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『碧色夏旅/花よりも麗しき君達 』
宇田川 千鶴ja1613


●碧色夏旅
「常夏リゾートの島へ、モニターのご案内」
 葉書を受け取ったのは、いずれも麗しき女性達。
 彼女らのうち殆どが(具体的には約一名を除いては)、真っ先に思い当たるのは恋人の姿。
 だが、今回彼等の手元に当選葉書は届いてないのだから仕方ない。
 むしろ、女子会をテーマとしてのプロモーションキャンペーンに当選してしまったのだった。
 色男四人が集まれば色恋話とは有名古典に謳われるが、それに女子五人が集ったら?
 彼女らは迅速かつ合理的に旅行の予定を立て、着替えやメイク道具の入った鞄の重さもなんのその。
 軽やかに、夏の島へと降り立つのであった。

 とびきりの、ガールズトークを仕込んで。


●麗しき乙女達
 この島の売りでもある、水上ヴィラ。
 其処には、贅沢にも夜だけオープンするプールがあるのだという。
 海沿いに作られた広大なプールの構造は、すぐ向こうの海に水が流れていくかのような錯覚を見せるいわゆるインフィニティプール。
 今は深く沈んだ藍の海を眺めながら、水底からプールはライトアップされ幻想的な光を揺らす。
 更に、プールの端には浮島のよう作られた空間があり、そこは洒脱なオープンバーとなっている。
 あまりにも絵になるその光景に、集うのは乙女達。
 まずは、二人。
 タンクトップにホットパンツで今は日焼けの心配もないとばかりすらりと手足を見せる、カタリナ。
 流す青髪も涼やかに、異国の美女という言葉を体現したかのような彼女は真剣な面持ちでメニューに目を落としている。
 向かいに座る七種戒は、物珍しそうに視線を辺りへと巡らせる。
 こちらは完全に未成年、しかし女子会ということで少し大人っぽく、
 胸元と背中を大きく見せたホルタ―ネックのキャミソールは黒、同色のレースが胸元を飾るのもポイント。
 銀の釦からスリットにつながるタイトスカートで足を組む仕草は、見た目だけはりっぱにセクシー美人。
「リナさーん、ノンアルでお勧めあるかね?」
「そうですね。こちらは如何ですか? ライムジュースとソーダにシロップを足したものです」
 夏の喜び、と言われるノンアルコールのカクテルを勧めながら、彼女は成人済みということでピニャ・コラーダでトロピカル気分。
「オーダーは皆が来てからしましょうか」
 決めてしまえば、カタリナはメニューを閉じる。
 彼女らは前日からの宿泊組で、合流する女子達待ちなのだ。
「あたしもノンアルコール〜」
 丁度そこに降る声は、森浦萌々佳のもの。
 おっとりとした語り口で、笑い方も砂糖が零れるように柔らかく。
 しかしながら、布面積の少なさはおそらくトップクラスだろう。
 女子なら誰もが憧れる贅肉無しの臍もすっきり切れ上がったウエストラインを晒す赤のビキニにパレオ姿を惜しげも無く晒している。
「萌姉、他の二人は?」
 カタリナがサイドメニューの選定に入ったところで戒が尋ねる。まだ、全員は揃ってないのだ。
「もう来るよ〜。ほら、」
 言うが早いか、華やぐ気配は直ぐそこに。
「ハニィィィ、お待たせーー!」
 青木凛子の心はオカン、身体は女子高生という夢の我儘ボディは、キャミソールにホットパンツでの堂々とした披露。
 かと思えばチラ見せサマーニットカーディガンが憎いところでもある。
 完璧なウェーブの掛かったミルクティ色の髪を嫌みのない仕草で掻き上げ、美女まっしぐら。
 その後ろから、一歩引いて微笑ましげに眺めているのが宇田川千鶴。
 こちらはごくシンプルなTシャツにショートパンツで、飾り気のない控え目な笑み。
 しかしながら綺麗に切り揃えられた白銀の前髪の縁から覗くブラウンの眸は包み込むように優しげ手。
 笑う形に唇が動くと、口端の黒子が何処か艶やかに見える。
 ――この時点で、かなりプールの注目の的であった。
 異なるジャンルで五種添えてみましたお好みの方をどうぞと言わんばかりの美女から美少女まで。
 例えば、家族サービスから抜け出してきたお父さんの目の保養になってしまったり。
 彼女と喧嘩して一人寝を嫌がる彼氏の視線が向けられたり。
 そもそもモニター旅行? ボッチですが何か!という健全な男子だってぽつぽつといるのだ。
 そこに彼氏の影一つなく、皆でカウンターに並ぶのだからこれはもう誘われ待ち、と言ったって過言ではない。
 問題は、誰が声をかけるか、である。
 じり、じりと牽制の輪が出来つつあるころ。

