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『とあるお店の軒先で。〜Sweet Halloween 』
御堂・玲獅ja0388

 それは御堂・玲獅(ja0388)が、久遠ヶ原学園に数え切れないほど存在する商店街のうちの1つ、なんだか言う名前の――これもまた、呆れるほどに似たような名前が存在して、学生のみならず教職員でもなかなか覚えきれないのだが――をそぞろ歩いていた時の事だった。今日は実に良い日和だし、差し迫って何かをやらなければならないという事もないものだから、足の向くまま散歩をしていたのである。
 久遠ヶ原と言う学園は、実に広大な敷地と、多彩な施設や設備があって、ちょっとやそっとでは回り切れるものではない。休日ごとに探検をしたとしても、すべてを見終わるまでに一体、どれほどかかるのだろうと考えずには居られないほどで。
 玲獅は学生達がちらほら歩き過ぎる商店街を、店の様子をのんびり眺めながら、歩いていく。ちょうどハロウィンの頃合という事もあって、オレンジも目に鮮やかな装飾や、可愛らしくデフォルメされたカボチャやオバケのインテリアが、所狭しと並んでいた。
 ファンシーショップにカジュアルシューズ、ブックストアにゲームセンター。どこもかしこもハロウィン一色に染まっていて、まるでどこかの外国に紛れ込んだよう。
 賑やかな商店街を歩いていた玲獅は、ふと、一軒のショップの前を通りかかった所で、まるで誰かに呼ばれたような心地がして、視線をくるりと巡らせた。そうしてそこに『居た』モノとばちりと目が合って、思わずそのまま足を止めてしまう。
 ソレは店の軒先にごろりと並べられた、不思議な模様をした幾つものカボチャ。中でもまるで、人間の顔にも、また別の生き物の顔にも見えるそのカボチャと、まさに目が合ったとしか言いようのない出会いを、玲獅はてしまったのだ。
 見ようによってはユーモラスにも、恐ろしげにも見える表情と、じっと見詰め合っているうちに何となく、玲獅の頬に理由のわからない笑みが浮かんできた。何だろう、まるでこれも1つの運命の出会いのような、そんな不思議な気持ちになってきたのだ。

「そのカボチャを1つ、頂けますか?」

 気付けば玲獅は店主にそう、見詰め合っていたカボチャを指差しながら、告げていた。はい、と頷いた店主がガサガサとカボチャを新聞にくるみ、ビニール袋に入れて渡してくれる。
 ありがとうございますと、受け取り玲獅はまた歩き出した。歩き出しながら、さて、と手にかかるずっしりとした重みに、お伺いを立てるような眼差しをついと落とす。

「……で、どうしましょう?」

 つい、運命に後押しされるようにカボチャを買ってしまったけれど、これからこのカボチャをどうしよう。玲獅は軽くビニール袋を持ち上げて、ガサガサとカボチャを揺すってみた。
このまま飾っておく? 面白い出会いだったと、食べてしまう? それとも、そうだ、ちょっと頑張ってランタンにでもしてしまう?

「そう……ですね。確か、ご近所に詳しい方がいらっしゃった気がします」

 ふと浮かんだ思いつきに、玲獅は自分でこくりと頷き、呟いた。ずっしりと重い、人の顔にも動物の顔にも見えるこのカボチャ――せっかく、こんなハロウィンに出会ったのも何かの縁だから、自分でジャック・オー・ランタンを作ってみる、と言うのも面白いのかもしれない。
 そう考えると玲獅は、うん、と1つ頷いて、どこか浮き立つような足取りで、カボチャと一緒に自宅へ向かって歩き始めたのだった。





 玲獅は、自分自身では今まで、ジャック・オー・ランタンを作った事はない。せいぜい飾るとしても、その辺りのお店で売っている出来合いの、それもカボチャではなくプラスチックなんかで出来たおもちゃの飾りくらいのものだ。
 だから玲獅はもちろん、どうやってカボチャをランタンにするのかも、そのためには何の道具を用意すれば良いのかすら、解らなかった。故にカボチャ以外は身一つで訪れた玲獅に、近所に住む友人は当然ながら驚いた様子を見せたものの、事情を聞くとくすくす笑って、必要な道具を用意してくれた。
 といって、そう特別な道具が必要な訳では、ない。

