 心からの友愛は、確かに届く。
「うん、俺も千尋ちゃんと仲よくなれて良かった。俺もずっと大好きや…!」
 兄弟のようにじゃれ合う二人を、少し離れた喫煙所で眺めるのは年上の男達。
「仲良しさんだねー?」
 冷やかす、というよりはただ微笑ましいばかりの口調で清世が煙草を銜えれば、ライターで彼の口元に一臣が火を灯してやる。
 さんくー、と片目を瞑って深く煙を吸い。
「全く、いい出会いばっかだわ」
 気の抜けた素の顔で、一臣も眩しげに彼等へと視線を移す。
「皆の衆、パフェに挑むぞーー!!」
 戒の楽しげな声が弾んで、揃って彼等も身を起こす。
 スート四種、見事にクリアだ。

 しかし、まだカードは手元に残っている。
 散々目を彷徨わせていた夜鈴は、結局朱星の方へと視線を定める。
「朱星ちゃん、ちょっといい?」
「あら、なんでしょう」
 彼の手元に見えるハートに気づくと、観月も誕生日プレゼントを待つ子供の顔で大人しくステイ。
「えー、その、………変な意味じゃなく」
 更に、暫くの間。その間も、にこにこしながら待つ朱星。
 あくまで友情、艶めいた雰囲気ではないと皆知っているので、見守るほうも遠慮なく巨大なパフェをつついたり、笑い合ったり。
「………その、友達として好きだよ、と」
 言い終えた瞬間、夜鈴の頬に熱が上がる。率直な好意を伝えることには、クールな分慣れてないのかもしれない。
 撃沈。
 額を机に懐かせて表情を隠す彼に、観月は世にも幸せそうに首を傾げて笑う。
「朱星も、とっても大好きです。夜鈴さんの一生懸命なところ、とっても格好良いですわ」
「……んー」
 未だべったりしている夜鈴に、自慢げにハートのカードをひらりとはためかせるのは戒だ。
「私のターンだな…!」
 彼女も向き合うのは、観月だ。
「蒼い夜空色の髪に映える、明けの明星よりも輝くその金の星の瞳に見つめられていたい…」
 女子相手ならむしろ得意分野である。手を取らんかの勢いで愛を叫ぶ戒に、あら、と頬に手を当てる観月。
「戒ちゃんが望むならこの朱星、朝から晩まで貴方のお側で食事から入浴までお付添いしますのに…」
 うっとりと愛を語り始める、百合娘。
「……好きっていうのは、悪くない、と思う」
 二人のやり取りに少し復活して夜鈴が顔を上げる。何をきっかけにしたって。それがゲームのお遊びだって。
「うん!! ちゃんと伝えられてよかったーー!」
 ふわ、と千尋も笑い、同意を示す。
 会えてうれしい、有難う、だいすき。
 大事な友達に、いつだってそれは、伝えたいことなのだから。 
 そんな彼女達の声に励まされてか、友真も最後に引いていたスペードのカードをテーブルに置く。
 緊張を整えるよう、そっと胸を押さえて。
「…皆と仲良くなれてほんまに嬉しい。今日もめっちゃ楽しくて、良い思い出になったなーって…皆大好きです!これからもどうぞ宜しくお願いしまっす!」
 心臓の音を隠しながら、熱い頬を呼吸で整えながら一気に。みんなの顔を見渡して。
「言ってから思たけど、これ指示に合ってるか…?」
 照れくさげにつぶやくと、年長組が親指を立ててくれていた。
「あ、俺も俺もー!」
「勿論俺も、だな」
 揃って、重ねて。
 大好きは、いくらでも伝えていい言葉だから。


●夜の終わり
 空が白み始めるころには、誰ともなしに帰り支度。
 両手にいっぱいお土産も、心にたくさん思い出を抱えても。
 人の減っていく、電飾ばかりが残る遊園地は何処か心揺さぶるものがある。
 もっと遊べたような。
 もっと何かできたような。
 郷愁に似た、切なさ。
「…いこっかー」
 一度だけ振り向く千尋の横で、戒が肩を寄せるようにして目を合わせて。
「また皆で来ようとも」
 ここでなくとも、何処かに。
「その前に試験、始まるなー」
 夜鈴はあくまで冷静な声で首を竦め。
「……試験かー」
 余裕の筈の清世が、何処か遠い目をする。
 学校の話、明日の話、彼等の話題はどれだけ遊び疲れても尽きない。
 会話の花が咲くその傍ら、一番側の袖を少しだけ友真は引く。見上げて、愛おしげに。
「こういうんも、楽しいな」
 一臣の眼差しが包み込むよう重なり、彼の頭をまた撫でる。いつだって、触れる手の形で。
「そうだな…すげー楽しい」

 それはとある、夏の夜。
 大好きな皆と、大好きな場所で。
 昨日から続く今日と、今日から続く明日の間の宵の夢。


 だから、今日はお休みなさい。
 目が覚めれば、愛しい次の朝。
 大好きな皆に、また好きを伝えられる今日の続きが始まるから。




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アドリブ歓迎とは言ったがコスプレまでオーケーとは言ってない!……というお叱りは正座待機です。
とても可愛らしく愛しい日をお預かりさせて頂きましてありがとうございました!
素敵な夏の夢でありますように。
常夏のドリームノベル -
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エリュシオン
2012年09月12日

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