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『ハロウィンワンダーランド!/ひかりに満ちて 』
柊 夜鈴ja1014

●ワンダーランドへようこそ!
 少し洒落た黒地にオレンジの文字が躍る招待状。
 それは、新しく作られる複合型テーマパークへのチケットだった。
 一般公開前に、ハロウィンでの特別先行公開。
 誰もまだ入ったことの無い遊園地が、今は色とりどりのハロウィンカラーで、貴方を待っている。

「夜鈴、今時間ある?」
「後、三十分くらいしたら。外? 身体冷やすなよ」
 電話で短い会話を交わした。
 それだけで十分彼女のはしゃいだ、少し照れた声が聞き取れて落ち着かなくなる。
 頑なな蕾が花開くみたいに、くるくると可愛くなっていく少女。
 それが、彼のパートナーだ。
 女の子というのは、本当に不思議なもので。
 彼が女性慣れしていないからか、彼女が特別なのか。
 どきりとするほど可愛らしい一瞬を、不意打ちで見せるものだから堪らない。
 今日だって、そんな予感がする。
 手元で招待状を弄びながら、夜鈴もだから覚悟を決める。
 ハロウィンパーティの招待状。
 届いた時から、誘う相手は決まっていた。
 問題はいつ誘うか、どう誘うか、で。
 無造作にポケットに押し込みながら、忙しく思考を回していく。
 彼女との待ち合わせまで、三十分。
 涼しげな無表情の裏側で、夜鈴は一生懸命考える。
 彼の愛しいパートナーが、同じ招待状を抱えて。
 同じ覚悟と、高揚を持って彼を誘いに来るなんて今はまだ知らない。


●ハロウィンの魔法
 ハロウィンパーティ!!
 そこらじゅうに黒とオレンジのリボンが巻かれて、きらきらと星屑が零れるような金銀の飾り。
 ゆれるのはオレンジの光を灯すカボチャランタン。
 誰もが、心の底からハロウィンを祝っているとばかり。
 有名なハロウィンソングを道化が口ずさみ、子供達が口々にお決まりの台詞を口にする。
 さあ、声を揃えてご一緒に。
「「トリックオアトリート!!!」」


「……すごいな」
「賑やか、だよね」
 二人して、入場門をくぐると顔を見合わせてしまう。
 この世界には素敵なことしかないみたいに、華やかにはしゃぎまわる人々。
 建物ごとラッピングされたみたいな鮮やかな世界。
 結婚した、と言ったって未だ何処か初々しいカップルには少しばかり緊張がないわけでもない。
 けれど、勿論緊張ばかりでもないのだ。
「そこの可愛らしい恋人さん達、マジックミラーはどうだい?
 目を開ければあっという間に変身してるよ」
 魔女姿の従業員に声をかけれられて、朔哉が少し戸惑ったようにその姿を見ている。
 尾を引く長いローブに、可愛らしいステッキ、とんがり帽。
 魔女とはいっても、如何にも可愛らしい女の子らしい衣装で。
 女の子の装い、というのは本当に華やかなものだと彼女は思う。
 修道服姿は彼女の地だが、それは着飾るということは念頭に入れないもの。
 神に仕える為の衣装で。
 迷う少女の表情の色に、夜鈴が彼女を先導しに一歩踏み出す。
「夜鈴…?」
 首を傾げて瞬くと、すこしばかりぶっきらぼうな横顔がショウウィンドウにかかった幾つもの服を示す。
 彼女の夫は、基本的には無表情で。
 しかしながら、長く付き合えばその表情の変化だって分かってくることもある。
 照れくさいのかな、だとか、そんな。
「……似合う、だろ。朔哉に」
 言うが早いか、彼女の返答を待たずに店の中へと早足で。
 彼女のためらいも何もかも壊してくれる優しさで。
「うん……!」
 だから、彼女も慌てて駆けだすのだ。夫の、後を追って。
 初々しい、花咲くような少女の笑みで。 


