▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『あきがくるまで 』
ファルス・ティレイラ3733)&(登場しない)

「秋が近いなー」
 ファルス・ティレイラは、ほのかに赤みが差し始めた木々を見て、呟く。
 ううーん、と伸びをした後、はっとしてポケットから紙片を取り出す。
「あ、こっち、だよね?」
 紙片には、地図が書かれている。ざっくりとした地図では在るが、道自体が少ないので事足りる。ほぼ、道なりだ。
「ええと、あとはこっちに」
 地図と景色を見比べ、ティレイラは呟く。そうして、目の前にある洞窟を見て、誇らしげに笑った。
 洞窟の情報をもらったのは、昨日のことだ。魔力の溜まり場となっている洞窟があるのだ、と教わった。どんなものだろう、と興味津々で身を乗り出すと、意味深な笑みと共に簡素な地図を描いて渡されたのだ。
「これは、行っておいで、という事だよね」
 うふふ、とティレイラは笑う。
 魔力の溜まり場がどうなっているのかが、楽しみでならない。
 足取りも軽く、ティレイラは洞窟に足を踏み入れる。
 洞窟内は薄暗く、明かりがなければ足元も見えぬ。ティレイラはそっと魔法の光を灯し、奥へ奥へと進んでゆく。
 歩を進めていくと、なるほど。確かに、魔力の渦を感じてくる。
「ここで、こんなに感じるなら……」
 ごくり、と唾を飲み込む。どんな状態になっているのか、楽しみでならない。
 しばらく進んでゆくと、少し開けた場所に到達する。光を使って確認すると、巨大な鍾乳洞になっているようだ。
「広い……」
 唖然としながら言い、ばさ、としまっていた翼を広げる。光を動かして辺りを確認すると、蝙蝠や蛇に似た鍾乳石が点在している。
「偶然、なのかな」
 炭酸カルシウムを含んだ地下水が、ぽたりぽたりと洞窟内に落下し、炭酸カルシウムを方解石として作り上げてゆくという。雫から作り上げていくのだから、当然形成までに時間がかかる。
 それが、あたかもさっきまで生きていたかのように存在しているのは、偶然以外に説明の仕様がない。
「これも、魔力の影響……かな」
 うーん、と小首を捻る。
「後で調べるとして……まずは」
 ティレイラは、視線を前方に戻す。
 前の方から、強い魔力を感じてならない。ぐるぐると渦巻いているような、感覚がある。
 そちらの方へと向かってゆくと、泉が湧き出ているのを見つけた。湧き出ているのは、水。だが、単なる水ではない。
 魔力を帯びているのだ。
「これが、魔力の溜まり場」
 ごくり、と唾を飲み込み、水筒を取り出す。
「師匠へのお土産にしよう」
 キャップを取り、魔力を帯びた水を汲もうとする。

――がしゃんっ!