「あら、もう皆様お揃いですか? では、夏の夜のコイバナ大会。
 彼氏自慢と惚気マシマシトーク、宜しくお願い致しますね!」
 和柄をあしらったキャミソールに巻きスカートの少女、観月朱星が全く空気を読まずに声をかける。
 手に持っているのは、プール近くのレストラン屋台か許可を得てテイクアウトした軽食の数々。
 バーでは飲み物がメインの為、食料は他から調達が可能なのだった。
「皆さまとっても、今日は可愛らしいです。お話伺うの、楽しみでした。お招き有難うございますね」
 手を合わせてうっとりと美女五人に見惚れる観月。
 ちなみにこの女コイバナとか大好物である本当にお誘い有難うございます。
「いい下見になりましたね」
 カタリナが、とどめの一撃を放つ。
「そうやなぁ、こんなえぇとこ一人やとこられへんし」
 いかにもロマンティックな常夏の海。女友達とこんな風にでもなければ、なかなか機会もないだろう。
「――もしかして皆、彼氏とのデートの下見に来たのか!?」
 いまさらながら愕然とする戒(下見予定無し)。
 まあ、つまりこの場にいる女子のほとんどは彼氏とのデートを見込んできたのだと、周りにも知れ渡る訳で。
 周囲のしょんぼりっぷりなんてなんのその、麗しの美女たちは恋人との旅行や、今の女子会のテーマに夢中でおしゃべりをし始める。

 というわけで。

 真夏の夜のカーニバル、どっきどっき女子会編。
 はっじまっるよー!


●最初からクライマックス
「ふふふふふ、プールサイドをぴんくい話題に染め上る一番手は誰だ!」
 今日はもう聞く気満々、とばかり野菜スティックでびし、と女子四人を指さす。
 ぐるっと回ってカタリナ指名。
「まあ、安定のカップルやしなぁ」
 千鶴も今は他人事と言わんばかりの穏やかな口調で、蛸のアヒージョを冷ましてからぱくり。
「そーよ、まずは火付け役になってちょうだい」
 凜子にまでお姉さん然と強請られてしまえば、彼女に味方は無かった。
「私ですか!? ……承知しました。このカタリナが、一番手を務めましょう」
 こほん、と咳払い。一杯目のグラスは、半分ほど減っている。
 まだ、酔うような時間ではない。が、彼女の頬が既にほんのりと紅いのは何のせいか。
「花火、ありましたよね」
 その一言だけでわっと場が沸くのは、乙女たちの特権だ。
「ええ、この夏は花火大会たくさんありましたものね。やっぱり恋人とは行きたくなりますわ」
 両手を合わせてうっとりと頷く観月。
「浴衣でいつもと違う顔が見れるのって良いわよね〜」
 凜子も、自分の思い出を重ねているのかシャンパングラスを揺らす。
 と言っても、中に入っているのはノンアルコールのリンゴソーダ。
 ぱちぱちと弾けるゴールドのグラスをそっと傾けて。
「普段女の子みたいですけど…花火もう始まっちゃうからって引っ張られまして。強引な所、あるんですね」
 気恥ずかしそうに、形式ばかりは愚痴めいてかりり、と野菜スティックを齧る。
 けれどまんざらでもなさそうなのは誰にだって見て取れる。
 逆に言うと、これを聞いて「強引な男って駄目なのか…?」と不安になってはならないのだ。
「へぇ、なかなか見れへん一面やねぇ」
 千鶴の相槌に、わが意を得たりと頬に手を当てて、カタリナは目を伏せるよう笑う。
「私、浴衣に慣れてないのにどんどんいくから大変で…」
 光景は、目に見えるようだった。
 普段は可愛らしくて、女性的な恰好も多い彼女の恋人。
 そんな彼女の手を引いて、ぐいぐいと、少しばかり強引に、少しばかり勇ましく。
 急がなきゃ、なんて笑う光景。
 ――早く、おいでよ。
 振り向いた時の顔は、びっくりする程凛々しい男の子の、顔で。
 少しの驚きと、胸に溢れる愛しさと。
 しかも、彼が連れて行ってくれたのは――。
。「その後もです。何処行くのかなって思ったら、こっそり人がいない所へなんか…」
 それ以上は言えない、とばかり頬に上がった熱を掌で押さえて、口を噤むカタリナ。
 照れながらも二人でいたいのだと、そんな風に。
「もーちょい!もー一声いってみよーか!?」
「ねね、なんか、の続きはなあに?」
 きゃー、と華やいだ声が一斉に上がって。
 はやし立てるのは、戒と凜子だ。しかし、カタリナはそこまでが限界、とカウンターを叩いてギブアップの姿勢。
「そういう凜子さんは、どうなんですか」
 必殺、話を逸らすにはその相手に切り込むのが一番。
 途端に、珍しく凜子が挙動不審に息を詰まらせる。
 思わず、右手を左手に被せてしまうが、その下にあるものを皆が知っている。
 シャンパンゴールドとホワイトゴールドの、幅広の品の良いリングは恋人とお揃いのもの。
「主人と離婚の話は大規模の頃からあって…――」
 観念したよう、凜子は語り始める。


