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『■秋のあやかし荘 』
アリア・ジェラーティ8537)&柚葉・−(NPCA012)

 そろそろ肌に感じる熱には温さが薄れ、夕方を過ぎても煌々と照っていた陽は少々短くなってくるという……秋の訪れを感じ始めたある日のこと。

「毎度、ありがとうございます‥‥」
 ソーダ味の棒アイスを仲の良さそうなカップルに手渡しながら、アリア・ジェラーティ(8537)は丁寧な挨拶で送り出した。
 二人の背を見送った後で時計に視線をやれば、時刻はまだ二時を少々過ぎた頃。
(今日は、場所も良かったかもしれないけど……よく売れた……)
 残暑も厳しく気温も高かったし、と思いながらアリアは台車の中のボックスを開いた。
 食べるのに手軽な棒アイスは今の二本で完売となり、手持ちは少量のジェラートを残すのみ。
 ストロベリーやオレンジといった、女性の方が好みそうなジェラートを見ていると、ふとした事で知り合った柚葉の事を思い出した。
(そうだ、柚葉ちゃんの所に遊びに行こうかな……)
 いつでも訪ねてきていいとも言っていたし。今日がその時だ。
 そう思うと居ても立ってもいられず、アリアは残ったジェラートを容器に詰めると、半ば急ぐような足取りで柚葉の住んでいる『あやかし荘』へと向かっていくのだった。

■ようこそ妖しの集う宿舎へ

 辺鄙な場所の巨大なアパート、という説明がぴったりのあやかし荘。
「――あっ、アリアちゃん!! 久しぶり〜!」
 入り口の開け放たれている門――アパートのくせに正門などがあるのだが――をくぐって暫くした所で、丁度郵便を取りに玄関を開けた少女、柚葉と出会った。
 感情も尻尾に現れるのだろうか。にこやかに挨拶を返す柚葉のふさふさした尻尾が、左右に揺れる。
「うん……久しぶり。これ、お土産だよ……」
「え……こ、これ、アイスだよね! うわー、ありがと!!」
 容器に詰めたジェラートを手渡したアリアと、それを嬉しそうに受け取る柚葉。
 この暑さに最適の土産はかなり好意的に受け取られたようだ。
 溶ける前にすぐ食べようと言って、自分の部屋である柊木の間へと、柚葉の足は普段の倍近い速度で歩きだした。

 彼女の部屋で一緒に土産に持ってきたアイスを食べているアリア。
 一口食べて至福の表情の柚葉に話しかけようとしたアリアだったが――押入の襖に目を向けた途端、何かを見つけてしまった。

 襖の僅かな隙間に、テニスボールくらいの大きさがある光の玉が入っていった。
「あ……」
 思わずアイスを置き、立ち上がって押入れに近づくと襖を開くアリア。どうしたのかといった顔のまま、アリアを見つめている柚葉。ちなみに、まだアイスはその手に握られている。

 しかし――押入れの中に先ほどの光球は見あたらない。確かに見たはずだと、諦めきれずに探し始めたアリアへ、柚葉は今度こそどうしたものかと事情を聞いた。
「――ああ、それよくある事だよ? そういうものもあやかし荘の住人って思えば怖くないよ」
 彼女自身が既に狐の妖怪であるから怖がる必要もないのだが、柚葉はそのように説明する。
「……ちょっと驚いたけど、よくあるんだ……」
 そうだよっ、と元気よく応じてから……柚葉は何か思いついたらしい。含み笑いをしてから、アリアに提案を持ちかけた。

「アリアちゃん、あやかし荘内部を探検してさ、怪奇現象にいくつ遭遇できるか……ボクと勝負しようよ!」
「勝負……するの?」
 あやかし荘に足を踏み入れたのは初めてである。
 そこを探検するというのだが、うっかり他の住人たちの部屋に入り込んだりしてしまったらと考えると大丈夫だろうかと心配になる。
 しかし、彼女の提案はとても楽しそうだったため、アリアも快諾。柚葉は時間制限を設け、時間が来たらここに集合、という決まり事を残し……『用意、どん』で左右に散った。

 何でこんな事になったのかと思いながらも無限回廊と呼ぶに相応しい廊下を走るアリア。
 後方からドタドタと数人の足音が聞こえたので振り返ってみたものの、誰一人……猫の子一匹居ない。
 壁に掛けてある絵画も、横向きの女性が描かれているのだが……だんだん、その女性は正面を向き始めた。
 アリアは臭いで人間と人外をかぎ分けることができるのだが、部屋に『人間』はいないのに、なぜかドアをがりがりと引っかく音が廊下に響く。
(変なアパート……)
 あやかし荘の事をさほど知らないアリアも、この一風変わった住人、というか空気というか……そういったものに短時間で出会い、常識というものを乱されてきたようだ。
 天井の蛍光灯も、アリアが進むごとに明かりが消えていき、彼女が通り過ぎると明かりがまた元の通りに点灯する。
 もしかしたら、何か飛び出してくるかもしれない。
 注意深く壁や天井なども見ているうちに……

 通路の曲がり角にさしかかったところで……青い光球がボワっと燃えるように浮かび上がったではないか!
「……!!」
 あまり動じなかったアリアも、突如出現した光球に驚いたらしい。
 悲鳴らしい悲鳴は上げなかったが、思わず――この怪奇なる現象を『凍らせ』ようと、
 本能というか無意識的にというか……力を行使していた。

 咄嗟の事だったので力の加減を少々誤ったのか、光球周辺を凍らせたアリアの耳に……ひゃぁ、という聞き覚えのある少女の声が聞こえていた。

「……あ」
 まさかと思ってその近くに駆け寄ってみると……。
「酷いよ〜、尻尾が凍っちゃったよ〜」
 そこに居たのは柚葉で、彼女のふさふさだった尻尾の先は見事に凍り付き、重さで垂れ下がっている。
「柚葉ちゃん……ここは、ゴールじゃないよ? ……合流する場所でもなさそうだし」
 アリアの冷静な指摘を受け、柚葉は泣きそうな顔をした。
「ほら、勝負だけじゃなくて、せっかくだからちょっと怖がらせようかと思ったんだよね……」

 何がせっかくだというのか。

 アリアは術を解除し、びしゃびしゃになった柚葉の尻尾を見ながら、怪奇現象探しはこの次だね、と言ってハンカチを手渡す。
「驚かせるつもりが、逆に驚かされるなんてさ〜……勝負はお預け、っていうのもすごく残念っ」
 大好きな賭け事も中止になってしまったため、脱力しながらも柚葉が部屋に戻ろうと言ったのだが……彼女は、辺りを見回して困惑する。

「来た道と、違う道になってる……」
「え……」

 彼女たちが無事に部屋にたどり着いたのは、それから数時間後のことだったという。

-end-

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登場人物一覧


【8537 / アリア・ジェラーティ / 女性 / 年齢13歳 / アイス屋さん】

【NPCA012 / 柚葉 / 女性 / 年齢14歳 / 子供の妖狐】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
藤城とーま クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年10月18日

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