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『●Trick and Soul!/アラン・カートライト 』
アラン・カートライトja8773

 万聖節の前日――10月31日。
 人間界では、ハロウィンと呼ばれる日である。
 仮装した子供達が『Trick or Treat!』と言って、家々を回る。

 ――お菓子くれなきゃ、悪戯しちゃうぞ、なんて。

 別に人間に影響を受けた訳ではない、けれど。
 誰が最初に口にしたのだろうか――人間の魂を、一番多く集めた方が勝ち。

「勝負って言っても、俺が一番に決まってるだろ」
 別名、シトリーと呼ばれる王子階級の悪魔、アラン・カートライト(ja8773)は金糸の様な髪を掻きあげる。
 勝つつもりは特にないが、暇つぶしにはなるだろう。
 人間達はどいつもこいつも、浮かれ調子、酒に酔い、女に酔い、ムードに酔い。
 基本的にお祭り騒ぎが好きなのだろう、そこに嘗て見られた宗教的な色合いは殆ど無い。

「でもアランちゃん、詰めが甘いからねー」
 スツールに足を乗っけて、英国タバコDEATHの箱から一本、煙草を取り出して火を付けたのは、キヨセ――百々 清世(ja3082)――である。
 またの名を、サレオス……30の軍団を統治する悪魔の公爵だ。
 魔界にも人間の魂を使った煙草はあると言うのに、人間界の煙草を愛煙する代わり者である。

「キヨセのレベルに合わせてやってんだよ、感謝しろ」
「うわー、アランちゃんが優しくて涙でそう! 何か変なもの食べた?」
 にらみ合うアランとキヨセだったが、勿論本気で対峙している訳ではない。
 ――何時もの通りの、お遊びなのだ。
 ……とは言え、高位の悪魔である両者が喧嘩する度に部下の悪魔は『召される思いでした』と証言するのだが。

「でも、集めるだけじゃつまんないよね。勝ったら、なーんでも1つ望みを叶えて貰えるの」
 ベルベットのソファの上でぺたん、と座って口にしたのは二階堂 光(ja3257)だ、王子階級の悪魔、ウァサゴとも呼ばれる。
「よしよし、ヒカル、お手」
「はーい」
 ひょい、とアランが差し出したグルグルキャンディに誘われて、お手、とやって見せる光。
 その無邪気な姿は、悪魔だとは到底思えない――特にグルグルキャンディを喜々として舐めている姿は。
「そう言えば、カイちゃんはー?」
 キヨセの言葉に、光が声を上げた――過去から未来、全てを見通す彼は、お見通しなのだろう。
「戒ちゃんは人間界に行ってるよー、あ、戻ってきた」
「うん? 呼んだか?」
 翼を持つ愛馬をと共に現れた、悪魔軍団の王子こと、セーレの七種 戒(ja1267)は首を傾げた。
「今、退屈だから勝負をしようかって話をしてたんだー」
 キヨセの言葉に、戒は面白そうだな、と頷く――この時期の人間界は特に面白そうだし、面白そうな事は大好きだし。
 それは悪友4人も同じ、楽しい事、面白い事に目がないのだ。
「でね、勝ったらなーんでも1つ望みを叶えて貰える事にしようって」
「この位スリルがないと、つまんねぇからな」
 光とアランの言葉に、ほうほう、と戒は頷く。
「いいな、やってやろうじゃないか」
 戒の承諾を待って、キヨセがDEATHの箱を閉じる――黒い箱に浮かびあがる白い髑髏。
 吸い易いお気に入りのものだ。

「じゃあ、今から期間は……一週間くらい?」
「キヨセが仕切るなよ、まあ、その位じゃないか?」
 アランが面々を見回し、口にした……紋章付きのマントを翻し、立ち上がる。
「じゃあ、一週間後に」
 こうして、悪魔達の勝負が幕を開けるのだった。



 アランは人間界でも特に人の多い、ロサンゼルスへ来ていた。
 人口が多い、欲望が多い――とは言え、いい女がいるかどうか、と言われると何とも言えない。
 だが、人の多いところにはアタリ、がいる確立が高い事もまた、事実である。

