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『あまい、あめ、あかく。 』
宮本明音ja5435


 出会いは偶然、そんなもの。
 同じ姓で、だけど読みは違う。

 天使のように可愛い相思相愛。

 戦友と書いて『とも』と読む、もしかしたら私より愛猫リリーの方が親しいかもしれない。


「……夏は勝負の賭所ですよ、探偵さん」
 ワトソンが、ホームズへそっと囁いた。



●あまい誘い
 久遠ヶ原島から、少し離れた町での夏祭り。
 神社へ向かう参道を人の波がひしめき合い、それ自体がまるで見世物のよう。
 一歩引いたところで若い男女が二人、周辺を眺めながら雑談をしていた。
「お祭りといったら、食べ歩き♪」
 濃紺の浴衣に薄紅色の帯を締めて。しっかりめに髪を結いあげている雨宮 祈羅は、いつもと雰囲気が違うようで――やはりいつも通りだ。
「一応、メインは花火なんだけどねぇ…… ま、屋台もたくさん出てるみたいだし、存分に愉しむとしようかぁ」
 肩を並べる雨宮 歩は、都合が悪くなった時に表情を隠すソフト帽が無い。
 探偵として見慣れた黒スーツや戦闘時のジャケットとは違い、彼もまた浴衣姿である。
 トレードマークの黒だけは譲れず基調として、赤い花柄を散らしている。髪の赤と相まって、彼らしい色合いだ。

 アメミヤとアマミヤ。姓の文字は同じだけれど読みの違う二人は、血縁でこそないが、それをきっかけとした深い仲。
 表面上は穏やかで、けれど内面に寂しさを抱える祈羅に、皮肉屋を気取りながら情に厚い歩がそっと寄り添うようになったのは、とても自然な光景だった。
 年上の祈羅を歩が『姉さん』と呼んではからかい、互いに収拾のつかない赤面沙汰になることもしばしば。
 とはいえ、こうして二人で出掛けるということも珍しい。
 ――否、正確には、二人ではない。

「それにしても宮本の奴、どうしたんだぁ?」

 『花火大会のご案内』を持ち込んだ張本人が、待ち合わせ時間にやってこない。
 そのため、屋台へ突撃をすることもなく、待つこと20分ほどである。
「あー、なんか、バスが渋滞に巻き込まれちゃったみたい」
 祈羅が、顔文字たっぷりのメールの着信に気づく。
「それじゃあ仕方ないかぁ」
 自分たちも、出かけるタイミングがあと少しズレていたら同様だっただろう。
 それくらい、今日の祭りの賑わいは凄い。
「先に楽しんでて、だって」
「なら、お言葉に甘えようかぁ。姉さんと違って、宮本は食い意地張ってないしねぇ?」
「そ、そんなことないよぉ? けど、こうやって依頼でも何でもなくお祭りを楽しめることってそう無いし! リンゴ飴とか綿あめとか、……あとタイ焼きとか?」
「甘いものばっかりだねぇ」
 くく、喉の奥で歩が笑う。
 表情を隠す物が何もないから、彼の笑顔をまともに目にするのは珍しい。祈羅は、思わず見入る。
 そしてそれは、祈羅もまた然り。赤面を隠すのは、この宵闇くらいだ。
「……じゃ、宮本と合流するまで、軽く食べ歩きと行こうか。祈羅」
「うう…… なんかずるいよ、歩ちゃん」
 二人きりになった時だけの、名前呼び。
 恋人という関係を隠してはいないが、だからこそ、こういうギャップは……ずるいと思う。
 手を繋がれて、顔を隠すこともできない。
 互いに慣れない浴衣姿で、ぎこちない足取りで人混みを泳ぐ。
 そんなことさえ、どこか愉快で。
 顔が赤いのは、屋台の明かりのせいだろう。
 頬が熱いのは、祭りの熱気のせいだろう。
 そういうことにして、二人は夏祭りを楽しんだ。



