▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『   ふたりのSEEK GAME 』
日下部千夜ja7997

 眼の前にあるのは小さな小瓶。
 きっと恋人のところにも、同じもの。
 これはゲーム。
 姿を変えた恋人を見つけるという、まるで魔法のゲーム。
 いや、ハロウィンという日そのものが、すでに魔法の一部なのかもしれない。

 ゲームのルールはシンプル。
 別々の場所からスタートして、見つければそれでジ・エンド。
 参加者は二人。
 青年の名前は日下部 千夜。
 少女の名前は夏木 夕乃。
 ご褒美は――見つけてからの、お楽しみ。

 さあ、時は来た。

 《GAME START!》

●SIDE:S−1
「……なんや、俺の姿……随分かわええなあ」
 俺の服装はパーカーに長ズボン、どこにでもいそうないでたちだ。ただ、指にはめた指輪だけは絶対に外さない。
 青いビーズで丁寧に作られたそれは、夕乃からの心のこもったプレゼントだからだ。
 鏡の前で、何度かにらめっこする。たぶん今の俺を知ってる奴が見たら、全くの別人に見えるだろう。
 普段こそ無表情で通っているけれど、今の姿の俺は表情がくるくると変わる。……十一歳、くらいだろうか? 普段の夕乃と、同じくらいの背丈だろうか。きっとこれもハロウィンの魔術だと思って、俺は口角をニンマリと上げる。
 誰にも気付かれないくらいなら、きっと――夕乃も気づかない。
 そう思うと嬉しくて、楽しくて、パーカーのポケットに手を突っ込んで鼻歌を口ずさむ。こうやっていると、本当に見た目相応の子どもなんだろうな、と思いながら。
(とりあえずははよ、夕乃を見つけんとあかんな)
 俺は夕闇迫る中、外へ駈け出していった。

●SIDE:Y−1
「うわぁ……背が高くなった、のかな?」
 あたしは鏡でまじまじと自分を見つめる。そこにいたのはあたしによく似てるけど、あたしが見たことのない、すごくきれいなお姉さんで。
 髪の毛は腰の下まであるロングヘア。手櫛を通すと、さらっとなびく。
 しかも、なんだかすごく落ち着いて見える――なんだかまるで、あたしじゃないみたい。
 ……ハロウィンだし、いろいろ特別でいいんだよね。
 あたしは準備してあった魔女の扮装に袖を通した。黒のカクテルドレスにマント、三角帽子。ほんのりセクシーな、大人っぽい魔女。普段のあたしじゃあ、絶対似合わない姿。
 あ、もちろん手袋は外さないけどね。背中の紋章は、さすがに隠してある。これで見つかっちゃったら、元も子もないでしょ?
「さて、千夜さんはどこかなあ……」
 千夜さんはあたしと反対に、幼くなっているはず。昔の千夜さんの姿まではわからない。だから、あたしは瞳を探す。
 千夜さんの綺麗な、青紫の瞳を。

●SIDE:S−2
 表に出てパッと目に入ったもの。
 それは猫だった。
 まだ子猫だろう、人になつくとか以前の状態でにぃにぃと鳴いている。
 このへんで捨て猫もあるわけなし、たぶん、いわゆる半ノラなんだろうけど――俺はつい、屈んでそいつに手を伸ばす。
「……なんやひとりぼっちなんか?」
 声音は普段よりも優しい。自分でもわかるくらいに。
 子猫はにぃ、と鳴いて、俺の手に擦り寄ってくる。そのさまを見て、夕乃を思い出した。
 見ているだけでもわかる、そばにいるだけで嬉しくて楽しくて仕方ないって言うことを体全体で表現する、俺の恋人。
 大切にしたいと、ずっと思っている。
 だけど、ちょっと不安にもなる。
 夕乃のことを子ども扱いしてしまったことが、今も気になっている。
 今は、どうだろう。
 ちゃんと対等に、接しているだろうか。
 猫を見ていて夕乃を思い出すのは、やっぱり自分がそれだけ、夕乃のことを想っているからなんだろうな、とぼんやり考える。
 何もない相手にこんなふうに悩むなんて、ないだろうし。
 年下の、可愛い恋人。
 幼いけれど、自分のことを思い切り好きといってくれる恋人。
(……今、あいつはどこにおるんやろう)
 零れ落ちそうなほどに大きなオレンジの瞳を思い出して、ちょっと口元が緩んだ。
 ――俺が、見つけたるんやからな。
 不敵な笑みを浮かべて、俺は立ち上がる。
 猫はもう一度にぃ、と鳴く。
 俺を応援してくれているかのように。
「夕乃、待っとるんやで」
 俺はそうつぶやくと、また歩き出した。

