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『ハロウィンワンダーランド!/甘い恋のテレパシー 』
櫟 諏訪ja1215

●ワンダーランドへようこそ!
 少し洒落た黒地にオレンジの文字が躍る招待状。
 それは、新しく作られる複合型テーマパークへのチケットだった。
 一般公開前に、ハロウィンでの特別先行公開。
 誰もまだ入ったことの無い遊園地が、今は色とりどりのハロウィンカラーで、貴方を待っている。

 待ち合わせ時間には、まだだいぶ余裕がある。
 分かりやすいように遊園地の入場門前、オブジェのある待ち合わせスポットに。
 櫟諏訪は、随分と早く来てしまっていた。
 待たせるよりは待った方がいいとも勿論思うし、楽しみで仕方なかったのもこれまた事実。
 ただ、それだけでもないのは自分でもわかっている。
 一番の理由は、待つ相手が最近付き合いだした彼女だから。
 沢山甘やかしたい、大事にしたい彼だけの愛しいひと。
「来ましたかねー?」
 遠くから足音が聞こえた気がして、思わず笑ってしまう。
 彼女はいつも元気で、賑やかで。
 よく笑い、よく喋る。
 そうして待ち合わせの時は、いつだって真っ直ぐにひたむきにこちらに向かってくるのだ。
 選ぶのに悩んだのだろう可愛らしい服を着て、全部がぴかぴかに眩しい少女。
 お待たせ、と言われて迎えるのが楽しくて愛おしくて仕方ない。
 溢れる想いを、感情を。
 全部で、全身で彼にくれる、それが櫟の恋人だから。
「走らなくていいですよー? まだ待ち合わせの時間になっていませんからねー?」
 待たせたのかと慌てる少女に首を振って、ゆっくりとこちらからも歩き出す。
 少しでも、距離を近くする為に。
「遊園地に先行公開で来れるなんてラッキーですねー?今日はいっぱい楽しみましょうねー!」
 彼女の全部を、抱き締める為に。