「まずはね、ナイフでカボチャのヘタを切り抜くのよ」
「ヘタを、ですか?」
「うん。中身をくり抜く入口を作るの。あとね、切り抜いたヘタは最後にランタンの蓋にするから、綺麗に切り抜くようにしてね」

 ハロウィンに詳しく、毎年自分でもジャック・オー・ランタンを作っていると言う友人は、そんな風に1つ1つ、何も知らない玲獅に丁寧に教えてくれる。それに従って丁寧に、ゆっくりとナイフを動かしてカボチャのヘタを切り抜き、中身を綺麗に掻き出していくと、我ながら呆気ないほど簡単に、カボチャの中身が空っぽになった。
 そうしたら次は、カボチャの顔をくり抜く作業だ。といって、元よりどこかユーモラスな顔を持っているカボチャなのだから、せっかくだしこのままランタンの顔にしてしまうことにしようと思う、と告げると友人は、それが良いわ、と笑顔で大きく頷いた。
 力を入れすぎないように、まずは右目に当たる部分に慎重にナイフをカボチャの皮に突き立て、模様に沿ってゆっくり動かす。そうしてグルリとナイフの刃が一周したところで、すっとナイフを引き出すと、一緒にポコリと皮が手前に落ちてきた。
 同じように左目を切り抜いて、最後にまるで笑っているような、ユーモラスな口を切り抜く。そうして仕上げに、最初に切り抜いて置いておいたヘタの部分をちょこんと乗せると、どこからどう見ても見事な、ジャック・オー・ランタンの出来上がりだった。

「うまいじゃない」
「そうでしょうか……」

 手放しに褒めてくれた友人に、自身の作ったランタンをグルリと回して眺めながら、玲獅はこくりと首を傾げる。一緒にやった方が解りやすいでしょ、と急遽カボチャを買ってきて一緒に作ってくれた友人の物の方が、遥かに上手に思えたのだ。
 でも確かに、これが初めてのランタン製作だ、と思えば上出来な部類かもしれない。やっと玲獅は納得して、明るい笑顔で頷いた。
 そんな玲獅に、友人がくすくす笑う。そうして「それ」とテーブルの上を、そこにこんもりと積み上がったカボチャの中身を、指差した。

「どうする? って言っても、食べるくらいしか出来ないけど」
「そうですね……じゃあ、余った中身はカボチャのお菓子にしてみますか」

 友人の言葉に、少し考えて玲獅はそう言った。彼女が料理を得意としていることを知っている友人が、やった、と歓声を上げる。
 そんな様子に苦笑して、玲獅は早速友人に断り、キッチンへと向かうとどんな材料があるのかを確かめた。冷蔵庫のポケットに牛乳と使いかけの栗の甘露煮、玉子にバター。乾物の棚には砂糖も揃っている。
 うん、と1つ頷いて、玲獅は友人を振り返った。

「すみません。もしクリームを買ってきて頂けたら、栗とカボチャのクラフティが作れそうなのですが……」
「クラフティ? 何それ、でも解ったわ、買ってくる!」

 そうして遠慮がちにそう言うと、大きく頷いた友人はあっという間にお財布を引っつかむと、部屋の外へと飛び出していく。おそらく、どこか近くのスーパーにでも向かったのだろう。
 くすりと玲獅は微笑んで、その間にとクラフティを作る準備に取り掛かった。まずはオーブンを操作して余熱160度にセットし、その間にお湯を沸かして蒸し器をセットする。
 湯気が立ちはじめたらくり抜いたカボチャを入れて蒸し、その間にグラタン皿に、冷蔵庫から出しておいて柔らかくなったバターを丁寧に塗った。その頃になるとカボチャが蒸し上がったので、柔らかくなったのを確かめて火を止め、大きめのお皿に広げて素早く冷ます。
 それを半分に分けていたら、買い物に飛び出していった友人が、息を切らせて戻ってきた。

