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『俺がお前でお前が俺で!? 〜七種 戒の場合 』
七種 戒ja1267

●おはよう
 いつもと違うマットレスの柔らかさに一枚だけ掛かった綿毛布――目覚めた場所は男の部屋だった。

「な‥‥っ!?」
 さすがに眠気も吹っ飛んで、七種 戒(ja1267)は飛び起きた。
 膝の上に手繰れている毛布は昨夜自分が被った布団ではなかった。残暑で蹴っ飛ばしたとしても毛布に変わったりはしないはずだ。
 シンプルながら統一感のある部屋は持ち主の趣味の良さを伺わせる。下手するとものぐさな自分より整頓してあるんじゃないか――そんな事を考えつつ髪を掻き揚げた戒は、いつもと違う感触に違和感を覚えた。
 短いのだ。手櫛で這わせた指は、もっと髪に触れていてもおかしくないはずなのに。
「髪‥‥切ったっけ‥‥」
 ほら、よくあるじゃないか。思い切ってばっさり切った後の数日間は、長い頃の感覚が抜けなくて違和感があるなんて。
 いや、記憶を辿ってみたが髪を切った覚えなんてない。それにこの部屋。
「誰の部屋だ‥‥」
 居心地は悪くない、だけど自分の部屋ではない。
 とにかく起きよう。ベッドの上であれこれ考えていた戒は起き上がろうとして――掌が触れた感触に慄いた。

 胸が、ない。
 ついでに言えば裸で寝ていた。触れた素肌はまな板というよりは胸板というのが正確で。
「お、とこ‥‥!?」
 ここで初めて、戒は自分が男性体型になった事に気がついた!

●アイツのカラダ
 落ち着け、落ち着いて事実確認しよう私!
 戒は毛布を抱えたままベッドから降りた。おそるおそる毛布を外す――大丈夫、下は穿いていた。それから二の腕や腹筋をぺちぺちと叩いてみる。意外といい身体付きをしている。
 部屋に姿見があるのを見つけて、戒は下着一枚のままで近付いたのだが、そこに映っていたのは見慣れた悪友の姿だった。
「アラン‥‥?」
 悪友の姿に怪訝な表情を浮かべると、鏡の中のアラン・カートライト(ja8773)も戒同様に怪訝な顔を浮かべた。
 手を振ってみる。振り返してきた。
 ちょっと悪乗りしてビルダー風のポージングをしてみると、やっぱりアランもポージングする――という事は。
「あ、アランだとー!?」
 戒の絶叫と共に、鏡の中のアランも口をぱくぱくさせている――

 驚きの対面から暫し後。
 立ち直った戒は普段の調子を取り戻し、不敵な笑みを浮かべてクローゼットをかき回していた。
「さすが、いい服を持っているな」
 適当に服を見繕って着てみる。本人のだから当然サイズはピッタリだ。お誂え向きにスーツの内ポケットには財布まで入っている。
 財布からブラックカードをつまみ出し、戒はにやりと笑った。
 今の戒はアランの姿だ。彼の体つきで彼の財布まで持っている。つまり、今なら戒の行動は全てアラン・カートライトの行動になるという事。しかも成人の彼ならば未成年の戒が入れない場所、できない行動さえ可能と来たものだ。
 財布にカードを入れなおし、戒は達観した風に独りごちた。
「あいつは細かい事で文句言うような奴じゃないし」
 そう、ブラックカード所持者は器が大きくなくては! 都合よく結論付けて、戒はアランの姿で外へと飛び出した。

