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『清純神社 』
御手洗 紘人ja2549

「ここが‥‥清純神社‥‥」
 ぽつりと立つ、小さな神社の前。
 魔法少女チェリーは、その神社の鳥居を見上げる。

「何か怪しいけど‥‥」
 目を閉じ、しばし考え込み、その後目を開ける。
「うん、でもこの神社が一番適しているって話だし、入るしかないよね☆」
 目を開けたチェリーが入った鳥居の下には、古ぼけた札。そこに書かれていたのは‥‥
『清純神 七種』


●清純神

 中に入ったチェリーは、静かに目を閉じ、祈りを捧げる。
(「神様‥‥チェリーはこんなにも可愛いのに、恋愛ができません。どうか、方法を、教えてください――」)
「はっはっ、それはだな、清純力が足りないからだ」
「へっ?」
 突然の声に驚き、目を見開いたチェリーの前に立っていたのは、如何にも「神様」と言うような服装を身に纏った黒髪の女性。
「も、もしかして――」
「いかにも。私が、清純神・七種だ」
「ほんとにー?」
 疑いの目を向けるチェリー。それもその筈、先ほどまでの目の前の女性の物言いは、とても「清純」とは言いがたい物である。

「信じないなら、帰ってもいいけどー?」
 扇子で口元を覆い、後ろを向く清純神。「別にどうしてもお願いして欲しいってわけじゃないしー」みたいな心情、丸見えである。

(「うーん、折角ここまで来たんだし、お願いしないのも損だよね☆」)
 そのまま両手を合わせぶりっ子ポーズを取るチェリー。
「神様、お願いします!」
 チラッとそちらを見た清純神は‥‥
「いいよ。清純力を上げるための試練を受ければ、あんたにも恋ができるようになるよ」
「え、本当ですか?」
 チェリーの顔がぱーっと明るい表情に変わる。


●第一の試練

「‥‥神様、これは?」
「滝だよ。見れば分かるでしょ」
「それで、清純力とは何の関係が‥‥」
 水着に着替えたチェリーが渋々見上げる。
 水の勢いは相当の物。ドドドっと水しぶきが上がっている。

「『清純』ってのは字の如く、『清らか』で『純粋』って事だ。なーのーでー」
 軽く、後ろからポンっとチェリーの背中を押す清純神。
「うわわぁ!?」
 ドボンと滝つぼにダイブしてしまうチェリー。

「うう‥‥ぶはっ。何するんですかー!」
「そのまま滝に打たれて身を清めるんだ。それが『清純』への第一歩さ。てな訳で、しばらくそのままで耐えててなー☆」
 背を向け、去ろうとする清純神。
「ええっ、神様は何処に行くんですか?」
「私は腹が減った。ちょっと食事さ」

 暫くして――
「どれどれ、どうなってるかなーっと」
 戻ってきた清純神。
 チェリーは、滝の下でポーズを取り耐えていたが‥‥先ほどと違っていたのは、流れてくる水にゴミ等が混じっていた事。
(「‥‥上流で何かあったのか‥‥?」)

 駆けつけた清純神が見た物は、ゴミを川に流し込んでいる人たちの姿。
「きみたち‥‥神社の中でゴミを捨てるとは‥‥」
 ボキボキと拳を鳴らす清純神。清純と言う言葉から程遠くなっている気がするが、気にしないで置こう。誰も見てないし。誰も――
「ひ、ひぃ!?」
 怯むチンピラ風の一般人。
「あ、あぁぁぁ!?」
 絶叫が、その場に響き渡る――

「チェリー、大丈夫か?」
 戻ってきた清純神は、チェリーを水から引き上げる。
「ふぇ、何がです?」
 とてもゴミの流れる水中に居たとは思えない清らかな瞳で見つめ返すチェリー。

(「これは‥‥『素質』があるのかな‥‥?」)


●第二の試練

 神社内の一室。このルームは「和室」となっており、神秘的な雰囲気を漂わせていた。
「で、神様、ここで何をするんですか?」
「このまま、笑顔を保っていれば良いのさ☆」
 ――チェリーと清純神は、正座で向かい合っていた。

「清純とは、如何なる時も笑顔を維持する事だ。感情によってそれが崩れれば、清純と言うイメージも崩れる事がある」
「そうです‥‥か」
 既に、正座を始めてから1時間が立つ。足が痺れて来る頃だろう。チェリーの笑顔も、心なしか、少し硬い気がする。
 だが、これも恋のためだ。耐えるのだチェリー。