●六月の花嫁
 青春真っ盛りの惚気から、あだるてぃなコイバナに話題が変わる気配。
 皆、自然と息を飲んで凜子の話に聴き入ることになる。
「離婚の後――正式、に…」
「りんりん、おめでとう〜」
 ほう、と乙女の溜息を零して真っ先に森浦が祝福のエールを送る。
 普段は自信満々の凜子の表情が、照れ臭そうにうろうろと視線を彷徨わせたり、言葉を迷わせたり。
 知っている憧れの友達が、こんな風に心揺らすのだからやっぱり恋って楽しくて素敵なものだ。
「彼氏さんのこと、もっと聞かせて下さいませな」
 観月もわくわくと更に話を強請る。恋人と示す相手の惚気が聞きたい一心であった。
「格好良すぎて、辛い…ッ」
 思わず、カクテルグラスを一気にくいっと呷る凜子(注:ノンアルコール)。
 おかわりっ!とばかり、新しいグラスをマスターに作って貰って、それも景気づけにもう一杯(しつこいですがノンアルコール)。
 それで漸く彼女の覚悟もついたのか、改めて口を開く。
「…恋人、を、大事にするタイプらしくて…買い物にも、向こうから誘ってくれ、たり…」
「きゃー、かっこいいー。それからそれから?」
 彼女におつまみのナッツを勧めながら、身を乗り出して聴き入るのはカタリナ。
 正直ノリノリである。
「彼女さん、大事にしそうやもんなぁ」
 こちらはいつもの通りの控えめな位置で、けれど心底微笑ましいと思っているよう千鶴の優しげな眼が細くなる。
 千鶴にとっても、凜子は女性として憧れる部分は大きい。
 女性として魅力的なだけでなく、最近は初々しくも可愛らしい面が、彼女やパートナーと同席すれば引き出されるのも知っている。
 凜子の彼氏は、文句なしにパーフェクトイケメンでありスマートな男性なのだ。
 彼女ほどの女性を、満足にエスコート出来るスキルを持ちながら、乙女心もばっちりキャッチの、それだけでイケメン検定数え役満である。
 自分でも言っているだけで恥ずかしくなってきたのか、ちょっとカウンターに突っ伏して死に体の凜子。
 よしよし、とカタリナが背を撫でる。それで、ようやく復活。
「でも、」
 そう、小さく呟くときだけは真摯に。自分の手を、強く凜子は握り締める。
 外見だけなら好きにまではならなかった。――信念とか、嘘のないところが、共鳴するの」
 イケメンだって、エスコート上手で凜子を愛してくれる男も、他にもいるかもしれないけれど。
 心の在りようが。
 何処までも前を見据える、歪みのない心が。
 愛おしいのだと、真っ直ぐに告げて。
「素敵ね〜」
 森浦が心の底から、眩しげに笑う。
 心同士向き合う恋。
 彼女にだって、その気持ちは分かるから。
「……じゃあ、次はももちゃんね! 学園のヒロインの惚気、とくと聞かせて貰うわ!」
 自分の話が終われば、いつものお姉さん的な余裕溢れるコイバナ好きの顔で。
 丁度グラスが空いたところで、カタリナが森浦の為に新しいものをオーダーする。
「シンデレラですよ、どうぞ」
 これもまたノンアルコールカクテルだ。
 有名な童話やアニメのヒロインの名を持つカクテルを片手に、彼女もまた語り始める。


