▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『ナンパ男に御用心? 』
桜井・L・瑞穂ja0027

●お嬢様・ミーツ・お嬢様

「お〜っほっほっほっほ♪ たまには温泉も良いものですわね♪」

 紅葉の色づく季節――。
 ここ、大神楽温泉にも多くの観光客が訪れていた。

 一般的に言うところの「お嬢様」である桜井・L・瑞穂(ja0027)も例外ではなく。
 夏空のような青を基調にした爽やかな色使いのビキニを身に付け、プールのように広い温泉を前にして。
 腰に巻いたパレオをするっと取り払い、静かに、優雅な仕草で、湯へ足を差し入れる。

 惜しげもなくさらされる、磨き抜かれた肢体。
 男性の驚きと好奇に満ちた視線は、勿論、彼女の豊満な胸へ向かい。
 女性の羨望と嫉妬の入り混じった視線は、その美しい脚線美と腰、艷やかでコシのある黒髪へ向けられている。
 怖気づくようなことはない。
 注目を集めることは、瑞穂にとって睡眠や食事と等しく並べられるくらいに、自然なことなのだ。

 もちろん普段なら、その他大勢と同じ行動をして埋没する事なんて絶対に嫌だ、と思う。
 なのに何故、こんな絵に書いたような観光地に足を運んだかというと……。

(……それにしても、一体何処まで行ったのかしら?)
 キョロキョロと周囲を見回す瑞穂は、どことなく――ほんの少しだけ、不安げに見える。
 どうやら、連れ立ってやってきた友人とはぐれてしまったらしい。
(全く、此のわたくしを一人にするだなんて良い度胸ですわよね。帰ったら御仕置きが必要かしら)
 瑞穂は自分に絶対の自信を持っている。
 だから一人で行動するのが嫌だとか、一人でちゃんと帰れるかとか、そんな心配をしている訳ではないのだ。
 そうではなく……。
(折角の観光ですのに、一人では満喫というには程遠いんじゃありませんこと? ……く、悔しいですわ)

 温泉に浸かることも当然、今回の旅行目的の一つではあるのだが。
 折角の、大型プールのような温泉である。
 友人同士はもちろん、家族連れやカップルも多く、場内はとても賑やかだ。
 けれど浮き輪もゴムボートも、一人で遊んで面白いものではないだろう。
(かといって……其の辺りの男が、此のわたくしと釣り合うとは到底思えませんし)
 熱い視線を向け、隙を狙う男たちに目を向ける瑞穂。
 一通り眺めてみるが、やはり――自分と釣り合うだけの努力をしている男には思えず、冷たい視線で一蹴する。

 外見や仕草、すなわち第一印象。
 そこにありったけの時間とお金をつぎ込んだ結果、勉強が疎かになる人間は少なくない――かもしれない、が。
 瑞穂はそうではない。
 そこを分かっている人間なら、彼女に気安く声をかけたりはしない。
 そういう意味では、学園の中は比較的ラクかもしれない。
 共に学ぶ同窓生たちは皆、瑞穂の美貌が彼女のたゆまぬ努力の上に成り立っていることを知っている。
 美しさだけでなく、頭脳や、心も。彼女の残した実績と、周囲の評判を少しでも耳にしていれば、察せずにはいられないはずだ。
 すべてに於いてナンバーワンかつオンリーワンの存在を目指す彼女が、どれだけの努力を重ねているかを。

 ……けれど。
 ふとした切っ掛けで普段の行動範囲を飛び越えると、すぐに『こう』だ。
 身の程をわきまえないナンパ男の値踏みするような視線に気づき、瑞穂は心の奥底で毒づいた。
(全く……此のわたくしに声を掛けようだなんて百年早いですわ。嗚呼、何処かに話の分かりそうな人は――)
 そんな思惑を胸に周囲を見回し――はた、と。視線を止める。

 目が合った金髪の少女は、瑞穂と同じような表情で、瑞穂と同じデザインの水着を纏い、そこに立っていた。


●話が合うって素晴らしい

「まさか、こんな場所で『カプリコーン』好きに出会えるとは思ってませんでしたわ♪」
 上機嫌で笑う金髪の少女――大鳥居・麗華(gb0839)の言葉に、瑞穂もまた極上の笑顔で頷いた。
「ふふ、其れはわたくしの台詞ですわよ!」
 ちなみにカプリコーンというのは、彼女たちが今日身につけている水着のブランド名である。
 大人の女性をイメージした大胆なデザインと、少女らしさを存分にアピールする繊細な柄と刺繍。
 それらを併せ持つこのブランドは、いわゆるセレブ御用達ブランドの中でも最近特に人気のある店なのだ。
 中でもひときわ大胆なこのチューブトップビキニ。
 上はコルセットのように強く縛り固定することでずり落ちないようになっていて、出るところが出ていないと様にならない。
 下のサイドリボンはフェイクではなく、実際に結ぶタイプのもの。
 ――要は、プロポーションによほど自信がなければ着こなせないデザインである。
 布地面積あたりの値段が大変なことになっている逸品ゆえ……色違いとはいえ、同じものを目にする機会は珍しい。
「わたくし其の色も良いなと思ったんですのよ。けれど矢張り青が一番わたくしらしい色ですから♪」
「あら……わたくしも、青も素敵だと思っていましたの。わたくしを一番引き立たせる色は赤ですけれどね♪」
「ふふ、ブランドだけなら兎も角、デザイン迄……本当に凄い偶然ですわよね♪」
「本当に奇遇ですわね♪ あなたも、なかなか見る目があるとみましたわ♪」
「貴女こそ良い趣味ですわ♪ わたくしも此のブランドは気に入っていますのよ」
 互いに認め合い、賞賛の言葉を贈る2人は、なんだかとても――楽しそうだ。
「ところで貴女、もう美肌の湯には行ったかしら? わたくし興味があるんですけれど、見つからなくて」
「美肌の湯ですって? わたくし達の為にあるような温泉ですわね! ふふ、付き合ってあげても宜しくってよ♪」
「貴女ならそう言うと思ってましたわ! 折角ですし思いっきり楽しみませんとね♪」
 女が3人で姦しい、とは言うけれど。
 彼女達なら2人でも充分華やかで、賑やかなのだった。