「隣に座ってもいいか?」

 激しいビートで刻む音楽、若者はそれぞれ踊りながらトリップしている。
 そんな中で、カウンターに座り静かにカクテルを口に運ぶ女の横に腰かけ、アランはドリンクをオーダーした。
「踊らないのか?」
「ええ、少し――踊り疲れたの」

 アランと女性、瞳と瞳が交差する刹那、恋愛感情を呼び起こす。
 召喚者がいないと、人間界に来るのは労力がいるが――自由に動けるのは楽しいものだ。
 女性はトロン、と艶めいた色を瞳に湛え、頬を赤らめた……アルコールだけのものではないだろう。
 恋愛の名の許に、全ての悪行は赦される……人間界の理解不能な風習だ。
「それは良くないな、何処かで休まないと」
 ――上手く罠にかかった、確信を持ちながらアランは運ばれたカクテルを一口。
 ドライ・ジンとラムジュースのキリリとした風味――ギムレット、錐の名を持つカクテルだ。
「彼女にピンク・レディを」
「あら、彼女ってわたし?」
 わざとらしく首を傾げて、くす、と笑みを零す女性。
 整った唇が、弧を描く。
「勿論、乾杯だ」
 ピンク色の可愛らしいカクテル、グレナデンシロップを使用した甘口のカクテルだが、見た目よりアルコール度数は強い。
 カチン、と二つのカクテルグラスが音を立てて合わさる。
 極彩色のライトの下で、始めはカクテルを口にしていた二人が、互いの唇を求めあう――。

 そして――。

「あなた、最高だったわ……」
 アランの胸板を指先でなぞり、女性は言った――赤い爪が引っ掻くように立てられ、アランの肌に痕を付ける。
「俺と知り合えて、最高に幸せだっただろ?」
 感謝と共に、魂を貰う――昏睡した女性へ、嗤いかけてアランは衣服を整えるとその場を後にした。



「さすがアランちゃんの狙った子、超美味しかったよー。ごちそーさま」
 千里も一息で飛び回れるのだから、わざわざ同じ場所で狩りをする必要はない。
 キヨセがアランの狙った娘を横取りしたのは、単に妨害したかったからだ。
 理由、そんなものはない、単純にそっちの方が楽しそうだから。
 痛いのはイヤだけれど、喧嘩は嫌いじゃない。
「そりゃ良かった、俺達はレディの好みまで似てるんだな。きっと色々と相性が良いぜ」
 余裕綽々の笑みを見せるアラン。
「俺に惑わされて、次々魂失っていく人間が愉快で溜まらねぇよ」
 ぽーん、とアランの手に絡まる魂。
「うわー、アランちゃん性悪ー。流石、中ボスー」
「意味分かんねぇ」
 キリキリとにらみ合う二人、やがてそれは不敵な笑みに変化し――そして、一人の女性に視線を移す。

「あの娘の魂貰っちゃった方が、勝ちって事でー」

 きみ達、勝負やっといてまだ、勝負するのかい……?

「こ、困ります――!」
 品の良くないチンピラどもに囲まれて、一人の女性が眉尻を下げた。
 舐めるように視線が這いまわる――ナイフをチラつかせるチンピラ。
 今にも、手がかかりそうな瞬間、ゴッ、と言う音と共にチンピラの腹に蹴りが入った。

「うぜぇ、消えろよ三下」
「大丈夫? 痛いところ無いー? おにーさんいるから、もう怖くないよー」

 ぎゅっ、と女性の手を握って、キヨセが笑みを向ける。
 まるで大輪の薔薇の様な華やかな笑みに、女性が頬を染めて俯いた……美人である。
 ごくり、とキヨセとアランの喉が鳴った……此れは、魂だけではない、極上の夜を約束してくれそうな――。

