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『けものたちのハロウィン・パーティ! 』
星杜 焔ja5378

『ハロウィンの夜だけの、ちょっとした魔法の薬。
 あなた方に、祝福あらんことを』
 ……その小瓶には、そう書き添えられていた。

  ●

 百々清世は ふしぎなくすりを てにいれた!
 ……というコンピュータゲーム的なナレーションが、彼の脳裏をよぎる。
 手の中にあるのは、どう見ても怪しげな水薬。昨夜飲みに出歩いた帰り道の途中でなぜか手渡された、ような気がする、という、怪しいこと極まりなしの一品である。実は本人にもあまり入手の際の記憶が無いところが、一層怪しさを増している。
 でも、その薬の入ったガラスの小瓶はとても綺麗で、魔法の薬と言われてもなんとなく納得してしまいそうな、ファンタジックな雰囲気を醸し出していた。鞄の底に転がっていたが、その美しさについ目を奪われ、いまは手の中で転がしている。
「どんな薬かわかんないけど、なんか面白そーじゃん?」
 小瓶の脇に添えられた文章を思い出すと、清世の中にあるいたずら心がむくむくと疼く。と、そこへ近づいてくるのは微笑みを浮かべた少年――星杜焔。
「あれ、清世さん。どうしたの〜?」
 今日はハロウィン、これからかぼちゃプリン作ろうと思ってるんだ〜、と楽しそうに笑う。以前と比べて、その笑顔はどことなく晴れやかだ。
 そんな焔に――清世は手の中の小瓶について簡単に話す。そして、
「ほむりん、とりあえず――」
「えっ?」
 清世は水薬をぱっと焔にかけた。ぽふん、と謎の煙が立ち込める。
 そして――焔がまず気づいたのは、口内の違和感だった。
「あれ〜、なんか舌がザリザリする……牙も……?」
 見るといつの間にやら、焔の頭頂部には髪と同じやわらかな緑の猫耳が。後ろを確認すると猫尻尾まで。試しに指に触れてみると、爪がにょきっと飛び出してきた。
「閑話部のより本格的だね〜」
 妙な納得をしている焔。彼自身すでに何度も猫耳発生という経験をしているからか、このくらいではもう動じないらしい。あくまでマイペース。
「うーん、それより味覚が変わってないといいけど〜」
 むしろ料亭の息子としてはそこが一番気になるらしい。
「ほむりん、猫耳相変わらずよく似合うねー」
 張本人であろう清世は何やら楽しそうな顔でうなずく。
(猫耳のはえる薬かー、みんなに試してみちゃおっかなー)
 そんなことを考えながら。ちょうど近くには知り合いも含め何人かがいつもどおりの生活を送っている。
「清世さん?」
 焔が不思議そうな顔で清世を見ると、彼は楽しそうに――実験を始めた。つまり、この薬の効果をさらに試すために。

 青木凛子は傍らに立つリュカ・アンティゼリをジトッと見つめた。
「……ンだよ、なにかまずいことしてるか?」
 リュカの言葉に凛子はややご立腹。
「アンタねぇ……ここは学校なんだから、タバコは控えなさいと言ってるでしょう?」
 確かにリュカの口には吸いかけのタバコ。この学園は成人してからの入学も受け入れているため学生の喫煙者は少なからず存在しているが、それでも目立つところで堂々とふかしているものは滅多にいない。
「レディの風上じゃ吸ってねェだろ」
「本数も多い。身体壊すわよ?」
 外見はどう見ても凛子のほうが若いのだが、その口調には逆らえない何かを感じる。それもそのはず、凛子の実年齢は外見よりもかなり年上……というか、アウルの影響で外見のみが十代後半まで若返ってしまったのである。
 正しい年齢は……聞かぬが仏、というやつだろう。
 そのためか、外見は女子高生でも行動がどこかオバサンっぽいが、その気さくさも逆にみんなから慕われている一因とも言える。
 普段強面のリュカでさえ、凛子にかかればガキも同然だ。
 ――と、そこへ。
「ふたりともなにしてんのー?」
 といつものようににこにこ笑いながら、清世が近づき、そして、二人に何か液体をぶちまけた。
 当然、リュカのくわえていたタバコは消えてしまう。
「清世、おまえなぁ……」
 そう呆れ声を出すリュカ。凛子は凛子で、
「清世、そのくらいやっちゃってもいいのよー?」
 余裕の笑み。まだ、そのかけられた液体の正体も知らず。
(んー、まだ残ってるな。あ、あそこに……)
 見知った少女を見つけて、清世はへらリと笑いながらまた走りだした。

