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『Hapyy halloween 〜手品師のリクエスト〜 』
二上 春彦ja1805

●秋の夜長の訪問者
 暑くもなく寒くもなく、涼やかな風は心地良くさえあり――
 秋は何かと過ごしやすい季節だ。ゆえに、読書にスポーツと人々は活動的になる。
(僕はいつも通りですけど)
 収穫月が重なる秋は食べ物も美味しい――が、これも食に対する飽くなき好奇心を年中抱いている二上 春彦(ja1805)にしてみれば、いつも通りと言えそうで。
 ともあれ、彼はいつものように自室で寛いでいた。
 今のご時世、在宅であっても施錠を怠るのは危険だ。いかに撃退士といえど任務遂行外の犯罪者対処は管轄外、何より春彦自身がそんな面倒事に巻き込まれるのは御免被りたい性分だ。
 そんな訳で、彼はごく常識的に施錠して、独りの環境をごく普通に過ごしていた――のだが。

 ――がちゃがちゃ。

 施錠してあるドアを開けようとする音に眉を潜めた。
(また来たのか、あの人は)
 別に彼は頻繁に空き巣に狙われるような豪邸に住んでいる訳ではなかったし、そもそもあの人には合鍵を渡してあった。
(来るのは構わないのだけど)
 合鍵を渡してはいるが、決して母親や半同棲の恋人などではない。もっとしがらみがなくて、もっと迷惑な――

「そろそろ来る前に連絡を入れる事を覚えてくれませんか、百々先輩」

●自称手品師の要求
 玄関先で座り込んでいる百々先輩――百々 清世(ja3082)へ、春彦は苦笑混じりに抗議した。
 普段の春彦を知る人が見れば、異を唱える彼の姿に違和感をおぼえるかもしれない。しかし清世がその程度の苦情で堪えるような人物ではない事を春彦は知っていたし、実際清世は気にする様子もなかった。
「よー 二上! トリックオアトリート!」
 清世は片手を挙げて、ご機嫌でウインクした。
 その仕草に幾人の女性達が虜になったか知るべくもないが、大変愉しい酒だったようだ。着崩したスーツすら独特の色気が漂っている。アルコールと煙草に香水の匂いまで混ざった、気だるげで退廃的な大人の香りだ。
「お菓子くれなきゃ、マジックするぞぉ?」
 何だその脅し文句は。
 差し出された手をするりとかわして、春彦はにべもなく言った。
「お菓子なんて、ある訳ないじゃないですか」
「なんで、二上の癖に、用意してねーんだよ」
 奇妙な絡み酒だ。
 しかし春彦は慣れたもので、容赦なく受け流した。
「はいはい、悪戯はまた後にしてさっさとシャワー浴びてきてください」
「マジックだっつーの、それよりお菓s‥‥」
 清世は、とろんとした半眼で尚も菓子をたかろうとしたが、ずるずるとその場に崩れ落ちた。
 糸の切れた操り人形みたいに壁に寄りかかった彼は、半分眠り掛けている。春彦は慣れた様子で清世に肩を貸すと、ベッドへ運び込んだ。

(仕方ない、僕はまたソファ寝だな)
 酔っ払いにベッドを譲った後輩は、ソファの片側にクッションを集め始め――止まった。

「食べたくなったな‥‥」
 誰も聞いてないだろうけれど声に出して言ってみた。
 甘い物。別にハロウィンのお菓子という訳じゃない。夜中に突然甘い物が食べたくなるのは珍しい事じゃない。食に対する探究心が高い春彦だけに、男の一人住まいでも調理道具はきちんと揃えている。
 そう言えば、日曜の特売でカボチャを半個買ったっけと思い出しながらキッチンへ足を向けた。
 冷蔵庫を開けてみた。卵に牛乳、生クリームも完備。調味料は勿論揃っている。
 材料をテーブルに並べて分量を計りつつ、更に呟いてみた。
「カット済のカボチャは早めに使わないと‥‥そうだ全部使ってしまおう」
 うん、僕が食べたいだけなんだ。ちょっと多めに作るのはカボチャ消費の為、百々先輩の分はついでだ。
 声に出して自身に言い聞かせて、春彦はカボチャを刻み始めた――