●ヒロインはかく語りき
「ちょっと恥ずかしいな〜」
 人の話は楽しい、自分の話は恥ずかしい。
 それが、コイバナのお約束である。
 そもそもコイバナがガールズトークになぜこんなに向いているって、
 大好きな友達の幸せ話は幾ら聞いたって苦にならないからだ。
 それが、共通の友人だったりすれば尚更で。
「さあ、次はがっつり惚気てくれるんだろう…!?」
 ずずい、と戒が迫るとこれ以上は無い、とばかりに観念して語り始める。
「うふふ〜、きっかけは文化祭かな〜」
 指先がハート形のクラッカーをなんとなく見つけて、口に運ぼうとする。
 けれど、食べれずに暫くそれを見てから。
 思い出すのは、あの賑やかで、何もかもがきらきらしていた文化祭。
 けれど、彼女は今の想い人とすれ違っていたのだ。
 どうしてだろう?
 理由を考えれば、これ、というものはあるのかもしれないし、ないのかもしれない。
 ただ、惹かれあっても、好きでも。
 最後の一歩、――そして、最初の一歩を踏み出すのは、勇気がいる。
 その、一番大事な時の勇気を、森浦は忘れない。
 他の子に抱きついてしまった時だと、彼女は語る。
 あの頃の彼を、瞼に描くように。
 ヒーローを思う、ヒロインのように。
「あたしが彼のことなんとも思ってなかったとしても、――好きなんだって。そう言ってくれたの〜」
 集まった乙女たちがどかんと湧く。きゃー!と一際大盛り上がり。
「覚悟を決めて、好きになってくれたって嬉しいわよね」
 凜子もまた、目の色が優しく微笑む。年頃の男の子が、そんな風に言うのはどれだけ勇気がいることか、分かるから。
「うん〜。あたしはヒーローの花嫁になりたいの。だから、ヒーローになってくれますかって聞いたら〜」
 いつだって思いだせる。あの時の言葉は、空で言えるほど。
 胸の一番大事なところに、しまってある。
「萌々佳の為にもいっぱいがんばるから、私のヒロインになって下さいって〜」
「え〜、そんな事言っちゃうんですか!?」
 カタリナが声を上げるのは、驚きと言うより歓声だ。
 この場にはそのエピソードを知ってるものだっているのかもしれないけれど。
 再現されたら、いつだって新しい幸せが溢れる。
「うん〜、だから彼はあたしのヒーローで、大好きな人」
 子供の頃から、思い描いていたヒーローのお嫁さんになる、夢。
 その為に、頑張ってくれる人がいるから。
 彼女だって、花嫁修業を欠かさない。
 素敵な、ヒロインになる為に。
「ぎゃー乙女だ乙女がいるかわえええ!!」
 スタンディングオベーションとばかりにやんやの喝采。森浦の今の笑い方は、本当に彼氏に見せるのにもったいないくらいかわいくて。
「うん、――お互い支え合ってるんや」
 良い話を聞いた、とばかりロンググラスのカクテルを少しずつ舐めるように飲みながら頷いている千鶴。
 しかし、ふと顔を上げる。気づけば、彼女に集中する視線。
「…なんでこっち見とんの?」
 ――理由なんて、推して知るべしである。


