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『想いを繋ぐ時の糸 』
レピア・浮桜1926)&エルファリア(NPCS002)

歴史とは如何なるものか。
知識の応酬は返せども、その真たるものを知るものはいない。
歴史そのものを体験した人物などいないのだから。
遥か昔より語り継がれど、ただ一人を除いては…。

聖都エルザードより呼び声高く、踊り手の名をレピア・浮桜と言った。
夜しか現れぬ絶世の美女との噂だが、それもその筈、昼間はなんと石像となってしまうのだった。
咎人の呪い神罰<ギアス>。
石化している間は、お互いを心より大切な相手として認め合っているエルファリアの別荘に安置されているのだった。
家々や森が夕暮れ色に染まる中、エルファリア――エルザードの王「聖獣王」の娘――は、深い溜息をついた。
齢24と一般的には成熟した人間なのだが、年齢不詳の聖獣王の娘だからか、歳相応には見えない。実年齢より8つは若くみえるのだ。

公務の合間、石化の解呪法の手がかりを求めて「古の記述」の解読に励むも、なかなか進まずにいた。
どうしてもこの1節が読み解けない。
苛立ちと焦りを抱えつつ、暗くなる前にとエルファリアは帰路を急いだ。
公務を終え、城から別荘へ帰る途中に不思議な雰囲気の女性と出会う。
とても妖艶な雰囲気があるのだが、全身を深い黒のローブで包まれてうずくまっていた。

「あの……何かお困りですか?」

エルファリアは女性に恐る恐る声をかけてみた。もしかしたら病気かもしれないのだと。

「あぁ、いえ、少し探しものをしていまして」

ローブの隙間から振り返り、ちらりと会釈をした女性はとても美しい女性だった。
目鼻立ちの整った顔に、スラリと伸びた手足。
まつげは長く、樹液のような色の髪も艷やかでとても嫋(たお)やかだ。

今となってはその言葉をどうして信じられたのかわからない。
ふと、その美女は妖艶に囁いたのだ。

「石化の解除の方法を教えてあげましょうか?」




エルザードの郊外、緑の濃くなった場所でその古ぼけた塔はあった。
がちゃり、鈍く重たい無機質な音が響く。
両手足を鎖と錠で縛られ、冷たい床に横たわるエルファリア。
深い黒のローブを剥ぎ取り、妖艶な女はエルファリアに近づいていく。
エルファリアはカツカツと鳴るヒールの音に眉を潜めた。

「ふふ、噂に違わぬ世間知らずっぷりね。知らない人に付いて行ってはいけないとママに教わらなかったのかしら?」

女の細い指がエルファリアの頬を撫で、唇を愛撫し、喉をなぞる。
胸の上に手を置いて、短く呪文を唱えた。

「さぁ……その無垢な心を差し出しなさい」
「う…う……ぅあああ゛」

エルファリアの体からまばゆく光るものが飛び出す。
強い光でありながら、決して眩しくはない、エルファリアの心そのもの。

「あぁ、美しい……。この心を取り込めたら私は」

手のひらの光をうっとりと見つめる女。
艶のある表情はそのままに、攻撃的な視線をエルファリアに向けた。

「まずはこの心をを穢さなくちゃね。私と同じくらいにねぇ!!」

手にした鞭が、エルファリアの体を跳ねる。
ピシッと鋭い音が響き、白百合のようなに赤いミミズ腫れが浮き上がる。
それからというもの、エルファリアは塔の周辺での生活を余儀なくされた。
森から出ようとするが、進んでも進んでも同じ景色をぐるぐると回っていた。
魔女の幻惑魔法で森から出ることができなくなっていたのだ。
塔から放り出されたエルファリアは食事や衣服、住まいも与えられなかった。お腹が空いたら餌を狩り、落ち葉に包まり適当な穴を住処とした。
最初は食べ物の獲方も分からなかった。手当たり次第草花を口に含んでは嘔吐を繰り返し、心身ともに限界がきていた。
今まで王女として何不自由のない生活を送ってきたのだ。幾多の冒険に参加したり、レピアと共にいろんな場所へ出かけたりはしたが、一人でサバイバルなどしたことはない。
生きる希望すら失いかけていたエルファリアの前に、小さな泉が現れた。
水浴びできるほど大きくもなく、王室の洗面器よりも小さなその水たまり。たとえ小さくとも、その水は見たこともないほど透き通っていた。
エルファリアは喉を鳴らして水を飲む。
喉の奥から指の先まで、水が、生きる力が染み渡っていくようだった。

