▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『●Trick and Soul!/百々 清世 』
百々 清世ja3082

 万聖節の前日――10月31日。
 人間界では、ハロウィンと呼ばれる日である。
 仮装した子供達が『Trick or Treat!』と言って、家々を回る。

 ――お菓子くれなきゃ、悪戯しちゃうぞ、なんて。

 別に人間に影響を受けた訳ではない、けれど。
 誰が最初に口にしたのだろうか――人間の魂を、一番多く集めた方が勝ち。

「勝負って言っても、俺が一番に決まってるだろ」
 別名、シトリーと呼ばれる王子階級の悪魔、アラン・カートライト(ja8773)は金糸の様な髪を掻きあげる。
 勝つつもりは特にないが、暇つぶしにはなるだろう。
 人間達はどいつもこいつも、浮かれ調子、酒に酔い、女に酔い、ムードに酔い。
 基本的にお祭り騒ぎが好きなのだろう、そこに嘗て見られた宗教的な色合いは殆ど無い。

「でもアランちゃん、詰めが甘いからねー」
 スツールに足を乗っけて、英国タバコDEATHの箱から一本、煙草を取り出して火を付けたのは、キヨセ――百々 清世(ja3082)――である。
 またの名を、サレオス……30の軍団を統治する悪魔の公爵だ。
 魔界にも人間の魂を使った煙草はあると言うのに、人間界の煙草を愛煙する代わり者である。

「キヨセのレベルに合わせてやってんだよ、感謝しろ」
「うわー、アランちゃんが優しくて涙でそう! 何か変なもの食べた?」
 にらみ合うアランとキヨセだったが、勿論本気で対峙している訳ではない。
 ――何時もの通りの、お遊びなのだ。
 ……とは言え、高位の悪魔である両者が喧嘩する度に部下の悪魔は『召される思いでした』と証言するのだが。

「でも、集めるだけじゃつまんないよね。勝ったら、なーんでも1つ望みを叶えて貰えるの」
 ベルベットのソファの上でぺたん、と座って口にしたのは二階堂 光(ja3257)だ、王子階級の悪魔、ウァサゴとも呼ばれる。
「よしよし、ヒカル、お手」
「はーい」
 ひょい、とアランが差し出したグルグルキャンディに誘われて、お手、とやって見せる光。
 その無邪気な姿は、悪魔だとは到底思えない――特にグルグルキャンディを喜々として舐めている姿は。
「そう言えば、カイちゃんはー?」
 キヨセの言葉に、光が声を上げた――過去から未来、全てを見通す彼は、お見通しなのだろう。
「戒ちゃんは人間界に行ってるよー、あ、戻ってきた」
「うん? 呼んだか?」
 翼を持つ愛馬をと共に現れた、悪魔軍団の王子こと、セーレの七種 戒(ja1267)は首を傾げた。
「今、退屈だから勝負をしようかって話をしてたんだー」
 キヨセの言葉に、戒は面白そうだな、と頷く――この時期の人間界は特に面白そうだし、面白そうな事は大好きだし。
 それは悪友4人も同じ、楽しい事、面白い事に目がないのだ。
「でね、勝ったらなーんでも1つ望みを叶えて貰える事にしようって」
「この位スリルがないと、つまんねぇからな」
 光とアランの言葉に、ほうほう、と戒は頷く。
「いいな、やってやろうじゃないか」
 戒の承諾を待って、キヨセがDEATHの箱を閉じる――黒い箱に浮かびあがる白い髑髏。
 吸い易いお気に入りのものだ。

「じゃあ、今から期間は……一週間くらい?」
「キヨセが仕切るなよ、まあ、その位じゃないか?」
 アランが面々を見回し、口にした……紋章付きのマントを翻し、立ち上がる。
「じゃあ、一週間後に」
 こうして、悪魔達の勝負が幕を開けるのだった。



「えー、すっごく美人なのに意外ー、彼氏いないんだー」
 イタリアの首都、ローマを歩きながらナンパした女の子とカフェに入る。
 魔界とは違う真っ青な空と、瘴気を含まない風が心地よい。
 天使達の集う場所、カトリック教会の中枢――永遠の都であるローマに、悪魔である自分がいるというのは少しだけ自尊心を満たしてくれる。
 当然、本場のエスプレッソ、やっぱり魔界よりも断然、人間界だよねー、と心の中で呟く。