●魔法の鏡に映るのは
 きゅ、と最後に襟元を整えれば夜鈴の仮装は完成する。
 手触りよく広がる黒のマントは、翻る裏地に赤い布を張る鮮やかな仕様。
 黒のフロックコートにはマントと揃いの金飾りの釦が嵌って、指先まで行き届いた真っ白の手袋。
 ドレスシャツの襟元も華やかに、いかにも紳士といった風情の装いだが、口元に添えた牙とマントの華やかな赤色が彼を吸血鬼だと示すものだ。
 衣装に悩む夜鈴に、パートナーたる朔哉が選んでくれたもので成程確かによく似合っている。
 ―――そして。
「夜鈴、…お待たせ」
 女性用の着替え室から、少しばかり恥ずかしげな声が聞こえる。
 深い色のワンピースはふんわりとした姫袖から伸びる細い手が際立つ。
 裾はあくまで短めに、重ねるのはハロウィンカラーのショートパンツにニーハイからすんなりと伸びる脚はしなやかに細い。
 その上からフードつきのケープマントは、目にも眩しい純白で揃いの布地で作った帽子は鍔の広い魔女帽。
「あ、これ、……着替えたら渡せって」
 夜鈴が無表情で差し出す、短めのステッキを受け取れば可愛らしい、ハロウィン仕様の白魔女の出来上がりだ。 
「……あの」
 思わず受け取ってから、少しばかり伺う間が開く。
 なんとなく、夜鈴がこっちをまじまじと見ているような気がしたので。
 ふい、と視線が逸れてその後に短く。
「やっぱり、似合ってるだろ」
 想定内、とばかり言う言葉も何処か甘く色づいて聞こえる気がして、思わず笑ってしまいながら。
「今日は、たくさん遊びたいな。アトラクション、全制覇したい」
 解れた声で朔哉が強請ると、やはり短く優しい頷きが返ってきた。
 夜鈴が、地図を早速広げると今回入場可能なのはフォレストゾーンだという。
「どうする? 夜鈴は、シューティングが好きだよね」
 そういうものには割と熱中しがちな伴侶に首を傾げて見せると、彼は意外にも別のものを示す。
「これに乗ろうぜ」
 勿論、シューティングも後でと言いながら白手袋の指が示したのは妖精の舟だ。
 朔哉は勿論異論なんてある訳もない。ただ、どうして、と聞いても相変わらず彼は涼しげな横顔で。
 だから、理由は乗ってから分かった。
「…う、わ」
 月色の甘い輝きを宿す、妖精の舟。
 光の粉を撒きながら高い位置に作られたレールをゆっくりと進んでいくと、森が一望できる。
 アトラクションを制覇するにも、遊園地の雰囲気を楽しむにも――つまり、朔哉の思い切り遊びたい気持ちを盛り上げるには一番適切なものだったのだ。
 朔哉が彼の好むものに乗りたい、と思うのと同じように。
 彼もまた、朔哉のことを考えてくれているのだと。
 寄り添う近さで、優しい音楽を聴きながら。
 長くて短い空の旅の間、ずっと染み入るように感じていた。
 そうっと勇気を出して、肩に少しだけ重みを預けてみる。
 彼は少しだけ瞬いて、朔哉の身体を支えるようにまた、距離が近くなる。
 それだけで、本当に充分だった。

●魔女の襲撃
 真っ暗な森の中も、愛しい人となら怖くない。
 二人であれやこれやと賑やかに迷路を攻略している最中の出来事だった。
「……きゃっ!」
 朔哉が、小さな悲鳴を上げる。
 気づいた時には、彼女は後ろから魔女に羽交い絞めにされていた。
 思わず夜鈴が近づこうとするが、そこにはわらわらと南瓜の集団がいてなかなか近付けない。
 勿論、力で排除することは簡単だろう。
 だが相手は一般人で、ここは遊園地。
 イベント、とわかっているだけに下手な手出しが返って出来ない。
 朔哉の視界が、ふっと翳る。
 ただ魔女の腕に掴まれて、夜鈴から引きはがされただけなのに。
 真っ黒な、森の中で。
 真っ黒な、魔女に。
 愛しいひとから、離されてしまう。
 それは―――何よりも、痛くて、辛くて、怖いこと。
「いや、…夜鈴、夜鈴――!」
 イベントなんて忘れてしまうくらいに、切実で痛ましい声が森の中に響く。
 しかしながら魔女もプロだ。しわがれた声音で陰鬱に笑って見せる。
「彼女を救いだすには、真の愛が必要なのだ。……貴様に、出来るかな?」
「―――ッ!?」
 正直、気恥ずかしくないと言ったら嘘になる。
 夜鈴が躊躇うのは、けれど世界で一つだけ縋るみたいに名を呼ぶ少女の声を聞けばそんな暇はないとも、思う。
 少しだけ唇が渇いていて、深呼吸をひとつ。
 声が掠れてしまっている気がした。
 頬が、やけに熱い。
「……朔哉、愛してる。愛してるから、俺の元に朔哉を返せ」
 言って、一歩、二歩。
 離された分だけ距離を詰めて、彼女の前に腕を差し出す。
「夜鈴……!」
 魔女の手が、ふと解けて。躊躇いなく、朔哉は駆ける。
 もう、近くに彼の手はあって、少し照れた頬の色や真っ直ぐこっちを見つめている眸や。
 何もかもが目に鮮やかで、彼の手を取ってその侭胸へと抱きつく。
 無言で背を撫でてくれる夜鈴の面差しは、照れ臭そうで。
 それでも、確かに彼女の背を静かに抱き締めてくれた。
 触れるところから、熱が始まる。
 触れるところから、色が溢れる。
 ただ、寄り添い側に居れば、―――世界はこんなにも優しくて、うつくしいのだと彼女は知った。

