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『碧色夏旅/天上の音色 』
シルヴィア・エインズワースja4157

●碧色夏旅
「常夏リゾートの島へ、モニターのご案内」
 一枚の手紙が、シルヴィア・エインズワースの手元へと舞い込む。
 それは人によれば望外の幸運かもしれないが、流れるようなブロンドを持つ可憐な少女はただおっとりと笑うだけ。
 実家へ帰るよりは随分と近い、ひと夏の気楽なバカンス。
 鞄に詰め込むのは、とっておきのお洒落着に細々としたもの。
 それから。
「これは、忘れてはいけませんね」
 抱き締めるよう大事に抱えるのは、フルートの入ったケース。
 どこに行こうとも手放すことはない、彼女の音楽の在処。
 ケースに触れた途端、胸に少し不思議な予感がする。
 何か、不思議で素敵なことが待っているような。
 フルートが、歌いたがっているような。

 だから、――出かけよう。
 見たことも無い、海に。



●夜の音
 海に、砂浜に。
 異国の地で遊べば、疲れた体に眠りは優しい。
 天蓋付きのベッドに寝転んでしまう彼女は、薄いレースの飾られたシーツに埋もれてまるでお伽噺のお姫様のよう。
 大きな枕とクッションに細い体はあっけなく沈み、夏でも日焼けのしない真っ白な手足を包むのは、これも純白の薄いネグリジェ。
 金色の髪だけが唯一の色彩として、枕へと広がり一幅の絵のようだった。
 月の光が微かに差し込む中、彼女は朝まで眠り込む。
 その、筈だった。

 ――どこか、から。
 遠く、近く。
 はかなく。
 不思議な音が、聴こえる。

 寄せては返す、波の音?
 ざあ、と耳に心地よく不思議なリズムを持って届く音は、シルヴィアには心地よいばかりの。
 けれど、それだけではない。
 自然の旋律ではない、確かに誰かが作り上げる音。
 ゆらゆら、まるで船の上にでもいるように。
 夢と現の合間で、音は続く――。
「……どなた?」
 瞼を擦って、耳を澄ませながら囁くのは音を遮ってしまわぬよう。
 応えるものは無く、ただ、少しだけ音楽のボリュウムが大きくなったような。
 ピアニッシモの小さな弱い音が、それで歌声だと気が付く。
 甘く優しい、リリカルソプラノ。
 開けた窓から風と共に部屋へと流れ込んで、少女の胸に触れていく。
 呼ばれている、と思った。
 この声には、シルヴィアの音が必要なのだと。
 それは理屈でなく、直感で。
「行かなければ」
 口にすれば、想いは余計に募る。
 こんな夜に一人で、とか危ないのではないかとか。
 冷静に考えれば思うことは幾つもあっても、そんなことは彼女には関係ない。
 呼ばれているのは、誰でもないシルヴィア・エインズワースだから。
 彼女の、フルートだから。
 行かなければ、ならない。
 胸から沸き起こる思いに、己の身体を静かに抱き締め。
 決然と、彼女は暖かな寝床を後にする。


●月の夜に
 彼女は、手早く手持ちの衣服へと着替える。
 持ち合わせているのは、必要になることもあるだろうと一着入れていたお出かけ用のドレス。
 月の光で編んだような薄い布で作られた、エンパイアスタイルのワンピースは深い瑠璃色。
 光沢は滑らかな銀で、月の光を弾くように揺らめく。
 レースの縁取りがついた肩は剥き出しでは肌寒く、これも天女の羽衣のよう薄くて軽い白のボレロで。
 財布も、鞄も持たない。
 けれど、フルートのケースだけは大事に抱き締めて。
 華奢なサンダルに足を預けて、コテージを飛び出す。

 外は、静かな月の夜。
 藍の海ばかりが何処までも暗く、星もさして出ていない。
 だが、細く差し込む月のあかりは砂浜から岬までを、真っ直ぐ照らしている。
 彼女の行くべき先を、示すよう。
 外に出れば、余計に音楽は強くなる。
 儚く、甘く、優しい音。
「……寂しそうな、気もします」
 どうしてか切なげにも聴こえる。
「待っていて、今行きます」
 音に触れられはしないが、彼女は細い華奢な手をそうっと月明かりに伸ばす。
 撫でる仕草で、指を動かすと歌声は余計に、強くなった気がした。
 心ばかりが、急く。
 進む道は間違っていないのだと分かる。
 一歩、一歩。
 走り出したい衝動を堪えて、このうつくしい音色を壊さぬよう足音も立てずに、砂浜を歩く。
 少し先は、切り立った岬だった。
 登り口を探すのも大変なようだが、不思議と彼女が歩く先には道が開けている。
 手すりのついた銀色の階段は作り立てのよううつくしく、彼女を岬に届けたがっているみたいに思えた。
 音が、聴こえる。
 歌が、響く。
 階段を踏み締める度に、その音は確かに。