「私は……負け……ない」

それから、エルファリアはその泉を拠点に生活を始めた。
塔の外に追い出されてから、心を何かに蝕まれるような感覚を感じていた。
心臓の周りを虫が這いずりまわるような不快感と、自分の感覚が自分でなくなるような浮遊感。
必ずレピアの元へ帰るのだという気丈さの中に、塔の森から出られない焦燥感が沸き立ち、次第にレピアの心を蝕んでいく。


エルファリアがいなくなり、半年後。
エルファリアが行方不明となった日から、城内は騒然とした。
レピアもその話を聞き、半年の間必死で想い人を探し続けた。
酒場を巡り、町を巡り、そして自分が石化している昼間に帰ってくることを信じては、目覚めの時に抱える落胆の色が重くのしかかっていた。
そんなレピアの元に、エルファリアが現れる。
驚愕と嬉しさのあまりに抱きつくが、まるでエルファリアを感じなかった。

「あなたは誰!」

素早く偽エルファリアの背後を取り、喉元にナイフを当てる。
聞くとその者は、魔女の幻惑魔法でエルファリアの姿に変えられた女だという。
魔女は気まぐれで美女を攫っては玩具にして遊んでいるとのこと。
まずは彼女の呪いを解き、それからエルファリアの居場所を尋ねた。
場所はエルザード郊外の深い森の奥にある古びた塔。
藁にもすがる思いで、レピアはエルファリアを探しに出発した。
だが、それすらも魔女の陰謀だった。
エルファリアを慕う人間の心も穢して取り込めばより自分が美しく、強くいられると考えた魔女は、半年という時差をおいて、自動的にエルファリアの想い人へと手紙が届くように魔法を仕掛けた。
だが……。

「エルファリア!どこにいるの!」

古い塔を探しまわるレピア。
塔は完全に廃墟と化しており、埃にまみれた部屋には人の訪れた形跡はなかった。
一室で鈍色に光る丸い玉を抱えた女の死体があった。
聖獣王の娘の力を取り込んで浮かれていた魔女だったが、その純真な心に耐え切れずに自滅していた。
鈍色の玉に触れた瞬間、レピアはすぐにそれがエルファリアの心そのものであると分かり、柔らかく壊れ物を包むように抱くと、頬に冷たい一筋が流れた。
塔を出たところで、ボロボロの衣服を纏った少女が牙を剥き出してこちらを見ていた。

「エル、ファリア……」

思いがあふれ、レピアはエルファリアに抱きつく。エルファリアの方は言葉にならない声を発して暴れまわる。腕に噛み付き、レピアは顔を歪めるが、そのまま強くエルファリアを抱いた。
懐かしい匂いを嗅いで落ち着いたのか、エルファリアは大人しくなり、噛み付いた腕を労るように舐めた。

「さあ、帰りましょ」

野獣化したエルファリアを連れて別荘へ戻り、露天風呂へ入った。
あんなにお風呂が好きだったエルファリアだったが、野獣化しているためか極端に水浴びを嫌がる。

「ちょ、もうっ!暴れないの!」

バタバタと手足を動かして抵抗するが、レピアに抱きしめられるとようやく大人しくなった。
半年分溜まった全身の汚れを洗い落とし、お姫様抱っこで湯船へと運ぶレピア。
また暴れるのではと危惧したが、意外にもエルファリアは大人しく、じっとレピアを見つめていた。
愛おしさが溢れ、エルファリアに軽い口づけをする。
離れた唇からか細い声が漏れた。

「れ……ぴ、あ」
PCシチュエーションノベル(シングル) -
浅色ミドリ クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2012年10月30日

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