●SIDE:Y−2
 普段と違う視線に立っているせいだからかな?
 なんだか街の中の何もかもが新鮮に見える気がする。
 あたしはきょろきょろとあちこちを見渡しながら、そんな中をひょいひょいと歩いていた。
 普段は買い食いなんて怒られそうだな、って思って出来ないんだけど、今日は特別。
「あ、このマロンクレープくださいっ」
 いつも気になってたクレープ屋さんで、季節限定のクレープをぱくり。口の中に、控えめだけどしっかりとした栗の香りが広がる。
「おいしいー!」
 普段はなかなかこんなふうに自分を出せないけれど、今日くらいはいいよね?
 あ、もちろん千夜さんの前ではいつも『あたし』だけど。
 ……普段は、どうしても師匠と慕っていた育て親のせいで、どこか三下っぽくなっちゃう。でも千夜さんの前でだけは、本当の自分が出せる。
 包み隠さない、本当の自分を。
 それが楽しくて、嬉しくて、千夜さんにはつい甘えてしまうのだけど……
(本当にこのくらいの年齢になっても、あたしは千夜さんのそばにいられるかな? いられるといいな……)
 だってそれは女の子としては、やっぱりみたい夢だから。
 好きな人と一緒にいられるなんて、やっぱり嬉しいから。
 考えるだけで、頬が熱くなる。
 でもこれって、やっぱり好きだからだろうし。
 とくとくと高鳴る鼓動をきゅっとおさえて、あたしはクレープを食べ終えた。さいごの方は、味があんまりわからなくなってた。
 ……ドキドキって、一人でもするんだなぁ……
 そんなことを思いながらまた街を歩く。
 と、コツンと人とぶつかった。魔女の三角帽子で前方不注意になってたし、千夜さんを想ってそわそわして、ちょっとぼんやりしてたのかもしれない。
 ぶつかった人は、体の大きな男の人だった。
 当然ながら学園生だろう。着崩してはいるけど制服姿、ネクタイを見れば高校生ってわかる。……不良っぽいなとかぼんやりと思う。
 そんなあたしは本当は中学二年で、だけどそんなこと相手にわかるはずもなくて。
「綺麗な姉ちゃんだな……ねえねえ、お茶でも一緒にどう?」
 その男の人は、開口一番こう言った。……ナンパ? あたしにはよくわからない。だって、ろくに経験ないし。それよりも千夜さんを早く見つけたくて、あたしは、
「そういう余裕ないから」
 そう言ってその場をあとにしようとした。だけど次の瞬間、
「……姉ちゃん、ハロウィンだからって浮かれてるなよな?」
 そう言われて、腕を掴まれた。
 痛い。
 ――怖い。
 千夜さんはまだ見つからないのに、早く見つけたいのに……っ。
 だけど、目の前の男の人は、怖い。
 今のあたしよりも年下っぽいのはわかってる。でも、そんなことお構いなしというか……
 あたしは思わず泣きだしてしまった。
 千夜さん、千夜さん、千夜さん……っ!

