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『大きなカボチャの実の中で〜天谷悠里の場合 』
天谷悠里ja0115

●大きなカボチャの実の中で
 あなたと わたし
 たのしくあそびましょう
 おおきなカボチャの みのなかで

 何処かで聞いた事があるメロディが、天谷悠里(ja0115)の脳裏を過ぎった。
 尤も、今立っている場所は大きな栗の木の下などではなくて――

 ――カボチャの部屋の中だった。

●ちょっと不思議なハロウィンパーティー
 丸や三角の窓が開いた、オレンジ色した壁。
「ここ、どこ‥‥」
 おろおろと悠里が辺りを見渡してみると、見た事ない、素朴でファンシーな部屋にいた。
 職人さんの手作り感満載の木製テーブルセットには幾何学模様のクロスが掛かり、正統派ティーセットが並んでいる。テーブル中央にはカボチャを繰り抜いた器に薔薇とガーベラのアレンジが飾られていて、何処かほっとするような温かみを添えていた。
「可愛い‥‥」
 何だか、童話の世界に来たみたい。
 三段のケーキスタンドにはプチケーキにスコーン、一口サイズのサンドイッチも乗っていて、今にもお茶会が始まりそうだ。
「おや、人間の子がいるよ?」
 ちょっぴり小腹の主張を感じて、悠里がお腹を押さえていると背中へ声を掛けられた。
 この部屋の人かしら、振り返った悠里は唖然とした――何故なら。
「何? キミ、ケットシー見るの初めて?」
 後脚で起立した黒猫――よりちょっと大きめの猫型生物が、きちんと衣服を身に纏って悠里を見上げていたのだから。

「ノラさん!?」
「失敬な。ボクはケットシーのジェフリー・ノーランド、子爵と呼んでくれたまえ」
 黒猫の彼は身丈に合ったスリーピースを品良く着こなして、猫背な胸を反らしてみせた。
 悠里が最近仲良くなった(と悠里自身は思っている)ノラ猫にとてもよく似てはいるが、当然ながらノラ猫は人語を喋らないし二足歩行もしない。
 猫違い――にしては似すぎているノーランド子爵は、悠里の姿をしげしげを眺めて結構失礼かもしれない事をのたまった。
「キミ、どうも間違って呼ばれたみたいだね」
「‥‥え」
 このファンシー空間で今これからお茶会が始まろうという時に、お呼びでないと言われれば寂しくもありショックでもあり。
(呼ばれてないなら帰るしかないですけど‥‥どうやって帰れば‥‥)
 呆然としたままぐるぐる考えている悠里だったが、子爵はあくまでマイペースだ。
「まあ、いいんじゃない?」
「え」
「人間代表って事で、楽しんで行ってよ‥‥だけど」
 どうやら子爵の判断でお茶会参加が確定したらしい。まだ事情がよく呑みこめていない悠里に、子爵は器用にウインクして言った。
「折角のお茶会だ、お洒落しなくちゃね」
 子爵が前脚で何かを招いた。招き猫の福招きみたい――悠里がそう思った瞬間、身体が軽くなったように感じた。

「どぉ? これが今日の正装だよ」

 足元が妙にふわふわすると思ったら、バルーンスカートタイプのワンピースを着ている。オレンジ色だからまるでカボチャみたいだ。
 ワンピースの上には黒のロングベストが優美になびき、全身を繊細なアクセサリが取り巻いている――動く度に揺れるそれが何処から続いているのかを辿ってみて、悠里は自身の結い上げた髪に付いた髪飾りになっているのだと気付いた。
「よ、良かった‥‥着替えや変身シーンがなくて」
 妙に現実的な感想を述べる悠里。まあそれはそれで。

 子爵にお茶会の心得など少々拝聴して――等々している内に、本当に招待されていた客人達が到着し始めた。
 魔女にゴブリン、精霊と妖精、もちろん子爵のような二足歩行の動物達も。部屋へ迷い込んだコウモリだと思いきや突然ヴァンパイアに変化したり、一々驚いていてはキリがない。
「どう? びっくりした?」
 目を丸くしている悠里にウインクした子爵は、徐にお茶会の挨拶を始めた。
「ようこそ、ボクのお茶会へ。今日は特別ゲストに人間のお嬢さんをお呼びしているよ。でも、くれぐれも味見しないようにね」
 一遍に全員の注目を浴びてしまった。
 照れて俯いた悠里に近付いてきた妖精の少女が手を差し出す。
「平気よ、ここでそんな無粋な事をする人はいないから。さぁ、踊りましょ」
「ワルツは踊れるかな、美しいお嬢さん」
 獣人の笛、精霊の美女が竪琴を奏でる中、妖精の少女とくるりくるり。続けてヴァンパイアのエスコートでワルツを一曲。手を引かれて椅子に座れば、子爵が紅茶を淹れてくれた。
「スコーンには何派? ボクのオススメはゴブリン牧場のクリームチーズかな」
「‥‥‥‥」
 ここのゴブリンは畜産業をしているらしい。子爵に紹介された彼は地道で寡黙な性格のようだ。スコーンを食した悠里の笑顔を見て、初めてにぃっと笑顔を見せた。
「さて、一休みの後はボクとも一曲踊ってくれないかな?」
 子爵の誘いでまた一曲。
 踊っては休み、休憩しては踊り歌い――楽しい時は瞬く間に過ぎていった。

 ――やがて。
「お嬢ちゃん、そろそろお帰りよ。人間界との境界が強くなって来ておる」
 魔女が時の終わりを告げる。
 ハロウィンは、人の世界と精霊達の世界の境界線が曖昧になる日。人が迷い込むのも帰れなくなるのも、不思議はないのだ。
「次のハロウィンまで、ボクたちと一緒に暮らしてみる?」
 子爵はそう言って悠里を誘ったけれど、神隠しに遭う心の準備は出来てないから遠慮しておいた。
 仕方ないねと子爵はウインクして言った。
「じゃあ‥‥向こうの世界で、また逢おう」
「え‥‥?」

 あの言葉の意味は――尋ね返す前に、悠里の魔法は解けていた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja0115 / 天谷悠里 / 女 / 19 / 妖精達のお茶会に招かれた女の子 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 周利でございます。
 この度はご指名ありがとうございます。またお逢いできました事、嬉しく思っておりますv

 さて、今回はハロウィンのお茶会との事でしたので、自由に描かせていただきました。ハロウィンと言いますとお菓子に目が行きがちですが、この時期のフラワーアレンジメントも独特で楽しいものですね♪
 ノラさんの性別と毛色を此方で決めてしまった感がございます。もし想定外の設定でしたら、遠慮なくお申し付けくださいね。
 不思議なひととき、お楽しみいただけておりましたら幸いです。
ハロウィントリッキーノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年10月15日

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