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『碧色夏旅/今宵のダンスは 』
アラン・カートライトja8773

●碧色夏旅
「常夏リゾートの島へ、モニターのご案内」
 葉書一枚が、夏の海へのチケットへと変わる。
 誰と行こう? どこに行こう?
 それはコインを弾くようなもので。
 幾つもの偶然が重なり、幾つかの心が噛み合って。
 ――結論は、男二人での海旅コース。
 
 憎まれ口と軽口の応酬で、けれど結局二人して笑ってしまう。
「俺はイケメンとデートだ? そりゃ光栄」
「んー、偶には悪くないかもねー?」
 決めるのは最低限、日程と待ち合わせ場所だけ。
 お互い、相手が女性ならプランも交通手段も、例えばレストランの予約だとかまで完璧なのだろうけれど。
 今回ばかりは、二人揃って気侭な旅を。 
 

●心向く侭
 夜の海は、深い藍に染まりぽかりと浮かぶ月は銀のひかり。
 最終便が船着場に到着した頃合いには、ホテルや家に急ぎ足で向かう者ばかり。
 そんな日常の風景と明らかに違う姿が一つ。
 スマートなラインが映えるスラックスに細かな刺繍の散らされた革靴。
 仕立ての良いシャツは敢えて少し着崩せば、鎖骨に僅か覗くのはタトゥのライン。
 月の光の下では、如何にも非現実的な美青年が紫煙をくゆらせて、船着場の方へと視線を流す。
 誰もが遠巻きに見守る彼の傍へと、するりと気まぐれな猫のよう近づいていくのは、百々 清世。
 足音を立てて歩み寄る動作すら、計算されたように整う長身の姿は、殆ど荷物も無く軽やかに。
 光沢のあるシャツの深い藍に、ピアスやブレスレットの輝きが幾つも映える。
 すうっと切れ長の目が整ったウィンクひとつ、形の良い唇が微笑んで。
「もう来てたんー?」
 金髪の青年にかける言葉は、ごく親しいもの。
 見る人が見れば、これだけで取っておきたいような垂涎の光景だ。
「Hey,イケメン。今夜も素敵に愉快じゃねえか」
 煙草の先を軽く上げて揺らす挨拶に、清世は大きく肩を竦めて見せる。
「おにーさんはいつでもかっこいいしー。――どうせなら、お前とじゃなくて可愛い女の子と来たかったけどねー」
「そりゃ残念だな。俺は嬉しいけどな」
 これも軽口の範囲内。
 そんなことを言う割に、清世は当たり前にアランが煙草を吸い終わるのを待っていて。
 自分も吸おうか迷った挙句、彼の煙草がもうフィルタに近いことを考えれば後に、と動かしかけた手は戻す。
 代わりに、船着場から看板を見上げて少し考える間。
「海行くー? 飲み行く? 飲み行く人ーはーい!」
 ひら、と上げたのは自分の片手。
 アランが喉だけで笑って、吸い終えた煙草を灰皿に押し付ける。
 開けた手で、先に上がっている清世の掌と軽いハイタッチ。
「飲みに行きたいなら、行きたいって言えよ。全く、可愛い奴だな」」
 口説いているのだか褒めているのだかじゃれているのだかいまいち分からないアランの台詞も、いつものこと。
「おにーさんはかっこいーの」
 ちかりとウィンクひとつで受け流して、善は急げとタクシーを早速止めかけて。
 ふ、と気まぐれに唐突に、歩き出す。
「どうした?」
 聞きながら、アランも肩を並べて付き合う風情で。
「歩きたくなったー。いこー?」
 何しろ、今日のパートナーは男性である。
 いつもなら女の子の華奢で可憐な足が毅然と纏うハイヒールの為に、多少の移動でも最適の交通手段に選ぶことに躊躇いの無い清世だが。
 今日ばかりは、人並み以上に体力はある撃退士の男との道行だと思い出したので。

