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『大きなカボチャの実の中で 〜今宵ばかりは意趣返し〜 』
ラグナ・グラウシード(ib8459)

●大きなカボチャの実の中で
 あなたと わたし
 たのしくあそびましょう
 おおきなカボチャの みのなかで

 ラグナ・グラウシード(ib8459)の脳裏を、何処かで聞いた事があるメロディが流れていった。
 思わず幼児さながら両手を前後に振りかけたラグナは――

「な、何だこれは!?」

 ――自分が吸血鬼の姿をしている事に気がついた!

●閉じ込められた吸血鬼
 ラグナは腕や胸、足元までを見下ろしてみた。
 黒のスリーピースに磨き抜かれた黒の革靴、足元まで伸びているマントは彼が普段身につけている赤ではなく黒いものだ。
「む‥‥」
 俯き加減で服装チェックをしていると帽子がずれて視界を遮ったので、ラグナは帽子を脱いだ。そこで自分が黒いシルクハットを被っていた事に気付く。
「黒の服、黒のマントに黒い帽子‥‥このいでたちは、まるで伝承に出て来る吸血鬼のようではないか」
 思わず独りごちた彼は、口元へ指先を持って行った。
 なければいい、そう思ったものの、しかし指先に伝わる感触はラグナに牙の存在を示している。まさか本当に自分は吸血鬼なのか?
「私は修羅の騎士、ラグナ・ラクス・エル・グラウシード‥‥」
 確かめるように名を呟いた。
 そう、自分は修羅だ。修羅の角が頭にあるはず! ラグナが手を頭へ持っていきかけた時――

「うにゃははは! おばかさんを捕まえたよ☆」

「あの女の仕業か‥‥ッ!」
 聞き覚えのある、何だか妙に腹立たしい女の声が聞こえて、ラグナは自分探しを一時中断して辺りを見渡した。
 宿敵の姿はない。
 オレンジ色した生臭い空間だ。野菜特有の青臭さが残る空間にはドアらしきものはない。あるのは丸や三角の形をした窓と、ぎざぎざの隙間。
「何だこの隙間は‥‥」
 生臭い床に屈みこみ、足元の隙間から覗き込んだ。
 森の中、か? 視線を巡らせ声の主を探していると――見つけた! 宿敵、エルレーン(ib7455)だ!!

「わーいわーい!ばーかばーか!」
 エルレーンは人狼の娘、ちょっともふもふで羨まし――もとい、ラグナとは相容れぬ存在だ。彼女はラグナの大切なものを次々と奪っていってしまう、宿敵・仇敵なのだ。
 今回は一体何を企んでいるのだ!?
「お前の仕業か! おのれ卑怯だぞ、ここから出せッ!!」
 ジャック・オ・ランタンの口を掴んでガタガタしながらラグナは叫んだ。ただカボチャを繰り抜いただけに思える牢獄なのに、ラグナが渾身の力で掴んでもびくともしない。
 その様子が可笑しいのか、エルレーンは腹を抱えて笑い転げている。くそッ、忌々しい小娘め!
「くっ‥‥め、目にもの見せてやるッ、私が怖いか、ここを出せえッ!」
 ラグナは吠えた。吸血鬼の牙を剥き出して慟哭した。
 末代まで言い募るほどの恨み言がある。この女だけは決して許しはしない――!
「口だけは達者だね、おばかさん☆」
 エルレーンは屈んでごそごそやりだした。
 機嫌よさそうに尻尾を振っている――と、突然こちらへ投げつけて来た。
「馬鹿め、私はここ‥‥うぉッ!!」
 ラグナの視界の遥か上を飛んで行った赤い物体は、時間差でラグナの頭へ着地した。
 いきなり頭上から冷たいものが降って来て、ラグナは素っ頓狂な声を上げた。首だけ傾けて上を見ると、何と窓から完熟トマトが降って来る!
「やーいやーい、ばかラグナー☆」
 そのまま食べればさぞ美味かろう完熟トマトを、エルレーンは事もあろうに投げつけて来たのだ!
 何と言う罰当たり、お百姓さんの苦労をあの女は何と思っているのか!
「貴様! 食べ物を粗末にしてはならァんッ!! ‥‥ぶっ」
 ジャック・オ・ランタンの窓から顔を出して説教しようとしたラグナの顔面に、完熟トマトがべちょっとヒットした。
 美味い。美味いけど目に染みる。
 酸味の残るトマトを払い除け、ラグナは目をごしごし拭った。泣いてなんか、ない。

 キッとエルレーンを睨みつける。
 しかしラグナの目に映ったのは信じられない光景だった。

●立場逆転!?
「うふふ‥‥ここまで来たら、返してあげるのになぁ‥‥こ・れ!」
 じゃーん、と自前の効果音を発しつつ、エルレーンは背中に遣っていた手を前に出した。
「う、うさみたん!?」

 説明しよう!
 エルレーンの手には今、ウサギのぬいぐるみが握られている。ハロウィンにちなんで悪魔のコスチュームを着せて貰っている子は、ラグナの大事な愛しの『うさみたん』なのだ!
 うさみたんは耳の形まで再現した黒い頭巾を被らされていた。まぁるい可愛い尻尾には黒い悪魔尻尾が装着されている。
「うさみたん、かぁいい‥‥」
 一瞬、蕩けて萌え死にかけたラグナだったが、すぐさま現実を思い出した。
 そう――うさみたんは、ラグナと夏の海辺でのデート中に、エルレーンに拉致されてしまったのだ!
「私が、油断したばかりに‥‥」
 それはちょっと違うと思うぞ、ラグナさん。
 この兄妹弟子、実力は既に妹弟子の方が上回っている。その上、双方おとなげない。
 夏の海辺で遭遇した二人が口論の末に武力行使に出た挙句、兄弟子が返り討ちに遭って、弄ばれた末に愛しのうさみたんを奪われてしまったのは、油断とは言わないような――と突っ込む者は此処にはいない。
「ほーらほら、要らないの〜?」
 わざわざうさみたんの前脚を握ったエルレーンが、うさみたんにラグナへ手を振らせている。大変ラブリーだ。

