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『俺がお前でお前が俺で!? 〜アラン・カートライトの場合 』
アラン・カートライトja8773

●おはよう
 朝、起きたら女の身体になっていた。
 細くしなやかな腕、まろやかな胸元に掛かる黒の髪。

(‥‥いや待て。俺は金髪だし髪もこんなに長くはないし、それに何だこの胸は)
 アラン・カートライト(ja8773)は、とりあえず両手を胸元にあてがってみた。
 むにむに。弾力と触感、触れられている感覚が同時に脳内に伝達される。
(‥‥つー事は、俺の身体だという事か)
 冷静に、アランは分析した。
 見た事がない部屋だ。日本の様式で建てられた部屋だと一目で判る。生活用品の種類から女の部屋、おそらくはこの身体の主の部屋だと思われた。
 幽体離脱でもしちまったかな、ひとまず憑依してしまった女の顔を拝んでやろう。
 女の部屋だ、手鏡のひとつもあろうと鞄を開ける。この鞄、見覚えがある気がするのだが――
(マジかよ‥‥)

 彼は――異性にして悪友の、七種 戒(ja1267)になってしまっていたのだ。

●アイツのカラダ
 改めて全身をチェックしてみる。
 艶やかな黒の髪に滑らかな肌、指先までしなやかな腕や脚、そして柔らかな胸。
「此奴良い身体してるんだよなあ」
 むにむにしながら独りごちる。尚、触覚はアラン本人なので妙な事にはなりはしない。
 鏡台の覆いを外して、アランは下着姿のまま戒の身体をじっくりと、それはもうじっくりと観察した。しかし機能重視の下着姿ではいまいち色気に欠けて、盛り上がらない。
「‥‥本当、色々と惜しい奴」
 これでセクシー下着でも着ていれば目の保養にもなるだろうにと思いつつ、出かけるべく着替えを探し始めた。

 ――暫し後。
「予想はしてたけどなあ‥‥服、買えよ」
 戒は別に着たきり雀ではないのだが、単にアラン好みの華美さはない。仕方ねえかと適当に着込んだアランは戒の財布を手にした。
(済まねえ、俺が使った金は後で必ず返す)
 律儀に心で誓い、いざ出かけようと部屋を出ようとしたアランの視線の先に白いものが動いた。
「あ? もりーだっけ? お前も来るか?」
 戒が常に肩に乗せている白ヤモリの守屋さんに話しかけた。
 守屋さんは彼の顔を見上げている。守屋さんに彼の言葉が通じているのか、それ以前に戒ではないと認識しているかどうかも定かではないが、やがて守屋さんはくるりと黒い瞳を動かして腕を伝ってするすると肩の上へと収まった。
 さて行くか。まずは、この身を包む極上のセクシー衣装を求めて、高級ブティックだ。

 アランの立ち居振る舞いは慣れたものだった。
 戒の姿で店に入ると値段は問わずに衣装を出させ、中で最も戒のボディラインを際立たせるデザインの衣装を選んで購入する。その足でデパートへ向かい、コスメフロアのエステルームに通して貰って――暫し。
「ありがとう」
 肌を整え、映えるメイクを施して貰った戒の姿は、艶やかな大人の女性の顔になっていた。
 まるで、ひとりマイフェアレディである。

 漸く残念美女から脱せたアランは意気揚々と繁華街に向かって歩いて行った。
 勿論、ナンパしたりナンパされたりが目的だ。蛹から孵ったばかりの蝶を見る人々の視線が心地良い。時折流し目などくれてやりながら、アランは悠々と街を歩いてゆく。
「ねー彼女、どこ行くのォ?」
「失せろカス、お前が相手に出来る女だと思ったら大間違いだ」
 眼鏡に叶わぬ相手はヤンキー口調で追い払い、好みの少年を見つければちょっかいを出してみる。
「Hallo、お姉さんとイイ事しない?」
「あ、あの‥‥僕はっ、その、あの‥‥」
「なーんてね、冗談よ、じょ・う・だ・ん☆」
 からかって歩くのが面白いのであって本格的に口説き落とすつもりはない。外見はともかく中身は男のアランなのだ。
 いい加減、初心な青少年達をからかって歩くのにも飽きて来た頃、アランは自分の手元が寂しいのに気が付いた。
(‥‥ああ、今日は煙草吸ってねえ)
 彼はヘビースモーカーだ。煙草を指に挟んでいない感覚に気付いた途端、紫煙が懐かしくなってきたのだが、今は未成年の戒になっている身、喫煙する訳にはいかない。
 しかし、我慢すればするほど気になってくるもので。
(バーでも行ってみるか)
 この姿では、ノンアルコールカクテルしか頼めそうにないけれど。
 アランは行きつけのバーに行き、そして――

●俺がお前でお前が俺で!?
 なんという清らかさだろう。清純派乙女系可憐美人とは彼女の為にある言葉に違いない。
 カウンターで飲んだくれていた金髪の青年は思わず姿勢を正した。できるだけ好感度高めになるよう緩んだタイを締め直す。
(アランは無駄なくらい顔がいいんだから大丈夫、あとは乙女好みの紳士な姿勢で‥‥)
 こほんと戒はひとつ咳払いしてから、自身に出せる精一杯の美声で声を掛けてみた。

