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『花火、咲く。〜アノ日ノ約束 』
鴻池柊ja1082

 さて、幼馴染は今頃どこに居るだろうかと、考えながら鴻池 柊(ja1082)は夕暮の街を歩いていた。幼馴染――同じ家で共に暮らす、常塚 咲月(ja0156)。
 今日は花火大会に行くのだからと、咲月のイメージに似た濃紺の地に蝶の舞う浴衣を着付けてやったのは、あれは昼も幾らか過ぎた頃のことだ。男の柊が女の咲月の浴衣を着付けてやる、というのは傍から見なくてもそれなりに問題がありそうな気もするが、生憎、柊も咲月も今更、そんな事を気にしたりはしない。
 だから早々に着付けてやったのは良いのだけれど、後は後輩がやってくるのを待って、後輩にも浴衣を着付けてやって出かけるばかり、となった所で咲月が、先に行くと言い出した。あまり気が進まなかったが、ならば花火大会の会場入り口で待ち合わせようと、後輩のやって来る時間から計算して約束したのである。
 幸い、約束の時間には間に合いそうだ。だが、どうにも拭えない不安が見当違いであることを祈りながら歩く柊に、一緒に約束の場所に向かっていた後輩、遊佐 篤(ja0628)が「鴻池先輩!」と無邪気な子供のようにふいと、笑った。

「着物ってのはなかなかかっこいーッスね!」
「遊佐が気に入る浴衣があって良かった」
「すっげー気に入りましたよ!」

 ぐっ、とガッツポーズを決めて喜びを表現する篤に、つい、柊の唇もまるで幼い子供を見守るような柔らかな笑みを刻む。そんな彼自身も浴衣姿ではあるのだが、確かに洋服の時とはまた違う感覚とはいえ、ここまでテンションが高くはならない。
 とはいえそれは、遊佐が気に入った浴衣のデザインその物にも、あったのかもしれなかった。何しろ遊佐が着ている浴衣ときたら、全体の色合いは青緑で涼しげなのだが、背中には文字が書かれているという、実に珍しいデザインなのである。
 書かれている文字は『喧嘩上等』。特効服になぞらえるならばいささか捻りのない文句だし、そもそも何を思ってこんな浴衣を作ったのか、製作者なり販売店なりに聞いて見たい衝動に駆られるが、とまれ篤が気に入ったのならば無問題だ。
 だから上機嫌にカラコロと下駄を鳴らして歩く篤と並んで、花火大会の会場へと続く道を、歩く。まだ時間には余裕があるとはいえ、うっかり遅れでもしたら、咲月が遅い……と不機嫌になってしまいそうだ。
 故に、遅れないように。だがその合間にも他愛のない話を重ねながら歩いていた柊はふと、行く手にあるコンビニの前で、もめている男女が居るのに気がついた。花火大会の会場もそろそろ近いし、そういった意味でのトラブルが起こっていたとしても不思議ではないが――何か、嫌な予感が、する。
 柊がどこか祈るような気持ちで、その男女をじっと見つめた。どうかその予感が、外れてくれることを祈りながら。
 だが――見間違えようもなく、2人組の男に絡まれていると思しき女性、濃紺に蝶の模様がひらめく浴衣を纏ったその人が、咲月であることが解って、しまう。何しろ自分自身で着付けたのだから、見間違えるはずもない。
 思わず渋い顔になって、大きな、大きなため息を吐いた。一瞬遅れて同じことに気付いたらしい篤が、鴻池先輩、と彼を呼ぶ。

「あれ、咲月先輩じゃ……?」
「……月(ユエ)……」

 その言葉にほんの一瞬だけ空を仰いで、彼が与えた彼女の愛称を恨みがましく呟いた。嫌な予感はしていたけれども、だからあまり気も進まなかったのだけれども。どうしてこう、咲月は1人で居させたら、いつもいつもトラブルに巻き込まれるのか。
 恨んでも仕方のないことをひとしきり恨んでから、「行こう」と篤の肩を叩く。そうして頷いた篤と共に、心持ち足早に近付いていく目の前で、咲月がナンパ男どもに強引に腕を捕まれた。
 顔をしかめた咲月の嫌がる声が、柊達の所まで聞こえてくる。

「……ッ、離して……」
「聞こえねぇなぁ、俺達アホだからさー」
「そうそう。俺、すっげー傷ついたかも」
「俺もー。なぁ、この埋め合わせにさ、あの子達の代わりにあんたがナグサメてくれるよな?」
「痛……ッ」