 月の光の中、潮風に髪を晒して。
 足の向く侭、気の向く侭。
 歩いていく。
 ―――自由に。 
 

●何処までも空は自由で
 市内、と言ってもこの辺りは観光地がメインになっている所為か、観光客を意識したものが多い。
 ショッピングビルの最上階をまるまる使って、本物のヤシの木や南国の植物で彩ったオープンエアのルーフトップガーデンもその一つだ。
 夜風の入る開放的な雰囲気の中、プールや海帰りの観光客は大胆な恰好で、良く冷えたジョッキや、カクテルグラスを重ね合わせる。
 音楽は陽気な民族調の生演奏、シーフードのバーベキューが酒だけでなく人々の腹も満たしてくれるという塩梅だ。
「この夜とお前に、乾杯」
 樽を模したテーブルに凭れかかって、立ち飲みの気安さでアランがフルーツの飾られたグラスを揺らす。
 清世の方はビールの小瓶にひっかけられていたライムを中へと押し込み、軽く相手へと掲げ返して。
「結構雰囲気いーねー?」
 冷えた飲み口が唇に当たって、一気に呷るとライムの香りが内側で弾ける。
 美味しい酒に、上等の肴。上品でなくともいいけれど、整った雰囲気。
「悪くはねぇな。目の前に極上のイケメンいるし」
 黒オリーブを直に指先で掴んで齧りながら頷くアランのグラスは、既に新しいものへと変わっている。
 白色人種特有の白い肌にさして上気の色は見えないが、声も眼差しもこの上なく機嫌の良いもの。
「お前…酔ったん?かーわいー」
 近くの顔をひょい、と覗き込んで新しいグラスを横から攫う。
 一口、飲んでみれば以外にも強いブランディの味。
 冷えていない人肌のアルコールは口に含んだ途端に、芳醇な甘さと独特の香りが舌を焼く。
「結構強くねー?」
 多少は友人を気遣う心地で首を傾げれば、自信満々の笑顔と視線がかち合う。
「酒に強い紳士だバーカ、酔ってねえよアーホ」
「……酔ってるじゃん」
 世の中の酔っ払いに、うん今俺酔ってるなどと自己申告する人間がどれだけいるだろうかと清世はしみじみと思い知る。
 数少ない自己申告と言えば、今日一緒に泊まってって良いよの合図に酔っちゃった、と言ってくれる可愛いオンナノコ達くらいだが。
 残念ながら、目の前にいるのはイケメン紳士であるので。
「お前酔ったらどうなるんだ?脱ぐのか?」
 まったく清世の心中は慮らず、頬杖をついて殊更楽しげにアランが問いかける。
 少しはだけた彼の襟元を指先で弾いてじゃれるくらいはお約束。
 アランは、いわゆる男性もいける口(つまり単純計算で口説ける相手が二倍になる訳で大変ハッピーなことである)だが、
 清世は友人の類であり。
「安心しろよ別にお前は好みとは違うから裸が見たい訳じゃねえよ」
「……ならどーして距離が近くなってんのかなー」
 絡んでくる指先をはいはい、と流してアルコールが薄めの自分のグラスとさり気なく交換。
「いやそりゃ見せてくれるなら見るし触るだろ。……くれねえの?」
 ちぇー、と拗ねて見せる仕草は、いつもより何処か幼げなのはアランにも同性ゆえの安心感がある所為だろうか。
 お互い、間合いも距離感も心得ている故に遠慮のいらない、心地の良い距離。
「アランちゃんが脱いでくれんならねー」
 肩をぶつけるようにして、緩い冗談で清世も返す。
 彼の方にも、心地の良い酔いの気配は少しずつ。
 周囲は皆、思い思いに喋り合い、酒を酌み交わして。
 フリーの女の子に声をかける一団も珍しくはない。
 普段なら清世もアランも、あちら側ではあるのだろう。
「これ飲んだら市場行くー?」
 けれど、気の置けない友人をグラス越しに見てみれば、少し珍しい解けた顔で笑う友人がいて。
「酔い覚まし行くか。酔ってねえけど」
 水が流れるみたいに、鳥が飛ぶみたいに。
 気侭に動くばかりの二人旅も、悪くない。