 ギィネシアヌはその手に何か文庫本をもって、ホクホクした笑顔を浮かべていた。
 タイトルこそ見えないが、今どきっぽいライトノベルらしい。可愛い強気そうな女の子と、対照的にいかにも気弱そうな少年が、カバーイラストに描かれている。
「ようやく図書室の予約順が回ってきたのぜ……」
 人気作なのだろう、それを胸に押し抱いた彼女は非常に嬉しそうに笑っている。
 ――彼女はひとつの病に冒されている。
 その名も『厨二病』。……あえて説明はすまい。
 口調などもそのためか、男勝りの独特なものだった。けれど、それゆえに憎めない部分も多く、学園にも友人が多い。臆病な本心を隠すための仮面だった厨二病すらもごく当たり前に受け入れられるのは、久遠ヶ原という環境がいかに自由であるかを示すいい例であろう。
 ちなみに「ギィネシアヌ」という、一見日本人に発音しづらそうな名前は別にそういう『設定』とかではなく、日独ハーフだからである。これ重要。
 そんな彼女が満面の笑みを浮かべながら歩いているところに、清世が近づき……ぱしゃりと何か、液体をかけた。手には図書室で借りた本。
「……!? ちょ、百々にーさんなにするんだぜ?!」
 借りたばかりの本が濡れてしまうではないか――そう文句を言おうと思ったら、
「何するのキューン!」
 ……キューン?
 自分の発言が一瞬わからなくて、瞬きをする。そして、違和感に気づいた――耳と、尻尾。とくに尻尾はもっふもふである。
「あ〜、ぎーちゃんは狐さんだね〜」
 それを目撃していたらしい焔が微笑む。猫耳猫尻尾のまま。
「ちょ、ほむほむもその猫耳、どうしたのキューン?! ていうか狐?!」
 言われて確認をすれば、なるほど、耳と尻尾は狐のソレである。
(狐ってイヌ科だっけ……? 鳴き声ってキューンなのか……?)
 そんな、一見どうでもいい考えがグルグルと回ってしまうギィネシアヌ。と、
「あら、ギィネちゃんが狐……?」
 凛子がひょいとこちらを見て微笑んだ。薬をかけられても反応には個人差があるのだろうか、凛子の見た目はまだ変化がない。その横に立つリュカもである。
「あ、凛子先輩。何が何だかキューン」
 困ったような顔を浮かべるギィネシアヌに、きゃあっと歓声を上げる凛子。
「かっ、可愛い……! これは可愛いわ……!」
 そう言って大興奮。
「よくできた作りもの……か?」
 リュカがそれに触ろうとしたが、ギィネシアヌはさすがにそれは固辞する。
「リュカもヘンに手を出そうとするんじゃないの。それよりもギィネちゃん、折角だから写真撮らせてー♪」
 凛子は楽しそうにスマートホンを取り出し、それでパシャパシャと写メる。……が、そうやっているうちに、凛子の綺麗に整った爪がすうっと伸びていった。
「……あら……?」
 さすがにその変化には驚かざるをえない。見ると横に立っているリュカの頭にはやはりイヌ科の耳が。ギィネシアヌのそれよりもっとワイルドに見えるそれは、狼のものだろうか。
「リュカ、あんたの耳も変わってるわよっ、っていうかあたしもどうかなっちゃうの?!」
 指摘する凛子の声も上ずっている。そこでその原因となったであろう人物に気づくのはさすがというべきか。
「清世っ、なにこれー?!」
 そう叫ぶと同時に凛子の背中がむずりと疼き、次の瞬間には大きな黒い翼が背中に存在していた。艶やかな羽が、はらはらと舞う。
「凛子先輩はカラスみたいだキューン!」
 ギィネシアヌの言葉に、焔もコクリと頷く。言われて背中に意識を集中させれば、バサリと羽ばたく黒い翼。わずかに足先が、宙に浮く。物理法則を無視しているかのごとき様は、まさに魔法のようだ。