●あめのように降り注ぐ
「あら、これはおじゃま虫でした?」
 ふわふわの綿あめを分け合ったところで、宮本 明音が合流した。
 気合たっぷり浴衣姿のW雨宮とは対照的に、至ってラフな服装の明音は、頭上にトレードマークの相棒・白猫リリーを乗せている。
「わぁい! 明音ちゃ〜ん! かわいい!!」
「第一声がそれかい、姉さん……」
「キラさんもかわいいっっ」
 ぎゅぎゅっと抱き合う女子二人に歩が口を挟めずにいると、明音の頭からリリーが歩の胸元へとダイブしてくる。
「ま、これで良かったのかもねぇ、リリー?」
 二人きりの時間が長すぎると、理性の暴走を抑えきる自信が薄れる。
 歩の問いかけへ、リリーは『にゃ〜ん』とアクビ交じりの返事をした。
「けど、ほんと今日のキラさん可愛いですっ 綺麗な髪飾り〜」
「あ、これね、えへへ。がんばったんだ」
 普段はゆるく纏める事が多いから、ヘアアレンジの本を見ながら一生懸命セットした。
 髪飾りも、浴衣に合わせて用意した。夏祭りに出かけることなんて少ないから、次に身につけるのは来年の夏かもしれない。
「きゃー! 天使!! ね、ねっ 聞きましたか見てましたか、探偵さん!!?」
「聞いてるし見ているし気づいているとも、ワトソン君」
 所属する探偵事務所で、明音は歩にとっての相棒であり助手である。それゆえ、互いにこんな呼び方をしている。
「やれやれ、ようやく役者が揃ったかぁ。それじゃ行こうか、姉さん、ワトソン君」
 明音が、自分たちへ気を遣っていることは歩も感づいている。
 けれど、だから、今日は『三人で』花火大会を楽しみたいのだ。
 歩にとって、大事な相棒であり。
 祈羅にとって、大切な友人である、明音。
 楽しい時間を、共に過ごしたい。
 恋愛はもちろん大事だけれど、それだけでは括れない存在なのだ。

「来てくれて、良かったよ。宮本」

 祈羅の綿あめに顔をうずめる明音の背に、歩が聞こえるかどうかの言葉を掛ける。
「もぐ、ん? 何かおっしゃいました?」
「……なんでもない」
 しっかり、聞こえた上の反応だ。
 歩は明音へ苦笑いし、そうして三人で屋台を見て回った。
 
 歩が射的でぬいぐるみを二つ撃ち落とし、
 明音がすくった金魚にリリーが反応するものだから、道行く子供へ託した。
 振り向くと祈羅が食べきれないほどのお菓子を買いこんでいて、笑いながら三人で分け合う。
(探偵さん)
 間もなく花火の打ち上げ時間となろうという頃、歩の浴衣を明音が引いた。
(私、ちょーっと居なくなりますから。イチャつくなら今ですよ?)
 小声でささやくと、歩が振り向く間もなく―― 明音は雑踏へ紛れていった。
「明音ちゃんがいない!」
 ほどなく、祈羅が異変に気づく。
「あれー? さっきまで一緒だったよね、歩ちゃん。どうしよう、人多いからしょうがないってのもあるけど、迷子になったら大変だよ」
 慣れない土地で、合流するのも至難だろう。
 花火の打ち上げに合わせ、人の波も右から左へ大きく動いている。
「ま、リリーも一緒だし、子供じゃないんだから…… そのうちヒョイと戻ってくるさ」
 歩はお面屋で買った狐面で表情を隠し、空いた手で祈羅を誘った。
「先に、場所取りをしておこう」
「そっか…… うん、そうだね」
 目印になるような場所を見つけておけば、安心して合流できるし花火もゆっくり楽しめる。
「でも」
「なんだい?」
「せっかくの浴衣なのに、またそうやって顔を隠しちゃうんだ? 歩ちゃん」
「ゲホッ」
「普通に、歩ちゃんの表情見るの好きだから……」
「……言うねぇ」
 面をそのまま頭にひっかけ、歩は口の端を歪めた。


 喧騒から、少しだけ離れた鎮守の杜の入口で、明音を待ちながら二人は打ち上がる花火を楽しんだ。
「きれい〜♪」
「……綺麗なものだね、花火っていうのは」
(前は何も感じなかったのに、不思議だねぇ)
 花火に照らされる祈羅の横顔を盗み見しながら、歩はそう思う。
 『自分自身を知る為』、それが歩の久遠ヶ原学園入学のきっかけであった。
 日常という名の非日常、明確に生まれた殺意、様々な感情の渦の中、凪ぎのような穏やかな、温かな感情を与えてくれるのが隣に立つ女性だ。
 あまりにも日常らしい、自分らしくないとさえ……調子を崩されるのさえ、愛しく思う。だなんて。
「ありがとう、祈羅。今日という幸せな日を送れるのは祈羅のおかげだよ」
「え? どうしたの、歩ちゃん――」
 歩の柔らかな声に意表を突かれ、祈羅がこちらを振り向く。
(ワトソン君の、サポートとあらば、ね)
 これくらい大胆な行動も、許されるだろう。
 歩は祈羅を、そっと抱き寄せ――唇を重ねる。

