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『碧色夏旅/最高の一日を 』
アラン・カートライトja8773


●碧色夏旅/犬と一緒の
「常夏リゾートの島へ、モニターのご案内」
モニター旅行の誘いは、アラン・カートライトの元へと舞い込む。
常夏の海、白い砂。
思い浮かぶのは、幾つかの顔。
誰と、何処で何をしよう?
ひら、とカードを指先ではためかせて最後に思い浮かんだのは、友人の一人。
となれば、早速コールを。
 ワンコールで飛びつくように出る雰囲気まで伝わって、まるで犬のようだと人知れず笑ってしまう。
 彼にとって、電話の向こうの少女は大事な友人。
 真っ直ぐに駆け寄ってくる様や、全力で何もかもを楽しむ姿は正しくが犬で。
 ワンワン、なんて呼ぶのは彼なりの愛情の表れだ。
 朝日を見る吸血鬼の気持ちがなんとなくわかって、柔らかく目を細める。
「君と一緒に出かけるの、もしかして初めてじゃないかな!」
 弾む声は、一緒に常夏の太陽まで連れてきたみたいな。
 この少女が、世界を全部抱き締めるよう駆け回るなら、リードなどいらないとも思う。
 どうかどうか、何処までも。

 いつ彼女が振り返ったって、涼しげな顔で手を振って応えられるよう振り回される覚悟は出来ている。
 とびきりの一日を、親愛なる君と。
 鮮やかな夏の日に出かけよう。


●海の音
 船がついた途端、転がるように駆け出すのは、大狗。
 何処までも、空はクリアに眩しいばかりの青色で、港から海岸までは真っ白い砂が見えている。
 寄せては返す波が泡立ち、きらきらと輝いて。
 こんな場所で、走り出さずに居られる彼女ではなかった。
「ねぇ、海がすっごく綺麗だよ!」
 少し走ってから、息も切らさずに振り返る。
 後ろでアランがなんだかんだ言いながら、追いかけて来てくれるのは分かっているのだ。
 喫煙所で一本だけ、という煙草も、この先大狗と居る時に吸わないでいてくれるための吸い溜めの時間なんだろうとも知っていて。
 だから、遠慮なく彼女は走ってもいい。
「もっと向こうまで行くのだ!!」
「おい、余りはしゃぐな。ワンワン、待てハウス」
 大股で後を追ってきたアランはぴっと指を一本立てて、ステイ&カムバック宣言。
「俺ってば犬じゃないぜ!」
 いつものことながら繰り返すも、彼が近づいてくると同時に不意に腕の重みがふっと軽くなる。
「レディの手には重い荷物だろう? 宿に先に運んで貰っとくな」
 こういう時の彼は、とても親切で――なんというか。
「―――君ってば、本当に」
 言いかけた言葉は、ウィンクひとつで先を越される。
「紳士だからな? さあ、レディ」
 大きな歩調が数歩を進めて、肩を並べ。
「いいや、お姫様。最高の一日にしてやるよ」
 整った如何にも白色人種の風貌に、見事な金の髪。
 通った鼻筋、鮮やかな赤い目は白い肌には際立つもの。
 リゾートである分、多少カジュアルではあるが胸元を緩めたシャツは、仕立ての良い有名ブランドのもの。
 見た目ばかりなら彼は通りすがりの女の子が誰しも振り返る程には眉目秀麗で。
 そんな彼が少しばかり気障な仕草で差し出す手を、迷わず大狗はつかんで引っ張る。
「海に行こうよ! すっごく青くて、きらきらしてる。君と一緒に見たいのだ!」
 きっと彼女が、宝物を見つけたら埋めたりして隠したりなんかできないだろう。
 綺麗なものを、素敵なものを、一緒に分け合いたくて仕方ないと、抱えて帰ってくる様子が想像できてしまい、アランは笑って引かれる侭に。
「よしよし、落ち着けワンワン」
 言いながらも、アランはだから止めはしない。
 彼女が行きたい場所に、連れて行きたいなら足の一つくらい速めてやっても苦ではない。
 今日は、彼女と共に過ごす日なのだから。
 すぐに、浜辺は見えてくる。あまり人のいない、澄んだ水と綺麗な白砂。
「すっごいなー、さらさらだにゃぁ」
 大狗のサンダル越しに白の砂がさらさら混ざって来て、直接指に触れる。
 少しの間その感触を楽しんだら、今度は脱ぎ捨てて裸足で。
 掌でパウダーサンドをゆっくりと掬い上げる。
 日の光をいっぱいに浴びた細かな砂は、太陽の匂いがする。
 顔を近付けようとする大狗に、アランが指を先んじて向けて。
「硝子でも入ってたら怪我するだろ」
 一瞬、彼はその中に鋭い煌めきを見た気がして留めに動いたのだ。
 彼女の顔より先に、傷つくべきは自分の指。
 あまりにも、当たり前な思考で。
 が、その指がつまみ上げたのは――。
「綺麗だなぁ、桜貝だ!」
 小指の先ほどの、小さな貝殻の片割れ。
 文字通り、桜の花のような色合いで。
 壊さぬようそっと、二人の真ん中で揺らす。
「アラン、これあげるよ!」
 大狗がそう言って、彼の手に握らせようとするのと。
「勿論、お前のだろ?」
 アランが手を開いて、彼女に差し出そうとするのがほぼ同時。
 目が合って、思わず笑ってしまう。
「一緒に探したらいいのだ!」
 双方譲らぬと考えたのか、迷うより動くが早い彼女は貝をアランに預けて、辺りの砂を指でかき回す。
 ちょろりと覗く砂場に住んでいた貝に、ごめん、と笑いかけたりして。
「全く、仕方ないな」
 肩を竦めながらも、アランも彼女の横で指先を砂へと埋める。
 汚れのない真っ白なパウダーサンドは触れてもそう不快感は無く、片手で砂を弄り。
「あったーーーー!!」
 光が弾けたみたいな歓声と共に、誇らしげに翳す大狗にアランも思わず笑って。
 砂を払って綺麗な手で、太陽を吸い込んで熱くなる髪の毛を柔らかく撫でる。
「可愛い可愛い、よしよし。流石ワンコ、探し物は得意か」
 彼の軽口も気にならず、二人で分け合う桜貝の半分。
 それから。
「これは頑張ったレディに、だ」
 美しく咲き誇るプルメリアの根元に小さく口づけてから、そうっと摘んだ白い花を。
 彼女の髪へと、差し入れる。
 赤と白の対比は、如何にも太陽に向けて咲く花のようでアランは機嫌よく喉を鳴らした。
「んん? ありがとーな!!」
 髪と手の下から見上げる眼差しが悪戯げにちかりと瞬く。
「でもって、これは改めてアランのだ! 旅の思い出に」
 彼の手にも、桜貝を握り締めさせて大狗も、同じよう手の中に包み込む。
 早速、思い出をひとつそれぞれの手の中に捕まえて。
「次は、市場を見に行こう!」
「――ワンワンは散歩に出したら止まらねえな」
 また走り出す大狗に、今日は彼女のお供とばかりゆったり足を運ぶアラン。
 そうして二人は、夏の海を歩いていく。