「お嬢さん、おにーさんといいとこいかなーい?」
「俺とに決まってるだろ、出会った事、感謝させてやるぜ」
「ふ……不潔です!」

 美女から発せられた思わぬ言葉に、唖然とするキヨセとアラン。
 そして美女は手を振りほどくと、その速度があれば逃げられるだろ……と思うような速度で去っていった――うーん、疾風の如し。

「キヨセ、お前が物欲しそうな顔してるからだ!」
「えー、アランちゃんの方でしょー。責任転嫁は醜いよー?」

 やいのやいのと言い合う二人の悪魔、勿論、立ち去った美女は――と言うと。

「悪いけど――勝利は渡さないよ!」

 変装を解いた光が、ニンマリと悪い笑顔。
 お菓子が俺を待っている……と瞳をキラキラさせ、既に勝利は俺の物! と上機嫌。
 さて、次は何処へ行こうか――と、光は未練の多そうな病院へ、と向かうのだった。



 光と別れて、天馬に跨った戒の視界にアランが映る……と同時にボディーブロー。
「おまっ、何するんだよ!」
「え、何となく?」
 理由など在る筈がないじゃないか! きみがアランと言う事で十分だよ! と言う説明を受け流しつつアランがそう言えば、と口を開いた。
「魂集めは順調か……? 何なら、俺の集めた魂を分けてやってもいいぜ」
「え、どうした何だ貴様、さてはアランの偽物だな!」
「紳士だからだよ。俺、紳士だからな!」
「自称の域を出ない事を知るがいい、ははは!」
 戒とアランのやり取りを、冷たい瞳で見ては、見なかったフリで通り過ぎて行く一般人。
 小さな子供にまで、冷たい視線を向けられると――何とも切ない気分になるのだが、この悪魔達気付いてないよ!
 誰か教えてあげてー、誰かー、と言いたくなるが、残念な事に都会の人々のスルースキルは高いのである。
「まあいい。俺の狩ってる魂半分やるわ。レディには優しい紳士なんだよ」
「うわ、胡散臭ぇ! でも魂は貰った、ははは!」
 土産を楽しみにしておいてくれ、と笑いながら去っていく戒……それを見送りながら、残念なレディだよな、顔は美人だけど。
 とアランは、心の中で呟くのだった。



 勝負当日――魔界に戻ってきた悪魔4人。
「おひさー!」
 真っ先に戻ってきたキヨセ、煙草をもみ消して、光と戒のおでこにキス。
「うぉぉ、目の前にイケメン――! あ、私はお土産を買って来たぞ」
 感動中の戒が、天馬に付けた旅行用カバンから土産を差し出す、キヨセには着物、ピンク色のカードに丸文字で書かれたメッセージ。

『肌蹴ていれば尚よし!』

 肌蹴るのは正しい着方ではありません、が、キヨセはありがとーと戒の頬にキス。
 皆のおにーさん、フェロモン出し過ぎである。
「あ、ヒカルにはお菓子な」
「ありがとー。わぁ、八つ橋かぁ……あ、焼きと生とあるんだ」
 どちらにしようかと首を傾げながら、光はあ、と声を上げた。
 自分のカバンをガサゴソと漁りながら、病院巡りで貰って来たミニスカナース衣装を戒へと渡す。
「はい、戒ちゃん」
「……は?」
「凄く似合うよ、絶対!」
 誰得だよっ! と叫びたいのを必死にこらえ、引き攣った表情で受け取る戒……うん、私頑張った、うん、頑張った。
「キヨセ君には、はい、聴診器と白衣」
「お、ありがとー。似合うー?」
 白衣と聴診器を着用し、クルリと一回転、似合う! と戒と光から声が上がる。
「あ、アラン君には――パジャマ!」
「……何でパジャマなんだよ」
 そのツッコミは尤もである――が、光の方は少しだけ首を傾げ、そして。
「人間界って、入院中はパジャマ着るんじゃないの」