 どうやら、別の相手をナンパしていたところに通りがかった咲月が、止めておけば良いのに大変率直かつストレートに相手の知能レベルを評価した結果、今のような事態に陥っているらしい。そうと察した瞬間、間違いなく自らの眉間のしわが深くなったような気がした。
 とはいえ咲月の言った(かもしれない)評価は、決して間違っては居ない。今時まだ、こんな知性の欠片も感じられないような口説き文句を振りかざして、女性をナンパ出来ると考えている時点で、いろんな意味で残念だとしか言い様がない。
 だが、どうやらそうは思っていない当のナンパ男達だけが、咲月の腕を握ったまま立て続けに適当な文句を並べながら、ぐいぐいとどこかに引っ張っていこうとする。さすがに不味い、と柊と篤は、彼らの前に回り込んで立ちふさがった。
 邪魔だ、とでも言いたげな眼差しが、2人の上に注がれる。それをまるっと無視した篤が、必要以上にわざとらしい良い笑顔で、あれ? と咲月に声をかけた。

「咲月先輩、どうしました?」
「……何やってるんだ、月」
「おー……ひーちゃん、遊佐くん……」

 同時に呆れ返ったような声色で、大きなため息など吐きながら言った柊と、篤を見比べた咲月はのんびり嬉しそうな声を上げる。そうして、彼らが知り合いだった事に驚いて力が緩んだらしいナンパ男の腕を振りほどくと、カタカタと駆け寄ってきて、迷わず柊にぽふ、と抱きついた。

「2人とも遅い……」
「遅いって……時間通りですよ」
「どうして、月はいつもそうなんだ……」

 そうして文句を言う咲月に、柊がまた大きなため息を吐いたのと、篤が苦笑したのは、同時。だが咲月はまったく気にした様子もなく、あっさり上機嫌になると、早く花火大会に行こうと2人を促して歩き始めた。
 そのあまりにも自然な仕草に、柊はちょっとだけ悩み、そうだな、と頷く。さっさとこの場を離れて、これ以上のトラブルは避けたほうが間違いなく得策だ。
 だが当たり前ながら、あっさり置いていかれそうになったナンパ男達の方は、そうは思わなかったらしい。『おい!』と怒気を孕んだ声を上げたナンパ男達を振り返った咲月が、不思議そうな表情になった。
 それに、ナンパ男達の怒りが膨らんでいくのを、感じる。察した柊は、まだ抱きついている咲月を軽く抱き返しながら、ナンパ男達にちらりと視線をくれて。

「すみません。何か用ですか?」
「なんか俺たちに用ですか?」

 そう言った柊と、やはり事態を察した篤が咲月とナンパ男達の間に入って、彼女が背中に隠れるように立ちながら、ナンパ男達に作った良い笑顔を向けたのは、やっぱり同時。とはいえ、一応はにこにこと人好きのしそうな笑顔を浮かべた篤に対して、柊は一応当たり障りのない言葉遣いは心掛けたものの、内心の面倒臭さを完全に押し隠せたとは言い難いが。
 ブチッ、とナンパ男達の堪忍袋の緒が切れる音がしたのも、だから、無理からぬ事だった。恐らく咲月にアホと言われたのだろう上に、横からいきなり男が2人も現れて、うやむやのうちにガン無視されかけたのだから、それはもう面白くないだろう。どころか、沽券に関わるのは想像に難くない。
 どうやらただでは収まらぬ様子のナンパ男達に、ふぅ、と柊はため息を吐いて、抱きついていた咲月をそっと放した。一応は穏便に済ませようとしたのだけれども、それでも絡んでくるというのなら、路地裏にでも場所を移してゆっくり『お話』しなければならないだろう。
 柊の考えを察したらしい篤が「ん、ちょーっといいですか?」とふいに明るい声を上げると、つい先ほどまで咲月がそうされていたように、ナンパ男達の腕をぐいっと掴んだ。そうして抵抗を許さず、ずるずると路地裏の方へと引っ張っていく。
 それを不思議そうに見送った咲月が、それからひょい、と柊を見上げてきたのに、苦笑した。そうして篤のあとを追って歩き始めると、まるで雛鳥のように咲月がカタカタ追いかけてくる。
 路地裏には、誰も居なかった。きょろ、と辺りを見回す咲月から距離を取って、ボキ、と手の骨を鳴らした柊は冷たい笑みを浮かべる。

