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『大きなカボチャの実の中で〜饅頭兵士ズの場合 』
弓亜 石榴(ga0468)

●閉じ込められて
 あなたと わたし
 たのしくあそびましょう
 おおきなカボチャの みのなかで

 何処かで聞いた事があるメロディが、美咲の脳裏を過ぎった。
 尤も、今立っている場所は大きな栗の木の下などではなくて。

 繰り抜いたカボチャの中だった。

 ちょっと生臭い。生カボチャのようだ。
 中身は綺麗さっぱり繰り抜かれて残っていない。意外と広い部屋だなと見渡してみると、丸や三角の窓が開いている。
(外が見えるかも!)
 美咲が慌てて窓へ向かって駆け出した途端、足元に残っていたワタに躓いて盛大にすっ転んだ。顔面から突っ込んだにも関わらず、衝撃が柔らかい。
「大丈夫ですかミサキさん!」
「あ‥‥ありがとう」
 美咲の顔先に、潰れた饅頭兵士が居た。

「ないすふぁいと!」
「キミの潰れ顔は無駄にはしないよ!」
「あの子が彼女を呼んでくるまで、ミサキさんは私達が護り切るのです!」
「「「おー!!!」」」

 生臭い空間に佇む美咲の傍を、饅頭頭の小人達がわらわらきゃーきゃー走り回っている。一丁前に軍服を身に着けている小人達は、不思議の国の兵隊達だ。
 美咲は饅頭兵士達に護衛されて、不思議の森に住む祖父母を訪ねる途中で、兵士達もろとも此処に囚われてしまったのだ――ジャック・オ・ランタンの中に。

●タイムリミットは腐敗前
 カンパネラ学園、図書室奥――
「‥‥という訳でして、はい」
 かくかくしかじか。
 一体の饅頭兵士から話を聞き終えた高城 ソニア(gz0347)は「それでお一人なんですね」と呟いた。

 ――と言うのもこの饅頭兵士、兵隊であるからして常に複数で行動するのが常なのだ。
 しかしソニアの目の前にいるのは一体のみ。
 なんでも森の番人夫婦の許へ孫娘を送り届ける最中に、ジャック・オ・ランタンの罠に掛かり拘束されてしまったのだそうで、三角窓から何とか抜け出せた一体がソニアに救助を求めて来ていたのだった。
「ジャック・オ・ランタンは逆恨みしているのです」
「逆恨み?」
「ハロウィンを終わらせたのはロジャー爺さん達だ、と‥‥ミサキさんさえロジャー爺の小屋に着かなければ、ずっとハロウィンが続くと思い込んでいるのです!」
 確かに、不思議の国で昨年クリスマス近くまでハロウィンが続いたのは、孫娘のミサキを待つロジャー夫婦の心が引き起こしたものだった。
 おかげで不思議の国にはハロウィンが終わっても巨大カボチャが居座った挙句、お城の女王様が『クリスマスだろうがバレンタインだろうがカボチャが無くならない限り永遠にハロウィン法』を成立させてしまい――ソニアは解決に駆り出された、のだが。
「今回の巨大カボチャは、ジャック・オ・ランタンの形になっているのです!」
「‥‥え、それって‥‥」
「加工済なのです! あまり長く置いておくと腐ってしまいます!!」

 饅頭兵士とソニアの脳裏を、腐った巨大カボチャが過ぎって行った――

「それは危険です! 公害です!」
「中に居る仲間達までカビてしまいます!!」
 青カビ黒カビ白カビでもっさりした饅頭兵士達なんて見たくない。そんなのと一緒に居る美咲の健康も心配だ。
「ですので、説得を‥‥ソニアさんのぱんちr‥‥」
「行きましょう! 今すぐに!!」
 最後まで言わせず、ソニアは饅頭兵士を引っつかんで不思議の国へ飛び込んだ。

