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『+ ダンピールと狐と鬼と + 』
桐生・出流8626)&人形屋・英里(8583)&鬼田・朱里(8596)&(登場しない)



「おや」
「げ」
「ん?」


 そこは大きめのショッピングセンターの一角での偶然の出会い。
 金髪碧眼を持つ男性――桐生 出流(きりゅう いずる)は酒切れの為新しくワインを購入しようとそのショッピングセンターへと訪れた。酒好きな彼はそれはもう買占めるつもり満々で意気揚々と出かけた。普段はコンタクトだがプライベートでは眼鏡を掛け、更に髪形も変えているため彼がアイドルであることなど誰にも分からない。そう、知人友人以外には、だ。
 だが目の前に立っている二人の内一人は彼が何者であるか見抜いてしまった。


「こんにちは、朱里。今日は彼女とデートですか?」
「何ですか、出流こそこんなところに来て。英里、さっさと行きましょう。こいつに関わってはいけません」
「どういう意味ですか、わたくし達友人でしょう」
「それはないですね」
「――ふむ」


 二人組の男女は鬼田 朱里(きだ しゅり)と人形屋 英里(ひとかたや えいり)。
 彼らもまた日用品を買いにこのショッピングセンターへとやってきていたのだが、此処でまさか朱里は出流に出会うとは思っておらず、警戒の意識を浮上させてしまう。アイドルグループ「Mist」内では公式の喧嘩友達である二人ゆえに当然と言えば当然。
 そして「彼女」と呼ばれた少女、英里はと言うとそんな風に二人の間に火花が散っている事すら少しとぼけた方向から見やり。


「二人は仲良いのだな」
「英里、それは違います」
「とっても仲良しです」
「出流ー!!」
「喧嘩するほど仲良しです」
「うむ、そういう言葉もあるな」
「英里まで……」


 にこにことそれはもう人好きされるであろう笑顔を浮かべながら肯定する出流に対して過剰なまでに否定する朱里。
 グループ内では朱里の想い人の存在は有名も有名。実際こうして目の前に居るのであればそれはもう出流としては普段見れない朱里の慌てっぷりや反応の良さに悪戯心が満たされていく。ワインの事も大事だが、二人――主に朱里を弄る事の方が楽しくて笑顔が収まらないでいた。


「知り合いなのだったら折角だしうちに遊びに来るか? つもる話もあるであろう」
「え、良いんですか。嬉しいですね。ぜひ行かせて頂きますよ。――あ、ところでお酒は飲めます?」
「飲ませないで下さい」
「うむ。飲んではいけないと思うので遠慮しておく」


 すっぱりと英里は出流の誘いを断ると、彼は残念とばかりに肩を竦めた。



■■■■■



 あの後、ワインをそれはもう買占め状態で購入した出流はそれを宅配で自宅へと送って貰う手続きをし、それはもう遠慮なく二人が住む家へとお邪魔させて頂く事にした。
 廃屋の洋館にしか見えないその場所に最初「本当に人が住んでいるんですか?」と疑念を抱いた出流ではあったが、中に入ってみれば意外にも綺麗で、物もきちんと整理されており掃除も行き届いている事が分かる。庭には英里の趣味の家庭菜園もあり、外見こそ廃屋ではあるがきちんと二人で暮らしている事が窺えた。


「ここ広くないですか。何人で暮らしているんです?」
「二人で暮らしておる。ゆえに二階など使っていない部屋が多いぞ」
「なんだか勿体無いですね。……って二人暮らし!?」
「何か問題でも?」
「いえ、二人暮らしだったのかと少々……ふむ」


 本日は朱里が料理当番という事もあり、英里と出流が待ち時間の間に世間話をしあう。
 大抵は朱里の話題ばかり。当然といえば当然。共通の友人(本人は否定しても)が朱里であるのだから、彼の話になるのは仕方がないというものである。
 話題の中で二人暮らしであることが持ち上がると、出流は「なんでこの二人進展していないんだろうか」と内心思いつつ台所の方に居るであろう朱里の方へと視線を向けた。
 一方、英里の方はと言うと出流が純粋な人間ではない事を見抜く。
 なんとなくの感知ではあるが、明らかに術系の気配が彼から漂ってくるのだ。しかし朱里の仲間であるという事、それから彼から決して悪い感じがしないと言う点から見て問題ないと判断したのである。よって警戒心は浮かばず、紳士的に対応してくる出流との会話を楽しんでいた。


