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『Trick or Treat? 』
黒・冥月2778

1.
 商店街の明かりは、蛍光灯の明かりからふんわりと蝋燭の火に変わる。
 宵闇に明るく光るジャックの頭。
 街を闊歩するのは可愛いおばけたち。
「さぁ、お菓子をあげるからおいで」
 大人たちの声に、駆け寄る子供達は口々に言う。
「Trick or Treat!」
 にぎやかな街角、おばけたちの世界。
 日常とは違う、少し不可思議な世界。
「今年も商店街でハロウィンをやるのね……去年は恥しい記憶しかないんだけど?!」
 草間興信所の窓辺から見える商店街を見下ろしながら、黒冥月(ヘイ・ミンユェ)は所長の草間武彦(くさま・たけひこ)を横目で見た。
 草間はソファに寝転がって新聞を見つめていたが、新聞を胸の上に置いた。
「…あー…そんなこともあったなぁ」
 空に目をさまよわせて草間は誰へともなくそう呟く。
「今年はもうあんな目にあわないわよね?」
 興信所内を見回すが、変な気配は無い。…とはいえ、安心は出来ないのが常である。
「お兄さん! 冥月さん! どうでしょうか!」
 突然、真っ白なワンピースの胸元にハートマークをぶら下げて、白いウサギの耳をつけた草間零(くさま・れい)が現れた。
「おぉ! 可愛いじゃないか」
「うん、よく似合ってる」
 草間と冥月が褒めると、零は恥らうように頬を染めて「よかったぁ」と照れた。
「今年は私、商店街のお手伝いで先に行きますので、もし良かったらお兄さんも冥月さんも来てくださいね♪」
 そう言って零は、その白いスカートをひらひらとさせながら商店街へと消えていった。
「やる気満々ね」
「商店街の連中には世話になってるからな」
「…武彦も何か手伝うの?」
「一応そういう要請はきてる」
 草間はなんとなぁく行きたくなさそうな顔をした。
 なるべく不自然じゃないように…冥月はそれとなく切り出した。
「あ、貴方が協力するのなら手伝うけど…」
 去年は恋人未満、今年は恋人以上な関係。
 2人で過ごすイベントは何一つだってやり残したくはない。
 ちょっとだけ顔の赤くなった冥月に、草間は「そうだなぁ」と知ってか知らずか思案顔。
「ね? 一緒にやればすぐに終わるわ」
 その冥月に一言で、草間はようやく重い腰を上げた。


2.
「それで、何すればいいの?」
 起き上がった草間に、冥月は改めて訊いた。
「零に言われたのは主に3つ…だったかな?」
 うーんと考え込んで、草間は思い出しながら言葉を紡ぐ。

「1つ目は…たしか子供たちが来るからお菓子の用意をしろといわれた気がする」
「子供達が来たら配ればいいのね」
 冥月はすかさずメモを取る。
「2つ目は、町内の防犯だな。祭りごとに乗じてくる火事場泥棒みたいなのを見張って欲しいといわれている」
「まぁ、荒事には私達は慣れてるものね」
 普段の興信所の仕事をそのままやればいいわけね。
 冥月は頷いた。
「3つ目は…最後にみんなで仮装行列のパレードをやるらしいからそれに参加しろって言ってたような…」
「そんなのやるんだ。でも私が参加したって…」
 冥月は己の格好を見た。
 黒いスーツに身を包んだその姿は、どうやったって仮装行列にはそぐわない。
 困り顔の冥月に草間はほくそ笑んだ。
「そんなこともあろうかと…」
 そう言った草間がロッカーから何かを取り出した。
 大変不穏な気配がする。
「じゃじゃーん! これを着るがいい!」

 そう言って出したのは、赤いワンピース…だけど、露出が多い!?

「これを着ろって言うの?!」
 草間は即行で頷く。冥月は青ざめる。
「赤いブーツとそれ用の小物もあるぞ?」
 ササッと取り出す草間に、先ほどまでのあのめんどくさがり様は微塵も見えない。
 楽しそうだ。実に楽しそうだ。
「ホントに…ホントにこれ着なきゃダメ?」
 涙目の冥月に、ただ黙って頷く草間。これはもう諦めるしか!
 この男は…何で毎回…。そして、私は何で毎回それを許してしまうのか…。
 ひとえに『愛』がそこにあるからです。
「わ、わかったわ。着る。ただし、条件があるわ」
「条件?」
 草間が首をかしげた。

