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『希少種観察レポート〜高城ソニアを調査せよ? 』
最上 憐 (gb0002)

●夏休みの自由研究
 夏の終わりの風物詩と言えば――宿題の追い込み。
 カンパネラ学園・学生寮のあちこちでも悲痛な叫びが上がっている中、最上 憐(gb0002)が首から双眼鏡を下げて学園内を歩いていた。宿題は粗方終わっていて残っているのは自由研究のみだ。
「‥‥ん。目標発見」
 双眼鏡を構え観察対象に焦点を合わせる。
 文字通り自由研究だから、テーマは不問。だから憐は希少種の観察をする事にしたのだ。

 カンパネラ学園に2年も居ながら未だに実戦に出た事がない能力者――高城 ソニア(gz0347)の生態観察。

 ソニアは憐の友人だ。彼女は憐を『師匠』と呼ぶ。憐から傭兵の心構えを教わったからだそうだ。
 素直でお人好しで一生懸命なソニア。実戦やKV戦どころか模擬戦も苦手だけど、編入手続きの際に登録KVを決めかねて事務職員に決めて貰ったほど機会オンチだけど、それでも彼女が一生懸命なのは、2年の付き合いになる憐がよく知っていた。
 だから、憐は観察記録を付ける事にしたのだ。編入当初よりもずっと進化しているはずだから。
「‥‥ん。多分。だけどね」
 進化している、と思いたい。双眼鏡越しにソニアの姿を追って、憐は思った。

●対象、方向音痴につき
 一方、観察されているとは思いもしないソニアは、何やら沢山の荷物を両手に抱えて廊下を歩いていた。
 えっちらおっちら、ふらりふらりと危なげに抱えているのは講義に使用する資料関連らしい。おそらく講師の手伝いで運んでいるのだろう、頼み事を断れない彼女らしい行動だ。自分の背丈を越す長さの映写幕が、天井に追突したり地面に擦ったりしている。
「あら‥‥?」
 突然ソニアは立ち止まった。映写幕を壁に立てかけて何やら考え込んでいる。
 憐は双眼鏡越しに目を凝らし、もそもそ動くソニアの口元を凝視した。
「‥‥ん。『えっと‥‥視聴覚室は何処でしたっけ』‥‥なるほど」
 視聴覚室を探してきょろきょろしているソニアを横目に、憐は懐からノートを1冊取り出した。ノートを開くと可愛らしいキャップの付いた鉛筆で、メモを取る。
「‥‥ん。ソニアは。前ほど。迷子には。ならないけど。油断すると。未だに。学園内で。迷子になる‥‥っと」
 ついでに視聴覚室の場所がわからない事も追記して、憐は『観察記録』と記されたノートを閉じた。

 そんな事とは露知らず、ソニアは青くなったり赤くなったりしている。
「どうしましょう‥‥休み時間中に届けておかないと、講義が‥‥!」
 ソニアが資料を運ばねば講義は始まらないし、何よりソニアも講義が受けられない。手元の時計を見れば、休み時間はあと5分も残っていなかったりする訳で。
「あのーっ、視聴覚室は何処ですかーッ!」
 混乱したソニア、人目も憚らず廊下で絶叫した。
 ぎょっとした周囲が一斉に彼女を見るのもお構いなしで、ソニアは助けてくれそうな人を求めて視線を巡らせた。見つからないよう物陰に隠れた憐はノートを開いて独りごちる。
「‥‥ん。割と。パニックになりやすいけど。意外と。図太い所もある。案外。実戦向きかも?」
 遣り方は強引だが、いざという時の思い切りの良さは評価できそうだ。尤も、敵地のど真ん中でまで助けを求めなければ良いのだが――おや、助けに応じる人がいたようだ。
「ちょっと! 高城、何そんな所で大声出してんの!!」
「また教室の場所わかんなくなったァ!?」
 同級生らしき学生が駆け寄ってきた。また、と言われている辺り、日常茶飯事なのかもしれない。級友達は壁に立てかけられた映写幕と分厚いファイルを手分けして持ってやると、ソニアを連れて視聴覚室へと去って行った。
 観察対象に手を出す訳にはいかなかったから双眼鏡越しに様子を伺っていた憐は、安堵の息を吐くとノートに書き記した。
「‥‥ん。予想より。学園内での。知り合いや。級友は。居るみたい」
 困った時に手を差し伸べてくれる友の存在は貴重だ。能力者一般人関係なく、人は友なくしては生きてはいけない。女友達には恵まれているソニアの交友関係に小さく頷いて、憐はノートに書き足した。
「‥‥ん。更に。悪い虫が。付いていないか。継続調査」
 資料運搬を見てもわかるように、ソニアは頼まれると引き受けてしまう押しに弱い性分だ。これで相手が異性だったりでもしたら――悪い男に騙されて売り飛ばされるソニアの図は想像に堅くない。
「‥‥ん? 講義は。受けないの?」
 始業のチャイムと同時に視聴覚室から出て来たソニアの姿に首を傾げて、憐はノートと双眼鏡を抱えたままソニアの後を追った。

●いんたびゅー・うぃず・そにあ?
 資料を運び終えたソニアは尾行に気付かないまま廊下を歩いている。
 角を曲がって少し進んで、次の角で左。
「‥‥ん。そう言えば。お昼だね」

