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『『懐かしいあの人と… 〜雪成 藤花〜』 』
星杜 藤花ja0292

 日本風に言うとハロウィンはお盆みたいなもの。死者が家族を訪ねに来る日らしいです。
 ならば仮装した子供達や大人達が集まっている中には、すでにこの世の者ではない者もいるかもしれないですね。
 たった一夜の夢幻、あなたの側にいるのは懐かしいあの人かもしれません。
 あなたに会いたくなってハロウィンの夜、仮装してこの世に戻って来たのでしょう。
 仮装し、顔も体も隠している中、気付けるのはあなたのみ。
 さて、あなたは昔懐かしいその人に、声をかけますか?
 もし声をかけたのならば、どんなふうにその人とハロウィンを過ごすのでしょうか?


●愛しい恋人と共に
「わあ…! 凄い盛り上がっていますね」
「うん。学園島のハロウィン祭りだし、楽しくも面白いイベントだよ〜」
 恋人同士の雪成藤花と星杜焔は共に、夜に行われている学園島のハロウィン祭りに訪れた。
 藤花は手をつないで歩く焔を見て、頬を赤く染める。
「焔さんの狼男姿、カッコ良いです…」
「ふふっ、ありがと〜。藤花ちゃんのうさみみずきんも可愛いよ〜」
「あっありがとうございます…」
 焔は顔を真っ赤にして照れる藤花を愛おしそうに見つめながら、うさみみをクイクイと引っ張った。
 可愛らしい藤花のうさみみずきん姿と、妖艶な焔の狼男の姿は周囲の視線を集めている。が、そんなことは一切気にせず、焔は屋台を見回した。
「仮装も良いけど、屋台も良いよね〜。いろんな屋台が出ているのを見ているだけでも楽しいし、美味しそうな香りも…」
 そこでふと、焔は嗅いだことのある懐かしい香りに、足を止める。
「焔さん? どうしました?」
 藤花が声をかけるも、焔は香りの方に気を取られていた。
「…この香りはまさかっ…!」
 そして藤花の手を握り締めたまま、香りのする方へと歩き出す。


●懐かしい料理と人との再会
 香りがする屋台は、イベント会場から離れた場所にあった。闇の中でぼんやりと浮かび上がる屋台を見て、焔は息を飲んで足を止める。
 二人分の飲食スペースしか設けられていない小さな屋台の中で、黒猫の仮面を被った黒髪の男性と、白犬の仮面を被った銀髪の女性が料理を作っていた。
「あの女性の銀髪、昔の焔さんの髪の色に似ていますね…」
 藤花がボソッと呟くと、その声が聞こえたかのように女性が顔をこちらに向けて、声をかけてくる。
「いらっしゃい」
 遠い昔に聞いた柔らかく優しい声を耳にして、焔は困惑した表情を浮かべながらも藤花とつないでいる手をクイッと前に引っ張った。
「…行こうか」
「はっはい…」
 緊張した面持ちで、二人は席に座る。メニューを見て藤花は首を傾げ、焔はスッと眼を細めた。
「ここのお料理は、どれも焔さんの得意料理ばかりですね」
「そうだね…」
「どうぞ」
 メニューに視線を向けていた二人の前に、マグカップに注がれたカボチャスープが置かれる。蒸しカボチャの皮が、ジャック・オ・ランタンの形で浮かんでいた。
「まだ注文していないんですけど…いただきます。…あれ? このスープのお味は……」
 藤花は突然料理を出されたことに驚いたものの、そのスープの味が焔が作る味と似ていることにも驚く。
 その後も女性は注文を聞かないまま、サクサクのチキンカツを乗せたカボチャカレーを出してきた。
 カレーを食べて、焔の顔付きが驚愕したものに変わる。
「ああっ…! これは…この香りに味はっ…!」
 感極まった焔の眼から、涙がこぼれた。
「焔さん…」
 藤花は出された料理の味と焔を見て、あり得ない可能性が脳裏をよぎる。
「この料理…もう自分で作るしか食べることのできない……亡くした家族の味だ…。やっぱりあなた達は…!」
 焔と藤花が信じられないといった表情で二人を見上げると、言葉をかけられた。
「…二人共、大きくなったな」
「あなた達は今、幸せですか?」
 男性と女性の声を聞いて、焔は言葉に詰まって泣くばかり。代わりに藤花が焔を支えながらも、強く頷いて見せる。
「私はこの人といられるなら、それだけで幸せです」
 藤花の言葉に同意するように、焔は涙を流しながら何度も首を縦に振った。
 そんな二人の様子を見て、男性と女性は仮面の中で微笑む。
「…そうですか。さあ、お料理は冷めたら美味しくなくなってしまいますよ? 温かいうちにどうぞ」
 女性に言われ、二人はまだ食事の途中であったことを思い出す。焔は懐かしい味に胸がいっぱいになりながら、藤花は眼に浮かぶ涙をぬぐいながらもスープとカレーを完食した。
 やがて夜明けが近付く頃、焔と藤花は屋台から出た二人と向かい合う。
「お前達には明るい未来が待っている。いろいろと困難なことがあるだろうが、幸せになることを決して忘れてはいけないからな」
 男性は焔と藤花の頭を撫でる。そして女性は焔を抱き締め、次に藤花を抱き締めた時にこっそり耳打ちした。
「この子のこと…どうかよろしくお願いします」
「はっはい…」
 藤花は静かに涙を流しながらも、確かに答える。
 そして焔と藤花は再び手をつないで、屋台と二人に背を向けて歩き出す。