●全力でシューティング
『なんということでしょう。
 悪戯好きの小鬼が、わたくしの宝物を盗んでしまいました。
 どうか旅の人よ、この魔法の矢で小鬼を撃ち抜いて宝を取り戻して下さい』
 3Dの映像が浮かび上がり、身も世も無く女神が泣き崩れる。
 アトラクションの中で、二人は従業員から弓矢のセットを受け取ることになった。
「うわー、よく出来てるね!!」
 森を模したと言っても、周囲は良く手入れされた庭園と言った方が良いようなもので。
 季節の花が咲き乱れる庭園で浮き上がる女神の像は如何にも神秘的だ。
 めまぐるしく彼女が色々と見て回っている横で、櫟は弓の様子を真剣に検分している。
「うーん、ちょっと作りが甘いですけど調整できますよー?」
 何しろ射撃のプロフェッショナルと言ってもいいカップルなだけに、気合も入ろうというもの。
 櫟は手早く二人分のセッティングをして、一つを千尋へと渡す。
「どうぞですよー」
「…あ、ありがとう!!」
 元々、良い友達ではあって。
 だから二人で遊ぶこと自体に慣れてない訳ではない。
 でも当たり前に手を出してくれるこの距離感が、未だ千尋には慣れない。
 胸のどきどきは少しも落ち着いてくれなくて、弦を操る彼の慣れた指に余計、心は跳ねるばかり。
「どうしましたかー?」
「う、うううん! 一緒にがんばっちゃおうね!!」
 顔が赤いのを、隠せたろうか。
 深呼吸をして千尋も視線を逸らす。丁度、ゲーム開幕の合図が鳴ったところだから不自然じゃない。
 小鬼が顔を出すのを片っ端から探して撃っていく、移動型もぐらたたきみたいなものらしいので早速歩き出すことにする。
「あっ、いた!!」
 声を出して、早速狙いを定める。
 きりりと引き絞った弓は、狙い違わず小鬼を撃ち抜く。
「やったー!!」
 思わず歓声を上げる横で、放たれる二連の矢が別々に死角の小鬼を仕留めていくのが見えた。
「わー!! すわくんやっぱりすごいね!!」
 敵わない、と思う感情は素直にすとんと胸に落ちる。
 彼は自分の先を行っているのは純然たる事実だから。
 ―――でも。
 いつか同じくらいになれたらいい、と思う。
 一方的に背中を見てるだけじゃなくて、肩を並べて立てるくらいに。
「ここからは協力プレイだそうですよー」
「そうなの? じゃあ、一緒にがんばれるね!!」
 お互い、頷き合って。
 がさと茂みの揺れる気配がする。
 発射のタイミングも、何をどう撃つかも。
 言葉を交わさなくても分かって。
 同時に現れる沢山の小鬼を片っ端から撃ち落としていく。
「千尋ちゃんと一緒だとやりやすいですよー?」
 その言葉が、お世辞じゃないのは最高得点クリアのファンファーレが鳴り響いて分かった。
 アトラクションでも、ゲームでも。
 やけに胸に残って、しあわせなことば。
「うん、……きゃーー!?」
 それだけであったかくなる気持ちを噛み締めようとしたところで、思いっきり声が悲鳴に変わった。
 アトラクションの中にまで、ホラーテイストの魔女が紛れ込んでいるのは反則だ。
 お陰で小鬼を撃つタイミングでばっちり血走った目を直視してしまうことになる。
 硬直した千尋の肩が、不意に強い勢いで引き寄せられる。
「え? え?」
 完全に別の意味で固まる千尋を抱き締めて、凛々しく庇ってくれるのは。
 魔法の呪文を言い放った後、心配するような眼差しを向けてくれるのは。
「もうお化けはいないので大丈夫ですよー?」
「あ、ありがとうーー!!」
 今日だけでもう、何度お礼を言ったか分からない。
 一つ一つを大事に手に取って、優しくしてくれるひとに。
 どれだけ自分が嬉しいのか、助けられているのか沢山、たくさんつたえたい。
「大切な彼女さんですし、ちゃんと守ってあげないとですよー?」
 でも、そうやって抱き寄せた侭頭を撫でてくれる指先に、言葉に、いちいち心臓が撃ち抜かれてしまうので。
 どれだけ伝えられたか自分でも分からない侭、大人しく彼にしがみつくことになる。
 溢れそうな思いも言葉も全部伝われとただ、願うばかりに。