 からからから、と水筒が地をすべる。
「な、なに?」
 慌てて辺りを確認すると、上から溜息交じりの「こっちの台詞よ」という声が降りてきた。
「あんた、何?」
 声の主が、姿を現す。ティレイラと同じく、背に翼を持っている少女だ。だが、ティレイラと同じ竜族というわけではなさそうだ。
「何って……この、魔力の溜まり場を確認しに来たんです」
「で、何する気だったの?」
 ちらり、と少女は転がっている水筒を見る。
「お土産を」
「はぁ? お土産?」
「だって、珍しいじゃないですか」
「だからといって、私のものを取らないでくれる?」
「え、私の、て」
 こほん、と少女は咳払いをしてから、邪悪な笑みを浮かべる。
「私は、魔族よ。だから、この魔力の泉は私のものなの」
「つまり、縄張り」
「そういうこと」
「猫みたいですね」
「なっ」
 カチンと来たような魔族に、にやり、とティレイラは笑う。
「大体、ここを縄張りにしているのって、魔族の中の話でしょう? だったら、私には適応されないはずです」
「そんな事ないわよ。ここ、私の場所だもの」
「だから、あなたのルールでしょ? ちょっとくらい、お土産にもらったっていいじゃないですか!」
「それの、どこがちょっとなのよ」
 びし、と少女は水筒を指差す。
 ちょっと、いや、かなりでかい。三リットルは入りそうだ。
「……ちょっとですよ」
「かなりでかいわよ!」
「ああ、もう、ならちょっとしか取りませんから!」
「そういう問題でもないわよ!」
 ばちっ、と火花が散る。目線と目線がぶつかって、そして少女の手から。
「奇遇ですね。私、火にはちょっと自信があるんですよ!」
 ティレイラはそういうと、掌から炎の玉を作り上げ、放つ。少女はそれを風の壁で防ぎ、そのまま攻撃に転じる。
 炎を纏った、風の剣だ。
「同系統の魔法を、素直に使うわけないでしょ!」
「競り合いなら、負けませんよ!」
 風の剣を炎で弾き飛ばす。風は辺りを吹き散らし、鍾乳洞内の水滴が雨のようにぼたぼたと広がった。
「なら、これはどう?」
 少女は悪戯っぽく笑い、水の膜を作り出す。ティレイラの頭上にそれを移動させ、一気に振り下ろす。
「捕える気ですか? 無駄ですよ!」
 ティレイラは笑みを携え、炎をぐるりと自らの周りを走らせる。水の膜は水滴になりはて、ティレイラを捕える事無く地上へと落ちる。
「……随分、ずぶぬれになったわね」
「こんなの、すぐに乾いちゃいますよ」
 ティレイラはそう言って、炎を生み出す……はずだった。
 力が、入らないのだ。立っているだけで精一杯で、炎を生み出そうとする力がわきあがらない。
「あ、あれ?」
 魔力不足だろうか、と思った次の瞬間、ティレイラの目にあのリアルな鍾乳石が飛び込んでくる。
 つい先程まで生きていたかのような、蝙蝠や蛇。見れば、蜘蛛やナメクジといった生物達もいる。
「もしかして」
 はっとして少女を見ると、少女は笑んでいた。冷たい眼差しで。
「ようやく、気付いた?」
「この水、ですね」
「そう。呪いを籠めておいたの。徐々に鍾乳石と化して、封印する呪いを」
 ティレイラは、唇を噛み締める。逃げ出そうにも、身体が動かない。もし動いたとしても、天井から呪いのこもった水が降り注いでくるだろう。
 ここは、鍾乳洞なのだから。
「だから、縄張りだって言ったでしょう?」
 こつこつと足音をさせ、少女はティレイラに近づく。
「素敵な翼と、尻尾ね」
 つう、と少女はティレイラの翼と尻尾をなぞる。すると、途端にそれらは鍾乳石と化す。
「ひっ」
「うん、素敵。似合うじゃない」
「やめてください! も、もう水は取りませんから」
「お土産に取ろうとしたじゃない」
「え、えへへ、まあちょっとだけ」
「ちょっと、じゃないでしょ?」
 ふん、と鼻で笑い、少女はそっとティレイラの足をなぞる。今度は、足が鍾乳石と化す。
「これで、逃げられないわね」
「元々逃がす気もなかったくせに」
「まあね。でも、そんな風に言われるのは、心外だわ。この手で、炎を出してきたじゃない」
 つう。今度は、手。
「綺麗な腰のラインね。さわり心地が、もっとよくなるんじゃない?」
 胴体。
「やめて。もう、もうやめ……!」
「素敵な顔ね」
 つう。

――ぱきんっ!

 制止の声を叫んだ顔のまま、ティレイラは完全に封印されてしまった。
 こうして、ティレイラの叫び顔の鍾乳石は完成したのである。
「蝙蝠や蛇だけだったから、なかなかいいオブジェになったわ」
 少女は満足そうに笑み、地面に転がっていた水筒を手に取った。
「これ、持たせてから封印すればよかったわ」
 そういうと、水筒の紐を伸ばして、ティレイラの首にかけてやった。
 それを見て、少女はぷっと吹き出し、直後に大声で笑った。その声は、当分の間鍾乳洞内に響き渡るのであった。


<封印解除は飽きがきたら・了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
霜月玲守 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年10月16日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.