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『●Trick and Soul!/七種 戒 』
七種 戒ja1267

 万聖節の前日――10月31日。
 人間界では、ハロウィンと呼ばれる日である。
 仮装した子供達が『Trick or Treat!』と言って、家々を回る。

 ――お菓子くれなきゃ、悪戯しちゃうぞ、なんて。

 別に人間に影響を受けた訳ではない、けれど。
 誰が最初に口にしたのだろうか――人間の魂を、一番多く集めた方が勝ち。

「勝負って言っても、俺が一番に決まってるだろ」
 別名、シトリーと呼ばれる王子階級の悪魔、アラン・カートライト(ja8773)は金糸の様な髪を掻きあげる。
 勝つつもりは特にないが、暇つぶしにはなるだろう。
 人間達はどいつもこいつも、浮かれ調子、酒に酔い、女に酔い、ムードに酔い。
 基本的にお祭り騒ぎが好きなのだろう、そこに嘗て見られた宗教的な色合いは殆ど無い。

「でもアランちゃん、詰めが甘いからねー」
 スツールに足を乗っけて、英国タバコDEATHの箱から一本、煙草を取り出して火を付けたのは、キヨセ――百々 清世(ja3082)――である。
 またの名を、サレオス……30の軍団を統治する悪魔の公爵だ。
 魔界にも人間の魂を使った煙草はあると言うのに、人間界の煙草を愛煙する代わり者である。

「キヨセのレベルに合わせてやってんだよ、感謝しろ」
「うわー、アランちゃんが優しくて涙でそう! 何か変なもの食べた?」
 にらみ合うアランとキヨセだったが、勿論本気で対峙している訳ではない。
 ――何時もの通りの、お遊びなのだ。
 ……とは言え、高位の悪魔である両者が喧嘩する度に部下の悪魔は『召される思いでした』と証言するのだが。

「でも、集めるだけじゃつまんないよね。勝ったら、なーんでも1つ望みを叶えて貰えるの」
 ベルベットのソファの上でぺたん、と座って口にしたのは二階堂 光(ja3257)だ、王子階級の悪魔、ウァサゴとも呼ばれる。
「よしよし、ヒカル、お手」
「はーい」
 ひょい、とアランが差し出したグルグルキャンディに誘われて、お手、とやって見せる光。
 その無邪気な姿は、悪魔だとは到底思えない――特にグルグルキャンディを喜々として舐めている姿は。
「そう言えば、カイちゃんはー?」
 キヨセの言葉に、光が声を上げた――過去から未来、全てを見通す彼は、お見通しなのだろう。
「戒ちゃんは人間界に行ってるよー、あ、戻ってきた」
「うん? 呼んだか?」
 翼を持つ愛馬をと共に現れた、悪魔軍団の王子こと、セーレの七種 戒(ja1267)は首を傾げた。
「今、退屈だから勝負をしようかって話をしてたんだー」
 キヨセの言葉に、戒は面白そうだな、と頷く――この時期の人間界は特に面白そうだし、面白そうな事は大好きだし。
 それは悪友4人も同じ、楽しい事、面白い事に目がないのだ。
「でね、勝ったらなーんでも1つ望みを叶えて貰える事にしようって」
「この位スリルがないと、つまんねぇからな」
 光とアランの言葉に、ほうほう、と戒は頷く。
「いいな、やってやろうじゃないか」
 戒の承諾を待って、キヨセがDEATHの箱を閉じる――黒い箱に浮かびあがる白い髑髏。
 吸い易いお気に入りのものだ。

「じゃあ、今から期間は……一週間くらい?」
「キヨセが仕切るなよ、まあ、その位じゃないか?」
 アランが面々を見回し、口にした……紋章付きのマントを翻し、立ち上がる。
「じゃあ、一週間後に」
 こうして、悪魔達の勝負が幕を開けるのだった。



 愛馬を駆り、人間界へ――紅葉の鮮やかな京都。
 魔界に住むと、季節の感覚が分からなくなってくるが――こうして変化のある人間界は見ているだけでも楽しい。
 秋風が長く延びた戒の黒髪を撫で、そして去っていく。