 夜空に大輪の花が咲き、遅れて音が響き渡る。

 パラパラと花弁が散る、それまでの間、しっかりと。
「今のは感謝と愛の証だよ。気に入ってくれたかな、お姫様?」
「っっっ、〜〜〜〜〜〜!!!」
 祈羅が、宵闇の中でもそれとわかる真っ赤な顔で、目を大きく見開いて、歩を見つめ返す。ただただ驚きばかりが浮かんでいる。
 反撃を試みているのか、拳を胸のあたりまで持ち上げるが、どうするでもない。
「くくっ」
 思わず笑いを誘われて、歩は狐面で再び自分の表情を隠した。
「ずるい……」
 それが祈羅の、精一杯の反撃だった。



●あかいろに染まる
 そろそろ頃合いだろうか。
 花火を屋台の隙間から眺めていた明音が、イカ焼きの串をゴミ箱に放ってから、祈羅より連絡を受けていた場所へと向かい始める。
(雨宮夫妻の仲、深まったでしょうか)
 明音にとって、二人とも大事な大事な存在。
 クールに見えて純情な祈羅といったら。歩ネタでからかった時の反応たるや筆舌に尽くしがたいものがある。
 だから、幸せになってほしい。
(そのためだったら、独りで全屋台制覇も厭いません。決して食べ物に目が眩んだわけでは! 決して!)
 寂しくないと言えば嘘になる。
 けれど、二人の間が深まったからといって、自分の居場所がなくなるわけでもない。
「ふふ、ボッチなめるな……」
 明音の頭上で、応じるようにリリーが鳴いた。

「あー! きたきた、明音ちゃん」
 髪飾りを揺らし、祈羅が笑顔で明音を迎える。
「よかった、まだまだ始まったばっかりだよ」
「流石ですね、人混みから離れつつの花火スポット。お任せして正解でした☆」
「……ずいぶんと、食べたりなかったみたいだねぇ」
 歩が、明音の口の端に付いたソースを拭い、肩をすくめる。
「知ってました? 北口と南口の焼きそば屋さん、それぞれに違うオリジナルソースを使ってるんですよ!」
「オススメの方を、お土産に買って帰ろうかぁ……」
 あっという間に空気に馴染む明音、その向こうで連弾花火が空を彩る。
 赤、黄、青、緑、白、 眩い光が競い合うように咲く。
 そこから先は、三人とも言葉少なに夜空に見入った。
 ちなみに、当たり前のように明音は祈羅と歩の間に位置取り、祈羅の左手を独占している。
(うん、この結果はわかってたよ……)
 だから、先ほどのサービスタイムだったのである。


「……で、ぶっちゃけどこまでいったんですか?」
 花火大会が無事終わり、シャトルバスの列へ並びながら。
 明音が二人へ、特大花火を打ち上げた。
 二人とも大人なのだから隠すことは無いし恥じらう必要もないと明音は思うのだけれど、この純朴な反応が楽しくてたまらない。
「んー、とねっ」
 くいっ。
 歩の手を、祈羅が強く引く。
 その頬へ、柔らかなキスを。
「ッ」
 今度は、歩が完全に不意打ちを食らう番。
 そして続けて、祈羅は明音の頬にもキスを落す。

「来年も、一緒にこれたらいいな」

 この三人と、一匹で。
「キラさん……反則です…… く〜〜〜っ」
「これだから、敵わないんだよぉ……」
「え? え?」
 今更ながらに恥ずかしさがこみあげてきた祈羅を含め、三人が真っ赤になった顔を抑える。
 リリーだけが、明音の頭上で何事も知らずに呑気な鳴き声を上げた。



【あまい、あめ、あかく。 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3810 / 雨宮 歩  / 男 / 20歳 / 鬼道忍軍】
【ja7600 / 雨宮 祈羅 / 女 / 20歳 / ダアト】
【ja5435 / 宮本明音  / 女 / 16歳 / ダアト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
ほんわか夏祭り花火大会の夜をお送りいたします。
今回は分岐なく、1本道の物語となっております。
打ち上げ花火のようにクルクルと変わる彩り、三者の想い、描けていればと思います。
どうか、皆様の絆がずっと、幸せなものでありますように。
常夏のドリームノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年09月18日

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