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『蛍 〜 見守る月と星々の歌 〜 』
カタリナja5119



 蛍を見に行かない?
 そう声をかけられて、カタリナ(ja5119)はフレイヤ(ja0715)を振り返った。
「蛍祭り?」
「ん。まぁ、うん、そういうやつ。この前依頼に行った時にね、駅前でチラシ配られてたから、もらってきたのよ」
 ドヤ顔でチラシを見せられた。
 八枚ほど。
 びらっと扇状に見せられたそれに視線を落とし、カタリナは開きかけた口をぱたんと閉じる。
 何故八枚も貰ったの、と言いかけて、そのうちの一枚がやたらとヨレているのに気が付いたのだ。
 両端のモミ具合といい、皺の入り方といい、最初の頃のデートで映画のチラシを片手にさぁどう誘おうか誘ってもらおうかと手に汗握っていたとある日を思い出した。
 そっと目の前の少女を密かに窺うと、いつもより気楽そうな風を装いながら視線を落ち着かなげに彷徨わせている。
 よく見なくとも表情だって地味に硬い。額にうっすら見えるのは汗だろうか。
「……皆にはもう声をかけました?」
「えっ。あ、うん。いや、これから、かけるところでね!?」
 そうだろうとも。
 頷いて、カタリナは即座に扇状のチラシを全部浚った。「うぇ!?」と変声をあげたフレイヤににっこりと笑いかけ、スマホを取り出しながら声をかける。
「それで、誰と誰に声をかける予定です? 開催は明日ですから、今日中に連絡を回しましょう。二人で連絡を回せば、あっという間ですよ」
 フレイヤは一瞬目を丸くしていたが、すぐに大きく破顔して頷いた。



 連絡を回した六人のうち、五人は即座に乗ってきた。
 残る一人は丁度依頼の日と重なっていたため即答できず、けれどチラシを受け取って発った後に、やや遅れながらも駆けつけてくれた。
「んふふー」
 祭会場。その一角。
 立ち並ぶ屋台を冷やかして歩きながら、カタリナは嬉しげな声を聞いて隣を見た。
 リンゴ飴をしょりしょりと囓りながら、フレイヤがたいへんご満悦な顔をしている。言葉にこそ出していないが、嬉しい、という感情がダダ漏れだった。
(可愛いなぁ)
 思わずこちらも微笑んでしまう。
 ちなみにリンゴ飴は一緒に歩く百々清世(ja3082)の奢りであるらしい。
 その清世はといえば、依頼を終えて合流した久遠栄(ja2400)と一緒に、若杉英斗(ja4230)の大盛りお好み焼きを横から啄みまくっていた。
「なたねえ! これ美味しいよー」
 なんとなく微笑ましく思って三人を眺めていると、後ろの方で青空・アルベール(ja0732)の声が聞こえてきた。
 そちらを見やれば、自然に浴衣を着こなしている青空が七種戒(ja1267)にたこ焼きの器を渡しているところ。
「お。さんくすなー!」
 受け取った戒、頬を緩めながら美味しそうに頬張りはじめた。
 ……なにか大変可愛らしい。
 思わず三人の紳士淑女が反応した。
「お好み焼き、半分あげるよん」
 嗚呼そのお好み焼きの半分は英斗の涙で出来ている。
 笑いながら差し出す清世の向こうで、英斗が苦笑しつつ青空と一緒にチョコバナナの屋台へと向かって行った。
 食べるときは是非先っぽからでお願いします。
「たまご焼き買ったから、摘んでいいわよ」
 今速攻で買って来たよね? 出来たてほかほかのたまご焼き(という名の卵形ホットケーキ)を差し出すフレイヤに、つっこみを懸命に堪えてカタリナも戒に申し出た。
「戒。ダブルまででしたらアイスもあげますよ」
「……清にぃ、よしこ、リナさん。なんで食べ物を持ってくる……?」
 流石にオカシイと思ったのだろう。戒が不思議そうに首を傾げる。
 でも、可愛かったから、だなんてちょっと言いにくい。どうしようかと迷っているとフレイヤが胸を張って言った。
「もやし生活じゃ力でないでしょ?」
 戒がショックを受けた顔で項垂れた。
 しかし受け取った食べ物はもすもすとしっかり食べている。
 そういうところがまた、なんとも言えず可愛らしかった。