「うむ、やはり京都はいいな」

 瞬間移動を望む人間の魂が、手には一つ。
 蛍の光のような淡い光を放っている――銀色にほんの少し、黒が混じったかのような色だ。
 地獄の公爵の馬に乗るという光栄を受けた人間は、どうやら間にあったらしい――危篤の母親の顔を見れて、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「全く、魂を対価にしてまで……か」
 その気持ちはよく理解出来ないが、悪くはない、と思う――すれ違う舞妓の姿に視線を奪われる。
 美しい、と感嘆の息を吐いた――うむ、ジャパニーズガール! 素晴らしい。
 吹き出しそうな鼻血を抑えつつ、カサカサと忍びよる。

「そちらはん、どうですえ?」

 見れば、舞妓の着物を貸しだしている貸し衣装屋。
 すれ違った舞妓も、此処で貸して貰ったのだろうか――綺麗だな、と息を吐く。
「いや、見ているだけでいい」
 自分が着て、誰得なんだ! と叫びたいのを堪えながら、戒は首を横に振った。
 残念そうに、貸衣装屋は肩を落とした……不憫に思うが着たい訳ではない、見たいのだ。
「じゃあ、着てみてくれないか?」
 キラーンと必殺、這いよる変態淑女スマイル、効果抜群、相手の女性は陥落した。
 フッ、私にかかればこんなもんさ!
 お金は払うから、と諭吉さんを抜きだす事も忘れない。
「……わかりました」

 綺麗な着物を着て、女性がしずしずと現れる。
 それを目に焼き付けながら、やはり人間界は面白い、素晴らしい! と戒は呟くのだった。

 もう少し舐めるように見ていたかったが、新たなる美形も探さねば勿体無い、と気合いを入れる。
 ……ちなみに、舞妓衣装の写真は既に掌中に――いやいや、使い捨てカメラに収まっている、抜かりはない。
 賑わう京都を歩きながら、土産を何にするか……暫し思考する、キヨセと光には、やっぱり八つ橋?
 いやいや、着物も良さそう?

「悩むな――」

 アランには、何かインパクトのあるものを……と清水坂を上る。

「いや、此れで……」
 何故か貸衣装用のカツラを用意し、戒は満足げに京都を後にするのだった。

 ――まだまだ、狩りは終わっていない。
 天馬に跨り、空へと飛び出す……後ろに負ぶさるように乗っているのは、瞬間移動を求めた人間である。
 罪を犯し、その場から逃げる事を望んだ――黒い魂だ。
 此れからまだ、殺さねばならない人物がいるのだと……その魂は語る。
 向かった先は、平地である京都とは違って山々の連なる東北地方だ。
 山の上、その更に上――空から見る地上は、赤く染まり色づき、生命の輝きに溢れている。

「空からの眺めが、一番美しいな」

 先程の魂は、既に別の人物を殺したのだろうか――とチラリ、と考えた。
 だが、そんな思考は直ぐに目の前の情景にかき消される。
 悪魔にとって、人間の行いなど取るに足らない……些末事。



 ――高く飛翔した戒。
 肩に白ヤモリの守屋さんを乗せ、地上を見れば、悪戯っぽく微笑む光。
 これは、本気なんだな――と思うと同時に、負けられない、とも思う。

「ヒカル、魂集めはどうだ?」
「うん、順調だよー。戒ちゃんはー?」
 にへらっと笑う光に、来たよイケメン! と心の中で絶叫しつつ、思わずガッツポーズ。
「勿論順調だ、良ければ、お茶でもしないか?」
「いいよー、あ、お菓子って言ったらやっぱり――」
「パリか、パリなのか。よし来た、これで私もパリジャンヌ」
「ん、神戸でー」

 ざざーん、海を眺めながらしっとりと焼き上がったガトーショコラを食べる。
 うん、別にパリジャンヌになりたかったワケじゃないんだ……ヒカルの笑顔が見たかっただけなんだ――と、戒は心の中で呟くのだった。

