▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『+ 君と過ごすハッピー・ハロウィン・ナイト! + 』
工藤・勇太1122



 おいで、おいで。
 誘う声は闇の中より出で。
 おいで、おいで。
 甘く甘く貴方の耳元で囁く声。


 さあ、目を覚まして。
 でも気をつけて、此処は夢の中。
 まだまだ続くハロウィン・ナイト!


 ここではなんでも叶うから。
 君の望みを――夢のまにまに。



■■■■■



 そこは夢の中に建つ一軒の家。
 アンティーク系統の外装を持つ夢の『案内人』達の住処。
 そんな彼らの家に今日も今日とてハロウィン仕様もとい猫獣人化でやってきた俺はと言うと。


「トリックオアトリートにゃ! お菓子をくれなきゃ悪戯するにゃ!」


 勝手知ったる他人の家。
 ターンッ! と勢い良く扉を開いて住人達を驚かせに掛かるのだが……。


「あれ、誰もいにゃい?」


 普段ならば部屋の中央にはフィギュアが安楽椅子に座って微笑みながら出迎えてくれて、更に傍にはミラーが寄り添っている。だけどこの家の住人達の姿が今は見えず、俺はこてんっと五歳児な猫獣人となった首を傾げた。ぴっこぴこ。耳が何か物音を拾おうと動く。しかし誰の気配も無し。
 そこまで多くもない部屋をたたっと駆け、辺りを探すもどこにも二人の姿は無かった。
 ふにゃん? とまた小首を傾げてうにゃにゃんっと猫手をちょっと握り拳にし、それを顎にあてて考え込む俺。
 そしてピコーン! と考えが閃く。


「スガター! カガミー! ちょっとミラーとフィギュアの居場所教えて欲しいにゃー!!」


 家の外に出て、呼べば出てくるであろう残り二人の案内人達の名前を呼び叫ぶ。
 二人は住居無し、ひたすら夢の中で漂うように存在している不思議な存在。でも以前「呼べば来る」と二人から教えられていたし、今までは彼らを望むだけで登場してくれたのだが――何故か今回は出てきてくれない。


「うにゃ?」


 四人が四人とも呼び掛けに応じてくれないなどと始めての事態。
 これはもしかしてどこかにお出かけしてるのにゃ?
 うーむ。案内人としてのお仕事で頑張っているのかもしれにゃいにゃ。それだったら俺様、中で全員が帰ってくるのを待つ!!
 ぐっと猫手を拳にして気合を入れる。
 きっとこの場所に俺がちょーんっと居たら皆それはそれでびっくりすると思うにゃん。皆が帰ってきたら「トリックオアトリート!」って叫んでそれはそれは大量のお菓子を……ぐふふふふふふ。
 あ、よだれにゃ。ふきふきふき。


「じゃあ、いつもはミラーがお茶を入れてくれているから今日は俺様が自分でお茶を入れるにゃん!」


 台所までとててててーっと小さな身体を移動させ、幼児にしてはあまりにも広い台所へと行く。そしてふと考えれば此処は俺様がいつも使っているコンロとかじゃにゃいという事に今更ながら気づいてみたりするわけにゃのですが……。


「き、気合と根性で何とかにゃる!! とりあえず食器! カップを出すにゃ!」


 椅子をずりずり引っ張って棚の前。
 ぴょんっと俺様飛び乗って棚の前。
 カップは多分普段飲んでいるものだったら怒られないはずなのにゃ! あっちの棚に並んでいる明らかに「わたくし、こう見えて高価ですのよ」と主張している煌びやかなカップなど間違っても使わないにゃん。――と、言うわけでいつも飲ませてもらっているシンプルな白カップをゲットにゃー!!


「たったらー! 俺様何かがれべるあーっぷ!」


 一人である事を良い事に調子に乗ってはしゃいでみる。
 しかし誰も突っ込み役がいなくてしょぼーん。尻尾も耳も寂しさのあまり垂れちゃうにゃん。


「そして新たなスキル習得! 『 勇者勇太は  寂しさを誤魔化す事を  覚えた 』とか。――そんなぼっちスキルいらにゃいー!!」


 ははははは、と乾いた笑いを浮かべながら俺様次は紅茶の葉探しに探索、探索!
 しかしミラーはいつだって俺様の好みに合わせた紅茶を出してくれていたのにゃ。そしてブレンドもしてくれていたのにゃ。つまり、つまり、つーまーりー!!


