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『まぼろし遊園地/お手をどうぞ、プリンセス 』
天谷悠里ja0115

●まぼろし遊園地
 月の綺麗な夜には、不思議な音楽が聴こえるという。
 儚くて何処かさびしげな曲。
「……ほんとに、聴こえるんだ」
 天谷悠里は、真夜中の街をゆっくりと歩いていく。
 いくら撃退士と言えども、夜に一人で街を行くのはなんだか不思議な感じがする。
 全部が眠った夜の底みたいな街を、たったひとりで。
 不思議な音に、導かれながら。
 彼女が向かうは、まぼろし遊園地。
 何もかもが夢のような不思議な世界。
 ――未だ、そのことを少女は知らずに。
 真夜中の冒険に胸を高鳴らせながら、月の下を歩いていく。


●不思議な夜の始まり
 夜に不思議な音楽が鳴り響き、辿っていくと一夜限りの魔法に出会えるらしい。
 都市伝説のように囁かれる噂を確かめることが、今回の天谷が受けた依頼だった。
 ただ、少しばかり奇妙なのは特に詳細の報告も、問題の解決も要らないという。
 報酬は全て前払いだった。
 老人の道楽だと、依頼人は笑っていたが。
 一体、なんだったんだろう?
 今となっては、依頼自体が夢のようにあやふやで。
 目の前にはそれだけが確かに、遊園地の看板が電飾に彩られている。
「いらっしゃい、お嬢さん。さあ、仮面をつけて!!」
 踊るように近寄ってくるのはピエロに、大きなクマのぬいぐるみ。
「仮面? …これをどうするんですか?」
 愛想の良いピエロに、少し緊張して問いかけると大仰な動作でくるっとターンをされる。
「つけるのさ! ここは不思議な夜だから、君も不思議の一つにならなくては! まぼろし遊園地の流儀ってやつだね!」
「……まぼろし、遊園地?」
 天谷は首を傾げながら、仮面を確かめる。宝石で彩られたようにきらきらと輝く仮面は、何処か非現実的で。
 そのくせ、顔に当てればぴったりと馴染んだ。
「いらっしゃい、素敵で不思議で愉快な夜へ!!」
 声と共に、ピエロが虚空からボールを取り出す。
 最初は一個、続けて二個、更に三個。ぽうんぽうんと放り投げては、前に後ろに受け止めてみせる。
「わあ、すごい…!」
 息を詰めて見守っていた天谷も、思わず拍手を送ってしまう。
 メイクに覆われたピエロの顔が、すかさずウィンク。
「……これは、夢かな?」
 あまりにも起こるのは不思議なことばかりで、思わず自分の頬を軽くつついてしまう。
 夢だとしたら、目が覚めるのだろうか。
 心臓はもう、こんなにもどきどきしているのに。
 少しだけ目が覚めるのも惜しい気持ちになってしまう。
 ふ、と目の前が翳った。
 気が付くと、大きなクマが天谷に向けて首を傾げている。
 勿論中には人間が入っているのだろうが、つぶらな瞳が顔を覗きこんでいるのは如何にも心配しているようで。
「ありがとう、大丈夫だよ!」
 知らず、天谷の口元が綻ぶ。彼女の手を、もこもこした熊が掴み、促すように引く。
「え、どこに行くの…?」
 ゆっくりとした足取りで、連れて行かれたのはメリーゴーランド。
 彼女の細い体をひょいと抱いて、白い馬の上に乗せてしまう。
 その頃にはもう、天谷もすっかりこの不思議に馴染んで――楽しんでいた。
 だって、甘く優しく流れるメロディの中、クマが手を振っている。
 その中を彼女は、ゆっくりと白い馬に乗ってくるくると回るのだ。
 景色は、回るごとに色を変えて、雰囲気を変えて。
 いつの間にか、隣の馬には小柄なウサギの着ぐるみが乗っている。
 そちらも、楽しげに彼女へと手を伸ばしてじゃれついたり。
「皆、一緒に遊びたいの?」
 言葉は交わさなくても、心で分かる。
 誰もが彼女と遊びたがって、一緒に居たがって。
 メリーゴーランドを下りる頃には、いっぱいに増えた動物たちにかわるがわる抱き締められる。
 この夜を、どうか共に。
 言葉の代わりに、彼女に触れる毛皮の温かさは伝えてくれる。
 もう、天谷は彼等を着ぐるみ扱いはしていなかった。
 一緒にこの夜を遊ぶ友達だと、心の底から思って。
 だから、真っ直ぐに笑う。
「いいよ、一緒に行こう!」
 何処までも、夜の中を。