 行き先が学食だったもので、憐がそ知らぬ顔して中へ入って行くと、一足先に注文を済ませたソニアは既にカレー皿を両手で持って空席を探している所だった。
「‥‥あ、師匠♪ 師匠もお昼ですか?」
 じゃあ席を取っておきますねと微笑って、ソニアは空きテーブルをひとつ確保した。この広さなら憐専用鍋を置いても平気だろう。ほどなく専用鍋を厨房から貰ってきた憐も向かいの席に着いて、カレーを飲み始めた。
 差し向かいでカレーを飲み干す図。
 結構シュールかもしれないが、双方ほく普通の光景だ。専用鍋から皿にカレーをよそい、憐がさり気なく問うた。
「‥‥ん。ソニア。最近。どう?」
「最近ですか? おかげさまで元気です♪」
 さっき道に迷っちゃいましたけどと笑うソニアの話によると、学食に向かう途中で講師から資料運搬を頼まれたそうだ。
 視聴覚室へ運んでおいてと言われたものの、場所を知らない事に気付いたのは講師がいなくなってから。結局、偶々出会えた級友に拾われて何とか視聴覚室への運搬を終えられたのだとか。
(‥‥ん。講義では。なかった)
 一部始終を覗いていましたとも言えず、しかし不審に感じていた疑問も解けた憐は、うんうんと頷いて引き続き最近の生活について聞いてみる。
「夏休み、ですか? お盆は実家に帰りました。それ以外は学園ですね‥‥殆ど図書館にいますよ」
「‥‥ん。図書館は。涼しくて。いいね。ただ。夏位は。外に出て。若者らしく。あばんちゅーるも。必要かも」
「あばんちゅーる‥‥」
 何を考えたのやら、復唱したソニアの頬がちょっぴり赤くなった。
「‥‥ん。誰か。好きな人。いる?」
「いいえ、いません!」
 思いっきり否定する様子から見て本当のようだ。しかしそれで赤面するのだから、ソニアは相当な初心だと思っていいだろう。
 後でノートに書き加えておこう――そんな事を考えていると。
「師匠は、夏休み、いかがでしたか?」
 尋ね返されてしまった。
 ついでに机の隅に置いていたノートに視線を向けられて、宿題ですかと微笑まれる。
「観察記録‥‥ですか。何の観察をされているんです?」
「‥‥ん。ごく稀有な。生物の。観察」
 それは凄いですね、頑張ってくださいと素直に応援して来るソニアに、まさか貴女の生態調査だとは言えない。ソニアの興味がそこで終わってくれたのに安堵して、憐は足りない食事分を補いに購買へ行くからとその場を辞した。
 購買へ行くというのは、あながち嘘ではない。
「‥‥ん。調査続行。張り込みには。カレーパンと。牛乳」
 今日も今日とてカレーパンを大量に買い占めた憐が、再び双眼鏡を構える――自由研究の為に。

 そんなこんなで一通りの調査を終えた憐は、観察記録を完成させた。
「‥‥ん。まとめ。基本的に。知り合った頃から。大きな変化は。無いけど。着実に。確実に。成長している」
 調査を通じて小さな変化を見て来た。どれも些細なものかもしれないけれど、知り合った頃を知っている憐からすれば、それは変化だ。
 だから、憐はこう結んだ。

 ――今後の。更なる。飛躍に。期待――

●希少種観察レポート
 夏休みが終わって、暫くした頃。
「ちょっと、高城! あんた今すっごく有名人だよ!?」
「‥‥へ?」
 気の抜けた応えを返したソニアに、級友は夏休みの自由研究優秀作品が公開中なのだと言って慌てている。
 ますます解らない。だってソニアは自由研究を提出した覚えがないのだから。
「どういう事ですか?」
「いーから来なっ!」
 要領を得ないソニアの二の腕を引っ掴んだ級友は、彼女を優秀作品の展示場所まで引っ張って行った。
 そこにあったのは憐が持ち歩いていた観察記録のノート、そして表紙に書かれたタイトルは。

 『高城ソニア観察レポート』

「師匠〜〜〜〜〜!!!!!」
「‥‥ん。匿名に。するのを。忘れた。うっかり。うっかり」
 真っ赤になってしゃがみ込むソニアの傍に、いつの間にやら憐がひょっこり現れていたりして。
 かくしてソニアは暫くの間ちょっとした学園の有名人になってしまったのだった――めでたしめでたし?



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 gb0002 / 最上 憐 / 女 / 10 / ‥‥ん。夏休みの宿題をしている学生ですよ? 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 周利でございます。
 いつもソニアにご交情を賜りまして‥‥なんて堅い挨拶から始めましたが、本当に、いつもありがとうございます!
 憐さんに「カレーは飲み物」と教わったのをはじめ、この2年で傭兵生活知識を色々教わってきたソニアですが、相変わらず実戦には不参加のままの学生さんです。
 だけど、ソニアはソニアなりに進歩している‥‥憐さんが気付いてくださって。そしてこれは、ずっと見守っていてくださった憐さんだからこそ気付けた変化だと思うのです。
 自分らしく其処にある事、自分の在り様を友に認められている事‥‥ソニアは幸せ者だと思いますv
常夏のドリームノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2012年09月18日

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