「た、武彦も私の選んだ衣装を着てよ。それが条件だから!」

 草間はニヤリと笑って「お安いごようさ」と言った。


3.
 草間の衣装ケースをひっくり返して、冥月は衣装を探した。
 …何で貧乏興信所のクセにこんなに衣装持ちなのか?
「探偵ってのはどこで何が必要になるからわからんからな」
 なんか、いつかも聞いた台詞だ。
 自分の赤いワンピースを見ながら、1着の衣装を選び出した。
 これならきっと私と並んでも違和感はない…かな?
 でも、組み合わせとしては間違っていないはず。
 それに、武彦に似合いそうだ。
 そんな理由から1着の黒っぽい衣装を草間に手渡した。
「…まさかこれでくるとは…」
 草間も予想外の衣装だったようだ。
「武彦はそれに着替えてて。私はお菓子の仕込をするから」
 スーツの上にエプロンをまきつけて、冥月は慣れた手つきでクッキーの仕込を始めた。
 アーモンドにジャムにチョコチップ。
 どれもこれも子供たちが好きそうな材料だが、少しだけハロウィンらしくしてあげよう。

「着たぞ」
 そう言って現れた草間は、神父の格好をしていた。
 手には聖書、首からは十字架。咥えタバコにサングラスとはなかなか悪そうな神父様だ。
「良かった。やっぱり似合ってる」
 振り向いた冥月も、すでにワンピースに着替えていた。
 赤いワンピースは胸が大きく開いて、ミニスカート、そして頭には赤い角付きのカチューシャ。
「いいねぇ。さすが俺が見立てただけのことはある」
 赤い悪魔に変身した冥月に、草間はとても満足そうだ。
「あ、あんまりじろじろ見ないでよね」
「今見なくていつ見るんだ?」
 不躾な視線に戸惑いながらも、冥月は焼いたクッキーを子袋に入れたものをテーブルの上に運んだ。
「お菓子も用意できたし、あとは子供たちを待つだけね」
「いつごろ来るんだろうな?」
 草間のその言葉に、冥月ははっとした。
「…もしかして、いつ来るか知らないの?」
「そもそも頼まれごとをうろ覚えのやつが、そんなこと知っていると思うのか?」
 開き直った草間に冥月はハァッとため息をついた。
 仕方がない。2人でゆっくり待つことにしよう…。
 冥月と草間はソファに座って、何気ない話をし始めた。


4.
 恋人たちの夜、話が尽きることはない。
「去年のハロウィンは面白かったな」
「もう! 言わないの! …恥ずかしいじゃない…」
「小さくなった冥月も俺は好きだぞ?」
「………」
 外からは楽しそうな子供たちの声。ゆらりと揺れる街明かり。
「じゃあ今度は俺が子供に戻ろうか?」
「え?」
 そう言うと草間は冥月を抱き寄せて耳元でニヤリと囁く。
「Trick or Treat?」
 ニヤニヤと笑う草間に冥月は「もう」といいながら、子供たちのために用意してあったクッキーを1袋開けた。
「はい、あーん…」
「大人なら大人の渡し方があるだろ?」
 赤面して硬直する冥月から草間はクッキーを取り、それを冥月の胸の谷間に挟んだ。
「きゃっ!?」
「ほら、いい子だから動くなよ」
 押し倒されるように胸の谷間のクッキー目指して草間の顔が…冥月はぎゅっと目を瞑った。

「とりっく おあ とりーと!!」

 バンッと突然入ってきた子供たち。
 硬直した草間の顔は冥月は一生忘れられないかもしれない。
「…吸血鬼だ!」
 1人の子供が言った。
「はっ!?」
 草間を指差して次々と子供が「吸血鬼だ」と騒ぎ始める。
 どうやら草間は押し倒した冥月の血を吸おうとしていたと子供達に勘違いされたようだ。
「吸血鬼をやっつけろ! お姉さんを救うんだ!!」
 勇気ある子供達は一斉に吸血鬼・草間へと強襲する!
「うわっバカ! 違う! これは神父の衣装だ!!」
「騙されないぞ! 吸血鬼め!!」
 追われる草間をぽかんと見ていた冥月に小さな赤頭巾の女の子が「大丈夫?」と声をかけた。
「…ふふっ、大丈夫よ」
 なぜか笑みがこぼれてきて、冥月は思わず笑ってしまった。
 そしてソファから立ち上がるとパンパンと手を叩いた。
「さぁ、子供たち。君たちは悪戯をしにきたの? お菓子を貰いにきたの?」
『お菓子ー!!』
「よし、なら並んでね。吸血鬼を苛めたらお菓子はなしよ?」
 冥月がそう言うと子供達は素直に冥月の前に一列に並び、床にねじ伏せられた草間はようやく解放された。

「ところでお姉さん、なんで胸のとこにクッキーを挟んでるの?」

 赤頭巾の少女は純粋な瞳でそう訊いた。
「…え?」
 焦った冥月に良い回答は浮かばなかった…。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ) / 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

 NPC / 草間・零(くさま・れい) / 女性 / ? / 草間興信所の探偵見習い


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 黒・冥月様

 こんにちは、三咲都李です。
 ご依頼いただきましてありがとうございます。
 恋人たちのハロウィンは少しエッチで楽しい方がいいですね♪
 ハロウィンの楽しい時間、少しでもお楽しみいただければ幸いです。
ハロウィントリッキーノベル -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年10月02日

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