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『真夏の夜に、貴方と 』
アルテナ=R=クラインミヒェルja6701

●偶然? 必然?
「……日本の夏は、暑いな」
 アルテナ=R=クラインミヒェルは、しみじみとその言葉を実感していた。
 特にこの地方は暑いとも言う。
 温泉地への避暑ではあったが、思ったよりも気温は下がらない。
 頬にしたたる汗を拭いながら、それでも彼女の表情は穏やかなものだ。
 夏の暑さにも負けずに駅近くの目抜き通りは、賑やかな呼び込みを見せて、買い物客は次々と差し出される目新しいものに声を上げて喜ぶ。
 彼女の守るべき、当たり前の平和が此処にはあるのだ。
「あら、アルテナちゃん?」
 木の陰に涼みながら見るともなしに見守る彼女に、声がかかった。
 聞き覚えのある響きに、ゆっくりとアルテナは顔を上げる。
「――観月殿? どうなされた?」
 そう問う言葉も終わる前から、腕に抱きつくようにして観月が懐きに来る。
「ちょ、ちょっと待つのだ!?」
 人懐こい観月の仕草にまだ慣れないアルテナは、少し身構えて一歩引く。
 それでようやく彼女も、身を離して。
「あら、失礼しました。朱星は、知り合いのお家を訪ねた帰りなのです。
 アルテナちゃんは、ご旅行ですか?」
「うむ、偶には骨休めをと思ってな」
 元々友人である二人は早速雑談の風情で話し込む。取った宿のことなどを聞いて、綻ぶよう観月が笑い。
 胸の前で、手を合わせる。
「そちらのお宿でしたら山の上に。びっくりする程涼しいですよ。朱星も、お供して宜しいですか?」
 観月の誘いに、少しアルテナは考える。
 元々、一人の気楽な旅ではある。特に断る理由も無く――。
「勿論だ。よろしく頼む」
「はい! では、早速温泉に入りましょうね!」
 アルテナの手を引き、駆けだす観月に結局はつられて彼女まで走り出す羽目になるのだった。
 楽しい夏の日の、始まりだ。


●温泉にて
「一緒に入浴とは…変わった文化であるのだな」
 脱衣所で衣服を落としながら、しみじみとアルテナは口にする。
 屋根のある屋外の脱衣所に、岩でできた露天風呂。
 少しばかり珍しい光景に、彼女の眼は辺りを頻りに見て回っている。
「こういう形式は余り慣れてらっしゃいませんか? でも、二人だから大丈夫ですね」
 無邪気に、観月が笑う。
 アルテナの祖国にも、温泉が無い訳ではない。
 けれど、やはり勝手が違う。
 タオルの持ち方から、観月に教わる羽目になる。
「髪、纏めましょうね?」
 座って下さい、と言われるのにもなすが侭なのは、日本的な作法だと思い込んでいるのかもしれない。
 癖のない真っ直ぐな髪を思う存分堪能しながら、観月は器用にくるくると纏めていく。
「折角ですし、後でアップにしましょうか。浴衣、着られますでしょう?」
「――浴衣?」
 首を傾げるアルテナに、やはり有無を言わせず。
「折角ですもの、そちらの方がきっと涼しいですから」
「…う、うむ。ならば、宜しく頼む」
 結局、彼女に丸め込まれるのはわりと通常営業なのかもしれない。