●ジャック・オ・ランタン
 深い森の中――不思議の森の最奥に、番人夫婦の家はある。
 肩に乗せた饅頭兵士に案内されて、ソニアが陽光も差さない森の中を辿っていると、木々の向こうに光が見えた。
「饅頭兵士さん、ロジャーさんちの近道を開拓したんですか?」
「違いますよソニアさん、あの光が現場です!」
 ソニア達が光に近寄るにつれ、独特の青臭さと薙ぎ倒された木々が増えてゆく――なるほど、行き着いた先は小屋ほどの大きさをしたジャック・オ・ランタンが不気味に光って森に鎮座している姿であった。

「うっわ‥‥」
 不気味だ。こうして生カボチャの巨大ランタンを目の前にしてみると、ハロウィンモチーフの雑貨類が如何に可愛らしい代物かという事がよく判る。
 寮の自室に置いてあるジャックモチーフのキャンディポットを思い出して、ソニアは身震いした。こんな生臭いものの中にお菓子を入れるなんて、とんでもない!
「ソニアさん、ソニアさん!」
 髪を引っ張る饅頭兵士で我に返った。そうだ、このまま放置すれば中のお菓子――もとい饅頭兵士達が全員カビてしまう!
 二人は急いで巨大ランタンに駆け寄り、口付近のギザギザ隙間から中を覗き上げた。
「皆さん、ご無事ですか!?」
「助けに来ましたよ!」
 顔半分突っ込んで饅頭兵士が叫んだもので、囚われ人達も救援到着を悟ったらしい。
 しかし到着したのがたった二人だけだったので、美咲はちょっぴり不安顔だ。
「ソニア? 何であんたが此処に?」
「饅頭兵士さんに呼ばれました」
 高城ソニアは図書室の置物だ、傭兵としての戦闘技術は期待できない。美咲が自力で脱出する方法を真面目に考え始めた――その時。

「ハーっはっはっハ、そんな小娘一人で何がデキる!」

 隙間に顔を突っ込んだまま抜けない饅頭兵士はそのままで、ソニアは声の主を探して一二歩後ずさった。
 視線をずんずん上に上げてゆく――巨大ランタンの頂上に目だけが光る何かがいる。
「とウっ!」
 ずどんとソニアの背後に着地したそいつは、マントを靡かせカボチャの被り物をした人型の精霊だった。

「「「ジャック・オ・ランタン!!!」」」

 巨大ランタンの隙間から一斉に覗いた饅頭兵士達が声を上げた。名乗られずとも見た目まま、こいつが今回の元凶か。
 ソニアは極力穏便に話し合いを始めようと――したのだが。
「「「この人のぱんちら写真をあげますから、私達を解放するのです!!!」」」
 ――饅頭兵士達、勝手に交渉を開始していた。

「ちょっと待って、そんなの私認めませんっ!」
「ソニア、あたし達を助けると思って一肌脱いで‥‥あ、何なら全部でも!」
「美咲さんまで〜!!」
 わやわやきゃいきゃい。
 ジャックはすっかり蚊帳の外。事件の元凶は不貞腐れて言った。
「写真? オイラそんなもんいらねーよ」
 言いざま、背後からソニアの制服のスカートをばっと捲った。
「!! きゃー!!!」
 に、とジャックが笑ったような気がした。
 カボチャのせいで表情は見えないが、親指を立てている辺り会心の反応だったのだろう。巨大ランタンの隙間に詰まった饅頭兵士と、中からでは被写体を捉えられなかった兵士達が悔しがっている。
「「「あー! しゃったーちゃんすがー!!」
「イタズラってのはリアルタイムだから面白いんだゼ?」
 そう言って、スカートを押さえてしゃがみ込んだソニアの頭をぽふぽふ叩いている。ただでさえ小柄な身長が更に寸詰まりにされてくようで、ソニアは唇を尖らせた。
「さぁて、コイツもジャック様のローゴクへ入れておくカ。扉のナイ、二度と出られナイローゴクダ」
 巨大ランタンの中から悲嘆の大合唱が上がった。
 軽々と襟元を掴まれて宙ぶらりん。ソニアは完全に舐められている――でも。