●一難去って、
「お願いします、真実の愛に触れなければカボチャの呪いが解けないのです!」
 そんないい雰囲気のところに、今度は南瓜頭が泣き付いてきた。
「え…っ!」
 思わぬ不意打ちに、思わず朔哉が口ごもる。
 夜鈴の方も、まだ頬の熱も引いていない頃合だ。
 彼は既に愛を誓ってくれている。
 ならば、次は朔哉の番で。
 傍らの伴侶に負けない程に、一気に頬が赤くなる。
 夜鈴と目を合わせると彼も思い切り照れてるようで、けれど決して嫌がっていないのが分かる。
 今は、初々しい優しいばかりの夜鈴。
 死地に涼しげな顔で向かってしまう人。
 戦わないで、行かないで。
 そんな風に言えたら、どれだけか楽になるかもしれない。
 けれどそれが途方もない束縛だと、朔哉は知っている。
 ぬるま湯の安寧より、お互いに戦い生きる茨をとうに――二人は選んでいる。
 だから、この愛しい人に。
 大事な、人に。
 行かないでと、縋る代わりに。
 今はこの優しい温もりを、魔法みたいな時間を。
 躊躇わずにつないでくれる手、支えて抱き締めてくれる腕。
 愛してると紡いで、キスをくれる唇。
 寄り添って、一番近い位置で温度を分け合ってくれるこのひとを。
「―――愛しています、私の旦那様。
 ずっと、…ずうっと、愛してる」
 普段は言葉に出さない想いを口に出すだけで、胸が弾む。
 恥ずかしいのか、それとも溢れる愛しさで息も出来なくなるのか自分でもわからない。
 触れ合う体温と支えてくれる腕だけが、確かで。
 頬に上がる熱は、先程の彼とお揃いで、同じような思いをしていたのかと考えれば余計に愛しい。
「一生、――俺も愛してる」
 戦いも、死も、どれだけの出来事も。
 この誓いを、この想いを妨げることなんて出来ない。
 二人が抱くのは、きっとそんな恋。
 これから先に何があっても。
 今は、刻まれている。
 彼等が今まで歩んできた道は確かに、一つの形として。
 
 二人の恋に南瓜の魔法が解けて、紙吹雪が散る。
 昏い森に溢れるのは、鮮やかで華やかなミュージック。
 何処にこれだけの数がいたのか、というようなダンサーたちが次第に列をなしてパレードを作っていく。
 どうやら、先程の南瓜イベントはパレードの一環だったらしい。
「踊ろうぜ」
 不意に、夜鈴が彼女へとつないだままの手を引く。
 誰もが二人一組、まずは簡単なダンスから。身を寄せ合って、視線を絡めて。
 恋人たちの、優しい踊り。
「はい、―――旦那様」
 改めて向き合い腕を差し出す伴侶に、彼女も作法に則ってしずしずとスカートの端を持ち上げる。
 夜鈴の招いてくれる世界は、昏い森から鮮やかな光差すように眩しくて。
 でも、怯えは無い。
 ぎこちなくも、不器用でも。
 一生懸命彼女が踊りやすいよう支えてくれる腕の優しさを、なにより朔哉は知っているから。


 世界は、ひかりにみちている。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /    PC名   / 性別 / 年齢 /     職業    】
 ja2302  /   柊 朔哉   / 女  / 20  /  アストラルヴァンガード
 ja1014  /   柊 夜鈴   / 男  / 18  /    阿修羅

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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タイトルが抜けていたので再納品をさせていただきました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
ハッピーハロウィン! よい恋を!!(喧しい)
遊園地でのハロウィンデート、御用命有難うございました。
少しばかり初々しく、そして愛しいお二人の時間を描けていれば幸いです。
ハロウィントリッキーノベル -
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エリュシオン
2012年10月31日

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