 その笑顔には、邪気の欠片すら無かった。

「ぷぷ、アランちゃんは頭が万年入院中ー」
「俺が入院なら、キヨセは集中治療室だな」
 睨みあうアランとキヨセ……配下の悪魔達がブルブルと恐怖で震えている。
 それを察した訳ではあるまいが、そう言えば私も、と戒がカバンの中から取り出した。
「カツラだ」
「…………」
 ちなみに、女髷である丸髷のカツラである――人毛を用いた、魔術にも使える一級品だ、呼びだされる方だけど。
「紳士なら受け取らないとねー、アランちゃん。ぷぷ」
「紳士だから、被らないけどな。まあ、飾っといてやるよ」
 言いつつ、律儀に受け取りパジャマとカツラを手にしたまま、光の腰に手を回すアラン。
 耳元で囁く、甘いボイス。
「よう、俺に会えなくて寂しかったか?」
「……ん?」
 きょとん、と首を傾げたままの光――やがて口にした言葉は。
「アラン君、パジャマ着ないのー?」
「……寝る前に使わせて貰うぜ、他にも色々、な」
 ――何に使うのか、さっぱり不明ではあるが下級悪魔は口を閉ざす。
 賢い悪魔は、上級悪魔のプライベートには口を出さないものなのだ。

「ええ、魂の数を計算しましたので――」

 勝負の結果――4人の上級悪魔の視線を浴びつつ、ガクガクプルプルしながら魂を数えた下級悪魔。

「結果、勝利者は、アラン・カートライト様です」

 おめでとうございます、わーわー、と安っぽい歓声が響き渡る中、アランはと言うと面倒くさそうにあー、と返事をした。
 心底面倒くさい、と言うかそろそろ妹に会いたいぜ、と言う雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。
「あ、じゃあ権利、戒に譲るわ。別に叶えたい願いないし、俺は紳士だしな」
「じゃあ、遠慮なく貰って――人間界1周旅行とかどうだ? 温泉旅行とか」
 チョイスが渋いですな、とか、お背中流します、とか、何やら部下の悪魔達が騒ぎ出す。
「いや、お前達留守番だから。イケメンでも、美形でもないしな!」
 ピシャリ、と戒によって告げられた言葉に、部下の悪魔達は沈黙するのだった。



 かぽーん、と間の抜けた音が響く。
 露天風呂からは紅葉した木々が見えた、温泉独特の香りが鼻に付く。
「でも、戒ちゃんは別って残念だねー」
 正しい入浴の仕方、とアランに教えて貰い頭にタオルを乗っけた光が、残念そうにつぶやいた。
 隣では、ゆっくりと腕を伸ばして温泉を堪能中のキヨセ、んー、と少しだけ唸り。
「まあ、カイちゃんはカイちゃんで楽しんでるんじゃないかな?」
「おーい、お前ら、俺のバスローブ知らねぇか?」
「アラン君、浴衣だよ、浴衣ー」

 ……肝心の戒は、と言うと。

「露天風呂、男湯、最高!」
 3人の悪魔達を見て、目を輝かせていた――お客さーん、と遠くから声が聞こえてくる。
 最早、目の前の美しい紅葉など見えやしない……お客さん、ともう一度呼ばれて、戒は静かに温泉へと舞い戻る。
 入口の方に視線を移せば、初々しい美少女が此方へ向かってくる途中――温泉最高! と心の中で呟くのだった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja8773 / アラン・カートライト / 男性 / 24 / 阿修羅】
【ja3082 / 百々 清世 / 男性 / 21 / インフィルトレイター】
【ja1267 / 七種 戒 / 女性 / 18 / インフィルトレイター】
【ja3257 / 二階堂 光 / 男性 / 22 / アストラルヴァンガード】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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アラン・カートライト様。
この度は、発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

自信満々な俺様紳士と言う事で、他の皆様よりもアダルティな感じにしてみました。
格好いいんだけれど、仲間内では弄られキャラと言うギャップを醸し出せていれば幸いです。
パラレルと言う事ですが、さり気なく妹さんについても触れさせて頂きました。
他の方々の魂集めの様子は、それぞれの納品物を参照して頂ければ更に、楽しめるかと思います。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。
ハロウィントリッキーノベル -
白銀 紅夜 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年11月07日

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