●夜の蝶、夜の夢
 市場の一角から、わっと歓声が沸いた。
「ねー、あれなんだと思うー?」
 途端に、目新しいフルーツや見たことも無い料理に目を奪われていた清世が、ふらりとそちらへもう身体を向けてしまう。
「気になるよな、行くか」
 彼の気まぐれで自由な性質にはもう慣れっことばかり、幾分夜風に頬を冷やされながらアランも彼の一歩後を追い。
 近づいていくと、丁度男達が楽器を皆それぞれに配り合い。
 中央では様々な色の肌の女性たちが国籍も言葉も関係なく、鮮やかな衣装に身を包み楽譜を見て音を合わせている。

 真っ先にアランの目を惹くのは、肉感的な肢体を際立たせる極彩色のドレスに見事なブロンド。
 甘ったるい母国語で、彼へと手を差し出して誘いかける。
 パートナーがキャンセルしちゃって、なんて舌足らずに囁くのに彼が断わる訳も無い。 
 華やかな微笑みに、姿勢を正して紳士の礼。
 それから膝をついて、綺麗に爪の塗られた手を押し抱く。
 手の甲へと唇を押し付けるキスも、レディへの礼儀の一つ。
「御手をどうぞ、レディ」
 あくまでも恭しく、女性をごく当たり前に尊ぶ紳士の仕草で彼は、手をゆっくりと引く。
 女性の誘いを断り、恥をかかせることなんて彼にはあり得ない。
 無防備に見えて、しなだれかかる重みまでコントロールするような軽くて細い女を胸に抱いて、軽快なステップ。
 近くなった時だけ触れ合う髪は、まるで鮮やかな蝶の羽に見えて。
 音楽の終わりと共に、指は離れて彼女は舞っていく。
 だからアランも、次の蝶を探して輪の中へと視線を巡らせ――一際目立つ、長身の前へと迷わず進み出る。
 悪戯心と、単純な楽しさと。いろんな気持ちをないまぜに。
 ダンスを断られるなんて、考えもしない信頼を込めて。
 此方を見つけた瞬間、少し驚いた眼の色が仕方ないなと許す色で、だからもう遠慮はせず。

「紳士的にエスコートしてやるよ」
 してやったりとばかりアランが顎を引いて耳元で囁けば、清世の方もちら、と舌を出してみせ。
「足、踏むんじゃねーぞ?」
 アランの手が自然に腰に周り、清世も諦めて彼の肩へと腕を回す。
 新しく始まった曲は、陽気なタンゴ。
 踏み出すのは、アランの方が先で。彼の手を取り、曲に合わせて数歩。
 自然に清世の方が、バックへと下がることになる。
「ちょ、こっちのパート踊ったことねーんだけどー?」
 抗議を告げながらも、器用に女側のステップを咄嗟に刻むのは、流石の彼と言ったところだろう。
「良かったな、新しい体験だ」
 アランの方は全く素知らぬ面で言ってのけて、腰を下から支えてしまえば大きく清世の方が身体を反らすしかない。
 腹と腰を抱える手に預けて、足を高く差し上げる振り付けは波の男性がやれば首を傾げられるだろうが、
 清世の容姿と身体のキレでこなせばこれはもう十分な見もので。
 おお、と周囲がどよめいたところで、ポジションチェンジ。
「じゃあアランちゃんも新しい体験ねー?」
 今度は、清世から先に彼の方へと踏み出してたたんと踵を鳴らし。
 何か反論がある前に、片手を取って腰を支えるスピンをさせてしまう。
「往生際が悪いな、今日は俺の腕の中で踊れよ」
 小器用に小さなジャンプを決めてから、今度はアランが抗議する番だ。
 主導権の争いから、パートチェンジ。お互い懲りずに、飽きずに。
 曲が終わる頃には、二人で我慢できずに笑い転げてしまう。
 酒の入った頭で、こんな見知らぬ場所の月夜で男二人、顔を合わせて踊っているのがどうにも面白くて仕方ない。
 盛大な拍手には、お互いに手を取ってそれぞれが胸に手を当てる礼で締めて。
「次はギターでも演ろうかね」
 肩や胸を叩かれ迎えいられられるのに、楽器の一つを選んで足を組み酒樽に腰を下ろす。
「俺も俺もーー!」
 ならば、と清世が借りるのはサキソフォーン。
 アランの指が弦を押さえ、幾つかのコードを掻き鳴らして確かめる。
 それを待てば、特に始まりの合図も無く。
 清世の指がサックスの上を楽しげに跳ねて、音を鳴らす。長身には似合う派手なパフォーマンスに小さく拍手が巻き起こり。
 つらりと辿るのは、有名どころのオールディーズ。
 誰もが知っている懐かしい音楽に合わせて、アランもまたスローテンポで指を動かしていく。
 陽気で、けれど少しばかりは切なげに。
 次第にアランの口から零れるのは、懐かしくて遠い昔の歌。
 少し甘く酒に掠れた声は、ギターとサックスの、地に足のついた重みのあるメロディに絡み合う。
「アランちゃん英語うまいねー、て当たり前か」
 まんざらでもなく褒める清世に、歌う最中の彼は顎だけを上げて見せて。
 片目を瞑って間奏の間に、唇だけを動かす。
 聞こえなかったけれど、分かる気はしたので。
 聞き返さず、――暫くはただ、二人で遊ぶことにした。


