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『+ 少女が大人になった日 + 』
四条 那耶ja5314



 それは私、四条 那耶が十歳になった年の冬の頃。
 両親が謎の事故で死んで、遺体も発見されぬまま葬儀が行われた日のことであった。


 幼い頃の私は背まで髪の毛を伸ばしており、一見すると日本人形のような印象を他者に与えていたと思う。笑わず、泣かず、……感情面も上手に育っていなかったと記憶している。
 実際、両親との思い出は殆どない。
 屋敷は両親の帰る場所ではなく、子供である私を置いておくための場所。身の周りの世話をしてくれる人は居たが、その人達と仲が良かった記憶もない。淡々とした日々。淡白で色付きの悪い幼少期。それでも遠い昔は両親を思い、一日に何度も玄関の前に立つ事もあった。誕生日には電話前で過ごした事もあった。この日ならばきっと両親は私のことを思い出してくれるだろうと――子供らしい期待を胸に抱いていた、あの頃。
 だが、それら全て寂しさを助長させるだけだったが……。


 そんな中、私の傍にあったのはパソコン。
 両親の仕事道具であり、私と彼らを繋ぐもの。もっともっと上手に使いこなせるようになれればきっとあの人達は自分の事を見てくれるだろう。そう考えて必死に使い方を覚えた日を思い出す。もっともっと、誰よりももっと使いこなせたら、褒めてくれるだろうか。帰ってきてくれるだろうか。
 その淡い期待が叶えられる事はもう……ないのだけれど。


 両親の葬儀には当然親族の人々が大勢集まった。
 だが、その中で本当に両親の死を悲しんでいる者は僅か。聞こえてくるのはもっと醜い跡継ぎ問題。当主にはもちろん直系の血を受け継ぐ私がなる。だがその後見人には誰が?
 醜い。
 とても醜い大人の世界。
 私はまだ子供でいたい。でも両親が居なくなってしまったその日から私の世界は自分の意思を無視して一変してしまう。強制的に座らされることとなった「当主の席」。冷ややかな視線で親族達を見つめ、私は決意する。
 此処は両親が私の為に残してくれた場所だ。幼くとも私は当主として凛としてこの場に立とう。


 私は泣かなかった。
 両親の遺体も無い空っぽの木棺を前にしても、葬儀が行われている最中も、どんな状況に立たされたとしても決して負の感情を親族の前になど出さなかった。
 これが私の誇り。
 『子供』との離別。いつまでも大人の手に縋ってなどいられない――私自身が『大人』へと強制的に上げられて立つ。


「もし空にいるなら、見ていて……」


 ただ、両親への言葉はそれのみ。



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 雪の積もった庭をそっと見下ろす。
 縁側から庭を見下げればしんしんとした冷えた空気が肌を撫でた。親族達が広間で騒いでいる事を良いことに私はそっと部屋を抜け出し、その場所に立つ。そろそろ法的問題も落ち着き始めた頃の雪は硬く閉ざした私の心をより一層固めるかのように静かに降り積もる。


「……京都……次は、いつ行けるかな……」


 暖かな思い出。
 一年に一度だけ、家族として過ごせた日を思い出す。京都での友人達の姿が脳裏に浮かび上がり、あの人達は今一体どんな風に過ごしているだろうかと思いを馳せた。
 子供らしくない私が唯一子供のように過ごせた日。
 もう決して訪れる事のない安息日。


「いってらっしゃい……」


 帰ってきてね。
 両親に今までも、今も、言えないその言葉。
 いってらっしゃいと口にすれば自分は置いていかれる。帰ってきて、と口にすれば甘えだと思い、中々口には出来なかった。


 私は庭へと足を踏み出し、しゃくっと雪を踏んだ。
 誰もいないその場所は物音すら雪に吸収されいつも以上に静かで――その為か心が痛んだ。今はひとり。私は一人。そして独りとなった今日。


「――っ」


 雪の中、ぽたりと一つ、雫が落ちた。
 もうこれ以上の痛みは要らない。ただ今だけは子供としての離別を図るため、私は頬に伝う一筋の涙を止めることはしなかった。


 幼いまま、当主として立った今日。
 これから先のことなど今はまだ、知らなくていい。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【ja5314 / 四条 那耶 / 女 / 16歳 / 鬼道忍軍】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、初めまして!
 今回はWTアナザーノベル発注有難う御座いました!

 しっとりとしたお話かつ子供から大人への変化を書かせて頂きました。
 子供のままでいたいという心情。大人にならざるを得ない現状。
 反する部分がどうか描写できていますように。ではでは!!
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年11月01日

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