●光の洪水
 ローラーコースターにティーカップ。
 沢山の動物たちと散々回って、次は、と物色を始めた瞬間。
 ―――光が、溢れる。
 丁度、彼女が立った歩道の進行方向に見えるのは色鮮やかな乗り物や、たくさんのぬいぐるみたち。
 電飾を服につけたダンサーたちが、きらきらと光を撒きながら華麗にバトンを揺らして回す。
「……パレード?」
 小さな呟きに頷くのは、動物たち。彼等もまた、当たり前のようにその列に加わっていく。
 何十人でも乗れそうな大きな乗り物によじ登って、道行く人に手を振ったり、風船を撒いたり。
 けれど、天谷は置いてかれたような気にはならなかった。
 だって。
 直ぐ側で、彼女に手を振る存在がある。
 赤に青、黄に碧。様々な色のドレスをほっそりとした体に纏って、豪奢なブロンドに愛らしいブルネット、時には水色の髪をした女性が世にも愛らしい微笑みを浮かべている。
 彼女らは決まって、額に小さなティアラを着けていた。
「…お姫様の証、だね」
 あまりにも眩しい光景に瞬いて、知らずに一歩生み出す。
 白い手袋に包まれたお姫様の手は、迷わずに天谷に伸ばされて――指先が、触れあう。

 光が、弾けた。

 触れ合った指から、温かい熱が身体の芯までじわりと響く。
 瞬き一つの間。
 気が付けば、天谷の身体もまた、華やかなドレスに包まれている。
 彼女たちのドレスの色の中で、一つだけたりなかった鮮やかなピンクのドレスは、シルクオーガーンジー。
 プリンセスラインの膨らんだスカートは尾を引く長さで、ウエストラインを強調する。
 胸には金の刺繍と真珠の飾りが鮮やかで、――結い上げてアップにした髪には黄金のティアラ。
 ダイヤモンドやルビーがきらきらと輝くその姿を、完全に自分で見ることは出来ないけれど。
「うわあ、素敵…!!」
 それは、子供なら一度は憧れるお伽噺のプリンセス。
 天谷の眸は、電飾や夜の灯を移してあまりにも優しく、眩く輝いていて。
 促される侭、パレードを見守る子供達に手を振ると、憧れの眼差しが確かに天谷を捕えていた。
 いつか彼女が憧れたように、少女もまた天谷に憧れているのだろう。
「いいなあ…私もプリンセスになりたい」
 女の子の小さな声に、天谷は思わず優しく笑って、差し出された手を取る。
 それだけで、少女もまた柔らかな笑顔を一杯に浮かべてくれて。

 そして、音楽が少しだけスローなテンポへと変わる。
 お待ちかねの、ダンスタイムだ。
 ぬいぐるみたちが寄ってたかって、彼女の周りに現れては、ダンスのパートナーになろうというのか手をつなぎたがる。
 勿論、王子様だって彼女が望めば現れるのだろうけれど。
「いいよ、一緒に踊ろう!」
 そう言って、天谷は両腕で出来うる限りの仲間達を抱き締める。
 誰かを選ぶことなんかできないし、皆――大事な、友達だから。
 輪になって、かわるがわる。
 優しいステップで、踵を鳴らして。
 光り輝く、この場所で。
 誰もが幸せになる、――最高のパレードを。
 きっと、もうすぐ夜は終わってしまうから。


●夢の終わり
 朝が、近い。
 パレードがどんなに楽しくても、いつかは終わる。
 音楽が遠ざかっていくのはおしまいの合図だと、天谷は知っていた。
 元通りに整えられた衣服を見下ろして、胸に迫る少しだけの寂しさを飲み込む。
 彼女の頬にキスをしたり、抱きついたり。一体一体ぬいぐるみは離れて行って、最後には大きなクマだけが残った。
「――またね?」
 さよなら、ではなくて。
 両腕でクマの首筋に抱きついて、笑う。
 哀しい顔では無く、優しい笑みを。
 ここは、そういう場所だから。

 腕を解けば、くるりとターン。もう、後ろは振り返らずに。
 彼女は、ゆっくり一人で歩き出す。
 不思議な夜、素敵な夜。
 心に、その思い出だけを確かに抱いて。

 優しい、夢を。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /      PC名      / 性別 / 年齢 /     職業    】
 ja0115  / 天谷悠里 / 女  / 19  / アストラルヴァンガード

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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プリンセス…!とわくわくしてしまいました。
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エリュシオン
2012年10月02日

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