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『【Half dreaming 〜 A dream, reality, the meantime】 』
エマ・フリーデン(ga3078)

●夢と現の迷い道


 ゆらゆらと、薄ぼんやりした意識が漂う。

  ――ああ、夢を見ているんだ。

 定まらぬ空気、漠とした思考、綴じた瞼に透ける陽光。

  ――私、は……夢を……。

 手を、伸ばす。
 うっすらとした気配の輪郭を、手探りで掴む。
 自分が目覚める場所への手がかりのような“それ”を、壊さぬように引き寄せて……。


   ○


「……」
 緑の瞳で、記憶にある天井を彼女はじっと見つめていた。
 首を横に傾げれば、懐かしい光景がそこにある。
 狭い部屋、見慣れた自分―エマ―の部屋……なのに。
 奇妙な『懐かしさ』を感じるのは、何故だろう?
 身を横たえていたベットへ手をつき、気だるげに身を起こす。
 裸足のまま床を歩いて窓を開ければ、流れ込んできた光と喧騒と埃っぽい空気が彼女を包み込んだ。
「まだ、暗い……」
 まだ窓の外の時間は夜も開け切っていないが、記憶と違わぬ光景が広がっていた。
 旧アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルス……その一角にある、スラム。
 変わり映えしない雑多な街の風景を、ぼんやりと眺める。
 何回、何十回、あるいはもっと沢山……幾度となく見てきた街並み。
 彼女が暮らしている世界は、いつもと変わらずにそこにあった。
(……だけど)
 いつもと変わらないはずなのに、いつも通りのはずなのに。
 胸の内に、鈍い奇妙な感覚が溜まるのを覚えた。
 何かボタンを掛け違えたような、濁った“しこり”のような。
 何気なく前髪をかき上げた指がふと額の傷跡に触れて、止まった。
(そう、これは……)
 ……違和感、だ。
 だが感じたソレの正体を明確に掴むどころか、その原因に到る根っこすら辿ることもできず。
 口元を押さえた手の下で、小さな欠伸が一つ。
(もしかすると……まだ眠いせい、かも……)
 外の喧騒と部屋の静寂を分けつ窓を閉めた彼女は、再びベットへ潜り込んだ。
 よくわからない違和感も今は思考の外へ置き、意識を覆う微睡みに身を任せ、眠りの淵へと落ちていく――。


   ○


「……?」
 次にまだ重い瞼を開いた時、頭上には覚えのない天井が広がっていた。
 ゆっくりと頭を動かしてみても、目に入る風景に覚えはない……知らない、部屋。
 でも知らないはずなのに、自分―幸乃―にはソコがどこか分かっていた。
 知っているのは部屋だけでない。
 自分とは別の、ベッドの上にあるもう一つの膨らみ……傍らにある人の気配も。
 ほとんど頭までシーツに潜り込んだ、穏やかな寝息の主が誰なのか。
 言葉は出なくても、何故だか知っている気がして。
 相手を思えば自然にふっと表情は和らぎ、口元から笑みがこぼれる。
 朝の光はまだ部屋に届かず、隣にある表情は窺えないが。
 彼女は少し身を起こし、シーツからのぞく頬へと、軽く唇を重ねた。
(まだ……少し早い、かな……)
 規則正しい寝息に誘われるように、彼女は再び身を横たえる。
 目を閉じれば、再び意識はゆっくり遠くて近い夢の世界へ解けていく――。


   ○


 夢の中で、夢に漂う。

  ――夢。私の夢。それは……何?

 ロサンゼルスにあるスラムの片隅、スプリングの硬いベッドで見ていた“エマ”の夢?
 それとも、『ラスト・ホープ』で傭兵をしている“朧 幸乃”が夢見た、夢?

  ――私。今の私は誰で、夢は……何?

 意識に浮かんでは消える、沢山の人たち。
 かつてバグアの侵攻に脅かされたアメリカは、解放へと向かっている。
 故郷への……かつて彼女が“エマ”という名で呼ばれ、暮らしていた場所への帰還。
 それが、にわかに現実味を帯び始めていた。
 一方で“朧 幸乃”が『ラスト・ホープ』で出会った友人や知人の、そして……自分の中にある気持ちが、淡く揺れる。
 伝えようと決めたけれど、また伝えられていない思い。
 そして……その、想い人。

  ――私は、どうありたいんだろう。

 まだ輪郭が鮮明に浮かばぬ思いは掴みどころがなく、掴めば泡沫の夢のように「ぱちん」と弾けてしまいそうで。
 そもそも自分が手を伸ばしてもいいのか、それすら躊躇って……。


   ○


 ぎゅっとシーツを掴みながら、彼女は独り、目を覚ます。
 まだ夢に漂っているのか、あるいは現実なのか、それを認識するのに数分を要し。
(お昼前……珍しく、お寝坊さん……かな……)
 陽の高さと時計の針を視界の片隅で比較してから、ゆっくり身を起こした。
 まだ醒め切らぬ頭の隅で、今まで漂っていた夢の痕跡をぼんやりと思い返す。

 過去、自分があった場所へ回帰と。
 明確ではない、誰かとの未来と。
 ……どちらも自分である筈の“エマ”と“朧 幸乃”の、どちらとして生きていくか。

 ここしばらく、そんな事を漠然と考えていたせいかもしれない。
 いま見たばかりの夢――内容は既におぼろげだが――に、なんだか不思議な気持ちを覚えながら、深く息を吐いた彼女は髪をかき上げた。
(でも……自分は、どこへ帰りたいのだろう)
 まだぼんやりと漂う思考を、タンタンと床を踏む音が現実へ引き戻す。
 気付いて、そちらへ目をやれば。
 長い耳と手触りのいいもふもふした毛並みを持つ『同居人』が、黒目がちな瞳で彼女を見つめていた。
「ゴハン……遅くなっちゃった、ね……」
 手を伸ばし、御免ねと謝りながら軽く頭を撫でてやる。
 用意する食事は、自分一人と兎一羽分だっけ……今は、まだ。
 そしてベットから立ち上がった彼女は、ちょっぴり遅いブランチの支度に取り掛かった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【ga3078/朧 幸乃/女性/外見年齢23歳/エレクトロリンカー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お待たせしました。「常夏のドリームノベル」が完成いたしましたので、お届けします。
 CTSの依頼でもお世話になりつつ、いつもノベルという形での楽しいご縁も、ありがとうございました。
 CTSの本編ではバグア本星を巡る決戦もほぼ収束に向かい、これからの皆さんの行く末が気になるところですが。
 迷いながらも幸乃さんが悔いを残さぬ未来へと繋がる、その道筋の一歩となれば幸いです。
 もしキャラクターの描写を含め、イメージと違う内容となっていましたら、申し訳ありません。その際にはお手数をかけますが、遠慮なくリテイクをお願いします。
 最後となりますが、ノベルの発注ありがとうございました。
 またお届けが遅くなり、本当に申し訳ありませんでした。
(担当ライター:風華弓弦)
常夏のドリームノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2012年10月22日

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