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『蛍 〜 郷愁を包む灯火〜 』
ギィネシアヌja5565



 蛍を見るのはいつ以来だろう。
 ふと遠くの実家を思い出し、ギィネシアヌ(ja5565)は慌てて首を振った。
 沢山の思い出はいつまでも胸の中に残っている。
 だがそれを引き出してくると、意識が此処ではない場所に漂いそうな気がした。少なくとも、待ち合わせをしている今、思い出の引き出しを開けるべきではないだろう。
(準備もしないとな)
 せっかくの祭り。着ていこうと用意した蛇の鱗に似た紋様の入った白い浴衣は、光の加減で鱗紋様が煌めいて見える。
(っと、着付け、帯を頼むのだったか!)
 皺にならないよう本だたみにしていた浴衣を手にとって、ギィネシアヌはふと目を転じた。
 曇天の中、遙か西の彼方だけが僅かに夕暮れの光を雲のスクリーンに映している。
 遠くの果てにある赤は、どこかもの悲しい色をしていた。
 




 依頼中は動きやすさと性能を重視した装備を。そういった暮らしに慣れていると、たまに着る季節の服類が妙に着心地悪く感じられた。
「着慣れなくて落ち着かないのぜ」
 祭会場の手前、自分の浴衣の着崩れをちまちま直していたギィネシアヌは、着慣れた風の青空・アルベール(ja0732)に羨ましげな視線を向けた。男浴衣であることも理由なのだろうが、着崩し感が自然で見苦しくないのがすごいと思った。
「どしたの?」
「いや、アル君は着慣れてる感じだなー、と」
「ネアは新鮮な感じだなー。いいと思う!」
 こくり、と真面目に頷かれて、ギィネシアヌは頬を掻いた。悪くはない。が、照れる。
 何故か七種戒(ja1267)にもカタリナ(ja5119)ともども浴衣を推奨されてしまったが、むしろ戒の方こそ浴衣が似合う正当派美人だと密かに思っていた。
「何故、往来で浴衣掴んでいるのかね……」
 と、呆れ含みの声が入ってきた。ギィネシアは顔を上げ、

(む!?)

 ピンッと意識を刺激した感覚に目を瞠った。視線の先に居るのは若杉英斗(ja4230)と共に合流したフレイヤ(ja0715)だ。今まで面識がなかったが、この少女

 なにか、張り合いたいでござる……!

 理由は分からない。敢えて言うなれば魂に訴えかける謎のシンパシー。
 フレイヤも何かを感じ取ったのか、お互いまんじりともせずに視線を交わし合う。何故だろう。今、視線を外したら負けよ的ルールを感じた。
 青空と百々清世(ja3082)が不思議そうな目でそんな二人を見つめている。このままだと見つめ合う彫像と化しそうな気配だったが、ふいに聞こえた戒の心配げな声が二人を現実に引き戻した。
「いい結果だといいよなー。うん」 
 声に含まれる心配成分は、主に最近とみに増えた危険戦闘依頼に由来する。救える命があるのなら、と朝早く発った久遠栄(ja2400)はまだ帰ってきていない。
 誘っていたのに。どうしたんだろう。約束では無かったけれども、きっと彼は来ると、そう思って皆で待っているのだ。
 きっと無事で。どうか無事で。
 そっと願いを込めながら。
 ギィネシアヌは俯き、ふと気配を感じて顔を上げた。ちょうど清世もまた顔を上げたところ。
 いつのまに距離が離れてしまっていたのか、英斗を引っ張ってくる栄の姿に、皆が顔を綻ばせた。
 手を振る相手に、それぞれが手を振り返す。
 お疲れ様。
 無事でよかった、と。





 焼きそばで胃袋が落ち着くと、高瀬舟に乗り込むことになった。
「おっ。揺れおるっ」
「気をつけてなー」
 わくわくしながら舟に乗り込んだギィネシアヌは、ぐらっときた船体に慌てた。足元は硬い木なのに、不安定さが半端無い。
「ほい、七種ちゃん」
「清にぃ、ありがとー!」
 お姫様のように清世が戒に手を差し伸べる。ギィネシアヌの時はどうやら素早すぎて間に合わなかったらしい。ほくほく顔で隣に乗り込んできた戒に、ギィネシアヌは笑った。
「めっちゃ揺れるのぜ!」
「乗ってる最中だから余計にな!」
 左右にゆっさゆっさする動きが何か面白い。皆が乗り込むのを待っている間、ギィネシアヌは迷うように近くを飛ぶ蛍に手を伸ばした。
「迷子蛍である」
「ぼっちは寂しかろう」
「捕まえて群れに離すのである!」
「あれじゃな! 森へお帰rおっと出発の時刻がきたようだ」
 笑って二人で手を伸ばすが、蛍はすいすいと二人の手をかいくぐって虚空を泳ぐ。相手が小さな生き物のため、手加減しなくてはならないのが辛いところだった。
「ぐぬぬ」
「ここは二人の共同作業!」
「任せろ!」
 ばりばりー、と意気を揚げ、二人はそれっと蛍を捕獲すべく本格的に身を乗り出す。
 その瞬間、