●カボチャプリン
 翌朝、清世は春彦のベッドで目覚めた。
「あれぇ、俺ってば、二上んトコ来てたんだ‥‥」
 何があったか詳しい事は覚えてないが、昨夜が大変楽しかった事だけは何となく覚えている。
 ハロウィンの夜だったから、いつもよりちょっと良いワインを開けて、気の合う仲間達と一緒に未成年お断りの呑めや騒げの羽目外しを楽しんだ後、それから――何したっけ?
 とりあえず、宴の終着点は春彦の家だったらしい。

 ここは清世の大事な寝床のひとつだ。
 実家を出て以来、友人宅を渡り歩いている清世にとって、春彦の家は美味い食事にありつける気に入りの寝床だった。
(女の子んちに行かずに此処に来てたか‥‥)
 酔っ払いが無意識に求めたのは、人肌の温かさではなく居心地の良さだったのかもしれない。もしくは美味い飯。
 寝ている間に脱ぎ散らかした衣服を床から拾いつつ、清世はリビングへと向かった。
 今に始まった事じゃない、きっと春彦は自分にベッドを明け渡してリビングのソファで一夜を明かしたはずだ――ほら。

「おはおー‥‥‥‥」
「先輩、お化けの仮装か何かですか」
 寝惚けた清世の声に、朝刊から視線を外して春彦は苦笑した。
 半覚醒の清世は手品師の仮装だと主張しているが、傍目にはどう見ても酔っ払いにしか見えない。あるいは正体のバレたお化けの仮装か?
 ――と言うのも。
「先輩、シーツを着てますよ」
「おあ?」
 清世の腰にはワイシャツの代わりにシーツが巻きつけられているからで。
 どれーん、とシーツを引っ張って外そうとしている清世に、春彦はシャワーを浴びるよう勧めて言った。
「タオルは脱衣籠に入ってます。そのシーツは洗濯籠に入れておいてください。僕は1時限目から講義があるので、もう出ます」
 新聞を畳んでソファ脇の鞄を持ち上げた春彦は、バスルームへ向かう清世の背中に向かって、思い出したついでのように言い足した。
「あ、そうそう。冷蔵庫の中にプリン、入ってますから」
「?」
 昨夜、自分が強請った事などすっかり忘れている清世には、まさに寝耳に水の言葉だったが、とりあえずシャワーを浴びてスッキリした身体とアルコール摂取後の脳に、カボチャプリンの甘さは心地良く染み入ってゆく。

 しかし何故、あいつはプリンをくれたんだ?

 スプーンを咥えて清世は考える。
 そこらのコンビニプリンじゃない、春彦お手製のカボチャプリンを貰うだけの理由があったろうか――
(なんかよくわかんねーケド、美味いし、良いか)
 ごく素直な結論をして、清世はプリンを一匙、すくった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja1805 / 二上 春彦 / 男 / 19 / 何やかや言って面倒見の良い後輩 】
【 ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21 / ハロウィンのお裾分けに与る先輩 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初めまして、周利芽乃香でございます。
 この度はお二人の日常の1ページのご指名ありがとうございました!

 誰にでもフレンドリーな先輩と、誰にでも合わせられる事無かれ主義のマイペースな後輩。親友でも相棒でもなく、当然恋人でもない。
 お二人の関係は『気侭な自由猫さんと立ち寄り先のおうち』という解釈をさせていただきました。
 合鍵を持ってらっしゃる百々先輩ですが、同居していない以上は先輩専用のベッドはないはずで、先輩が泊まる度に春彦さんはベッドを占領されているのでは‥‥なんて考えて、こんな感じに。
 お互い干渉し合わない、ごく自然に傍にいる間柄‥‥とても素敵だと思います。BLではないはずです、多分!
ハロウィントリッキーノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年10月17日

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