「体が鈍って仕方なかったんだ。――お相手よろしく」
「え……?」
「まさか、逃げるとは言わないだろう?」

 そう、畳み掛けるとナンパ男達の顔色がはっきりと変わった。どうやら彼我の実力の差が解る程度には、阿呆ではなかったらしい。
 アウル所持者なら都合が良かったんだけどなと、ちらり、頭の隅で考えた。この期に及んでも光纏しないとなると、ほぼ間違いなく、彼らは一般人なのだろう――殺さない程度の手加減が、難しそうだ。
 ちらり、咲月をまた振り返ると、まるで他人事のようなそぶりで路地裏の脇にひょい、としゃがみこんでいた。だが柊と目が合うと、彼の勝利を疑いすらしてない笑顔が、返ってくる。

「ひーちゃん、頑張れー……」
「はいはい。……遊佐、少し手伝ってくれないか? 時間掛かると月が不機嫌になりそうだ」
「んー? 良いですよ」

 ふと思いついて声をかけると、篤は一瞬だけ目を見開いてから、にかっと笑って頷いた。そうして浴衣の袖を捲り上げると、嬉々としてナンパ男達に向かっていく。
 根っからの不良なんだなと解る、目の輝き。それにどこか微笑ましいものを感じながら、柊も目の前のナンパ男に、殺さない程度に拳を叩き込んだ。
 きっかけは咲月とはいえ、久々の『運動』に柊自身もどこか、興奮する自分が居ることを否定は出来なかった。何しろ、最初に手を出そうとしたのはこちらではなくあちらなのだから、これは立派な正当防衛である――多分、そのはず。
 故に楽しそうな篤の傍らで、淡々と確実にナンパ男達を処理していく。彼らには、生まれてきた事を後悔して貰う程度で、構わないだろう。
 ドガッ! バキッ! ドスッ!
 誰も居ない路地裏に、己の不運を嘆く2人のナンパ男がサンドバックにされる音だけが、不穏に響き。

「2人とも、遅い……」

 お腹を空かせた咲月に、結局じと目で睨み上げられたのは、ここだけの話である。





「ぁー……お腹すいた……」

 その後、ようやく辿りついた花火大会の会場で、咲月は早速立っていた林檎飴の屋台にまっしぐらに向かっていった。ミニ林檎に普通の林檎、ミカンやブドウにイチゴも揃っているその屋台で、ジーッと並んだ商品を見つめている。
 この調子では、とりあえず一通り、とか言いそうだ。そう思った柊は、彼女が屋台の親父にそう告げてしまう前に、悩む咲月の頭をこつん、と軽く小突いた。

「ひーちゃん……?」
「飴だけで腹を膨らせる気か?」
「大丈夫だよ……?」

 例え全種類を制覇した所で、まだまだ他にも食べたいものはあるのだから、そうそうお腹一杯にはならないと訴えるのに、ため息とも苦笑ともつかない息を漏らす。そういう問題じゃないだろうと呆れたが、同時に咲月らしいとも思ってしまった。
 それに、む、とちょっとだけ唇を尖らせた咲月は、けれども大人しく普通の林檎飴を、ただし一番大きなものをじっくり選んで購入した。そうして嬉しそうに林檎の表面に固まった飴をぺろ、と舐めた咲月の眼差しは、早くも隣の屋台に向けられている。
 そこにあるのは綿飴の屋台。その向こうには焼きそばの屋台がソースの焦げる美味しそうな匂いを漂わせていて、さらにその向こうではたこ焼きが。ふと遠くを見やれば、唐揚げや焼きとうもろこし、きゅうりの一本漬けにベビーカステラ、チョコケーキ、焼き鳥、箸巻き、飴玉……食べ物の屋台だけでも、数え切れないほどのれんが下がっている。
 ほわ……と感激にも似た声が、咲月の唇から漏れた。もちろん手にはしっかり、林檎飴を握ったまま。

「屋台って良いよね……一気に色んなもの食べれる……」

 しみじみそう呟きながら、ふらり、と綿飴の屋台へ向けて歩き出したのに、柊はまた苦笑した。何とか『全種類』は阻止したものの、今度は『取り合えず全部の屋台を制覇』を阻止するのに、苦労しそうだ。
 そう、綿飴の機械が糸を吐き出し、くるくると箸に巻きついていく様子を子供のようにじっと見ている咲月を、見る。この屋台だけなのか、たかが綿飴といってもオレンジ、レモン、イチゴ、ブルーハワイ、メロンと、驚くばかりに種類が豊富だ。
 これもまた『全種類』と言い出しそうだなと、苦笑しながらもついその品揃えを確かめてしまう柊である。他の屋台ならともかくとして、綿飴というものはこういったお祭ででも買わなければ、なかなか巡り合わないものだ。
 隣の屋台では篤が、焼きたて熱々のたこ焼きを買っている。上にかかったソースの匂いと、たっぷりのかつお節と青海苔が何とも香ばしい。
 その間にもふらり、ふらり、咲月は気の向くままに人ごみを歩いていく。そんな彼女を決して見失わないように注意しながら、柊自身も折に触れて焼きそばやフランクフルトなどを胃に収めていたら、「あ……」と咲月が篤を振り返った。