 スーツの前を開けて両手はスラックスのポケットに。
 ちょっぴり肩をいからせて入った先は、未成年禁制の遊技場、パチンコ屋。警備のおっさんの目を遣り過ごして、戒は改めて自分が成人の姿をしている事を自覚した。
「おおっしゃぁ!」
 初めてパチンコ機の前に座る。確率とか何とか知ったこっちゃないので適当だ。当然大負けしたけれど、懐はブラックカード持ちのアランなので痛くも痒くもない。
(旨いのかな)
 昼間っから賭博に身銭を賭ける駄目な大人共が吐く煙に誘発されて、台を離れた戒は自販機で適当な銘柄の煙草を買った。アランの財布があるので煙草購入もお手の物だ。
「‥‥‥‥‥‥けほ、けほっ」
 身体は覚えていても、見よう見真似で吸うには難しい代物のようだ。格好良く吸えるようになるまでは女の子の前で喫煙するのは止めておこう。でないと折角ナンパしても振られてしまいそうだし。
 ――そう、ナンパ。
 元々可愛い女の子は大好きだが、この姿なら更に幅広い女の子と親しくなれそうだ。
 吸いかけの煙草を踏み消し、戒はにんまり笑った。
「さーって、綺麗なおねーちゃんを探しに行くか!」

 綺麗なおねーちゃんと大人な付き合いをしたいなら雰囲気は大事だと思う。例えば程よく薄暗くてシックなBGMが流れているような――
 ドラマでありがちなステレオタイプの発想で、戒はバーに行ってみた。
「‥‥お、発見♪」
 生憎、カウンターで一人寂しく呑んでいる失恋したばかりの可愛い女の子はいなかったが、最近はバーでも女子会は珍しくないようだ。早速女性ばかりの一テーブルに紛れ込んで、ごく自然に話に加わった。
「へぇ、この春入社の同期会をねぇ‥‥」
 年齢的にはアランとそう変わらない女子達と和やかに呑んで、呑み代は持ってやって。機嫌よく店を出て行った彼女らを見送った戒は大層なお人好しの好青年になっていた。
(しまった! お持ち帰りし損ねた!)
 誰か一人と二次会をせずとも、せめて連絡先くらいは聞いておけば良かったと後悔するも後の祭り。
 カウンターに移動した戒が一人ヤケ酒を煽っていた、その時――バーに天使が舞い降りた!

●俺がお前でお前が俺で!?
 なんという清らかさだろう。清純派乙女系可憐美人とは彼女の為にある言葉に違いない。
 カウンターで飲んだくれていた金髪の青年は思わず姿勢を正した。できるだけ好感度高めになるよう緩んだタイを締め直す。
(アランは無駄なくらい顔がいいんだから大丈夫、あとは乙女好みの紳士な姿勢で‥‥)
 こほんと戒はひとつ咳払いしてから、自身に出せる精一杯の美声で声を掛けてみた。

「お嬢さん、お一人ですか。もしよろしければ、カウンターへご案内しましょう」

 その声を聞いた乙女は、一瞬目を見開いて――にやりと笑った。
「よう、イケメン‥‥私と一緒に楽しい事、しようか?」
 そう言って乙女は、顕わな胸元を腕に押し付けて来る。
 乙女の肩から見覚えのある白ヤモリがするすると青年へ移動して来たもので、アランの姿をした戒は異様に積極的な娘の顔を覗き込み――驚愕した。
「もりーさん、と‥‥わ、たし‥‥!?」
「あーはっはっは、やっと気付いたか俺! つーか、その様子じゃやっぱ中身は戒だな?」
 ナンパの駆け引きから一変、旧友の再会とばかりに腕組み合ってカウンター席へ移動した二人は、目覚めからの一部始終を語り合って大笑いした。
 彼らに恋愛感情はない。どちらかと言えば同性の悪友に近い間柄なものだから、自分の身体が面白おかしく使われた話にも興味深く聞いている。
「しかし‥‥さすが私。溢れる清純オーラは隠し切れないんだなうむ」
「惚れたか? 何なら付き合ってやってもいいぜ?」
 悪乗りするアランの言葉に、戒は渋顔で応える。
「きみの姿で口説くのは遠慮しよう‥‥というか、その口説きスキル今すぐ私に寄越せ」
「やなこった」
 二人肩を寄せ合いカウンター席で盛り上がる後姿は仲睦まじく、性別を越えた友情のようなものを感じさせた。
 一通り話が終わった辺りで、戒状態のアランは立ち上がって腕を伸ばして言った。
「紳士は淑女をエスコートするモンだぜ、ほら、早くエスコートしてくれよ」
「ああ、今だけはエスコートしてやろう。だが少し待ってくれ‥‥呑み過ぎた」
 元の身体が強いのだろう、酔いは大して感じなかったが生理現象だけは如何ともしがたい。
 アラン姿の戒が、ちょいと失礼と席を立つ。バーを出る前にトイレへ行こうとした青年を、女は慌てて引きとめた。
「待て! 俺を変態にするんじゃねえ! そっちは女子トイレだ!」