「紅茶の葉多いにゃー!! にゃんだこの量ー!! 俺様いつも飲んでるのどれー! うにゃーうにゃー!」


 棚いっぱいに並べられた葉の入った瓶を眺め見ながら突っ込みを入れてしまう。
 しかもラベルが張っているものがあるかと思えば無いものもあったり。ラベルが張っているものでも種類が多くて俺様  超  混  乱  ☆ 
 アッサムは分かる。ダージリンもにゃんとか分かる。――でもカルチェラタンってにゃに。カンヤム・カンニャムってにゃんにゃのにゃー!!
 うーうーうー。わからにゃい。わーかーらーにゃーい!!


「うー、迷うにゃー。俺様迷ってるにゃー。<迷い子(まよいご)>にゃよー? 誰か出てきてくれませんかにゃー?」


 『 しかし  案内人は  誰も  来なかった 』


 心の中で思わずゲームのようなナレーションが流れる。
 マジでどこに行ったのにゃ。こんなはじめての事態、俺様どうしたらいいのにゃ! いつもは俺様がこんなにもあたふたしていたら絶対に誰か――主にカガミが「仕方ないやつだな」って笑いながらも現れて助けてくれたっていうのに。


「ってぼーっとしてたら茶葉零したー! ミラーに怒られる! ぎゃー! お湯もあふれたにゃー!」


 台所をめちゃくちゃにしつつ、俺様それでも一人分の紅茶を淹れきってみる。
 そしてそれを前にごくり、と唾を飲み込む。かつてこんなに紅茶を飲む事に対して勇気を必要としただろうか。いや、にゃい。匂いもこんな香りだっただろうか。うーむ。紅茶って入れるの難しいんだにゃぁ……。


「予想していたけど美味しくにゃい……」


 ぺい。
 子供らしく美味しくないものはこれ以上口つけにゃい。放置。
 振り返れば茶葉が散らばり、床は零れたお湯が湯気を立てていたり、ティーポットもあんまり宜しくない扱いをして……一言で言うとぐしゃーな状態である。
 ……飽きた。
 っていうか、一人寂しすぎてもう良いにゃ!


「こういう時は遊ぶにゃ! そうすれば気分もまぎれるし、俺様寂しくにゃいにゃん! よーっし、普段あんまりこの家で探索してにゃいからきっと面白いもの見つかるにゃん、探検ー!!」


 たたたーっと滅茶苦茶にした台所を放置して俺様だっしゅだっしゅ!
 変わった置物とか綺麗な鏡とか目新しいものを見つけ、目を輝かせたりしながら探索をするのは楽しい。でもフィギュアのお部屋には入らにゃいよ。そこは聖域にゃん。女の子だからって言うのもあるけれど、『フィギュアのお部屋』って言うのがポイントにゃん。もし滅茶苦茶にしても本人は「あらあら、仕方ないわね」って笑ってくれるだろうけれど――傍にいるミラーが怖いのでぜーったいに俺様入らにゃいのだ!! はっはっは!
 ……がたがたぶるぶる。過去を思い出すと怒ったミラーはマジで怖いにゃ。


 だから家の中の探検は主に物置っぽい部屋だとか、ミラーの部屋っぽいところとかを探り探り。
 しかしここで呪いのアイテムゲットー!! とかしたら怒られるので、出来るだけ触らにゃいようにはしてるにゃん。そういうアイテムがなさそうで有りそうなこの一軒屋。にゃんんにゃん、末恐ろしいと同時にちっさなダンジョンみたいで楽しいんだにゃん♪


 そしてどれくらいの時間が経ったか分からない頃。
 それはもう遊び尽くしまくって、色々と面白そうなものを見つけては見るだけの簡単なお仕事をしつつ……。


「俺様、飽きたにゃ」


 一人で寂しい一軒屋。
 もそもそとミラーの部屋のベッドに潜り込み、俺様超不機嫌モードなう。すんすんすんすん。寂しい。皆がいないこの家がこんなにも寂しいなんて思ってもみなかったにゃん。
 いつもだったら――、とほわわわわんっと頭に浮かべる情景。