●過去と現在、そして未来へ向かって
 しばらく歩いて、顔だけ振り返った焔の眼に屋台と二人の姿は映らなかった。朝日に照らされたその場には、まるで何もなかったかのような空間があるだけだ。
「…行ってしまったか」
 寂しそうに呟く焔を横目で見ていた藤花は、あの二人のことについて考える。
 二人はやはり、十年前に亡くなった焔の両親だ。藤花の両親から聞いた話だと、雪成家と星杜家は元々付き合いがあったらしい。藤花が三歳、焔が五歳の七五三の時に、一度会っていた。
 藤花と焔は出会ってすぐに仲良くなって、帰る時には別れが嫌でぐずったほどだ。泣き出す藤花に、焔は親の真似としてキスをした。そして藤花は将来、焔のお嫁さんになると宣言したのだ。
 しかし藤花は幼すぎ、焔はその後、両親を亡くしたショックで忘れてしまっていた。
 そして焔から聞いた話だと実家は元々東京で、父親は日本人、母親はノルウェー人だった。母親が留学生の頃、修行中だった父親の料理と人柄に惚れ込んで結婚する。そして二人の間に焔が産まれ、仲睦まじいほのぼの家族だったらしい。父親は『心宿』という料亭を出し、一代で評判を得た。両親の優しい愛に包まれ、焔は幸せだったと言う。
 だが焔が七歳の時、悲惨な事件が起こり、焔は両親も友人も失ってしまう。
 紆余曲折を経て二人は再び出会い、恋人となり、正式に雪成家公認の婚約者となった。
 けれどふとした時、見せる焔の暗い影に藤花は心を痛めていた。何とかしてあげたいと思う気持ちがある反面、自分ではどうすることもできないというのも分かっていた。
 焔が暗い影を背負う原因となった事件の時、藤花は何もすることができなかったから…。側にいて励ますことも、共に悲しみを分かち合うこともできなかったのだ。
 それはどうしようもなかったことだと、二人は分かっている。けれど焔の悲しみは、藤花の悲しみ。なかなか癒えない心の傷を、二人は抱え続けていた。
 そんな焔と藤花を心配して、二人は会いに来たのだろう。二人の前でちゃんと言えなかった言葉を、藤花は少し後悔しながらも今一度強く思う。

――彼と一緒に幸せになります。絶対に――

 胸の中で祈りにも似た誓いを立て、つないだ焔の手をぎゅっと強く握り締める。驚く焔に微笑みと共に、声をかけた。
「あの人達にもう一度ご挨拶できて、しかも交際していることを言えて良かったです」
「藤花ちゃん…。ふふっ、そうだね〜。コレで二人も安心したと思うよ〜」
 笑みを浮かべる焔の眼は赤く染まっているものの、それでもどこかスッキリした顔をしている。
「今の藤花ちゃん、スッゴク可愛く育ったし〜。こんな素敵な女の子が息子の恋人なら、安心してもう会いに来ないかもね〜」
「焔さん…」
「そんな不安そうな顔しないでよ〜。大丈夫、今は藤花ちゃんのおかげで幸せいっぱいだから」
 焔は藤花と再会した当初は、ただの可愛らしい後輩だと思っていた。けれど接していくうちに妹のように可愛く思えてきたところ、突然藤花の方からキスされた上に告白までされて、信じられない気持ちでいっぱいだった。大切な人達を守ることができず、ただ失うだけの自分に自信が持てなくて、だから拒絶した。
 多くの悲劇を目の当たりにし、絶望と懺悔の気持ちで心が押し潰されていた焔を、それでも藤花は選んでくれたのだ。
 焔は藤花の存在のおかげで、徐々に心の傷が癒されつつあった。今ではちゃんと大切な人で、愛おしい恋人だと素直に思える。そのことを両親に伝えられたことは、本当に良かったことだと思う。
 焔は朝日に染まっていく街並みを見て、眩しそうに眼を細める。
「ああ、でもすっかり夜が明けちゃったね〜。藤花ちゃんは送っていくけど、俺は狼男の格好をしているから…」
 そこで焔はイタズラを思いついたようにニヤッと笑い、藤花の耳元でこっそり囁く。
「送り狼になっても良い?」
「なっ何を言っているんですか! 焔さんのおバカ!」
 ドンッ!と思いのほか強い力で胸を押された焔は痛みに顔をしかめながらも、照れる藤花を見て心からの笑みを浮かべるのだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0292 / 雪成 藤花 / 女 / 14 / アストラルヴァンガード】
【ja5378 / 星杜 焔 / 男 /17 /ディバインナイト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 はじめまして。このたびはご依頼していただき、ありがとうございました(ペコリ)。
 ちょっぴり切ないながらも、ほのぼのしたストーリーを書かせていただきました。
 楽しんで読んでいただければ、幸いです。
ハロウィントリッキーノベル -
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エリュシオン
2012年11月16日

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