「遊佐くん射的あるよ……する?」
「お! もちろんします!」
「……2人とも、ほどほどにしとけよ?」

 その言葉に、たこ焼きを口に放り込もうとしていた手を止め、篤が目を輝かせて大きく頷いた。と思えば射的が大好きで、大得意の彼は早くも、並んでいる棚のどの商品を落とそうか、真剣に吟味している。
 そんな篤と咲月を見て、柊は小さく苦笑した。そうして告げた忠告を聞いていたものか、んー、と頷きながら咲月も棚へと視線を巡らせている。その眼差しを追ったら、ゆっくりと隅から隅まで動いた後、端のほうにビニールに包まれちょこんと置かれた駄菓子の上で止まった――まだ食べるのか。
 まったく咲月らしいと、苦笑いした柊の眼差しの前で、よし、と頷いた咲月は玩具の銃を受け取り、その駄菓子に狙いをつけた。だがこちらは篤とは違い、当てる事も難しいようだ。

「うー……当たらない……」
「よっし! 必中!」

 唸った咲月の隣で、篤が大きくガッツポーズを決めた。その眼差しの先では大きなくまのぬいぐるみが棚からごろんと転がり落ちていて、屋台の親父が渋い顔をしてぬいぐるみを拾い上げ、ホコリ避けのビニールカバーごと「ほらよ」と篤に渡す。
 うっし! とぬいぐるみを受け取って、篤はべりべりとビニールをひっぺがした。篤とくまのぬいぐるみ、という組み合わせは似合うような似合わないようなと、考えていた柊を、テンションのすっかり上がった篤が呼ぶ。

「鴻池先輩!」
「ん、なんだ……?」
「ほーら先輩でかいッスよ! くまー! くまー!!」

 そうして振り返った柊の顔面めがけて、ハイテンションのまま、篤がいきなりくまのぬいぐるみをもふもふとけしかけだした。視界いっぱいにもふもふとしたくまの毛並みが広がって、すっかり顔がくまのぬいぐるみで覆い隠される。
 もふもふの向こうから、ほらほらほらほらー、と子供の様にはしゃいだ声が高く響いた。ぐいぐいぐい、と押し付けてくる力はけっこう、強い。
 もふもふもふもふもふもふもふもふ……
 遊佐、と思わず苦笑した。

「意外と暑いからな……? 相手も間違ってる」
「相手?」

 そう告げると、篤はくまのぬいぐるみをもふもふ動かす手を止めて、こく、と首をかしげた。柊の言葉を察したのだろう、くるりと咲月の方を振り返る。
 やっとくまから解放された柊が、笑いながら咲月の方を見つめると、不思議そうな咲月と目が合った。そんな咲月にぬいぐるみを持って近付いた篤は、はい、とさっきまで柊の顔面をもふって遊んでいた、くまのぬいぐるみを渡す。

「ぬいぐるみ好きでしたか? もしよければ、どうぞ!」
「う? いいの……? ありがと……」

 ぬいぐるみを受け取って、咲月はほんわり微笑んだ。きゅっと胸に抱きこんで、もふ、と柔らかな熊のぬいぐるみの頭を撫でている――そう、ぬいぐるみが好きなのも、似合うのも、柊ではなく咲月なのだ。
 ――その時。

 ドー……ンッ!
 ドドー………ンッ!!

 雷にも似た音が空に響き渡った。けれども本物の雷じゃない事は、空を見上げればすぐに解る。
 暗闇の中ぱっと咲く、色とりどりの、炎の花。鮮やかに、華やかに――咲くと同時に消え行く、儚き花。
 夜空に幾つも、幾つも咲く、花火という名の刹那の花が、儚く、力強く、鮮やかに、健気に、夏の夜空を彩っては消えていく。