 夏の祭り、と言えば、その正装はなんと言っても浴衣だろう。
 フレイヤの青薔薇の浴衣は彼女の金色の髪を引き立て、戒の白い淑やかな浴衣は艶やかな黒髪を引き立てる。
 銀髪も美しいギィネシアヌ(ja5565)の白地の浴衣には、彼女の化身の如き銀色の蛇がちらりちらりと月の光を放っていた。
 カタリナの衣装は落ち着いた緑の浴衣。
 最近の流行と店員に勧められた派手めなものは断り、一つ一つ丹念にチェックして仕上がりの丁寧なそれを着ることにした。
 わりと様々な色で溢れている浴衣だが、緑という色は珍しい。柄は藤と撫子。濃淡でグラデーションをつけた紫と藍の花が淡い緑の下地に動きをつくっていた。カタリナの涼やかな美貌と相まって、ひどく品の良い一品となっている。
「待って、ネアちゃん。襟元が」
 ちょうど目にとまったギィネシアヌの襟元を見て、カタリナは声をあげた。
 浴衣というのは着崩れしやすい服でもある。
 その都度修正をかけていかないと、すぐに見苦しく乱れてしまうため、カタリナは自身と友人の裾や合わせ、襟元を時折チェックしてはそっと直しを入れていた。
「む。ありがとうだ!」
「あとお口の横におみやげが」
 ハンカチでそっと拭うと、青のりがヤァと挨拶した。どうやら焼きそばからのおみやげであったらしい。
「ぅむむ。つけっぱなしであったかーっ」
「みんな似たようなものですけどね」
 笑って指し示す男性陣は、口の横にソースがついてたり下唇に青のりが残っていたりと、あちこちにやんちゃな化粧をほどこされていた。
「意外と残るのよね。気を付けないと」
 そう呟くフレイヤの舌はかき氷のハワイアンブルーで青くなっていたりする。
 その横、イチゴシロップの悪戯で赤色マシマシになった戒の唇が、そういえば、と呟いた。
「同じイチゴ味食べた若様とさかえんの唇がなー……」
「……美味しそうな色になってますね」
「いつのまにか紅塗っとると思ったら、かき氷のせいか……」
 嘯くフレイヤの唇が地味に赤味増してるのは、最初の方に食べたリンゴ飴のせいである。
 フルーティーリップな男二人を眺めつつ、女性四人はほんのりと温かい微笑。
 あっ。青空と清世もかき氷屋に行ったぞ!
 しかも購入が見るも鮮やかなグレープだ!
「……水泳後の唇が二人か……」
 ぼそりとギィネシアヌが呟く。
 屋台の食べ物はオート化粧機能搭載であった。



 ひとしきり食欲を満たすと、八人は高瀬舟へと乗り込んだ。
 かつて林業が盛んだった頃、川は荷物を載せた高瀬舟が何艘も行き交う重要な運搬路であったという。
 時を経て今は観光客を幻想へと誘う舟は、賑やかな面々を乗せてスイと川向こうへ足を進める。
 と、即座にハプニングが発生した。
「おおー。揺れる! 揺れる!」
「ふははは! 揺れ揺れである!」
 なにやら前でやっていた戒とギィネシアヌの動きにあわせて、出発したばかりの舟が大きく揺れたのである。
「って揺らさないで! ゆっくり見えないでしょう?」
 不可抗力部分は致し方ないとして、後のゆっさゆっさは見過ごせない。仕方なくメッすると、二人が揃って首をすくめた。悪戯っ子そのものの動きに思わず顔が緩みそうになる。
 先頭で顔を輝かせている栄や青空は、むしろ揺れそのものも楽しんでいたようだ。
(ふふ)
 思わず零れた笑みをそっと手で隠して、カタリナは水面を舞う蛍へと視線を逃がした。
(ちょっと……にも、見せてあげたかったかな)
 ふとここに居ない恋人の姿が浮かんだが、表情には出さずにそっと心の中に仕舞う。かわりに、沢山の思い出を語ろうと決めた。
 群れ飛ぶ蛍達が間近に迫った後、前にいたギィネシアヌが、岸辺で捕獲した迷子蛍をそっと放す。
 人の手から離れた蛍が、闇に緑の光道を描くのをなんとはなしに目で追った。
「蛍って、一匹一匹は小さいのに、群れで飛ぶと迫力だな……」
 小さな迷子の光が大きな光の中に消えるのを見送って、隣の英斗が目を眇めるようにして呟く。
 カタリナも同じ群れの光を目で追う。
「人もきっと同じですよね。一人一人は小さいし、放つ光も仄かだけれど、皆でいることであんな風に、周り中を照らしてしまえるほどの光になりますから」
 天魔がもたらす悪夢を破る、人類の希望。
 アウルを持たない人々からそう称されることもある撃退士達。
 けれど当人である自分達は知っている。
 その自分達の力もまた、一人では小さく、万全ではないことを。
 互いに支え、知恵を合わせ、共に補助しあいながら一つ一つの事件に手を尽くす。
 その中で培われたものは別の依頼で活かされ、結ばれた縁は広がり、そうしてどんどん出来なかったことが出来るようになっていく。
 例えば、凶悪なディアボロの討伐。
 例えば、今まで逃げるしかなかったヴァニタスとの戦闘。
 例えば、強大かつ無敵に思えた使徒や悪魔の撃破。
 そのどれもが、一人では成し得なかったこと。
 寄せられる依頼は多く、中には命も危ぶまれる危険なものもあるけれど、臆することなく向かっていけるのも、決して一人では無いから。
「生き物っていうのは、結局、独りじゃあ生きられないように出来てるんだと、おにーさんは思うわけ」
 ギィネシアヌの向こう側から、清世がこちらを振り返って言う。
「清兄ちゃんはさびしんぼだった」
「おー。独りはやだなー」
「私も独りはいやだな。皆と一緒がいいと思う!」
 ねー、と清世と青空が言い合うのに、カタリナは微笑んだ。
 誰かといるからこそ、増すものは多い。
 時にそれは刃のような痛みになることもあるだろうけれど。前を向いて歩いていく限り、その痛みもまた、自分を支える何かになるのだろう。