●迷子の迷子の、
 市場は、喧噪に溢れている。
 正式なオープンは先と言っても、この地に住まう人はいるし観光客も同じようなモニターとして訪れている。
 思い思いに売り買いを楽しむ中、大狗はさっそく辺りを好奇心いっぱいの視線で見渡している。
「アイスがいっぱいあるにゃーー!」
 何しろ、暑い島のこと。
 立ち歩きしながら食べられるものも多いが、その中で群を抜いているのはアイス屋台。
 大狗まっしぐらとばかり駆けて、ショーケースを睨んでいると横からアランが財布を開ける。
「その、スペシャルってやつくれ。好きなだけ乗っけられるんだろ?」
 大狗が止める間もなく、支払いは終わって。
 見上げた先の紳士は、涼しげな顔で顎を引いて見せる。
「レディに金を出させるつもりはねえ。欲しいものがあったら俺が買うからその心づもりでいろよ」
 目を大きくして、大狗は瞬き。ついで、表情がふわりと綻ぶ。
「ありがとな!!」
 早速積んでもらうのは、マンゴーやパパイヤ、グアバはお約束。
 様々なトロピカルジェラートに、果物まで刺さったスペシャル版。
「いただきまーす!」
 ぱく、と冷えたそれが溶けないうちにと大狗がかぶりつくと、アランが手招きをする。
 無駄のない動作で日陰のパラソルをキープ、椅子を引いてさあどうぞ、の姿勢だ。
「シットダウンだ、ワンワン」
「……やっぱり君ってば、優しいなあ」
 犬呼ばわりで口調もけして柔らかくはないのに、滲み出るものは優しくて。
 そして、特にしてやってるという素振りは一切見えない。
 女の子に対する下心でもなく、変に女子を意識するのでもなく。
 当たり前に、『レディ』を大事にするのが彼なのだろう。
「一口貰うぞ」
「って。あーー!!」
 ふふん、と笑って見せて横からアイスを齧り取るのは、全くもっていつもの彼の姿なのだが。
 自分の唇はぺろりと舐めて終わらせる癖に、大狗の口元は布で拭おうとする。
 楽しくて笑ってしまいそうになりながら、アイスを平らげ次に目を移したところで――。
 異質な光景が、屋台と屋台の合間にあった。
 小さな手に抱いているのは、胸ほどもある大きなクマのぬいぐるみ。
 そして、クマしがみつくようにして声を殺して泣く少女。
 もう長くその場にいるのだろう、周りに泣き叫ぶ気力もないようだ。
 自分から暗い隙間に入っているので、気が付く大人も少なく、結果として放っておかれている。
「…あれ、迷子か?」
 大狗が立ち上がるのとほぼ同時に、アランは彼女のアイスクリームが食べ終えられているのを確認して。
「声かけるんで、付き合え。男に言われるより、お前の方が怯えられねえだろう」
「うん! ――君ってばこんな小さな子にも紳士的なんだな」
 けらけらと明るい笑い声を弾けさせながらも、大狗の行動は早い。いつ、彼女に対して悪意を持つものが現れないとも限らないのだから。
 まず大狗がゆっくりと近づく。それから、少し膝を折って、目線を近く。
「こんにちはだ! 君の手伝いが出来るかな? 俺ってば、このこともお友達になりたいのだ」
 話しかけるのは、クマにも。少し身を竦めていた少女は、それでだいぶ警戒心が解けたらしい。
 泣くのを止めて、きょとんと彼女を見上げる。
「俺の頼りになる友達も紹介するね。とーっても頼りになるのだ!」
「…う、うん」
 こっくりと少女が頷いたのを了解とみて、アランは早速少女を抱き上げる。
 ふわ、と身体が浮いたかと思えばもう少女は彼の肩車に乗せられていて。
「これなら、母親みつけたら分かんだろ。――淑女が泣くのは愛しい男の胸と、両親の胸にしておけ」
 高い位置が楽しいのか、安心感か。一定してきゃっきゃと笑う少女に、髪を掴まれる侭にして置き、アランは市場を闊歩する。
 不思議そうな目で見る者もいたが、空気のよう注目を流して素知らぬ顔で。
「紳士はな、泣いてるレディを放っておいたら失格なのさ。俺に任せろよ、小さい淑女さん」