 
●煙が目に沁みる
「今日も一日よく遊んだーのかんぱーいー」
 清世がグラスを掲げれば、応えてくれるアランの方にもなみなみと酒は注がれている。
 お互い、未だ飲み足りないとばかり最後の締めは水上ヴィラで。
 波の音ばかりが遠く、近く。
 舌先のじんと痺れるアルコールに、ニコチンも恋しくなってポケットを探る。
 オレンジの箱を取り出して、指で軽く叩きながら。
「あ、ライター忘れちゃった。火ィちょーだい?」
 既に煙草を早速銜えていたアランが振り返り、清世の口元へと片目を眇める。
「なんだお前そんなん吸ってんのか。もう甘えよ」
「今日はこの気分だしー?」
 フレーバーの濃い煙草は、近づくだけでチョコの匂いがこちらまで伝わってくるもので。
 しかも、ライターはもうアランのポケットの中。
「出すのめんどくせえ。寄越せ」
 くい、と指で手招き。ソファに座る清世へと、火のついた煙草を近付けていく。
 近くなる、チョコレートの匂い。顔の影が重なり、煙草の先が触れ合って。
 じり、と清世の銜える筒先が焦げ――火が移る。
 深く、深く煙を吸い込みながら清世は、銜えた煙草を軽く揺らして見せる。
「さんくー、――っってもー」
 言い終わるより先、一瞬視界が白く――煙が、じわりと目の粘膜へと直接沁みていく。
 煙草を吹きかけられたのだと、気づくのは少し後で。
「痛ってーよ、ばか」
 涙目を指先で擦ろうとすると、目に悪いとばかり留める手が上から降って来て。
 ちかり、と紅い眼差しが躍るようウィンク。
「可愛い反応御馳走様」
 ああもう、とため息をついてソファに凭れ。
 清世は、改めて大きく煙を吐き出す。
 窓を開け忘れたせいか、部屋の中は二人分の煙草の煙で随分と白く。
「…まー、いっかなー」
 楽しかったし。
 呟く言葉は声にならず、代わりに少し向こうで笑う気配。
「楽しかった」
 明日何をする、ともいつ帰るとも話さずに。
 多分、同じようお互い好き勝手につるむのだろう。

 ――こういう日も、偶には悪くない。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3082/百々 清世/男/21才/インフィルトレイター】
【ja8773/アラン・カートライト/男/24歳/ 阿修羅】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
御用命有難うございました。またお待たせしてしまい申し訳ありません。
イケメン同士絡み多めの夏の夜…! えっ、もう本当に有難うございます!!
ちなみに個別はダンスシーンです、章の真ん中なのでちょっとわかりにくいかもです…!
イエスストレート、と五回くらい心の中で唱えましたが、こんな感じで大丈夫でしょうか。
何かありましたらご連絡くださいませ…!
常夏のドリームノベル -
青鳥 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年09月27日

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