「おまたせ! クリーム買ってきたわよ。……わ、良い匂い!」
「ありがとうございます。まだ少しかかりますから、お待ち下さいね」

 キッチンに飛び込んで来るなり、そう言って瞳を輝かせた友人からクリームを受け取って、玲獅は微笑み半分に分けたカボチャのうちの片方を包丁で細かく切りはじめる。こくりと素直に頷いた友人が、鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌でキッチンを出ていった。
 全部細かく切れたら、さきほどのグラタン皿に切ったカボチャと栗の甘露煮を並べる。それから、取り分けておいた残り半分のカボチャと牛乳、卵、砂糖、クリームをミキサーに入れて、すっかり形がなくなるまで回した。

「すみません。清潔なふきんはありますか?」
「引き出しに入ってるわ」

 そこで手を止めて、尋ねた玲獅は友人の言葉を聞いて、キッチンの引き出しから洗濯してあるふきんを取り出した。ふわりとグラタン皿の上に広げて、その上にミキサーの中身を慎重にとろとろと注ぐ。
 あとは、ふきんの端をまとめて握り、適度に力を加えながら中身を搾り出して漉したら、軽く湯煎にかけてバターをとかし、すっかり暖まったオーブンに放り込んだら40分ほど焼くだけだ。次第にキッチンのみならず、部屋中にクラフティの焼き上がる良い匂いが漂いはじめ、それにつれて友人の落ち着きの無さも輪をかけてひどくなって来る。

「焼き上がったら、もう食べていいの?」
「ええ。でも、食べ頃は少し冷めた頃ですよ」
「ふぅん。じゃあ、まずは焼きたてを味見して、あとは美味しくなるまで置いておくわ」

 至極真面目な顔でそう言い切った友人に、また玲獅は微笑ましく苦笑した。作り手として、こんなに楽しみにしてもらえるのは、実に嬉しいことである。
 クラフティの焼き上がりまで、玲獅は友人と一緒に紅茶を楽しみながら、のんびりとハロウィンについてあれこれと話して過ごした。そうしてついに焼き上がった栗とカボチャのクラフティを、今にも涎を垂らしそうな友人に半分残し、残りの半分をお皿を借りて持ち帰る。

「今から学校に行けば、着く頃にはちょうど、食べ頃になっているでしょうか」

 まだほかほかと湯気を立てているクラフティを見下ろしながら、玲獅は考えた。せっかく作ったのだから、いつもお世話になっている学校の先生や、友人にもこのクラフティを食べてもらいたい。もし行き会ったなら、「トリック・オア・トリート」の子供達にもあげたら喜ばれるだろうか。
 そう考えながら歩くのは、玲獅にとってひどく楽しい時間だった。いや、玲獅に限らず、自分で料理を嗜む者や、誰かにプレゼントをするのが喜びだという者なら、きっと誰だって相手がどんな顔をするか、喜んでもらえるか、ワクワクと考えるのは楽しい時間に違いない。
 見上げた空は、澄んだ青。夏の空よりも透明で、ひどく高く広がっているように見えるそれは、何よりも雄弁に、季節が秋へと移り変わったことを感じさせる。
 それを見上げ、玲獅はしみじみと呟いた。

「今年もいい経験ができました」

 ――こうして毎年、新しい『何か』を積み重ねて歩むのは、ひどく心地好く、楽しく、幸せなことだと、思った。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /  PC名  / 性別 / 年齢 /      職業     】
 ja0388  / 御堂・玲獅 / 女  / 17  / アストラルヴァンガード

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
そして、お届けが遅くなってしまいまして、本当に申し訳ございません(土下座

お嬢様の、ハロウィンに初挑戦をする物語、如何でしたでしょうか。
実の所、蓮華自身も興味はあるのですが、いまだにカボチャでランタンを作った事はありません。
さらに昔はカブで作ったのですから、昔の方の発想力と言うのはすばらしいなぁ、と思います。

お嬢様のイメージ通りの、初めての体験に心浮き立つノベルになっていれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
ハロウィントリッキーノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年10月10日

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