 さて、そのころ清世はと言えば。
「んー、まだ薬残ってるっぽ?」
 小瓶を注意深く揺らしながら、子どものようにイタズラっぽい笑顔を浮かべて走る。校内を走るなんてと怒られそうだが、まあそれはご愛嬌。
 と、曲がり角から出てきた少女が一人――水無瀬詩桜だ。ぼんやりと歩いていたのか、清世の存在に気づかずぶつかってしまう。
 ぱしゃっ。
 ――水薬が、詩桜にかかった。
 しかし詩桜はそんなことを気にしちゃいない。眼の前にいるイケメンを見て思ったことは、
(イケメンと曲がり角で衝突……何これどんなラブコメ……!?)
 発想が若干、お花畑めいていた。
「ん、大丈夫ー?」
 女の子には常に優しい清世がすっと手を差し出す。詩桜は乙女らしく頬を赤らめ、その手に捕まろうとしたが――清世の笑顔がひきつりだしたことに気づいた。
(……ちょ、何じゃこりゃぁ?!)
 詩桜が驚くのも無理は無い。自らの身体が、変化しているのだから。
 しかも、魚である。人魚ならまだ良かったというのに、魚人なのである。
 魚人――すなわち、魚の体に人間の手足。しかもなぜか、まるまるとした立派な体躯の、鯛。
(そういえば以前そんなコスプレしたことあったけどっ、あったけどっ、本当になっちゃうなんて思わないですよっ)
 今更思い出してもしかたのないことを思い起こしつつ、混乱気味。さすがに清世もちょっぴり申し訳なさそうにしている。
「あー……大丈夫?」
「だっ、大丈夫じゃないですよ! 責任とってください責任!」
 若干涙声だが、同時に妙なドスがきいている。
「責任とって、私をいた鯛てください!」
 その要求はまたとんでもなかった。っていうか、いた鯛て、って何。
「……ったく、清世。何しやがる」
 そこへ狼耳の生えたイケメン――リュカが何とかやってきて、まだ清世の手の中にあった小瓶をするっと奪いとって、その中身を清世に浴びせる。
「リュカちひどい……」
「ひどい、じゃねェよ。嬢ちゃんも怪我ねェか……って、すげェなその格好も」
 詩桜の姿を見て驚いたらしい。いやその気持ちはわかりすぎるのでしかたがなかった。見る人が見れば、少し昔の少年漫画を彷彿としたであろう。
「だ、大丈夫ですけど……」
 小さく頷く。その心中では、
(狼耳のちょいワルイケメン……? これはこれで、ソソるわっ!)
 などと妄想まっしぐら。目の前にイケメンが二人もいれば、考えるのは……いわずとしれたアレやソレ。本人も普段は内緒にしているが、今だって、
(ちょいワルイケメンとナンパ系イケメン……この二人、どういう関係なのかしら……ただの友人、だったりするのは勿体ないわよね)
 などと考え始める始末。薬でとんでもない姿に変身しているのだが、もうそれも関係ないらしい。
「あ、清世さんはウサギ耳だね〜、って、詩桜さんだっけ? 潮干狩りの時にいた」
「これは何やらすごいのだキューン」
「お嬢ちゃん、大丈夫かしら?」
 焔たちもどうやら近づいてきたようだ。ようやく見覚えのある人物がきた、と思うと同時にその人物の頭頂部にあるふたつの耳を見て、詩桜はにこーっと笑う。
(ネコミミイケメン……しかも笑顔ってことはチェシャ猫系……これはこれであり!)
 そんなこととはつゆ知らず、このままの姿で学校にとどまるのも問題があろうしということになった。比較的近所で人の出入りについての規則がゆるい、焔の家へと向かったのだった。