「そんな牢獄、中から簡単に開けてしまいますよ?」

 ふふん、とソニアはできるだけ嫌味な表情を作った。ついでに、こっそりランタンに外から顔を突っ込んだままじたばたしている饅頭兵士の尻を軽く蹴っ飛ばす。
「物が腐る条件は、水分、酸素、温度‥‥それから微生物。もう牢獄の腐敗は始まっているのですよ」
「‥‥そ、そうです! 私達はお城の微生物‥‥ええっ!?」
 そうだったのかと驚き慌て憔悴する兵士達を他所に、ソニアは衝撃を受けているジャックへ畳み込んだ。
「そこへ更に私を入れるですって? そんな事をしたら、この牢獄はすぐに崩れてしまうでしょう。永遠に続くハロウィンなんて存在しないのですよ」
 気分は高飛車お嬢様、慣れない高笑いをしようとして咳き込んだけれど、ジャックはそれどころではない。ソニアを掴んでいた手を思わず手放して崩れ落ちた。
「オイラのローゴク‥‥年中ハロウィン計画ガ‥‥」
 その間に、顔を詰まらせた饅頭兵士をランタンの隙間から引っこ抜いて、ソニアといびつな頭の饅頭兵士は、すっかりしょげたジャックを覗き込み訪ねた。
「そもそも、何故そんな事を?」
「お城の女王様に拠りますと、ロジャー爺とミルーネ婆を逆恨みしてるそうですけど?」
「お爺ちゃんとお婆ちゃんを!? 何でよ、そこのカボチャ頭!」
 巨大ランタンの中で吠える美咲を囚われの饅頭兵士達が必死で取り押さえる中、ランタンの外では事情聴取が粛々と続いていた。
「ミルーネ婆ちゃんの菓子、すっげ美味いんダ。だかラ沢山欲しくて‥‥」

 ――大きなイタズラと引き換えなら、お菓子も沢山貰えるに違いない。

「被疑者の供述は以上であります、ソニアさん!」
「イタズラ通り越して犯罪でしたものね‥‥」
 嘆息するソニア。すっかり反省したジャックが囚われ人達を解放した途端、森中に青臭さが充満した。カボチャのワタをくっ付けた解放者達はそれどころでなくて、一斉に外の空気を満喫し始める。
「オイラ、もうミルーネ婆ちゃんの菓子食えねえナ‥‥」
 しょんぼりしているジャックはまだ小さな少年のようで。微笑して美咲は手を差し出した。
「ううん、そんな事ない。お婆ちゃんちにお菓子貰いに、行こ?」

●それから
 学園に戻って来たソニアは、寮の自室で饅頭兵士達と慰労のお茶会を開いていた。
「女王様の命令で‥‥それで美咲さんを護衛していたんですね」
「そうなんです。ハロウィンの時期はジャックの魔力が強まりますから念には念を入れて、と」
 結局纏めて捕らえられてしまった訳だが。
 ミルーネ婆からのお土産はパンプキンクッキー。生憎ランタンに使ったカボチャは料理には不向きだそうで、森に散乱した欠片は後日お城の兵達が回収・処分するそうだ。
 何層にも重ねた生地がサクサクと美味しいそれを嚥下して、ソニアは紅茶を一口。
 彼女の機嫌を伺っていた兵士の一人が、わくわくどきどき切り出した。

「あのですね、ソニアさん」
「不思議の森でジャックさんにされた事、ここでもう一度再現してみませんか?」
「私達、しゃったーちゃんすを逃してしまったので」
「女王様に叱られてしまいます〜」

 却下!! という声がソニアの部屋から聞こえたが、結局どうなったかは――当人達だけの秘密である。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ga0468 / 弓亜 石榴 / 女 / 16 / 不思議の国の饅頭兵士ズ 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもソニアと仲良くしてくださいましてありがとうございますv 周利でございます。
 饅頭兵士ズですから、別行動も取れるのです‥‥というお話でした。
 手元にジャック型のキャンディポットを置いて眺めながら書いておりましたら、風呂敷マントだのスカートめくりだのと、何だか昭和の悪戯小僧みたいに; 『2度目のハロウィン』のお題、とても嬉しく書かせていただきました。楽しんでいただけましたら幸いですv
ハロウィントリッキーノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2012年10月15日

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