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『+ 同居人手合わせシリーズ ―師匠と弟子?― + 』
桐生・出流8626)&人形屋・英里(8583)&(登場しない)



 それはそれはとても天気としては良い日で御座いました。
 洗濯物は良く乾きそうでしたし、英里様の家庭菜園も順調快調絶好調だとの事でそれはもう良い日ですね、と笑っていたのが数時間前の事。
 そして何故かわたくしが同居させて頂いているこの廃屋ちっくな洋館に新しい地下室が開いたらしいと告げられたのが数分前の話です。


「ここ、前まで扉はありましたけど開きませんでしたよね」


 わたくしは一応、……そう、一応自分自身の記憶違いではない事を確認すべく同居人であり、この家の持ち主である女性、英里様に確認の質問をする。今日も今日とて可愛らしい涙型のフェイスペイントに金髪の三つ編みが良く似合う家主である英里様は己の腕を組みながら一度頷いて下さりました。


「開かずの間がいつの間にか解禁されることがよくあるのだ」
「解禁って……元の持ち主は何者ですか?」
「細かい事を気にしてたらこの家ではやっていけんのだ」
「細かいでしょうか」
「扉が一つ開いたからといって何か問題があるのか?」
「いえ、そこから毒ガスが漏れてくるとか重大な被害がない限りは特別問題ありませんね」
「だろう」


 英里様は新たに発見された地下室を覗き込みながらさらりとした態度。
 わたくしも対して驚きもせず、ただただここの屋敷とは変な特徴を持っているのだなと感心するだけで御座います。ですが、同居人の一人もとい最年長の男はそうではなく先程から色々と突っ込みを入れているようですが――それはまあ置いておいて。


「おや、あの二人手合わせに行ってしまいましたよ」
「なんなら師匠もやるか?」
「ニッコリと笑って言われました」
「うむ。それはもう丁度良いと思って」
「?」


 地下室の広さは数人まとめて戦っても問題ないほど広く、そして黴臭い。
 鼻をつんっと刺激する埃臭さに顔を顰めるも、英里様は特別気にした様子はなくむしろ広い部屋という事で心うきうきされているようにも見えます。
 しかし手合わせに誘われてしまいましたが……そういえば、英里様は……戦えるのでしょうか?


「ああ、私が戦うのではなく――ちょっと待っててくれ。今つれてくる」
「はぁ」


 そう言って一旦地下室から出て行く英里様。
 視線を地下室へと戻せば、奥の方では既に戦闘を始めた二人の姿が見えます。それはもう嬉々として攻撃する少年と、それを受ける青年の姿には感心を抱きつつ――後で治療するのはわたくしなので程ほどにして貰えたら良いのですが、本気で試合っている二人には無理な話でしょうね。


「師匠、ただいま。手合わせして貰いたいのはこの二体なのだ」
「――なるほど、人形ですか」
「調整が終わったのでな。本来は向こうで戦っている……まあ、助手に調子を見てもらって欲しかったのだがあのように楽しんでいるのに水はさせないだろう?」
「でしょうね。良いですよ、わたくし相手で良ければ受けてたちましょう」
「人形が行動停止したら師匠の勝ちで」
「それってつまり壊すという意味で駄目なのでは?」
「いや、むしろ壊す気持ちでやって良いぞ。その方がより一層改善案が見える可能性が高いしな」


 なるほど。
 それほど人形師としての自信が彼女にはあるのでしょう。実際彼女が連れてきた人形二体は演舞系衣装に日本刀を携えたもの。その日本刀も恐らく模造ではなく本物と思われますし……これはわたくしも本気で掛からねばまずいでしょうね。
 わたくしはどちらかというと術式派なのですが、この二体相手ですとあまり幻影とかは効果はありませんし、やはり体術が基本でしょうか。ではレイピアと蝙蝠軍団を召喚させて頂きまして――。


「英里様、本当にこの人形達を壊しても恨まないで下さいね」
「それはそれで今後の参考になるから頼んだ」
「では――参ります!!」


 わたくしの言葉が戦闘開始の合図。
 英里様が下す命令によって人形達が動き出し、わたくしと蝙蝠軍団に襲い掛かってきます。――この戦闘、吸血鬼の名に賭けて必ず勝ってみせましょう。



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 やがて幾許かの時が過ぎて。
 わたくしの足元には哀れにも崩れ落ちた人形が二体。


「やっぱり壊してしまいましたね」
「うむ。まだまだ改良が必要だという事が良く分かったのだ」
「こちらの攻撃型の人形は猪突猛進と言いますか、攻撃に比重を置きすぎて己の身を護る事が弱いようですね。回避能力を上げれば大分伸びますよ。なんせ当たらなければ意味がない」
「なるほど。こっちの防御型は師匠から見てどうだった?」
「防御に重点を置いているだけあってこちらはある意味強いです。攻撃が中々通らないので、こちらとしても相応のダメージを与えないといけなくなるんですよね。そうなると攻撃側も反動がきついですし、長期戦となれば体力が削られてしまいます」
「ふむ。だめーじか……やっぱり他人の意見は参考になる」
「役に立てて何よりですよ」


 わたくしは愛用のレイピアを仕舞い込みながら微笑みかける。
 英里様はと言うと顎に手を当て、真剣な面立ちで考え込むばかり。人形師として日々精進している彼女ですから今回の戦闘でも思うところが沢山あったのでしょうね。しかし彼女の指示は的確で、わたくしも少々厳しかったとはあえて言いません。人形師が人形達の力を最大限に引き出すのは重要な事。英里様の指示次第ではもっと苦戦していたかもしれませんね。
 蝙蝠軍団達に散るように命令を下し、召還するとほっと一息を吐き出す。はてさてこれにて一件落着と言いたいところですが……。


「さて、あの二人の治療もしなければいけませんね」
「二人して爪を伸ばして切り裂くは、殴りあいをするはで思いっきり暴れておったな」
「普段手合わせなんてしない二人ですから思う存分戦えて幸せでしょうね」
「ほう、そうなのか」
「ええ、意外にも」


 奥の方で戦闘していた二人が疲れ果てているのを視認しながらわたくしは英里様と共に笑い、そして彼らの方へと歩んでいく。
 しかし埃臭い。これは後で掃除をしなければいけませんね。ああ、もちろん治療は清潔な上の部屋で行いますとも。こんな場所でしたって意味がありませんから。


「では英里様、また新しい人形が出来ましたら見せて下さいね」
「うむ。次こそ師匠に勝てる人形を製作してみせよう」


 ぐっと拳にして決意する英里様の目は輝きに満ち、それはもう可愛らしく。
 ……早く彼女が同居人の気持ちに気付いてくれる事をわたくしはこっそりと祈っておきましょうか。初々しいのも良いのですが、進展しないのは見ていてもどかしいので。


 ――もちろん、当の本人達にはそんな事を考えているなどとは秘密ですけどね。









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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8583 / 人形屋・英里 (ひとかたや・えいり) / 女 / 990歳 / 人形師】 【8626 / 桐生・出流 (きりゅう・いずる) / 男 / 23歳 / アイドル・俳優】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、別視点の手合わせシチュ発注有難う御座いました!

 こちらは吸血鬼と狐と表記するか迷いましたがあえての「師匠と弟子で」。
 結果としては能力的にやっぱり出流様が高いと判断し、人形達破壊に至ると言うことになりました。その考え方は作中にて出流様の発言にて反映をさせて頂くという形を取らせて頂いております。
 どうか気に入っていただけますように! ではでは!
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年11月21日

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