●魔法の鏡よ、この世で一番
「すわくんすわくん、仮装出来るよ!!仮装しよう!!」
 ぱたぱたと足音を立てて、いつも全力で。
 一生懸命の恋人を、本当に心から可愛らしいと思う。
 彼女が望むなら月だって取って来たいくらいに、優しい感情が櫟の胸に満ちる。
 それは決して不快なことでは無くて、ただ愛しいばかりの。
「はいはいー、何を着るんでしょうかー?」
「な、内緒!!」
 試着室に駆け込んでしまった彼女は、今からとっかえひっかえ服を選ぶのか。
 それとももう、あらかじめ目星をつけて来たりしているのか。
「どちらにしても、可愛いですよー?」
 それだけ彼とのデートを心待ちにして、大事にしてくれているということなのだから。
 彼女のくれる気持ちはいつだって、大きくて優しくて暖かい。
 沢山の大好きを惜しみなくくれる少女に、自分も恥じぬように。
 だから櫟も真面目に服を選ぶ。
 どんなふうに彼女が見て、喜んでくれるのか。
 このひとときを一番可愛らしくあろうとする彼女の横に、きちんと立てるよう。
 首筋にアスコットタイを締める、英国風の吸血鬼の装いでマントを整えたところで恐る恐る声がかかる。
「す、すわくんおまたせしました!!」
 もし色をつけるなら、誰もが絶対に赤を選ぶだろう彼女のおずおずとした口調すら可愛らしい。
「待ってませんよー?」
 カーテンの影に隠れて、少しの間躊躇う彼女を待つのは本当に楽しかったので。
 そんな風に、櫟は笑う。
 星屑が散るエメラルドグリーンの華やかなワンピースに、同じ色のロングブーツ。
 背中には薄く透けて見える、生まれたての蝶のような柔らかな羽根が生えていて。
「千尋ちゃん、良く似合っていてかわいいですよー」
 だから素直に言うのだけれど、それだけでまた彼女の顔は真っ赤に染まってしまう。
 でも、頬を染めて少し弱った様な眼差しでこちらを見るときが愛しくて堪らない。
「すわくんのドラキュラもすごくかっこいい、です、よ…」
 段々と小声でぎこちなくなってしまう言葉に、自分でもわかるのか肩を丸くする少女の頭に掌を軽く置く。
「真っ赤になっている千尋ちゃんも可愛いですよー?」
 伝えきれない想いをもどかしげに抱え込んでいるのなら、と細い髪を乱さぬようそうっと撫でる。
 分かる、のだと。
 彼女に伝わるだろうか?
 言葉にならない分、その表情で、身体全部で。
 いつだって一番欲しい気持ちを伝えてくれてるのだと、分かればいい。
 ―――流石に照れますけどねー?
 櫟だって、照れていない訳では無くて。多少は、気恥ずかしくもある。
 ただそれ以上に彼女が可愛くて仕方ないから、口に出さずに居られない。
 顔に出ない、その体質に感謝するばかりである。 
「可憐な妖精さん、この賎しい吸血鬼めに浚われてはくれませんかー?」
「えっ、ええええ!?」
 こんなことすら口に出して、細い手を大事に掴むことも出来るのだから。
 自分と同じように武器を持つと思えない程、華奢で小さな彼女の手。
 細い指に己の指を重ねて、歩き出す。
 彼女の顔の熱が少しでも早く引けるよう、冷たい風に当たりに行こうか。