 バーを出た二人は、倒錯的な状況のまま戒の買い物に向かった。
「誕生日が近いな、俺がプレゼントしてやろう」
「カードを切るのは私なのだが」
 貴金属店で戒の誕生石のエメラルドを見繕う戒姿のアラン。贈られる側の戒がアラン姿でブラックカードを使うという、何ともややこしい状況だ。
「うむ。似合うぞ、私」
 服屋では本来の戒が着たい服を選んで戒姿のアランに当ててみる。試着しようかと言うのを止めて、アラン姿の戒は言った。
「いや、それには及ばない。私のサイズは私が一番よく知っている」
「その台詞、俺の格好で言っても説得力ねえんだけど」
 一見デートのような買い物を済ませて、二人は腹を満たしに寿司屋へ。勿論、ここの払いもアランのブラックカードである。
 回ってない寿司屋だと目を輝かせたアラン姿の戒、一度やってみたかったんだと全部のネタを持って来させて大将のお任せで手当たり次第に食べ始めた。
「そうやってるのを見てると、俺って結構嫌味だな」
 成金みたいだと苦笑して、戒姿のアランは適当に見繕って貰った寿司を摘んでいる。まあ、親友が喜んでいるのだから構わないか。
 ところで、と戒姿のアランは友に「これからどうする」と問うた。
「これから?」
「俺ら入れ替わってんだろ。どうやったら元に戻るか、知ってるか?」
 あっけらかんと「知らん」と言い放った相棒に、アランは「やっぱりな‥‥」頬杖付いて考え始めた。
 熱いお茶を啜りながらアラン姿の戒がのほほんと言う。
「そのうち元に戻るのではないか?」
「そのうちじゃ遅えんだよ! このままだと俺は酒も煙草もお預けだ」
 未成年の戒の身体で飲酒喫煙はできない。アランなりの気遣いに戒も真顔で思案し始めた。
 まず状況を整理してみよう。
 朝、目覚めたら精神だけが入れ替わっていた。前日はいつも通り、奇妙な夢を見た訳でもない――

 ――夢?

「これは夢なのではないか?」
「まさかの夢オチ!?」
 くっだらねーとガリをばりばり食べ始めた戒姿のアランに、戒は「寝て起きたら元に戻っているかもしれない」と仮説を立てて言った。
「今夜は互いの家に戻って寝よう。私はアランの、アランは私の家へ帰ってくれ」
「それで寝て覚めたら精神が入れ替わっているってか? まあ、やってみっか」
 結局それで相談は纏まって、二人は身体の家がある方へ帰宅したのだが。

 それから二人がどうなったかは、二人だけしかわからない。
 もしかすると、撃退士や教師陣の前にいる七種 戒は、アラン・カートライトかもしれないのだ――



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja1267 / 七種 戒 / 女 / 18 / アラン・カートライトの中の人 】
【 ja8773 / アラン・カートライト / 男 / 24 / 七種 戒の中の人 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初めまして、ようこそチャレンジャー!
 この度は癖のあるサンプルにご申請ありがとうございました! 周利でございます。
 キャラコミュでお姿を拝見した事があるためか、初めましてな気がしない不思議な感覚です。戒さんは『美人で男前な性格のお姉さん』という印象を抱かせていただいておりまして‥‥ちょっと豪快にヤンチャしていただきましたが、如何でしたでしょうか?

 寝起きのシーンを入れるにあたり、お二方はどんな部屋どんな夜具でお休みなのかと勝手に想像させていただきました。
 戒さんの部屋は和室、アランさんの部屋は洋室を想定しています。ですので戒さんちは布団でアランさんちはベッドなのです。更に、互いの部屋は知らないものと想定しております。もし予想が外れていましたら、遠慮なくお申し付けくださいね。
常夏のドリームノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年09月21日

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