「それで英里様は」
「あ、様付けしなくていいぞ。なんかくすぐったい」
「でも女性にはそう対応していたいので」
「そういうものなのか」
「で、話は続きまして、貴方は朱里のことどう思っていらっしゃるのですか?」
「どう、とは?」
「男女が二人一つ屋根の下で暮らしていてなんとも思わないのですか」
「とっても便利だと思う。朱里は力が強いし、私よりも身長が高いから色々物を取ってもらえるし荷物も運んでくれる。ああ、私の趣味で家庭菜園もしておるのだが、そっちも手伝ってくれているしな。大変よく出来た友人であると自慢したい」
「――ああ、そう。そういう感じなんですか、あの朱里が……」
「あいどるの方では違うのか?」
「いえいえいえ、とっても良い笑顔でファンサービスも旺盛ですよ」


 どこかすっ飛んだ答えを返してくる彼女に対して出流はどうしたものかと考え始めてしまう。
 相手の表情を見るに心の底からそう思っている事は間違いなく、実際彼女に朱里への恋愛感情があるかどうかは不明で――今のところは朱里の片思いなのかもしれないと思わざるを得ない。


「しかし朱里、苦労しそうですね」
「え、私苦労させているのか!?」
「いえいえ、女性を助けるのは男性の役目。もっと使ってあげるといいですよ」
「う、うむ。使うといっても多分今までと何も変わらんと思うが」
「そうですね。例えば朱里が英里様にとって格好良い面を見せたなら褒めてあげると喜びますよ」
「褒める……」
「具体的には料理が上手に出来た時とか」
「それはいつも感謝しておる。朱里は料理上手なので今日の夕食も楽しみにしておるしな」


 腕を組み、うんうんと頷く彼女は愛らしい。
 ただ、そう、ちょっとだけそういう恋愛面には疎いだけの女性であるという一点を除けば朱里もきっと楽になれるだろうと思ってしまうだけで。ただしそれもまた可愛い面と言えばもうお終いではあるが。


「英里ー、ちょっとこれの味見してみません?」
「ん、する」
「どうです、濃いですかね」
「んー……いや、丁度良いと思う」
「じゃあ今日はこれで」
「あ、ちょっと待った、朱里」
「英里?」
「あー……えっと、あれだ。良く出来ました」
「!?」


 出流が先程進言してくれた事を英里は実行し、彼の頭へと手を伸ばしぽふぽふと撫でる。
 『何か上手に出来たなら褒めましょう』だなんてまるで子供に対する教育のようではあるもののそれは絶大の効果が有り、朱里の顔がほんの少し赤らみ恥ずかしがるように表情を変えて――でもそれは英里に褒められて心の中から嬉しい彼の素直な感情で、思わず幸せそうな笑顔が零れでる。
 そんな二人を見ながら出流はと言うと。


「応援してますよ、朱里に英里様」


 彼は彼で微笑ましいその光景に幸福のお裾分けを貰っていた。



■■■■■



 後日。


「なんで来たんですか」
「つい?」
「住人の許可を取るという言葉は?」
「わたくしの辞書には有りません」
「非常識にも程がありますけど!!」


 まさかのまさか。
 それはもう勝手に車を呼び、荷物と共に朱里と英里が暮らしている廃屋ちっくな洋館に引っ越してきた出流が居るわけで。


「部屋が余っているのだから良いんじゃないだろうか」
「ほら英里様もこう言ってますし」
「どうして! 私と英里だけの! 家に! 来るんですか!」
「聞き逃しを許さないという意思を感じる区切り方だな」
「ですね。あ、わたくしの部屋は二階を貰いますね」
「帰って下さいー!!」


 朱里の嘆きにも近い声が響き渡る。
 「何の問題があるのだろうか」と変わらず首を捻り続ける英里に笑みを隠しきれない出流。
 だがしかし、後に更に一人増え、四人になることなど――今はまだ誰も知らない。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8583 / 人形屋・英里 (ひとかたや・えいり) / 女 / 990歳 / 人形師】
【8596 / 鬼田・朱里 (きだ・しゅり) / 男 / 990歳 / 人形師手伝い・アイドル】
【8626 / 桐生・出流 (きりゅう・いずる) / 男 / 23歳 / アイドル・俳優】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、シチュノベの発注有難う御座いました!
 今回は出流様と英里様との初対面も兼ねたお話ということで朱里様がちょっと可哀想な……でもちょっと幸せちっくな内容に仕上げさせて頂きました。
 なんだかんだと朱里様と出流様が本気でいがみ合っている訳はないという部分が好きです

 しかし二人の恋の行方……個人的に気になります。
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年10月26日

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