●南瓜の悪戯
 森の奥には、小さな澄んだ泉があった。
 塩素の匂いはしない、むしろ自然の色を残した綺麗な水に早速千尋はブーツを脱いで果敢に入り込んでいく。
「妖精仲間のお願いだもんね!! さがさなくっちゃ!!」
 ひやりとした冷たさは火照った体にはむしろ心地よいくらいで。
 大事な小瓶がこの中に落ちている、とお願いする妖精の為に二人は挑むことになったのだ。
 それも、胸につけたバッジがある故のイベントだと分かっている。
 揃いのバッジは所謂、カップル向けのイベントの目印に配布されたもの。
 ちょっと気の利いた銀とオレンジのアクセサリに思わず、千尋は目を落とす。
 ――あ、これってお揃いかな。お揃いのモノってこれが初めて、かな。
 まだ付き合ったばかり。恋人に一種お決まりである『お揃い』らしきものは未だ、何もないと思ってたけれど。
 彼の胸に光るオレンジと、勿論お揃いだ。
 考え出せばまた、動悸がやけに激しくなる。
「千尋ちゃんー、そちらにありましたかー?」
 不意打ちで、ひょいと櫟が彼女の方を覗き込んでしまうものだから慌てて首を振る。
「うううううん!! い、いま探すね!!」
 敢然と泉の奥へと、歩を進める。スカートを持ち上げなくてもいいのは有難いが、逆に膝まで浸かるのに持ち上げる必要もないというのは。
 ちょっとばかり、短いような。
 今はブーツも穿いてない為、余計に脚を晒すことになる訳で。
 考えれば考えるほど、いろんなことがぐるぐる、そわそわ。
「し、心頭滅却!!!」
 唱えた瞬間、ちかりと水の底で光るものが見えた。
「あった!! すわくん、あったよ!!」
 照れ隠しの勢いで腕を大きく水に差し込む、―――不意に視界が回った。
 裸足の足裏が何かの石を踏んだのだろうか。
 ずるりと身が傾いて、この侭水の中に転んでしまう。
 そう、思ったのに。
 咄嗟にぎゅっと目を瞑って覚悟した水しぶきは、いつまでも訪れない。
 彼女の腰を支えるのは、優しい腕。
 そうっと目を開けたら心配そうな櫟の顔が、近い。
 肩と腰を抱き留める形で櫟が彼女を転ばないよう、支えてくれているのだ。
 殆どお姫様抱っこに近い姿勢で、千尋が落ち着くのを待ってそっと浅瀬へと彼女を下ろす。
「大丈夫ですかー?気をつけてくださいねー?」
 温度が離れて行くのが少しだけ寂しい気がしていたら、いつものように髪を撫でてくれる掌が降ってきて。
「うん! あ、あの」
 当たり前の顔で笑ってくれるその腕を、両手でしがみつくよう引き止める。
 言うなら、今だと思ったから。
「いつも、いっつもね! その、――ありがとう」
 一つだけの有難うじゃ、到底足りない気がした。
 今、此処にいてくれること。
 こんな風に触れてくれること。
 頼りになる、目標であるひとであること。
 何もかも、全部に有難うを伝えたくて堪らない。
 ぎゅ、と腕を抱き締めるのが千尋の精一杯で。
「これからも、ありがとう、一緒によろしく、で」
 ひとつ、深呼吸。唇が乾いて、胸の鼓動が収まらない。
 こんなに近い位置では全部彼に筒抜けかもしれない。
「すわくん、だいすき」
 でも、全部伝わればいい。
 この心が、いつだって彼に向けて駆けだしていることを。
 おそるおそる見上げた眼差しの先、櫟の解けるような優しい笑みが見えた。
 そうっと、顔がさらに近くなる。少しずつ、少しずつ。
 彼の頬も僅かに紅いのは、千尋の気のせいだろうか?
 そんなことを考えている合間に、唇が下りてきて。
 優しい熱が、―――ふれた、きがした。
「今日は楽しかったですねー?千尋ちゃん、大好きですよー?」
 一番近い位置で、囁いてゆっくりと櫟は身を離す。
 けれど、距離は触れ合う近さの侭で。
「……うん」
 頷いて、握り締めていた小瓶にふと視線が向く。動揺を、整えるためで理由なんか無かったのだけど。
 中に見えるのはバッジと揃いのデザインのピンキーリングが、ふたつ。
「―――あ」
 これはイベントのクリア景品、という奴ではないだろうか。
 お揃いだね、そんな風に言おうとした瞬間。
「お揃いですねー?」
 櫟が先に、目を合わせていかにも嬉しげに笑う。
 それは見透かされたみたいで。
 伝わってるみたいで。
 手を繋ぎたいな、と思うより先にやっぱり彼は、そっと指を絡めて繋ぎ直してくれる。
 甘い、恋のテレパシー。
「……伝わってるんだね」
「はい、分かりますよー?」
 たどたどしくも、迷いながらも。
 千尋が一生懸命伝えたいことが、ちゃんと届いている。
 受け止めてくれている。
 それは、二人で歩んでいく上でとても、愛しくて優しいことのように思えた。
「わたしも!! もっと、聞けるかな!!」
 分かるだろうか、彼の欲しいもの、望むこと。
「勿論ですよー?」
「うん!! もっとがんばる!!」
 一つ伝わればその先を、もっともっと。
 思い切り欲張って、幸せな恋を。

 まずは揃いのアイテムの行方を、帰り道二人で考えることから。
 肩を並べて、頭を寄せ合って。
 幸福な、内緒話。


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja8564/藤咲千尋/女/16才/インフィルトレイター】
【ja1215/櫟 諏訪/男/18才/インフィルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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タイトルが抜けていたので再納品をさせていただきました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
お待たせしました…!!
こちらまでもだもだそわそわしてしまう素敵な恋のおすそ分けを頂いた気分です。
どうぞ、どうぞお幸せに!!お待たせしました…!!
こちらまでもだもだそわそわしてしまう素敵な恋のおすそ分けを頂いた気分です。
どうぞ、どうぞお幸せに!!
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エリュシオン
2012年11月01日

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