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『大きなカボチャの実の中で 〜今宵ばかりは意趣返し〜 』
エルレーン(ib7455)

●大きなカボチャの実の中で
 あなたが のぞいてる
 まぬけな かおで
 おおきなカボチャの みのなかで

 ラグナ・グラウシード(ib8459)が、顔を覗かせていた。
 屈んでいるのだろう、巨大なジャック・オ・ランタンの口部分で顔が横向きになっている。
 ラグナの身長なら、ジャックの目部分から覗く事だってできたろうに、わざわざ狭い隙間から覗いている姿が何とも可笑しい。
「わーいわーい!ばーかばーか!」
 兄弟子の間抜けな姿があまりに可笑しくて、狼娘のエルレーン(ib7455)は小さな子供のように囃し立てた。

●閉じ込めた狼娘
 ラグナは、いつも偉そうにしている。頑固で執念深くて――エルレーンの事を師の仇と憎んでいる兄弟子だ。
 返り討ちにするのは容易いのだけれど、本当は昔のように戻りたい。
 だからエルレーンはラグナの殺意を受け流すし、逆にからかってみたりもする。

「お前の仕業か! おのれ卑怯だぞ、ここから出せッ!!」
 ラグナが吠えているジャック・オ・ランタンは、偶々手に入れたものだ。森に仕掛けていたら期待に違わず引っかかってくれた。
「うにゃははは! おばかさんを捕まえたよ☆」
 手も足も出せずに、ぎゃんぎゃん吠えているだけのラグナが可笑しくて、エルレーンは腹を抱えてきゃっきゃ笑っている。
 人の背丈の倍以上もある巨大なカボチャの牢獄は、ラグナが馬鹿力で掴んだ程度では壊れやしない。
「くっ‥‥め、目にもの見せてやるッ、私が怖いか、ここを出せえッ!」
「口だけは達者だね、おばかさん☆」
 あまりに愉快だもので尻尾までご機嫌になって、エルレーンは尻尾ふりふり籠から完熟トマトを取り出した。そのまま齧り付けばさぞ美味いだろう熟しっぷりだが、これはラグナ用だ。
「やーいやーい、ばかラグナー☆」
 囃し立てて、見事なピッチングでジャック・オ・ランタンの窓目掛けて投げつけた。
 狙い違わず窓へ吸い込まれていった完熟トマトと、男の悲鳴。
「貴様! 食べ物を粗末にしてはならァんッ!!」
 ジャック・オ・ランタンの窓から顔を出したラグナの頭が真っ赤に染まっているのを見て、エルレーンは更に笑い転げた。

 やっぱり生真面目なラグナをからかうのは楽しい。
 真面目で頑固で、ちょっぴりお馬鹿さんな兄弟子。
 喧嘩して、修行して、互いに技を磨き合って――あの頃のように、また。

 エルレーンは耳を動かした。頬の横でなくて頭の上に付いている、もふもふした狼の耳だ。自在に動くそれを得意気に動かし、尻尾を振って挑発しながらエルレーンは前脚でお尻ぺんぺん。
「へへん、悔しかったらここまでおいでー★」
 ジャック・オ・ランタンの中で喚くラグナへ振り向いて、エルレーンは不敵な笑みを浮かべている。
 片手は背中に遣ったままだ。彼女が隠しているのはラグナの大事な――

●立場逆転!?
「うふふ‥‥ここまで来たら、返してあげるのになぁ‥‥こ・れ!」
 じゃーん、と自前の効果音を発しつつ、エルレーンは背中に遣っていた手を前に出した。
「う、うさみたん!?」

 説明しよう!
 エルレーンの手には今、ウサギのぬいぐるみが握られている。ハロウィンにちなんで悪魔のコスチュームを着せて貰っている子は、ラグナの大事な愛しの『うさみたん』なのだ!
 うさみたんは耳の形まで再現した黒い頭巾を被らされていた。まぁるい可愛い尻尾には黒い悪魔尻尾が装着されている。
「うさみたん、かぁいい‥‥」
 一瞬、蕩けて萌え死にかけたラグナだったが、すぐさま現実を思い出した。
 そう――うさみたんは、ラグナと夏の海辺でのデート中に、エルレーンに拉致されてしまったのだ!
「私が、油断したばかりに‥‥」
 それはちょっと違うと思うぞ、ラグナさん。
 この兄妹弟子、実力は既に妹弟子の方が上回っている。その上、双方おとなげない。
 夏の海辺で遭遇した二人が口論の末に武力行使に出た挙句、兄弟子が返り討ちに遭って、弄ばれた末に愛しのうさみたんを奪われてしまったのは、油断とは言わないような――と突っ込む者は此処にはいない。
「ほーらほら、要らないの〜?」
 わざわざうさみたんの前脚を握ったエルレーンが、うさみたんにラグナへ手を振らせている。大変ラブリーだ。

 嗚呼、可哀想なうさみたん。あの女に攫われて、あんな事やこんな事や、挙句あんな格好までさせられて――うさみたんはどんな格好も似合っているが! もとい、あの女に好き勝手されるうさみたんが可哀想じゃないか!
「う、うわああああッ! き、貴様ッ、返せ、返せーーーッ!!」

 ラグナは こんらんした!