●CONTACT→MISSION OVER
「千夜さん……っ」
 夕乃が思わず声を漏らす。涙混じりの、情けない声。
 だけれど、それが耳に届く位置に――千夜はいた。
「夕乃っ?」
 パーカーに長ズボンという、どこにでもいそうなちびっ子が駆け足で近づいてくる。その瞳に宿るのは、青紫の輝き。
 夕乃が見間違えようのない、大切な人のきらめき。
 不良学生は近づいてくる子ども――千夜に気づいたのだろう。
「なんだお前。お子様はあっち行ってお菓子でも食ってろよ」
 そう言って軽くあしらおうとする。しかし、そうは問屋が卸さない。
「姉ちゃん、探したんやで。父ちゃん怒っとったで」
 肉親のおらぬ夕乃に対してそんな口からでまかせを言いながら、少年はきっと睨み返す。それはとても強い、意志の力。……千夜らしい、意志の力だ。
「千夜さ――」
 夕乃は言いかけたが、思い直して口をつぐむ。自分からばらしてしまうような真似は、あまりしたくない。
 それに、こういう時にこの恋人がどう接してくれるのかもとても気になる。だから、見守っていることにした。
「なんだ、ちびっこ」
 学生は睨みつける。だが千夜の持つ気迫に、すでにやや気圧され気味だ。
「姉ちゃん泣いとるやん。嫌がってるやん。離したりや」
 ――ああ。
 夕乃は思う。
 この人はどうして、いつもこんなに一生懸命で。
 夕乃自身とまだ確信があるわけでないだろうに、夕乃を守ってくれる。
 そう思うと、一層涙があふれてきた。それを見たからだろうか、不良生徒はふん、と呟いてから、
「……っ、なんかやる気が失せた。ガキに感謝するんだな」
 いかにもな捨てぜりふを吐いて立ち去っていった。それまでの緊張が解け、夕乃はぺたりとへたり込む。
「こ、怖かった……っ。助けてくれて、ありがとう……」
 安堵の言葉と同時に、また涙。それを懸命に手で拭っていると、すっとハンカチを差し出された。同じ目線になるようにしゃがみこんでいる、少年がそこにいた。
「……涙、ふきや」
 言われるままにハンカチを受け取る。と、千夜はそっと夕乃を抱きしめた。そして、耳元でそっと囁く。
「……みつけた。怖い思いさせたな、ごめん」
 その口ぶりはいつもの千夜のもので、夕乃はまた安堵したという表情で今度は泣きながらではあるが、喜びの声を上げた。
「千夜さんっ! わーん、やっと、やっと会えた……会いたかった、よぉ……」
 そう言って夕乃からも抱きつくと、そっとその頬にくちづけを二、三度落とす。
 ずっと一人でいろいろなことを考えながらここまできたことなども吹き飛ぶくらいに、そばにいるだけで幸せな気分になれるのだ。それが嬉しくて、夕乃はにこにこ笑う。
「キスが一度でいい、なんて、決めてませんよね? だから、ご褒美いっぱいです」
 夕乃はそんなことを言いながら、鬼ごっこの勝者たる千夜に祝福のくちづけを、今度は額に。千夜は夕乃の言動に慌ててしまうが、結局されるがままだ。
「小さい千夜さんは身長も近くて、可愛いなぁ。なんだか、新鮮」
 新しい発見ができたことに、少女はひどく嬉しそうに笑う。今は薬のために外見は二十歳くらいだけれど、やはり笑顔はくったくのない少女のものだ。「千夜さん、千夜さん」と呼びかけるときの嬉しそうな声音、蕩けそうにやわらかな表情などは年齢相応。
(守ってやらなきゃ)
 もちろん、対等の存在として。恋人として。
 成長してもきっと同じ雰囲気であろう夕乃を眺めながら、千夜は改めて胸に誓う。
 心に刻む。

●AND SO…
「……ねえ千夜さん。いつか本当にこの姿の年齢になったら、千夜さんのお嫁さんになってもいい?」
 帰り際、少女がポツリと尋ねる。千夜は恋人の思いがけない言葉に顔を赤く染めた。見ると、夕乃自身もほんのり頬をそめている。
「……っ」
 なんて言葉を返そうか。
 まだそんな未来なんてうんと先と思っていたのに、夕乃はもう夢見ていたのだ。恋人との、決して途切れぬ絆を。
 小さく、本当にかすかに、千夜は頷く。夕乃にしかわからないくらいに。
「……! 千夜さん、大好き……!」
 夕乃は嬉しそうにそう言って、そしてもう一度、頬にそっとくちづけた。
(どうかこれが、誓いの口づけとなりますように)
 そんなことを願いながら――。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja7997 / 日下部 千夜 / 男 / 16歳 / インフィルトレイター】
【ja9092 / 夏木 夕乃 / 女 / 13歳 /ダアト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
今回はご要望ありがとうございました!
二人の一人称が交錯するザッピング系ノベルにしてみましたが……
お楽しみいただけたでしょうか。
ゲームの勝者はこちらで決めさせてもらいました。
どうかこれからも、二人のもとに幸せを。
ハロウィントリッキーノベル -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年10月26日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.