 閑話休題。

 1人でも目立つ瑞穂と麗華、一緒に動けば注目の的となるのは必然だ。
 周囲の視線を存分に集めながら、2人は美肌の湯へ向かった……。


●美肌の湯のあざとい罠

「……ねえ、麗華……此れは一体どういう事ですの〜!?」
「聞かないで頂戴。わたくしだって今、猛烈な既視感と後悔で頭が一杯ですわ……!」

 乳白色の湯は、少し浅いものの、一見ものすごく普通の温泉だった。
 しかし先んじて入浴中の少女達は皆して転び、頭までずぶ濡れになり、涙目になっている。
 それもそのはず。

 このお湯、なんかちょっとネバネバしてる。

「麗華、落ち着きなさいな! 美容液やパックでも、此のような粘性の高い液体をよく見るでしょう!」
 きっと保湿効果バッチリでお肌ツヤッツヤになるに違いない。
 力説する瑞穂に対し、麗華は悲鳴に近い声をあげる。
「な、ならあなたが先に入りなさいな!?」
「此処に来たいと言ったのは麗華、貴女でしょう!?」
「それとこれとは話が別ですわぁぁぁー!」
 既に涙目の麗華の姿に、瑞穂の眠っていた悪戯心が疼き出す。
 ここのところ学園ではイジられてばかりだった瑞穂であるが、本当は他人を弄ぶのが大好きな一面も持ち合わせている。
 彼女が学園での自分を知らないのをいいことに。
 久しぶりに他人で遊ぶのも悪くない、と言わんばかりに満面の笑みで麗華に近づいた。
「見栄を張る必要はなくってよ? 素直に言ってしまいなさいな♪ 転んで水着がズレるのが怖い……って♪」
「ち、違いますわよ!? わたくしは――」

 と、その時であった。

「お姉さん達2人だけ〜? 暇じゃない? 俺らも2人なんだけど、一緒に遊ぼーよ」
 明らかに軟派な男が、チャラチャラした口調で声をかけてきたのだ。
 身の程をわきまえずに声を掛けてくるだけでも腹立たしいが、この場で揉めても面倒なだけだ。
「あら、わたくし達に声を掛けるなんて、見る目がありますわね。けれど御免なさいな、今日は友人と遊ぶのが目的なのですわ♪」
 聡い瑞穂は自尊心を抑え、できるだけ丁重にお断りの旨を告げる。
 ……が。
「えぇ〜いいじゃん、人数多い方が楽しいって。ね? この美肌の湯って滑りやすいみたいだし、俺達に掴まればいいよ」
 食い下がり、あまつさえ腕を取る男達。
 これには流石の2人も我慢がならなかったようで……。
「……のよ」
「え?」
「お呼びでないと、言っていますのよ――!」

 ばちぃーん、と。
 晴天の下、彼女達が放つ平手打ちの快音が響き渡ったのだった。


●因果応報

 死なない程度にやった。
 ……あくまで死なない程度であるだけで、容赦したという訳ではない。

「お〜っほっほっほっほ♪ 此の程度でわたくし達を誘おうなんて、百万年早くてよ!」
 ヌメヌメプール――もとい美肌の湯のすぐ傍で、ボコボコに伸され無残に倒れ伏す軟派男。
 その後頭部を嬉々として踏みつけ高笑いをする瑞穂の姿があった。
 隣には、同じように男を足蹴にする麗華がいる。
「おーっほっほっほっほ♪ 私達をナンパするならまずは鏡を見てからにするべきですわね♪」
 才色兼備、文武両道。
 それらを地で行く彼女達の隣に立つには、やはり相応の努力を重ねた男でなければ。
 ――要するに、身の程をわきまえよと言うこと。

「さて、と。適度に汗もかいたことですし、気を取り直して温泉に浸かるとしましょうか♪」
「名案ですわね♪ 此のような保湿効果を謳ったお風呂ではなく、もっとサッパリ出来る処を探しませんこと?」
 くすくすと、肩を揺らして笑い合う2人。
 これにて事件は一件落着……と、思われた、が。
「――え?」
「――あら?」
 異変に気づく。
 周囲で成り行きを見守っていたギャラリーの視線が、何か、おかしい。
 最初は、思いのほか強かった女2人を怖がるだとか尊敬するだとか、そういう視線かと思ったのだが、どうやら違う気がする。
 2人は顔を見合わせ、首を傾げつつ、観衆の視線の先――すなわち自分達の身体に、視線を落とす。

「「い、いやぁぁぁぁーーーー!?」」

 激しい動きの中、緩んだ紐は解け、ひらりと地に落ちる小さな布切れ。
 向けられた衆目の真実に気づいた瞬間、2人のお嬢様は温泉中に響き渡るような悲鳴をあげたのだった。

■イベントシチュエーションノベル■ -
クロカミマヤ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年11月12日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.