 どんぶらこ、と舟が動いた。

「ぉぉ!?」
 岸辺に半固定されていた時と違い、盛大に舟が揺れた。軌道が想定外にいったのが良かったのか、蛍は無事ギィネシアヌの手の中に。
「おおー。揺れる! 揺れる!」
「ふははは! 揺れ揺れである!」
 思わず笑った二人に、後ろにいたカタリナが顔を赤らめて叱ってきた。
「って揺らさないで! ゆっくり見えないでしょう?」
 めっ、とやられて二人して「きゃっv」と首をすくめる。
 ギィネイアヌは蛍を片手に、船縁からもう片方の手を伸ばして水に触れた。川の上を渡る風は、光に照らされた川岸近くの水と同様によく澄んでいる。
「蛍ってさ、綺麗な水のところにしか住まないらしいぜ」
 実家も蛍の多い地区だった。群れ飛ぶ蛍火の幻想的な光景を何度この目にしてきたことだろうか。
「フフフ…ここはいい処なんだろうな」
 せせらぎの音と、光。誘われる郷愁に目を細めたところで、横からにゅっと白い手が伸びてきた。
 そしてぎゅーっと抱きしめられる。
「うにょら!?」
 ぎょっとした見ると戒がパッと顔を上げてニッと笑む。
「ネアちゃんが儚げ系をアップしたと見て!」
「してねぇええええ!?」
 思わず叫んだ。それにくすくす笑いながら、カタリナが川の解説をしてくれる。どこか優しさを感じる声は、頼りがいと同時に女性らしい細やかな気遣いを感じさせた。
「ところで戒」
 そして悪戯っぽい気配も。
「船縁からあまり乗り出すと、川から手が出てきて引きずり込まれますよ」
 ギィネシアヌは思わず川から手を引きあげ、ひしと戒と抱きしめ合った。





 高瀬舟を降りれば、どっしりとした頑強な大地が足を支えてくれる。手を差し伸べてくれた清世に礼を言って降り立つと、揺れてないのに足元がぐらついた。
「ぉっと」
 どうやら体がまだ水辺のつもりでいたらしい。よろめいたところを英斗がさっと支えてくれる。
「ありがとうだ!」
「気をつけてな」
 にっと笑う笑顔が男らしい。
 皆が降り終わるまで待とう、と岸辺で大きく背伸びしていると、射的をしよう、という声がかかった。戒が目を輝かせる。
「ふっ。インフィルの私が優勝じゃ!」
 インフィルならば五人おるぞ!?
「む? 勝負だな!?」
「仕方ありませんね」
「だ、ダアトの限界に挑戦してやんよ!」
 即座に射的屋に走る女性一同。男性陣が笑いながら後からついてきた。なにかしらの予感でもしたのか、射的屋の親父が涙目だ。
「可愛いぬいぐるみ多いな〜」
「って、なんでアル君はぬいぐるみ狙いなのだ?」
「え。うん。おみやげ、とかも?」
「おのれリア充めー!」
 青空の答えに戒と英斗がポーンッと勢いよくコルク弾で獲物を撃ち落とす。猫と子犬ぬいぐるみだ。
「意外とライターとかって重いんだよね。こういうタイプのは落としやすいけど」
 安物だが使い勝手のいいタイプを選んで落とすと、清世は「ま、今日は吸わないけど」と笑った。その横で栄が凛とした表情で獲物を狙っている。その視線の先にあるのは、特等!
 ポンッという小気味のいい音にあわせて、特等商品デカ猫ぬいぐるみがぴこっと動いた。さすがにそのサイズはコルク弾では落とせない。むしろ屋台の調度品と見なすべきだろう。
「あれを落とせれたら優勝、というのはどうだろう?」
「おお。強敵に挑んでこそ覇者に相応しい」
 キリッとした顔の栄と戒に、フレイヤが「待って!」と声をあげる。
「あれ落とすのにものすごく弾使うわよ!?」
「黄昏はアレ欲しくないー?」
「ベルベルくん、そこに起立」
 起立。
「まぁ、現実的な話しをすると、あれ一つ落とすために使う久遠で他の商品がごっそりとれますよね」
 ぴっ、と立っている青空の横で、カタリナが苦笑しつつフレイヤの言おうとしている案件を語った。英斗が軽く手を挙げる。
「先生ー、夢は久遠で買えますか?」
「夢なんぞ久遠で買わんでも溢れ出るわー!」
 フレイヤはきっと夢がいっぱい溢れている。たぶん自分と同じぐらい。
「見ておれよー!」
 そして髪飾りの入った箱を打ち落とす。
「ふっ。こんなものよ」
 すかさずギィネシアヌも別の商品を射倒した。
「なぜだかとっても、キミには負けたくないのである…!」
「その勝負、受けた!」



 故郷を思う気持ちは今も胸に灯っている。
 けれど胸の灯火はもう一つある。


 大切な人達と居る、今という時と空間の中に。





登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0715/フレイヤ/女/20才/ダアト】
【ja0732/青空・アルベール/男/16才/インフィルトレイター】
【ja1267/七種 戒/女/18才/インフィルトレイター】
【ja2400/久遠 栄/男/19才/インフィルトレイター】
【ja3082/百々 清世/男/21才/インフィルトレイター】
【ja4230/若杉 英斗/男/17才/ディバインナイト】
【ja5119/カタリナ/女/23才/ディバインナイト】
【ja5565/ギィネシアヌ/女/12才(16才)/インフィルトレイター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
愛おしいものは何気ない日常の中に。
皆様に良い日々が訪れますように……
綴らせてくださり、ありがとうございました^^
常夏のドリームノベル -
九三 壱八 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年09月13日

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