 光と別れて、天馬に跨った戒の視界にアランが映る……と同時にボディーブロー。
「おまっ、何するんだよ!」
「え、何となく?」
 理由など在る筈がないじゃないか! きみがアランと言う事で十分だよ! と言う説明を受け流しつつアランがそう言えば、と口を開いた。
「魂集めは順調か……? 何なら、俺の集めた魂を分けてやってもいいぜ」
「え、どうした何だ貴様、さてはアランの偽物だな!」
「紳士だからだよ。俺、紳士だからな!」
「自称の域を出ない事を知るがいい、ははは!」
 戒とアランのやり取りを、冷たい瞳で見ては、見なかったフリで通り過ぎて行く一般人。
 小さな子供にまで、冷たい視線を向けられると――何とも切ない気分になるのだが、この悪魔達気付いてないよ!
 誰か教えてあげてー、誰かー、と言いたくなるが、残念な事に都会の人々のスルースキルは高いのである。
「まあいい。俺の狩ってる魂半分やるわ。レディには優しい紳士なんだよ」
「うわ、胡散臭ぇ! でも魂は貰った、ははは!」
 土産を楽しみにしておいてくれ、と笑いながら去っていく戒……それを見送りながら、残念なレディだよな、顔は美人だけど。
 とアランは、心の中で呟くのだった。



 勝負当日――魔界に戻ってきた悪魔4人。
「おひさー!」
 真っ先に戻ってきたキヨセ、煙草をもみ消して、光と戒のおでこにキス。
「うぉぉ、目の前にイケメン――! あ、私はお土産を買って来たぞ」
 感動中の戒が、天馬に付けた旅行用カバンから土産を差し出す、キヨセには着物、ピンク色のカードに丸文字で書かれたメッセージ。

『肌蹴ていれば尚よし!』

 肌蹴るのは正しい着方ではありません、が、キヨセはありがとーと戒の頬にキス。
 皆のおにーさん、フェロモン出し過ぎである。
「あ、ヒカルにはお菓子な」
「ありがとー。わぁ、八つ橋かぁ……あ、焼きと生とあるんだ」
 どちらにしようかと首を傾げながら、光はあ、と声を上げた。
 自分のカバンをガサゴソと漁りながら、病院巡りで貰って来たミニスカナース衣装を戒へと渡す。
「はい、戒ちゃん」
「……は?」
「凄く似合うよ、絶対!」
 誰得だよっ! と叫びたいのを必死にこらえ、引き攣った表情で受け取る戒……うん、私頑張った、うん、頑張った。
「キヨセ君には、はい、聴診器と白衣」
「お、ありがとー。似合うー?」
 白衣と聴診器を着用し、クルリと一回転、似合う! と戒と光から声が上がる。
「あ、アラン君には――パジャマ!」
「……何でパジャマなんだよ」
 そのツッコミは尤もである――が、光の方は少しだけ首を傾げ、そして。
「人間界って、入院中はパジャマ着るんじゃないの」

 その笑顔には、邪気の欠片すら無かった。

「ぷぷ、アランちゃんは頭が万年入院中ー」
「俺が入院なら、キヨセは集中治療室だな」
 睨みあうアランとキヨセ……配下の悪魔達がブルブルと恐怖で震えている。
 それを察した訳ではあるまいが、そう言えば私も、と戒がカバンの中から取り出した。
「カツラだ」
「…………」
 ちなみに、女髷である丸髷のカツラである――人毛を用いた、魔術にも使える一級品だ、呼びだされる方だけど。
「紳士なら受け取らないとねー、アランちゃん。ぷぷ」
「紳士だから、被らないけどな。まあ、飾っといてやるよ」
 言いつつ、律儀に受け取りパジャマとカツラを手にしたまま、光の腰に手を回すアラン。
 耳元で囁く、甘いボイス。
「よう、俺に会えなくて寂しかったか?」
「……ん?」
 きょとん、と首を傾げたままの光――やがて口にした言葉は。
「アラン君、パジャマ着ないのー?」
「……寝る前に使わせて貰うぜ、他にも色々、な」
 ――何に使うのか、さっぱり不明ではあるが下級悪魔は口を閉ざす。
 賢い悪魔は、上級悪魔のプライベートには口を出さないものなのだ。