「ああ、――本当に涼しいものだな」
 湯船には、心地の良い湯気が立つ。
 山奥に建てられた風光明媚な旅館では、貸し切りの露天風呂が売りなのだ。
 目には夏の光を受けて照り返す鮮やかな緑と、澄んだ空。
 ぽかりと浮かぶ雲の白さすら、目にまぶしい。
 濁り湯から覗く、白い肩甲骨から項、満足そうにブラウンの眸を細めるアルテナは見た目だけなら年相応の麗しい少女だ。
 口調ばかりは、相変わらずの騎士風ではあるが。
 湯を両手で掬い、共に浸かる観月もうっとりと笑う。
「はい、季節には蛍も来るんですよ。真夏は流石にいませんから、かわりに花火をしましょうか。――ご迷惑で、無ければ」
「日本のことは、まだ詳しくないからな。観月殿が、教えてくれるのは助かる」
 はしゃぐ観月は最後にそろりと付け足す。彼女も、アルテナの休暇に邪魔をしてしまったことは分かってはいるのだろう。
 けれど、それを柔らかく受け止める声音に、途端表情は明るく。
 はい、と返事の後は次々と予定を並べ立てることになる。
「アルテナちゃん、大好きです」
 感極まった観月は、女同士の気安さでぎゅ、とタオル一枚隔てるハグ。
「わ、…ちょ、観月殿――!?」
 お決まりの悲鳴が上がり、わたわたと慌てて両腕を上げるホールドアップ体勢。
 大きく水しぶきが立って、二人にばしゃんとかかる。
 ――思わず、二人してきょとんと眼を合わせ。
 笑い声が、弾けた。


●夏の夜に、
「アルテナちゃん、とってもかわいいです」
 風呂上りのアルテナは、観月の着せ替え人形になっていた。
 金色の髪に映えるよう、布地は敢えて夜のような深い藍色。
 大きく白百合が咲く柄では、結い上げた髪が何よりの彩となっている。
 編み込みを交えたハーフアップの髪型に、流れる豪奢な金。
「これで、仕上げです」
 髪を満足そうにアレンジし終えた観月が、華奢な銀の簪を差せば仕上がりだ。
 ちなみに観月は、臙脂の浴衣に金の簪、柄や髪型はお揃いにするというはしゃぎようだった。
「そんな、私にはこういう服装はあまり似合わない気が、」
 言いかけたところで、手を胸の前に組み合わせてうっとりと見入る観月に、気づく。
「……でも観月殿がいうなら似合うのかもしれん。うむ」
 慌てて気を取り直して頷いて見せる。裾捌きや、袂のライン、綺麗に結ばれた帯までが目新しくてくるりと鏡の前で一回転。
「では、参ろうか。小川とやらに」
 少女めいた面差しがきりりと引き締めるのは、騎士としての顔か。
 それでも、二人並んで他愛ない買い食いなどをしているときは、いつものアルテナとは違う顔が幾つも覗く。
 思い切り真剣に、射的に挑戦してみたり。
 見世物小屋のお化けにいきなり驚かされてみたり。
 夏の時間は、短く、呆気なく。
 辿り着いた場所は、小高い丘の上。――さらさらと、清浄な水が流れる小川が近くに見える。
「はい、アルテナちゃん」
 渡されたのは、線香花火。言われる侭に手に持って火をつけると――ぱち、と儚い光が溢れる。
「―――綺麗な、ものだな」
 人工の灯は、この辺りには無い。
 ただ、丘から見下ろせば街の灯ばかり。
 命育む、日々を生きる人々の温かなひかりが、ずうっと遠くに灯っている。
 何に対して綺麗、と言ったのか。
 アルテナも、自分で少し分からない。けれど、――伝わる気がした。
「はい、とても素敵です」
 目を合わせて、観月が笑わずに真っ直ぐ頷く。
 色を変えて、弾ける火花だけが、お互いの表情を微かに照らして。

 ひかり、あふれて。
 はじけて、またいろをかえる。

「これは、消えてしまうのか?」
 いずれは落ちて消えるのかと、アルテナが問う。
 少しだけ、観月が笑った気がした。
「残ります。――ずうっと」
 ひそめるような、内緒話じみた囁き。
 すう、と。
 星が、遠くで流れた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6701 / アルテナ=R=クラインミヒェル / 女 / 18歳 / ディバインナイト】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度は有難うございました!
観月と遊ぶゆりりりかるな旅、お応え出来ておりますでしょうか!
素敵な夏を、胴か一緒に。
常夏のドリームノベル -
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エリュシオン
2012年09月18日

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