『あら初めまして、<迷い子>。今日はどんなご用時かしら?』
『待ってフィギュア、彼とはもう何度も逢っているから記憶を渡すよ』
『あはは、僕らもフィギュアに覚えてもらえるようになるまで時間掛かりましたからね』
『ほら、勇太来い来い。抱きしめてやるからさ』


 う、う、う。
 思い出したら余計に涙が出てきちゃうにゃ。そう、今こそ寂しさを誤魔化すスキル使うにゃん! そう、それは『不貞寝』! ……ぼっちスキルさぁみしぃにゃぁー!!
 めそめそすんすん。猫の手で涙を拭きながら俺様おやすみするにゃん。きっと、きっと目が覚めたら皆戻ってきてるはずにゃんだから……そうに決まっているにゃん!


 そして俺様探索で疲れきった事もあり、すよすよと。良い寝息を立てながら寝ちゃう事にいたしましたとさ、まる。



■■■■■



「やっべ、勇太超可愛い、面白い」
「カガミー。そろそろ中に入って工藤さん慰めてあげようよー」
「流石にハロウィンの悪戯にしてはやり過ぎちゃったかもしれないわね。でもあたしの部屋を荒らさない配慮は嬉しかったわ」
「まあ、入ったくらいじゃ怒らないけれど、……台所が……」
「「 ミラーから怒気が!! 」」


 カガミとスガタがびくっ! と気配に反応して身体を跳ねさせる。
 そんな彼らの現在の居場所、チビ猫獣人が眠っているミラーの部屋の扉の前。フィギュアはミラーに抱かれながら「どうしましょ」と首を傾げているだけ。本気では困っていないようだ。


「とりあえずパーティの準備でもしておこうか。フィギュア、ケーキはパンプキン仕様にするけれど、他に何かリクエストはあるかい?」
「パンプキンパイとか美味しいわよね。紅茶はあたしが淹れようかしら」
「あ、僕はそれを手伝う。カガミは工藤さんの事起こしてあげなよ」
「え、寝顔見てたら駄目か?」
「「 リア充は爆発したら(しなさい) 」」
「あら、ミラーとスガタの声が揃ったわ」


 珍しい事もあるものね、とフィギュアは可愛らしい声で笑う。
 三人は台所へ、カガミはミラーの部屋の中で眠っているチビ猫獣人の元へと足を運ぶ。泣き腫らした目元が痛々しく、カガミはベッドの縁に腰掛けると彼の目元へと唇を落とす。


「あんま泣くと目玉落ちちまうぞーっと」
「ふにゃ……」


 やがて良い香りが漂ってくる室内で、チビ猫獣人が起きるまでカガミは添い寝をして彼を見守り続ける。
 起きた直後に「お……お菓子をくれなきゃ悪戯するにゃ〜っ」とカガミに抱きついてまたしても泣くチビ猫獣人が見られるまであと少し。


 ハッピー・ハロウィン・ナイト?
 いいえ、これは案内人達がちょっとした悪戯心を出した夜のお話。
 パーティが始まっても中々離れないチビ猫獣人を抱きながら、「俺得」とぐっと拳を握ったカガミは後で皆から呆れた視線を頂きましたとさ。








□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】


【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / ミラー / 男 / ?? / 案内人兼情報屋】
【NPC / フィギュア / 女 / ?? / 案内人兼情報屋】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 こんにちは、単品の方のトリッキーノベル発注有難うございました!
 案内人達がいない部屋――初めてですね。その中でやってきたチビ猫獣人な工藤様がにゃーにゃーするお話で御座いました。
 彼らがいない理由はお任せという事でしたので、「ハロウィンの悪戯」で。

 それはもう最後の方でカガミが嬉々としておりますが――その後はもう色々甘やかすと思いますので、べったりと幸せな時間をお過ごしくださいませ!
ハロウィントリッキーノベル -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年10月18日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.