「お嬢さん、お一人ですか。もしよろしければ、カウンターへご案内しましょう」

 その声を聞いた乙女は、一瞬目を見開いて――にやりと笑った。
「よう、イケメン‥‥私と一緒に楽しい事、しようか?」
 そう言って乙女は、顕わな胸元を腕に押し付けて来る。
 乙女の肩から見覚えのある白ヤモリがするすると青年へ移動して来たもので、アランの姿をした戒は異様に積極的な娘の顔を覗き込み――驚愕した。
「もりーさん、と‥‥わ、たし‥‥!?」
「あーはっはっは、やっと気付いたか俺! つーか、その様子じゃやっぱ中身は戒だな?」
 ナンパの駆け引きから一変、旧友の再会とばかりに腕組み合ってカウンター席へ移動した二人は、目覚めからの一部始終を語り合って大笑いした。
 彼らに恋愛感情はない。どちらかと言えば同性の悪友に近い間柄なものだから、自分の身体が面白おかしく使われた話にも興味深く聞いている。
「しかし‥‥さすが私。溢れる清純オーラは隠し切れないんだなうむ」
「惚れたか? 何なら付き合ってやってもいいぜ?」
 悪乗りするアランの言葉に、戒は渋顔で応える。
「きみの姿で口説くのは遠慮しよう‥‥というか、その口説きスキル今すぐ私に寄越せ」
「やなこった」
 二人肩を寄せ合いカウンター席で盛り上がる後姿は仲睦まじく、性別を越えた友情のようなものを感じさせた。
 一通り話が終わった辺りで、戒状態のアランは立ち上がって腕を伸ばして言った。
「紳士は淑女をエスコートするモンだぜ、ほら、早くエスコートしてくれよ」
「ああ、今だけはエスコートしてやろう。だが少し待ってくれ‥‥呑み過ぎた」
 元の身体が強いのだろう、酔いは大して感じなかったが生理現象だけは如何ともしがたい。
 アラン姿の戒が、ちょいと失礼と席を立つ。バーを出る前にトイレへ行こうとした青年を、女は慌てて引きとめた。
「待て! 俺を変態にするんじゃねえ! そっちは女子トイレだ!」

 バーを出た二人は、倒錯的な状況のまま戒の買い物に向かった。
「誕生日が近いな、俺がプレゼントしてやろう」
「カードを切るのは私なのだが」
 貴金属店で戒の誕生石のエメラルドを見繕う戒姿のアラン。贈られる側の戒がアラン姿でブラックカードを使うという、何ともややこしい状況だ。
「うむ。似合うぞ、私」
 服屋では本来の戒が着たい服を選んで戒姿のアランに当ててみる。試着しようかと言うのを止めて、アラン姿の戒は言った。
「いや、それには及ばない。私のサイズは私が一番よく知っている」
「その台詞、俺の格好で言っても説得力ねえんだけど」
 一見デートのような買い物を済ませて、二人は腹を満たしに寿司屋へ。勿論、ここの払いもアランのブラックカードである。
 回ってない寿司屋だと目を輝かせたアラン姿の戒、一度やってみたかったんだと全部のネタを持って来させて大将のお任せで手当たり次第に食べ始めた。
「そうやってるのを見てると、俺って結構嫌味だな」
 成金みたいだと苦笑して、戒姿のアランは適当に見繕って貰った寿司を摘んでいる。まあ、親友が喜んでいるのだから構わないか。
 ところで、と戒姿のアランは友に「これからどうする」と問うた。
「これから?」
「俺ら入れ替わってんだろ。どうやったら元に戻るか、知ってるか?」
 あっけらかんと「知らん」と言い放った相棒に、アランは「やっぱりな‥‥」頬杖付いて考え始めた。
 熱いお茶を啜りながらアラン姿の戒がのほほんと言う。
「そのうち元に戻るのではないか?」
「そのうちじゃ遅えんだよ! このままだと俺は酒も煙草もお預けだ」
 未成年の戒の身体で飲酒喫煙はできない。アランなりの気遣いに戒も真顔で思案し始めた。
 まず状況を整理してみよう。
 朝、目覚めたら精神だけが入れ替わっていた。前日はいつも通り、奇妙な夢を見た訳でもない――

 ――夢?

「これは夢なのではないか?」
「まさかの夢オチ!?」
 くっだらねーとガリをばりばり食べ始めた戒姿のアランに、戒は「寝て起きたら元に戻っているかもしれない」と仮説を立てて言った。
「今夜は互いの家に戻って寝よう。私はアランの、アランは私の家へ帰ってくれ」
「それで寝て覚めたら精神が入れ替わっているってか? まあ、やってみっか」
 結局それで相談は纏まって、二人は身体の家がある方へ帰宅したのだが。

 それから二人がどうなったかは、二人だけしかわからない。
 もしかすると、撃退士や教師陣の前にいるアラン・カートライトは、七種 戒かもしれないのだ――



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja8773 / アラン・カートライト / 男 / 24 / 七種 戒の中の人 】
【 ja1267 / 七種 戒 / 女 / 18 / アラン・カートライトの中の人 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初めまして! ご申請ありがとうございます、チャレンジャーさん!
 周利でございます。この度は相方さんとの入れ替わりノベルのご用命、ありがとうございました。
 成人男性がこうしたシチュエーションに遭遇した場合、どんな反応をされるのでしょうね?
 アランさんはきっと優しい人、だから悪ふざけはしても戒さん(身体含めて)を傷付ける事はしない紳士的な人だと解釈して描写させていただきました。

 寝起きのシーンを入れるにあたり、お二方はどんな部屋どんな夜具でお休みなのかと勝手に想像させていただきました。
 戒さんの部屋は和室、アランさんの部屋は洋室を想定しています。ですので戒さんちは布団でアランさんちはベッドなのです。更に、互いの部屋は知らないものと想定しております。もし予想が外れていましたら、遠慮なくお申し付けくださいね。
常夏のドリームノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年09月21日

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