「うん、親がうるさくてさー、変でしょ」
「あるある、そう言う時ってあるよねー」

 コロコロと笑う少女は、何処か楽しげだ……純粋に、今の状況が楽しいのだろう。
 無理もない、同級生との退屈な会話に飽き飽きしていたところに、ウィットに富んだ大人の男性! にナンパされたのだから。

「キヨセって、何だか不思議よね」
「んー、どうして?」
「掴みどころがない感じ。大人なんだけど、子供みたいな」

 くるくると髪を弄りながら、笑いかけるイタリア少女。
 ふんわり、と甘い香水の香りが漂ってくる。
 香水かもしれないし、女の子自身の香りかもしれなかった。
 人間好き、と魔界の悪魔達から嗤われる事もあるが、キヨセは人間が好きだ。

「まー、悪魔だからね」
「え、それ本当?」

 キラキラと瞳を輝かせる少女に、どう思う? と逆に問いかけてエスプレッソを口にする。
 少女は寒いのにも関わらず、ジェラートを口に運びながらうーん、と首を傾げた。
 ジェラート、ヒカルちゃんに持って帰ったら喜びそうだなぁ、なんて思いながらバニラの香りに目を細める。
「頬に付いてるよー? 今、取ってあげる」
 少女の白い頬に付いた、白いジェラートをゆっくり、舌ですくい上げる。
 ピクリと身震いした少女が、くすぐったそうに笑った。

(「人間界の女の子って、可愛いよね」)

 くすくす、と笑うキヨセの心を、少女は知らない。
 きっと、キヨセも明かす事はない――その頬に触れて、手を繋いで。

 テヴェレ川に沿うように歩きながら、水の流れる音を聞く――サンタンジェロ城の天使像が此方を見下ろしていた。
 まるで、聖なる街に悪魔が何の用だ――と、言いたげに。
 橋を渡り、ヴェネチア広場へと向かうと双子の教会、ミラーコリ教会とモンテサント教会の中央を通る。
 車の往来の多い車道側をキヨセが歩き、少女は歩道を歩く。
 コルソ通りを散策しながら、高級ブランドのショップはサラリと流して、カジュアルな雑貨に少女は目を留めた。

「此処のアクセサリーショップ、可愛いなぁ……コルソ通りってこんなのだから、入り辛いんだよね」
「いいねー。おにーさん、オシャレに敏感な女の子好きだよー」
「え、そう?」

 初々しく頬を染める少女に、笑みを返しながら、嘘っぱちであまあまな、ラブロマンスを映画館で見る。
 恋はそんなに甘いばっかりのものじゃぁないけど、それでもこう言うラブロマンスって素敵だよね。
 そんな風に笑いながら、頬を染めて映画にくぎ付けの少女の首筋に口づけを落とす。

「俺の方も、見てよ」
 耳をくすぐる息に、その瞳に、声に、くらりくらり、呑まれて――。
「おやすみ、かわいー子猫ちゃん」
 眠ってしまった少女の睫毛に口づけながら、キヨセは彼女の髪を撫でるのだった。



「さすがアランちゃんの狙った子、超美味しかったよー。ごちそーさま」
 千里も一息で飛び回れるのだから、わざわざ同じ場所で狩りをする必要はない。
 キヨセがアランの狙った娘を横取りしたのは、単に妨害したかったからだ。
 理由、そんなものはない、単純にそっちの方が楽しそうだから。
 痛いのはイヤだけれど、喧嘩は嫌いじゃない。
「そりゃ良かった、俺達はレディの好みまで似てるんだな。きっと色々と相性が良いぜ」
 余裕綽々の笑みを見せるアラン。
「俺に惑わされて、次々魂失っていく人間が愉快で溜まらねぇよ」
 ぽーん、とアランの手に絡まる魂。
「うわー、アランちゃん性悪ー。流石、中ボスー」
「意味分かんねぇ」
 キリキリとにらみ合う二人、やがてそれは不敵な笑みに変化し――そして、一人の女性に視線を移す。

「あの娘の魂貰っちゃった方が、勝ちって事でー」

 きみ達、勝負やっといてまだ、勝負するのかい……?