●始まったばかりの恋
「千鶴ちゃんのコイバナをどんなに楽しみにしてたと思うの〜」
 おっとり、のんびり。
 しかしながら全く逃さない笑顔で、まずは先制のアタックを森浦から。
「あたしも聞きたいわ〜」
 語尾にハートマークが見えたのは幻ではないはずだ。凜子だって、それはもう楽しみにしていた。
 こっそり応援していた、可愛らしい恋。それが実って、本人から聞ける機会なんて逃せる訳も無い。
「ほら、大人しく話してみ…!」
 戒も興味津々とばかり、そして弱ってる千鶴からは影縛りもなかろうとわくわくと顔を覗き込む。
「……う」
 これだけ話の披露を楽しく聞いておいて、自分だけ無し、と言えないくらいには千鶴は義理堅い。
 困ったように笑ってごまかそうとするも、全くそちらも上手く行かず。
 かといって、本当にこの手の話に慣れていない千鶴には咄嗟にエピソードも浮かんでこないのだが。
 皆が辛抱強く待つ間に、ややあってぽつ、と話始める。
「………危ない仕事から、返ってきたときにな。無事に帰って来てくれて、うれしいって言ってくれたんやわぁ」
 心に、その言葉は届いた。自分でも、驚く程に。
 同時に、――自分が彼を心配してもいいのだと、思った。
 心配をして、お帰りを言えるのはお互いに、許し合える立場なのだと。
「あまり会えへんし、――この先のことはわからんけれども」
 お互いにこんな稼業で、相手の為に安全な依頼しか選ばないとかそんな性分でもない。
 戦いともなれば、真っ直ぐに駆けだすのも千鶴であり、また、彼には彼の戦いがある。
 忙しい身ともなれば、余計に不安も無い訳ではない。
「――一個一個が、嬉しいんや」
 自分の手を、思わず開いてしまう。数え切れない、限りない。
 些細な気遣い、相手が誘ってくれること、気にかけてくれること。
 さりげないその一つが、どれだけ不安を鎮めてくれるか。
 友達や戦友の立場でなく、パートナーとしての立ち位置だからこそ彼と、出来ることが沢山、ある。
「分かります」
 静かに、カタリナが頷く。
 愛情に裏打ちされた行動が、どんなにか幸福なのか。
「しかし、下見してみたはえぇが、常夏の島にいるあの人って結局想像つかへんなぁ…」
 だから誘おうか、そんな風にも千鶴は考えていたのだけれど。
 恋人たる彼が、こんなところでアロハを着て笑っているのはどうにも想像がつきがたい。
 リゾートでのんびり、なんていう言葉と縁がないからなのか。
 冗談めかして笑う声は、自分でも驚く程に優しくて。
「おお…! ちぃさんもラブラブだな!!」
 聞き入っていた戒も満足げに頷く。
「あたしも〜。彼は泳ぐの苦手だからデートでここにきても楽しめないかな〜って」
 森浦も話し出したら、それぞれ彼氏が此処に連れて来たらどんな反応かというトークになり始め。
 そりゃあもう、おなか一杯幸せに。
 沢山、たくさん惚気を聞いた、わけで。
 そこで、戒ははたと、気づく。


●残念乙女の夏の夢
「アレ、私以外、リア充じゃね…?」
 きょろ、きょろ、きょろ。
 この場には、見渡す限りのリア充がいる。
「戒ちゃん、その、ほら、朱星は違いますから」
 一応フォローに回る同じく唯一の独り身だが、どちらかと言えばこの娘はコイバナと女子が好物の百合娘。
 彼氏なんて言葉とは下手すれば一生縁がない系である。
 その他と言えば、甘酸っぱい青春真っ盛りカップルとか、ちょっとあだるてぃなイケメンと美女カップルとか。
 王道ヒーロー&ヒロインに、不器用ながらも恋を育むお二方。
 わが身を見れば、ひとり。
 やけに寂しい風が、背を吹き抜けた。
「そうだよな…羨ましくなかったら、リア充爆破とかしないよな…」
 出会い方が違ったら、彼女等とは爆破対象と爆弾魔の関係だったのかもしれない。
 例えば夏の浜辺で、うふふふあははと駆けまわる皆。
 ―――そして、自分は?
「か、カイ?」
 考え込んで無言になる少女の肩を、そっとカタリナが揺らす。
「ち、ちが。ちょ、ちょとぴんくが胸焼けでアレだ」
 わたわたと挙動不審になって立ち上がる戒。
「どうしたの〜? 何か飲む〜?」
 こういう時は飲む? と優しく森浦が話しかけてくれるのにも、やけに潮風が目に染みてしまった。
 清純派、乙女。
 けして彼女は非モテなわけではない。
 見た目は大変麗しく、性格にだって難があるかと言えばそうでもなく。
 むしろ魅力的と言える、とこの場の誰だって賛同するはずだ。
 ただ、ただちょっと。
 ―――残念な、だけで。
「な、泣いてなんかないんだーー!!」
 がたん、と戒が椅子を立った。
「え、ちょっと待ち、」
 千鶴が、引き止めるのも間に合わず。
 ところで今日の戒は勿論、水着ではない(ここは大事)。
 むしろシックで大人っぽい、と頑張った格好である(とても大事)。
 だがこの乙女、全力で。―――ダッシュ!
「せめてプールにすれば服いたまないのにね〜」
「塩素と潮水、どちらが深刻かと言う話でしょうか」
 森浦とカタリナはのんびりとそんな雑談を交わしている中。
 目指すのは、海!!!