「おー……。綺麗……」

 その光景に、咲月が人混みの中で足を止め、じっと夜空を見上げた。月、と柊はそんな咲月の肩を抱いて、屋台を行き来する祭り客の邪魔にならないよう、道の脇に誘導する。
 柊にされるがままになりながら、咲月はそれでもまだじっと、花火を見上げていた。まぁるく夜空に開いたかと思えば、幾つもの流星のようにキラキラと零れ落ちていく花火があある。一度は消えてしまったかと思えば、不意に思い出したように小さくぽんと花を開かせるような、不思議な花火もあったりして。
 緩急をつけて、一気に打ち上げられたかと思えば、不意の静寂が訪れる。その静寂が全身に染み渡った頃にまた、ドン! と大きな、大きな花火が咲く。
 柊もまた咲月の隣で、その光景を見上げていた。その耳に、咲月がふと呟いたのが、聞こえる。

「あ、花火だけど……お願い事しよ……?」

 空を見上げていた柊は視線を咲月へと戻して、ひょい、と首をかしげた。

「願い事?」
「儚いモノにお願いするのも一興……でしょ?」
「願うってことは望みをハッキリさせることだし、いーッスね」

 篤の方はどうやら乗り気になったらしく、よぉぉっし、と次の花火のタイミングを計ろうとしている。微笑んだ咲月も再び夜空へと眼差しを戻すのを見て、願い事ね、と柊は呟いた。
 ――普通だったら流れる星に願いをかけるものだけれども、同じ位に儚い花火に願いをかけても或いは、届くのだろう。キラキラ輝きながら消えていくタイプの花火なんて、まんま、流れ星のようにも見える。
 だから柊も夜空を見上げ、ドーン! と再び上がった花火に軽く、瞳を閉じた。
 けれどももう、願う事は決まっている。柊の願いはいつだって、あの時に集約されるのだ。

(月との約束を、この先も守れる様に……)

 それは柊と咲月にとって、大切な約束なのだから。
 ぱっと瞳を開いたら、ちょうど篤と咲月も願いを掛け終わった所のようだった。篤が「咲月先輩」と笑う。

「咲月先輩は、どんな願い事をしたんですか?」
「んー……? ヒミツ……遊佐くんは……?」
「俺は、みんなを守れるくらい強い男になることッスね!」
「いい願い事だな遊佐は」

 ぐっ、と拳を握って夜空に力説した篤に、柊は笑った。それは掛け値のない本音だ。とても、篤らしいと思う。
 すると篤は同じように、柊にも尋ねてきた。

「鴻池先輩は、何を願ったんすか?」
「俺? 俺は約束を守れる様にだな」
「へー……なんか、カッコいーッスね!」
「ひーちゃん……」

 微笑んで言った柊の言葉に、感動する篤の傍らで咲月が、小さく彼の名を呼ぶ。『約束』――それが何を指しているのか、彼女もすぐに思い当たったのだろう。
 だが、柊はもちろん言葉にすることはなく、ただ咲月との間でだけ解る微笑みで、咲月の考えを肯定した。うん、とそれに微笑んだ咲月が、胸に抱いたくまのぬいぐるみごと、ぎゅっ、と柊に抱きついてくる。
 そのぬくもりを、抱き締めた。あの日の約束はいつだって、柊の胸の中にある。だからどうか柊が彼女を裏切らずに済むように――あの日交わした約束を違えずに済むようにと、願う。
 もう少しすれば、メインの一際大きな花火が打ち上げられると、会場に据え付けられたスピーカーが告げていた。会場を行く人混みは、まだまだ少なくならなさそうだ。
 だから柊は再び夜空を見上げ、その願いを胸に抱いた。守るために交わした約束を、どうか最後まで守れますように、と。






━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /  PC名  / 性別 / 年齢 /     職業     】
 ja0156  / 常塚 咲月 / 女  / 18  / インフィルトレイター
 ja0628  / 遊佐 篤  / 男  / 22  /    鬼道忍軍
 ja1082  / 鴻池 柊  / 男  / 20  / アストラルヴァンガード

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、蓮華・水無月と申します。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

息子さんの、大切な幼馴染さんと、後輩様との花火大会の夜の物語、如何でしたでしょうか。
何やら苦労人のような気配も感じながら、お嬢様とのご関係に色々と妄そ‥‥想像をしてしまった蓮華です(待って
儚く消え行く花火へと掛けた願いは、きっといつか息子さんご自身の手で、何があっても叶えて行かれるのだろうなと、そんな気が致しました。
精一杯努めさせて頂きましたが、もしほんの少しでもイメージの違うところがございましたら、いつでもお気軽にリテイク下さいませ(ぺこり

息子さんのイメージ通りの、ほのぼのとしながらも僅かにシリアスな花火大会のノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
常夏のドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年09月13日

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