   ●

「それにしても面白いキューン」
 落ち着ける場所に来ると流石にだいぶ慣れてきたようで、ギィネシアヌはケタケタと笑う。口調まで変化したのはどうやら彼女だけだが。
 焔はせっかくだからとパーティ料理の準備をはじめる。かぼちゃプリンはもちろんのこと、ハロウィンらしいかぼちゃをふんだんに使ったフルコース。けれど、
「うーん……ウサギさんには野菜のほうがいいのかな〜?」
 そんなことを考えながら、鶏肉の下ごしらえをする。ほかはお肉メインでいいと思うけど……と悩みつつ。
 凛子は清世のウサギ耳姿を眺めつつ、
「清世に兎耳って、どんだけ似合うの……」
 予想外、だがしっくりとくる組み合わせにちょっと脱力気味。
「うさみみイケメン……おいしいですね」
 詩桜はそう言いながらニコニコ笑っている。彼女の脳内で繰り広げられている世界は……口にしないほうがいいだろう。口にすればおそらく、精神的ダメージを受けることうけあいな人間が数人いる。
 初対面のものがほとんどであったが、詩桜もこの集団にあっさりと馴染んでいた。『清世のいたずら被害者友の会』のような妙な連帯感が発生したからだろうか? とは言え本気で怒っているものはほとんどいない。だって、こんなまるで夢みたいな経験を、どうして現実とすぐに認識できよう。
「ハロウィンだし、きっとこんなことがあってもいいんじゃね?」
 てへぺろ、という顔で清世が笑う。が、もちろんそれに皆が納得いくわけもなく。
「百々おにーさんはちょっと反省もして欲しいキューン。ほむほむー、百々おにーさんの分だけお野菜フルコースだキューン」
「ちょ、おにーさんそんなのやーだー」
 ギィネシアヌ、さりげなーく反撃。詩桜もこくこくとそれに頷く。じっさい一番とんでもない姿になっているのは彼女なので、一番言いたいことがあるだろうが、目の保養でごまかしているらしい。いや、癒し系イケメン(=焔)・ちょいワルイケメン(=リュカ)・ナンパ系イケメン(=清世)、という方向性の異なるイケメン三人といきなりお友達になれたわけだから、むしろこの機会をラッキーと思っているのかもしれない。
 と、詩桜はギィネシアヌが手に持っていた文庫本にふと目を留めた。
「あ、それもしかして……?」
 何やら長ったらしい、ライトノベルのタイトルらしき単語をスラスラと述べる。
「おお、これがわかるのかキューン? 詩桜先輩もなかなか趣味がいいのキューン」
 ギィネシアヌは同志を見つけた、といった表情で笑う。人気作のライトノベルとはいえ、なかなか同じ作品のファンに出会えることは少なく、それがひどく嬉しい。とはいえ、どうやら二人の嗜好は少しずつ違うようで、
「このヒロインのツンデレ厨二病っぷりが面白いのキューン」
 という厨二病患者ギィネシアヌに対し、詩桜は
「ヘタレ主人公とライバルのクール系俺様青年、こういう組み合わせもごちそうさまですっ」
 という、いわゆる腐女子発想というやつで。
 ただ、お互いに
(こいつ……できる……!)
 という認識は共通のようだ。タイプこそ違えども、どちらも妄想癖(?)は十二分。こういう仲間をかぎわけるのは、やはりうまいのだ。
「ところでお魚のお嬢ちゃん、エラ呼吸とかそういうのは大丈夫なのかしら? 水槽とか、あったほうがいいんじゃないの?」
 生物の構造上非常に気になっていたらしい凛子が、そっと尋ねると、
「ああ、それはヒフ呼吸でフォローです。ていうか、イケメンがこれだけいたらそれだけで呼吸はバッチリですっ」
 ……初対面ながら、非常にアクの強い詩桜に、凛子は友人たちを思い出す。
(この子もあの子たちと同じくらいクセのある子ね……そのうち紹介したら、仲良くなれるんじゃないかしら?)
 そう思わざるをえない。
「よォ……なんかこの部屋の中自体がすげェカオスだな」
 リュカは狼の耳と尾をバッチリ整えながら、一足遅く焔の部屋へ。今日がハロウィンということ、なんでもありな久遠ヶ原学園ということもあって、コンビニへその姿で行ってきたらしいが、ちっとも不審に思われなかったのだとか。
「リュカち、何買ってきたんー?」
 酒でもあるかと興味津々なのは清世。するとリュカはニヤリと笑い、
「ン、それはあとでのお楽しみ、だな」
 そうごまかした。
「さてみんな〜、ごはんだよ〜」
 焔の朗らかな声が、部屋に広がった。