「こ、困ります――!」
 品の良くないチンピラどもに囲まれて、一人の女性が眉尻を下げた。
 舐めるように視線が這いまわる――ナイフをチラつかせるチンピラ。
 今にも、手がかかりそうな瞬間、ゴッ、と言う音と共にチンピラの腹に蹴りが入った。

「うぜぇ、消えろよ三下」
「大丈夫? 痛いところ無いー? おにーさんいるから、もう怖くないよー」

 ぎゅっ、と女性の手を握って、キヨセが笑みを向ける。
 まるで大輪の薔薇の様な華やかな笑みに、女性が頬を染めて俯いた……美人である。
 ごくり、とキヨセとアランの喉が鳴った……此れは、魂だけではない、極上の夜を約束してくれそうな――。

「お嬢さん、おにーさんといいとこいかなーい?」
「俺とに決まってるだろ、出会った事、感謝させてやるぜ」
「ふ……不潔です!」

 美女から発せられた思わぬ言葉に、唖然とするキヨセとアラン。
 そして美女は手を振りほどくと、その速度があれば逃げられるだろ……と思うような速度で去っていった――うーん、疾風の如し。

「キヨセ、お前が物欲しそうな顔してるからだ!」
「えー、アランちゃんの方でしょー。責任転嫁は醜いよー?」

 やいのやいのと言い合う二人の悪魔、勿論、立ち去った美女は――と言うと。

「悪いけど――勝利は渡さないよ!」

 変装を解いた光が、ニンマリと悪い笑顔。
 お菓子が俺を待っている……と瞳をキラキラさせ、既に勝利は俺の物! と上機嫌。
 さて、次は何処へ行こうか――と、光は未練の多そうな病院へ、と向かうのだった。



 勝負当日――魔界に戻ってきた悪魔4人。
「おひさー!」
 真っ先に戻ってきたキヨセ、煙草をもみ消して、光と戒のおでこにキス。
「うぉぉ、目の前にイケメン――! あ、私はお土産を買って来たぞ」
 感動中の戒が、天馬に付けた旅行用カバンから土産を差し出す、キヨセには着物、ピンク色のカードに丸文字で書かれたメッセージ。

『肌蹴ていれば尚よし!』

 肌蹴るのは正しい着方ではありません、が、キヨセはありがとーと戒の頬にキス。
 皆のおにーさん、フェロモン出し過ぎである。
「あ、ヒカルにはお菓子な」
「ありがとー。わぁ、八つ橋かぁ……あ、焼きと生とあるんだ」
 どちらにしようかと首を傾げながら、光はあ、と声を上げた。
 自分のカバンをガサゴソと漁りながら、病院巡りで貰って来たミニスカナース衣装を戒へと渡す。
「はい、戒ちゃん」
「……は?」
「凄く似合うよ、絶対!」
 誰得だよっ! と叫びたいのを必死にこらえ、引き攣った表情で受け取る戒……うん、私頑張った、うん、頑張った。
「キヨセ君には、はい、聴診器と白衣」
「お、ありがとー。似合うー?」
 白衣と聴診器を着用し、クルリと一回転、似合う! と戒と光から声が上がる。
「あ、アラン君には――パジャマ!」
「……何でパジャマなんだよ」
 そのツッコミは尤もである――が、光の方は少しだけ首を傾げ、そして。
「人間界って、入院中はパジャマ着るんじゃないの」