 嗚呼、可哀想なうさみたん。あの女に攫われて、あんな事やこんな事や、挙句あんな格好までさせられて――うさみたんはどんな格好も似合っているが! もとい、あの女に好き勝手されるうさみたんが可哀想じゃないか!
「う、うわああああッ! き、貴様ッ、返せ、返せーーーッ!!」

 ラグナは こんらんした!

 カボチャの囚人は武器らしい武器は装備していなかったけれど、彼には強靭な肉体という武器を持っていた。何より、うさみたんへの愛が彼を突き動かしている。
「返せ! 返せうさみたんーッ!!!」
 がつんがつんとジャック・オ・ランタンの中から聞こえる打撃音と半狂乱のラグナの様子に、エルレーンはしてやったりと更に笑い転げた。わざと見せ付けるようにうさみたんを抱き締めて挑発する。
「出られるもんなら出てごらん、馬鹿ラグナ!」
「それ以上、うさみたんに手を出すなーーーッ!!」
 がつんがつん、げしげし。
 何と堅固なカボチャだろう、ラグナの手足にはカボチャのワタが絡みつきこそすれ、一向にヒビが入る様子はない。
「くそッ、くそぅ‥‥ッ」
 己の無力に絶望し崩れ落ちたラグナは涙に濡れて慟哭した――と、そこへ。
「‥‥何だ、この赤いものは」
 壁に赤い突起がある。
 ラグナはワタだらけの手で潤んだ目を擦った。生臭いが気にしている余裕はない。視界がはっきりした目で見てみると、赤い突起には【自爆装置】と書いてある。
「じばく、そうち‥‥」
 殆ど何も考えず、条件反射でラグナは突起を押していた。

 そーれ、ぽちっとな。

 一方、ジャック・オ・ランタンの外で吸血鬼をからかって遊んでいた狼娘は、カボチャが急に静かになったもので様子を伺っていた。
「ちょっとやりすぎたかな‥‥」
 からかい過ぎてマジ泣きしてたらどうしよう。
 さすがに良心の呵責を覚えたエルレーンがおそるおそるジャック・オ・ランタンに近付いた、その時。カボチャが爆発した!
 辺りに生臭い匂いを撒き散らし、カボチャの破片が飛び散る中から颯爽と飛び出した吸血鬼――ラグナは泣いてやしなかった。それどころかいつも通りの自信満々、天上天下唯我独尊の様相だ!
「くくく‥‥よくもやってくれたな、貧乳娘が!」
 ラグナの形相に気圧されて、禁句に目くじら立てる余裕もない。エルレーンは慌てて踵を返して一目散に逃げ出した――のだが、四足の狼よりも吸血鬼の方が早かった。
「便利なものだな、この能力は」
 華麗にマントを翻し空を飛んで追う吸血鬼。地上を駆ける狼は、容易く追いつかれて足元に跪かされる事となる。
「あ、あわわ‥‥!」
「‥‥奴隷にしてやる、馬鹿女」
 ぐい、とエルレーンを引き寄せたラグナの力は男性のそれだ。いつも兄弟子を叩きのめしてきたエルレーンは本能的に恐怖した。
「は、はうぅ‥‥ゆ、ゆる、してぇ‥‥」
 だが、エルレーンの懇願で手を緩めるようなラグナではない。荒々しく引き寄せた妹弟子の首筋に頭を寄せたラグナは、白いうなじに牙を突きたてた――

●夢の名残
 馬鹿女、貴様など――
「はっ!?」
 ラグナが目覚めたのは、彼の寝室だった。思わず頭に手を遣ると、そこには修羅の角がある。
「‥‥夢か」
 ちょっとだけほっとした。修羅の自分が吸血鬼になった夢など、変な夢を見たものだ。角もあるし紛れもなく己は修羅の騎士、ラグナ・ラクス・エル・グラウシードに相違ないだろう。
 夢の中で溜飲を下げた気がしたのは願望の現われか――いや近い将来必ず叩き伏せてやる。
「あと少し我慢してくれ、うさみたん‥‥!!」

 しかしまだ眠いなと大欠伸をしたラグナの口元には――何故か血の跡が残されていた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib8459 / ラグナ・グラウシード / 男 / 19 / 閉じ込められた吸血鬼 】
【 ib7455 / エルレーン / 女 / 18 / 閉じ込めた狼娘 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お待たせいたしました‥‥! 周利でございます。
 普段やられっぱなしのラグナさんが「しかえし! しかえし! (  ゜д゜ )o彡」との事で、世にも珍しい(ですよね?)鬼ラグナさんの方が強いお話をお届けさせていただきました。
 しかし何故でしょう‥‥今回、ラグナさんの方がエルレーンさんより常識人に見える気が。

 あのまま夢が続いていたら‥‥ヴァンパイアラグナさんは、奴隷さんとうさみたんの両方ゲットしていたかもしれませんね!?
ハロウィントリッキーノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2012年10月29日

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