 曲と言うほどにメロディがある訳ではなく。
 楽譜に起こせば、きっと音符が滅茶苦茶に紙面を跳ねるだろう。
 人の声帯から出る音なのかも、怪しい。
 リズムもメロディも気まぐれに、音域も驚く程に広く。
 月が歌えばこうなるかのような不思議で、神秘的な音の連なり。

 どうしようもなく、うつくしい音。


●共鳴
 岬のてっぺんに立った時、――四方から彼女を歌が包む。
 ずっと貴方を待っていた、とばかり。
 指先から、爪先から、身体の奥まで。
 透明で儚く、彼女を揺らし、鳴らす音が響く。
「綺麗…。けれど、……足りないのでしょう?」
 硝子みたいに音は作る端から壊れ、崩れていく。
 一度も同じ形をせず、歌声には深い悲しみが満ちる。
 ―――いや、悲しみでは無く。
 
 どうしようもない、孤独。
 独りでは紡げぬ歌を紡ぎ続ける――その絶望。

 だから、彼女は。
 月明かりの下で、真っ直ぐに立つ。
 銀のフルートは、ケースから出されるのを待ち侘びたかのよう月の光を反射して。
 シルヴィアも、大きな何かに急かされる気持ちで口を付ける。
 一音目で、全てが分かった。
 身体ごと突き上げる、大きな音のうねりはシルヴィアの中にあり、彼女が吹き鳴らす音が月までも届くよう響く。
 歌声と重なり、寂しげな硝子じみた儚い音色はフルートのあまやかな包み込む響きに重なり、宝石のよう美しくも確かに磨き上げられる。
 自分の内側で鳴る音と、外から聴こえる歌声と。
 その時、彼女の中では何もかもが同じもので。
 先の見えない、全くでたらめのメロディに即興で合わせていくのは技術的には困難を極める筈だが、
 演奏手としての彼女の指は全く躊躇わずに音を絡めあい、引き出していく。
 もう、フルートだけでなく、歌声でなく。
 彼女自身が、ひとつの楽器であるように。
 
 ――気が付けば、髪はほどけ風になぶられる侭に鮮やかなブロンドが散る。
 月の光も、星の光もその金色が受け止めるシルヴィアの姿は何処か神々しく。
 零れるのは、フルートの音色で無くて。
 彼女の、歌声。
 どこかから遠く溢れるリリカルソプラノと戯れ、繋がり、広がる。
 ただ、――そのとき彼女は、音楽だった。 

 いつ歌を止めたのか、それとも辺りから聴こえる歌声が止んだのか。
 解放感に満ち溢れ、胸から大きな熱が抜けて言ったような心地よい気持ちを噛み締める少女の耳を、小さな音が擽る。

 ――ありがとう。

 鈴を転がすような音は、先程まで共に歌っていたリリカルソプラノ。
 瞬いて、シルヴィアは辺りを見渡すが、人の影は無い。
 ただ。
「――あら?」
 岬から見下ろせば、跳ねるのは魚の尾。やけに大きな、真珠色の鱗。
 彼女は少しだけ笑って、ドレスの裾をつまむ軽いお辞儀で返す。
 その、帰り道。
 砂浜に降りる階段で、月の光を浴びる真珠色の鱗の欠片がまるで彼女を待っていたかのように置かれているのを。
 シルヴィアは、まだ知らない。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /      PC名      / 性別 / 年齢 /     職業    】
 ja4157  / シルヴィア・エインズワース / 女  / 21  / インフィルトレイター

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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大変お待たせしてしまい、ご迷惑をおかけしました。
真夏の夜の不思議な音楽会、納品させて頂きます。
月の光の中に映えるPCの姿と音楽を描けていれば幸いです。
常夏のドリームノベル -
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エリュシオン
2012年10月01日

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