 川岸に涼しい風が吹いた。
「せんぱいが転がってる」
「栄さん、寝てますね」
 盆踊りを経て後、仲良く休憩用の飲み物を買ってきた青空と英斗が、芝生に転がる栄を見つけて目を丸くした。
 先に戻っていた他の面々が「しー」と唇に指を当てる。
「依頼帰りだったからねー」
「疲れてたんだろうね。……無理させちゃったかな……」
「無理させた、っていうのは違う感じだと思う。せんぱい楽しんでたし、黄昏がしょんぼりすると、せんぱいもしょんぼりする。みんな楽しかった! 楽しんだ。ね?」
「ん」
 くしゃりと笑って、フレイヤが籤であてたタオルケットを袋から出す。
「いいの当てたねー」
「萌え絵だけどな!」
 青年の体にかけられるロリロリ超萌え絵。シュールである。
「さかえん、エエ顔で寝むっとるな」
「肉、って書いちゃダメ?」
「む。魅惑的な提案だが、駄目な感じである」
「頬に渦巻きとどっちが非道だろうか……」
「どっちもどっちだと思いますけど。せめて口紅塗るぐらいにしてあげましょう」
「わー! リナさんちょー待って!」
「冗談ですよ?」
 慌てて腰を浮かす戒に微笑んで、カタリナは栄の髪にからまった芝生の一部を取り除く。
「風邪を引く前には起こしてあげましょうね。明日もきっと、依頼を見に教室に行くんでしょうから」
 救いを求める人を一人でも多く救うために。
「……明日もいい日だといいねー」
「だな」
「ねー」
 青空と英斗が空を見上げる。
 何時の間にか雲も退いていたらしい。日中の雨が幻だったような星空の中、大きな月が白光のベールを敷いてこちらを見下ろしている。
「明日は晴れるといいよな」
「うん」
 同じ月を見上げるギィネシアヌ達の声を聞きながら、ふと思い出したような神妙な顔で清世が呟いた。
「ところで、気になったことがあるんだけどなー……」
「なに?」
 思わず顔を向けると、清世は神妙な顔のままで自分達が座る芝生を見下ろして言った。
「芝生って……確か、水、そんなに早く乾かない、よな?」
 全員が押し黙った。
 思わず自身の下を見る。
 ほんのわずかな空白。
 そうして一瞬で立ち上がった。

「「「「「「「あーッ!!」」」」」」」

 夜に響く七重奏。
 それを目覚ましがわりに飛び起きる栄。


 煌めく星々と笑いながら、月がそっと彼等を見守っていた。






登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0715/フレイヤ/女/20才/ダアト】
【ja0732/青空・アルベール/男/16才/インフィルトレイター】
【ja1267/七種 戒/女/18才/インフィルトレイター】
【ja2400/久遠 栄/男/19才/インフィルトレイター】
【ja3082/百々 清世/男/21才/インフィルトレイター】
【ja4230/若杉 英斗/男/17才/ディバインナイト】
【ja5119/カタリナ/女/23才/ディバインナイト】
【ja5565/ギィネシアヌ/女/12才/インフィルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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大変お待たせいたしまして申し訳ありません orz
綴らせてくださり、ありがとうございます^^

どうか皆様の行く先に、いつも光がありますように……
常夏のドリームノベル -
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エリュシオン
2012年09月27日

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