 サンダルの間に、砂が入って。
 潮水が足首までを洗い、更にスカートまでが水を孕んで重い。
 これはこれで気持ちいいなと、何処かの冷静な頭が考えた瞬間。
 ちかり、と。
 ――誰かの、顔が。
 表情や、言い回し、不意に零れる声の色。
 全部が、一瞬だけ胸を占める。
 次の瞬間、ざばああんと立った波しぶきにすべては、洗い流されてしまったけれど。
「このまま泳ぐか…!!」
 ばっしゃばっしゃとクロールでの遠泳に挑戦し始める戒に、こちらもサンダルを脱ぎ捨てもせず追いかけてくる姿一つ。
 華やかな髪を振り乱して、まっすぐ。
「待ってハニィィイ!!ハニーへの愛は不変だからー!!」
 浜辺の中心で、愛を叫ぶ女、凜子。
「ダーリン…! ダーリンは私のダーリンだよな!!」
 そして水の中ひっしと抱き合う二人。


●おんなのこはすてきなものでできている
「可愛い子なのにねぇ…」
 苦笑で見守る千鶴も、グラスを飲み干す。
「可愛いですね」
 其処は迷いなく、カタリナが皆の分を幹事として纏めて支払い。とても、冷静である。
「いこっか〜」
 いつもの通り、のんびりと森浦が誘う。ちょっとそこまで、の気安さで。
「はい、行きましょう!」
 頷いて、観月も髪の毛を整え直す。海に、入る為に。
 走らないけれど、少しばかり早足で。
 潮水に濡れて、大事な友達と抱き合っている、やっぱり愛しい彼女の為に。
「せーの!」
 誰かの掛け声で、戒の名前を一斉に呼ぶ。
 大きく手を振れば、向こうからも手を振りかえされた。


 女子の夜は、始まったばかり。
 女の子は、誰もが素敵なもので出来ている。
 甘い砂糖菓子や、たくさんのきらきらの素敵。
 大好きな人、大事な人、たった一人の恋人。

 そして、愛しい女の子達。

 華よりも麗しき姫君たちは、身を寄せ合い、言葉を囁き合っては笑う。
 時に照れて、時に拗ねて。
 大事な思い出を、分け合って。
 男の子には内緒の、ひみつの夜はこうして――更けていく。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja1267 / 七種 戒 / 女 / 18歳 / インフィルトレイター 】
【ja5119 / カタリナ / 女 / 23歳 / ディバインナイト】
【ja1613 / 宇田川 千鶴 / 女 / 20 / 鬼道忍軍】
【ja5657 / 青木 凛子 / 女 / 18歳 / インフィルトレイター】
【ja0835 / 森浦 萌々佳 / 女 / 18歳 / ディバインナイト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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女子会…! 御用命有難うございました。
多種多様の恋物語、語り形式にしてみましたが皆様のご希望に沿っているでしょうか。
プレイングを見るだけで幸せになる、素敵な物語を有難うございます。
今回は個別にする形式でないかな、と思いましたので(惚気は皆に聞いてほしい! というか各パートが個別に近くなったので)統一となっております。
末永く、お幸せに。あっ、お風邪も召されませんよう…!
常夏のドリームノベル -
青鳥 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年09月19日

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