 〜更に30分経過〜

 突如、外から爆音が伝わる。
「うるせぇ!この時間に何やってるんだ!!」
 怒る清純神は立ち上がり、外へと様子を見に行く。
 ――痺れているのか、足取りはおぼつかないが。
「こんな所で何してるんだ!」

「チェリー、大丈夫だった?」
 外に居た暴走族を「物理的に説得」して逃がした清純神。戻ってきた彼女は然し、相変わらず笑顔を浮かべているチェリーを目の当たりにする。
「‥‥‥」
(「足の痺れで気を失っている‥‥!ここまでして笑顔を維持するとは」)

「起きて、起きなさい、チェリー」
 頬をぺちぺち叩く。
「う。うーん‥‥もう朝ですか、神様ぁ‥‥」
「そう言うわけじゃないけど、第二の試練、合格だよ」
「え‥‥ほんとですか! あいたっ」
 飛び上がるチェリー。だが、足が痺れているので、直ぐにその場で転ぶ。
 だが、痛みに涙を浮かべながらも、表情には嬉しさがあった。


●第三の試練

「清純とは、初心な事だ」
「突然何を言い出すのですか?神様」
「第三の試練は、『恥ずかしがる』練習だ」
 目の前に並べられたのは、数々の『参考資料』―――恥ずかしがる女性たちの写真、だ。

「第三の試練では、私をきゅんとさせるような、恥ずかしがり方をしてもらう。無論、心が篭っていない様な物で、私の目は誤魔化せないからな」
 はっはっと笑う清純神の横で、流石にチェリーは少し目頭を押さえる。

「これが最後の試練だ」
「え、本当ですか?」
 一気にチェリーの顔が明るくなる。これだ、これさえ超えれば‥‥

 だが、流石に最後の試練。一筋縄では行かない。
「あ、あの‥‥」
 ぶりっ子ポーズで顔を覆ってみる
「ダメダメ。まだまだだね」

「これは‥‥」
 頬を染め、指をそこに当てる。
「うーん、まだイマイチ」

 試行回数が、20を超えようとしている。
 チェリーの顔にもそろそろ疲れが見えてくる頃だ。
 ‥‥だが、その時、奇跡は起こった。

「ほぇ?」
 ――一陣の風が吹き、疲れて緩んでいたチェリーの服の紐を解いたのだ。
 正に神の風。服が地に落ちると共に、反射的にチェリーは自身の体を覆い隠し――
「きゃぁぁぁ!」
 そのポーズに、清純神の目がきらりと光る!

「うぷ‥‥ご、合格‥‥だよ」
 鼻血が出ているのは気にしてはいけない。
 ティッシュで拭き拭きしながら、清純神はそちらをまたちらりと見る。
「ぶふぉ!?」
 悪化したようだ。


●神のチャンス

「良く、全ての試練をクリアした。チェリーよ」
 神社、本堂の中。真剣な面持ちで。清純神はチェリーに告げる。
(「こ、これで、ついに恋人が出来るように‥‥」)
 わくわくを抑えられない、と言った感じで、目を光らせるチェリー。

「ここで、一つ提案があるんだけど」
 突如の清純神の言葉に、え?と言った感じで小首をかしげ、可愛げな感じで清純神を見つめるチェリー。
「‥‥神になってみないか?」

「え‥‥えぇぇぇぇ!?」
 あたふたと、パニックのようになる。
「な、なんで私が?」
「まぁ聞け。数々の清純試練を経た、あんたの清純力は、既に神に匹敵するレベルになっている。この神の座を、譲り渡すにふさわしいと、あたしは思ってる」

 それを聞いたチェリーは、うーん‥‥と考え込み。

「‥‥お断りさせていただきます」
「どうしてだい‥‥?」
「私の目的は、清純になって『恋人を作る事』です。神様になっちゃったら、恋人が作れないじゃないですか☆」
 実に、単純な原因であった。

「そ、そうか‥‥それは残念だが‥‥」
 残念よりも、寧ろ目がきらきらしたチェリーの剣幕に引いているように見えるのは気のせいであろう。
「それなら仕方ない、さ。では、お前の幸運を祈るとしよう」

 かくして、清純神社の扉は閉じられた。
 清純力を得たチェリーに、果たして恋人が出来たのかは‥‥また別のおはなし。

 めでたしめでたし‥‥(?)
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剣崎宗二 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年11月19日

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