「ええ、魂の数を計算しましたので――」

 勝負の結果――4人の上級悪魔の視線を浴びつつ、ガクガクプルプルしながら魂を数えた下級悪魔。

「結果、勝利者は、七種 戒様です」

 おめでとうございます、わーわー、と安っぽい歓声が響き渡る中、戒はよし来た! とばかりに立ちあがった。
「よし、私の勝ちだな――人間界1周旅行とかどうだ? 温泉旅行とか」
 チョイスが渋いですな、とか、お背中流します、とか、何やら部下の悪魔達が騒ぎ出す。
 お前達、何でついてくる前提なんだよ、とか、呼んでないけど代金だけ持てよ! とか。
 心の中で色々とツッコミを入れてみるが、結局のところ大切なのは――。
「いや、お前達留守番だから。イケメンでも、美形でもないしな!」
 ピシャリ、と戒によって告げられた言葉に、部下の悪魔達は沈黙するのだった。



 かぽーん、と間の抜けた音が響く。
 露天風呂からは紅葉した木々が見えた、温泉独特の香りが鼻に付く。
「でも、戒ちゃんは別って残念だねー」
 正しい入浴の仕方、とアランに教えて貰い頭にタオルを乗っけた光が、残念そうにつぶやいた。
 隣では、ゆっくりと腕を伸ばして温泉を堪能中のキヨセ、んー、と少しだけ唸り。
「まあ、カイちゃんはカイちゃんで楽しんでるんじゃないかな?」
「おーい、お前ら、俺のバスローブ知らねぇか?」
「アラン君、浴衣だよ、浴衣ー」

 と言う声が、隣から聞こえてくる。
 確かに残念だ、が、此処の温泉はただ入るだけの温泉にあらず!

「皆、作戦開始!」

 作戦と言う程の作戦ではない、が――この温泉、こんなにも男湯と女湯がくっついているのには訳がある。

「敷居を取りますねー」
 軽やかな従業員の言葉と同時に、男湯と女湯の敷居が取り除かれる……と言っても、一部だが。
「やぁ、数分ぶり」
 手をヒラヒラさせる戒、此処は合コン風呂としても使われる、一部だけ敷居を外せるようになっている温泉なのである。
「わー、戒ちゃんやっほー」
 嬉しそうに光が声を上げ、数分ぶりーとキヨセが手を上げる。
「ついに――風呂場まで改造したか」
「私がやったんじゃない。ちゃんとした設備だ」
 アランの言葉には適当に、ツッコミを返しておく……と言っても、何百年も悪友をやっていると合コンでいい雰囲気。
 などと言うものにはならない、綺麗な紅葉や、お湯の心地よさに付いて会話する位だ。
「でも、カイちゃんが奮戦したって意外」
「私もやる時はやるさ」
 勿論、アランに魂を貰った事は言っていない、貰ったと言え、勝ちは勝ちだ。
「後で、でこちゅーね!」
「よっしゃぁっ!」
 キヨセの言葉にガッツポーズ、温泉入ったら、後は花火でもやるか。
 などと後の行動について、話しあう。

 華やかな笑い声に併せ、紅葉がふわり、風に揺れ。
 ――湯船の中に、散り咲いたのだった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja1267 / 七種 戒 / 女性 / 18 / インフィルトレイター】
【ja3082 / 百々 清世 / 男性 / 21 / インフィルトレイター】
【ja3257 / 二階堂 光 / 男性 / 22 / アストラルヴァンガード】
【ja8773 / アラン・カートライト / 男性 / 24 / 阿修羅】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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七種 戒様。
この度は、発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

どんな場所が好きなのかな――と悩んだのですが、やはり、日本の誇る古都である京都に是非、と言う事で京都に。
本編では着てくれませんでしたが、きっと鮮やかな着物もさぞ、お似合いだと思います。
ペットである、白ヤモリの守屋さんも登場させて頂きました、爬虫類ってぷにぷにしてて可愛いですよね。
他の方々の魂集めの様子は、それぞれの納品物を参照して頂ければ更に、楽しめるかと思います。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。
ハロウィントリッキーノベル -
白銀 紅夜 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年11月07日

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