   ●

「ほむりんの料理はうまいから、おにーさん楽しみー」
 そんなことを言っている清世の前にとんと置かれたのは、野菜をふんだんに使ったフルコース。ごていねいに一人分。
「清世さんはうさぎだからね〜」
 そう言いながら、焔はみんなの前にチキンソテーを配って回る。
「ほむりん……」
 まあ、これもささやかな仕返し。焔という少年、笑顔の裏はその実、それなりに卑怯。清世のうさ耳がしょんぼりと垂れるのを見て、それでも笑顔なのは……心因的な理由もあるだろうが、ドSだから、も十分にあるだろう。
 そして同時に焔の眼が、詩桜にロックオン。
(えっ、ほむらさんが熱い視線で……!?)
 詩桜、さわやかドSイケメンの眼差しにどぎまぎする。噂に名高い『非モテ系ディバインナイト友の会』所属であった気がするが、何故こんなにドキドキするのだろう? これが鯉? いや、恋?
 そんなことを思うが――自分の姿を思い出してはっとした。
 魚である。
 そして焔は、猫である。
 ああ悲しいかな、食物連鎖のヒエラルキー。
 なにを食べさせてあげればいいかなぁ、なんて思っているうちに(純粋に食料として)美味しそうに見えてしまったらしい。
「でもじっさい、お魚ってこのヒエラルキーのどこにいるんだろうね〜」
 のんびりと、しかし結構怖いことをサラリという焔。それを聞いたギィネシアヌも、
「ほむほむ、あんがい容赦ないキューン……」
 と、どこかの漫画に出てくる往年の大女優のような顔に。
「まあ、とりあえず食べましょうか。せっかくの焔ちゃんのごちそうも冷めちゃうわよ」
 そういう凛子の目も、詩桜に釘付けだったりするわけだが――これは光り物大好きなカラスだからこそ。
(ああっ、鱗がキラキラピカピカして、これはこれですっごく魅力的……っ! 連れて帰られるなら連れて帰りたいわ……!!)
 もとよりラインストーンなどのきらびやかな細工物を好む凛子、実質年齢もあって審美眼も確か。それがこれだけ興奮するのだから、謎の薬恐るべし。隣に座るリュカもその視線のこもりようには気づいたらしく、やれやれといった感じの呆れ顔。
(本能ってやつかね。怖ェなァ)
 自分は自分でうさ耳の清世をチラリと見、
「……さすが女の子スキーなだけあるな」
 うさ耳から、男性向け雑誌の名前を連想したようだ。
「リュカちもよく似合ってるじゃんー」
 もぐもぐとかぼちゃプリンを頬張りながら、清世が視線に気づいたらしく笑顔を浮かべる。年齢よりもおちゃめなところの多いこの青年は、本当に楽しそうだ。
「そういえばリュカ。あんた一人さっき買い物してたみたいだけど、変なもの買ってないでしょうね」
「変なものッつーか……これだ」
 凛子が思い出した様に指摘したので、リュカがポケットからコンビニエンスストアの袋を取り出す。
「……猫じゃらし、だキューン?」
 ギィネシアヌが、目を丸くする。
「あと、またたびな。おあつらえ向きに猫もいるし」
 ちらりと見やる視線の向こうには、焔。ザリザリの舌ながら、自分の作った料理一式をみんなとにこにこ笑いながら食べている。
「ほれ、ニャンコ。好物だぞ」
 その正体を言わぬまま、またたびパウダーを差し出す。焔は一瞬不思議そうな顔をしたが、それを受け取り、そしてくんくんと匂いを嗅いで――隣に座っていた清世にぎゅーっとしがみついた。
「ちょ、ほむりんー?!」
「ほむほむ?!」
 驚くのは抱きつかれた清世本人、そしてギィネシアヌ。凛子は「あら」とその変化にたいして動じず微笑んでいるし、リュカも目を丸くはしているものの、こういう変化もありか、なんて思っている。
 詩桜にいたってはニャンコ系男子のスキンシップとかごちそう過ぎますありがとうございました、と拝みかねない始末。
「あれ〜おれどうしたんだろ〜すっごくきもちいいや〜あはは〜」
 アルコールでなくまたたびで、しっかり酔っ払っている。
 ふだんあまりスキンシップを行わない少年であるゆえ、逆にその態度はみんなにとって新鮮きわまりない。元々はこちらが地なのではないかというくらいにきゃっきゃと笑い、そしてみんなとのふれあいを密にしようとする。
 いわゆる、キャッキャウフフ状態とでも言えばいいか。
「おさかなさんおいしそ〜」
 詩桜にはふんわり笑いながら、牙を見せる。
「癒し系が肉食系に……! 自分がピンチなのもわかるけど、何このおいしすぎるシチュエーション……!」
 慌ててメモ帳を取り出し、これを記録しておかずにおくべきか、と言わんばかりの興奮ぶり。
「ほむほむ、大丈夫キューン?」
 ギィネシアヌはもっふもふの尻尾で焔をぺしぺしとなだめる。それにしても尻尾のもっふもふ具合は本当にうっとりするくらいで、ギィネシアヌ自身も、
(俺の蛇の眷属というアイデンティティがこのままでは崩壊してしまう……! でもこのもっふもふを失うのはそれはそれで惜しいっ)
 と、心配をしている。微妙に見当違いの心配のような気もするが。
「お嬢、あぶらあげだぞ。食え」
 リュカが取り出したもののなかにはそんなものまで。途端ギィネシアヌは目を輝かせて、
「サンクスだキューン! 実は食べたかったんだキューン」
 と笑う。なんだかんだと狐属性があるようだ。
 食事はそうやって、ワイワイと楽しく過ぎていった。