 落ち着いた彼女の頭を一撫でして、甘い蜜でできた飴玉をひとつ手に握らせる。
 彼女がまた、泣いてしまわない為に。 
「大丈夫だよ、きっとすぐに見つかるからね!」
 にっこり、全幅の信頼を込めた顔で大狗も保証をして、彼女は数歩先を駆け回る。
「迷子のお母さん、しらないかにゃー!!」
 張り切って辺りに聞き込みをする彼女は物おじを全くせずに、次第に少女の来た道も分かって。
「あっちの海から一人で来たんだって! 寂しくっていっぱいあるいちゃったのな」
 二人とも、彼女をひとつも責めないで、休みが潰れることも苦にならないよう。
 やがて、遠くから――泣きながら、少女の名前を呼ぶ姿が見えた。
「おかああさんんーーーーー!!」
 アランの肩車の上でも泣きじゃくる少女を下ろしてやると、後はもう一目散に。
 抱き合う二人を見届ければ、礼を言われる前にアランはさっさと踵を返す。
 大狗も、その後にじゃれつくようついてきて。
「良かったなー!」
「ああ、お疲れさんだな。お前も」
 軽くなった肩を回して、今度は大狗を撫で。
 先程彼女がしたよう、アランも視線を彼女に合わせ覗き込む。
「次はお前の番だ。何処でも連れてってやるよ、お姫様」
 時間をとらせてすまなかった、などとアランは謝らない。
 お互いに、それは「したい」ことだったんだから。
 ただこれからの時間はもう、彼女の為だけに使うんだとだけ言葉にする。
「んんんー、美味しそうなシーフードレストランがあったのだ!」
「いいとも、それから?」
「チョコレートショップはお土産が買えるぞ!」
「いいとも、それから?」
「あっちでは魚に餌付けが出来るんだ」
「いいとも、それから?」
 全ての言葉に、綺麗なイエスを。
「じっくり考えろよ。今日のお前には、なんだってしてやる」
 あれこれとしたいこと、楽しいことを順番に言っていた大狗が、不意に思いついたのかぱっと顔を上げる。
「アランといっぱい、遊びたいのだ。君と一緒に居られて、俺ってば幸せだ!」
 側に彼がいることが何より、と言われてしまえば少しばかり目を大きく瞬かせ。
 そうして、ふっと柔らかい笑みで頷く。
「お前が幸せなら、俺も幸せだよ」
 優しい、大事な友人に、今日ばかりは全部で楽しくさせてやりたい。
 我儘も、何もかも全てかなえて、その手に溢れんばかりのものを全部持たせてやれるなら、きっとアランにもこんなに幸せなことはないのだから。
 思い遣りも、優しさも全部受け取る顔で、だから大狗も元気よく腕を取って。
 今度は、走り出さずに。
「さ、次は何して遊ぼうか!エスコートしてくれよ? 紳士だものね」
 そう、相手に委ねて見せると。
「任せろよ。――最高の一日を見せてやる」
 自信満々に、彼の口端が笑って。
 今度は、アランが先に歩き始める。
 彼女の願いを、やりたいことを、片っ端から十割増しで制覇する為に。
 この日を、最高の一日にする為に。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3056 / 大狗のとう / 女 / 18 / ルインズブレイド】
【ja8773 / アラン・カートライト / 男 / 24 / 阿修羅】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こちらのスケジュール管理ミスで、お時間頂きまして申し訳ありませんでした…!
仲の良いお友達同士の、楽しくてとびきりの「最高の一日」。
御用命に応えられていれば幸いです。
お二人を見るだけで微笑ましくなるような、そんなお時間を有難うございました。

常夏のドリームノベル -
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エリュシオン
2012年09月27日

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