 カボチャの囚人は武器らしい武器は装備していなかったけれど、彼には強靭な肉体という武器を持っていた。何より、うさみたんへの愛が彼を突き動かしている。
「返せ! 返せうさみたんーッ!!!」
 がつんがつんとジャック・オ・ランタンの中から聞こえる打撃音と半狂乱のラグナの様子に、エルレーンはしてやったりと更に笑い転げた。わざと見せ付けるようにうさみたんを抱き締めて挑発する。
「出られるもんなら出てごらん、馬鹿ラグナ!」
「それ以上、うさみたんに手を出すなーーーッ!!」
 がつんがつん、げしげし。
 何と堅固なカボチャだろう、ラグナの手足にはカボチャのワタが絡みつきこそすれ、一向にヒビが入る様子はない。
「くそッ、くそぅ‥‥ッ」
 己の無力に絶望し崩れ落ちたラグナは涙に濡れて慟哭した――と、そこへ。
「‥‥何だ、この赤いものは」
 壁に赤い突起がある。
 ラグナはワタだらけの手で潤んだ目を擦った。生臭いが気にしている余裕はない。視界がはっきりした目で見てみると、赤い突起には【自爆装置】と書いてある。
「じばく、そうち‥‥」
 殆ど何も考えず、条件反射でラグナは突起を押していた。

 そーれ、ぽちっとな。

 一方、ジャック・オ・ランタンの外で吸血鬼をからかって遊んでいた狼娘は、カボチャが急に静かになったもので様子を伺っていた。
「ちょっとやりすぎたかな‥‥」
 からかい過ぎてマジ泣きしてたらどうしよう。
 さすがに良心の呵責を覚えたエルレーンがおそるおそるジャック・オ・ランタンに近付いた、その時。カボチャが爆発した!
 辺りに生臭い匂いを撒き散らし、カボチャの破片が飛び散る中から颯爽と飛び出した吸血鬼――ラグナは泣いてやしなかった。それどころかいつも通りの自信満々、天上天下唯我独尊の様相だ!
「くくく‥‥よくもやってくれたな、貧乳娘が!」
 ラグナの形相に気圧されて、禁句に目くじら立てる余裕もない。エルレーンは慌てて踵を返して一目散に逃げ出した――のだが、四足の狼よりも吸血鬼の方が早かった。
「便利なものだな、この能力は」
 華麗にマントを翻し空を飛んで追う吸血鬼。地上を駆ける狼は、容易く追いつかれて足元に跪かされる事となる。
「あ、あわわ‥‥!」
「‥‥奴隷にしてやる、馬鹿女」
 ぐい、とエルレーンを引き寄せたラグナの力は男性のそれだ。いつも兄弟子を叩きのめしてきたエルレーンは本能的に恐怖した。
「は、はうぅ‥‥ゆ、ゆる、してぇ‥‥」
 だが、エルレーンの懇願で手を緩めるようなラグナではない。荒々しく引き寄せた妹弟子の首筋に頭を寄せたラグナは、白いうなじに牙を突きたてた――

●夢の名残
 ――ああ、全身の力が抜けてゆく。

「‥‥はっ!?」
 急に動けるようになったと思ったら、エルレーンはベッドの中にいた。言うまでもなく自分の部屋だ。
 嫌だなあ、金縛りにでもあったみたい。それに、変な――
「‥‥夢?」
 目をぱちくりさせたエルレーン、本当に嫌な夢を見たものだ。何せ馬鹿ラグナの返り討ちに遭う夢だなんて。
 忘れよう、夢なんだから。気を取り直して顔を洗おうと洗面台に向かったエルレーンは鏡を見て硬直した。

 何故なら――洗面台の鏡に映った彼女の白いうなじには、何故か牙の痕が、紛れもない牙の痕が残されていたのだから。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib7455 / エルレーン / 女 / 18 / 閉じ込めた狼娘 】
【 ib8459 / ラグナ・グラウシード / 男 / 19 / 閉じ込められた吸血鬼 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 周利でございます。お待たせいたしました、うさみちゃん争奪戦その2、ご申請ありがとうございました!
 エルレーンさん、仕返しされてしまいましたねぇ‥‥ラグナさんとの共通箇所を多めに予定していたはずが、蓋を開ければソロ部分大目に。パンプキンマジック恐るべし。
 なお、うさみたんの悪魔コスデザインは、某サン○オキャラのク○ミちゃんをイメージしていただければと思います。うさみたんがどうなったかは‥‥今、どっちにいるんでしょうね!?
ハロウィントリッキーノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2012年10月29日

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