   ●

「……ん?」
 気がつくともう外が闇の色。
 一晩だけの魔法の薬も、六人で使ったからだろうか、個人差はあれど効果を失っていって。つまりが元通りになっていって。
「……うう……」
 合法酔っぱらいになってきゃっきゃしていた焔は思いだしたかのように隅に隠れてふるふるとうつむき、しょんぼりしている。
「焔ちゃん、そんなに落ち込まなくてもいいのよ?」
 凛子がぽん、とその肩を叩いて励ます。
「でも不思議な体験でした……!」
 ほぼ初対面ながらもすっかり溶け込んだ詩桜が、顔を赤らめながら笑う。
「たまにはこういうのも、面白いですね」
「そうなのぜ。詩桜先輩、メルアド交換したいけどいいか?」
「もちろん!」
 ギィネシアヌとふたり、いかにも今時の女子高生らしいコミュニケーション。
「……清世、お前は後でなんかおごれ」
「えー? リュカちもほむりんのごはん一緒に食べたじゃんー」
 成人男子二人はそんなことを言いながらどつきあう。もちろん、お互いの許容をわきまえてのどつきあいだ。
 なんだかんだ言って、みんな楽しんでいた。
 だってこれは、ハロウィンの夢なのだから。

   ●

 ――さあさあ皆々様。
 今年、万聖節の宵はもう終わりにございます。
 ご満足いただけたでしょうか?
 わたくしども薬売りは、夢を商っております。
 またご縁ありましたら――

 晩秋の宵に吹いた一陣の風。
 それがそんな言葉を告げて、そして通りすぎていった。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja5378 / 星杜 焔 / ネコ系男子 / 17歳 / ディバインナイト】
【ja3082 / 百々 清世 / ウサギ系男子 / 21歳 / インフィルトレイター】
【ja5657 / 青木 凛子 / カラス系女子 / 18歳 / インフィルトレイター】
【ja0552 / 水無瀬 詩桜 / サカナ系女子 / 18歳 / ダアト】
【ja6460 / リュカ・アンティゼリ / オオカミ系男子 / 22歳 / 阿修羅】
【ja5565 / ギィネシアヌ / キツネ系女子 / 17歳 / インフィルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お待たせいたしました!
いろいろ確認のメールなどお手間かけて申し訳ありませんでした。
でも、皆さんの設定を拝見して、とてもコミカルな人間関係が伺えました。
ストーリー的に分断する必要性もなかったため、一本道となっております。
どうか、楽しい学園生活を、これからも送られますよう、お祈りいたしております。
それでは、今回は発注ありがとうございました。
ハロウィントリッキーノベル -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年11月08日

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