 その笑顔には、邪気の欠片すら無かった。

「ぷぷ、アランちゃんは頭が万年入院中ー」
「俺が入院なら、キヨセは集中治療室だな」
 睨みあうアランとキヨセ……配下の悪魔達がブルブルと恐怖で震えている。
 それを察した訳ではあるまいが、そう言えば私も、と戒がカバンの中から取り出した。
「カツラだ」
「…………」
 ちなみに、女髷である丸髷のカツラである――人毛を用いた、魔術にも使える一級品だ、呼びだされる方だけど。
「紳士なら受け取らないとねー、アランちゃん。ぷぷ」
「紳士だから、被らないけどな。まあ、飾っといてやるよ」
 言いつつ、律儀に受け取りパジャマとカツラを手にしたまま、光の腰に手を回すアラン。
 耳元で囁く、甘いボイス。
「よう、俺に会えなくて寂しかったか?」
「……ん?」
 きょとん、と首を傾げたままの光――やがて口にした言葉は。
「アラン君、パジャマ着ないのー?」
「……寝る前に使わせて貰うぜ、他にも色々、な」
 ――何に使うのか、さっぱり不明ではあるが下級悪魔は口を閉ざす。
 賢い悪魔は、上級悪魔のプライベートには口を出さないものなのだ。

「ええ、魂の数を計算しましたので――」

 勝負の結果――4人の上級悪魔の視線を浴びつつ、ガクガクプルプルしながら魂を数えた下級悪魔。

「結果。勝利者は、キヨセ様です」

 おめでとうございます、わーわー、と安っぽい歓声が響き渡る中、キヨセはどうしよっかなーと白衣と聴診器を付けたまま振り返った。
 勝敗に興味があった訳ではないし……と、肩を竦め、んー、と首をひねる。
「えっと、じゃあねー。この前向こうで美味い焼肉屋見つけたから、皆で食い行こー?」
「うわっ、しょぼい望みだな」
 はは、と鼻で嗤うアランに、笑顔を返しながらサラリ。
「だってー、欲しいもの全部、手に入っちゃうしー」
 実力のたまものですから、なんてのたまってみる……努力なんてしたことないけど。
「焼肉かー、それもいいかも」
 光がケーキバイキングがよかったなぁ、なんて小さく呟く。
「じゃあ、私と行こう、キヨセも一緒に。アランは財布で」
「おい待て、何で俺が財布なんだよ。まあ、カイはレディだから仕方がないとして――」
「エセ紳士ー。皆行くよー、アランちゃんが財布で」
「キヨセの名前で、小切手切っておくからな」
 やいのやいの、キヨセとアランが口論を始める……もう、早く行くよー、と光の声が追いかけてきた。



 ジュージュー、と肉の焼ける音。
 そして鼻腔をくすぐる、肉の焼ける匂い。
「あー、カイちゃん。はい、お肉ー。はい、お口開けてー、あーん」
「あーん、だと……!」
 肉に息を吹きかけ、火傷しないように注意しながら、戒の口の中に放り込む。
 至福の笑顔で肉を頬張る戒、うーん、可愛い子、と頭を撫でてあげる。
 恋愛感情はなくとも、可愛い相手は可愛いのだ。
「ヒカルちゃんもお肉どうぞー。あ、アランちゃんはピーマンね」
 何故ピーマンなのか、単純にからかっているだけである。
「あ? もう食ってんだけど」
 が、既にアランは肉を自分で取って、食べていた――つまんないのー、と皿に肉を盛り、口に入れる。
「美味しいでしょ、此処の焼肉屋」
 自慢そうに口にすれば、此処は知らなかった、との返事が戒から返って来る。
 人間界、大好きですから、なんてキヨセは笑って見せるのだった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja3082 / 百々 清世 / 男性 / 21 / インフィルトレイター】
【ja8773 / アラン・カートライト / 男性 / 24 / 阿修羅】
【ja1267 / 七種 戒 / 女性 / 18 / インフィルトレイター】
【ja3257 / 二階堂 光 / 男性 / 22 / アストラルヴァンガード】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

百々 清世様。
この度は、発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

意外と、心の深いところは見せない方ではないかなぁ、と思いまして。
他人である少女の前では、掴みどころのないお兄さん、仲間内ではやんちゃな人、と少し書き分けています。
尚、ローマのデートは完全に空想ですので、行く時は事前に調査する事をお勧めします。
他の方々の魂集めの様子は、それぞれの納品物を参照して頂ければ更に、楽しめるかと思います。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。
ハロウィントリッキーノベル -
白銀 紅夜 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年11月07日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.