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『大きなカボチャの実の中で 〜食べて食べられ南瓜祭〜 』
最上 憐 (gb0002)

●序
 あなたと わたし
 おいしく ごあんない
 おおきなカボチャの みのなかを

 何処かで聞いたことがあるメロディに乗せたフレーズが頭を過ぎる。カボチャの中は、まさにそんな蹂躙が繰り広げられていた。
 どうしてこんな事になったのか――それは、少し前に遡る。

●時計兎が向かった先は
 小柄なアリスの前を、更に小さな時計兎が駆けてゆく。
「師匠‥‥待ってくださいよ〜」
 アリス姿の少女――高城 ソニア(gz0347)の声に、最上 憐(gb0002)は立ち止まり、振り返った。
 振り返った拍子に、頭の兎耳がぴょこんと揺れる。いつもの赤いリボンの代わりに白の兎耳を着けた憐の扮装は、アリスを誘う時計兎だ。
「‥‥ん。早く。行かないと。お菓子が。なくなっちゃうよ?」
 それだけ言って、再び急ぎ出す。白い尻尾を上下に揺らして先を急ぐさまは、まるで本当の時計兎のように何かに急かされているようだ。

 ――というのも、憐とソニアはハロウィンイベント中の遊園地を訪れていたのだ。
 仮装をして各アトラクションを巡り、南瓜スタンプを全て集めた客にはハロウィンスイーツのプレゼントが! という催しに参加中だったものだから、憐の気合の入りようもひとしおというもの。
 今すぐにでも迷子になりそうなソニアとはぐれないよう、エプロンの裾をしっかと握り、憐はもう片方の手で数メートル先に聳え立つアトラクションを指差した。
「‥‥ん。ソニア。次は。これにしよう」
「‥‥え。師匠〜 そこに入るんですかぁ‥‥」
 途端に及び腰になるソニアが恐れた行き先はというと――お化け屋敷。中世ヨーロッパの城をモチーフにした仰々しいアトラクションも、今日はハロウィン仕様にカボチャの装飾が施されていて何だかユーモラスだ。
 見上げればオレンジ色した格子柵。全体をよく見てみればカボチャの形になっていた。
「カボチャの中へ? 折角なら舞踏会へ向かう馬車なら良いのに‥‥」
「‥‥ん。それ。物語が。違うよ?」
 ぽそっと独りごちたソニアに、憐はシンデレラではないよと突っ込んで。時計兎を追いかけるどころか殆ど引きずられる格好で、アリスは格子柵を潜った。
 お化け屋敷なのも相まって、何だか牢獄に入ったような錯覚に陥るのは気のせいか。
「師匠〜」
 既に半泣きで憐に縋ったソニア達が入ったのは――繰り抜いたカボチャの中だった。

 ちょっと生臭い。生カボチャのようだ。
「うぅ、このお化け屋敷、凝り過ぎですよ〜」
 中身は綺麗さっぱり繰り抜かれて残っていない。意外と広い部屋には丸や三角の窓が開いていた。壁の下方には波型の切れ目が入っている。
「‥‥ん。この壁。顔の形みたい。だね」
「まるで、ジャック・オ・ランタンの中にいるみたい‥‥」
 何気なく呟いたソニアの言葉は、あながち間違いではない。壁の顔はジャック・オ・ランタンの表情そのままだ。巨大なカボチャを繰り抜いて作ったかのような室内は青臭く殺風景で、さながらジャック・オ・ランタン型の牢獄を思わせた。
 憐は油断なく辺りを見渡した。
 今のところ、お化け屋敷には付き物の幽霊やゾンビは出て来る様子はない。しかし何かの気配は、ある。
 そして、異様な点がひとつ。
 入って来たはずの場所が、跡形もなく消え去っている。そんな奇妙な罠を仕掛ける奴は――まさかバグアの仕業か!?
「‥‥ん。離れないで。ソニア」
 憐は扉があったはずの壁に視線を向けたまま言った。
 幼い見た目に惑わされてはいけない、憐の視線は歴戦の傭兵が持つ、それだ。言われるがまま憐の背にしがみつくソニアを庇いつつ、憐は注意深く壁に集中した。
「‥‥師匠?」
 この期に及んで只のお化け屋敷だと思い込んでいるソニアは素直に怖がっている。勿論、憐が覚醒中なのにも気付いていない様子だが、そんな暢気さはソニアらしいかもしれない。やがて憐は淡々と言った。
「‥‥ん。FFは。無い。只の。食べ物。つまり。かぶりついても。おっけー」
「え?」
 師匠ったら今、ふぉーすふぃーるどって言いませんでしたか?
 そう言いたげなソニアの視線を真っ直ぐ見上げて、憐は「そうだよ」と言いたげに、こっくりと頷いた。
「バグアの罠‥‥なのですか?」
「‥‥ん。そうかもと。思ったけど。平気」
 何が平気かと言うと、食べられるか食べられないかの区分に於いて平気という意味だ。ソニアの生カボチャ食べるんですかの視線を物ともせず、憐はワタの残った青臭い壁を抉じ抉じし始めている。
 出口がないなら作っちゃえばいいじゃない。
 それ自体は非常に前向きな発想と言えたけれど、掘るのでなく食べる辺りが素晴らしく憐らしかった。

 もじもじとソニアは独り言を繰り返している。
「そんな、部屋を食べるのは‥‥あ、お菓子の家なら食べたいかも‥‥じゃなくて‥‥し、師匠!?」
 せめて加熱済なら良いのにと調理器具がないか無駄な努力を試みていた傭兵志望の学生は、突然口をぱくぱくさせて憐を呼んだ。
「あ、あれ‥‥!!」
 黙々と口を動かしながら憐はソニアの指し示す方向へ視線を遣った。
 カボチャの果肉部分――つまり部屋の壁から床から至る所から、もこもこと果肉色した生物が湧き出して来ていた。オレンジ色した塊が、色はそのままで、みるみるうちに人や獣の形を取ってゆく。
『オマエラナニヤッテルダー』
『『オレタチノ バンメシノクセニ!』』
 喋っている。生物か!?
 相手は果肉色した生物型の団子だから表情を伺うのは困難だったけれど、口調や動作からカボチャ生物(?)達が怒っているように感じられた。何より『バンメシ、バンメシ』と繰り返して近付いて来る様子は如何見ても友好的には見えない。

『オマエラを』
『『オレタチガ』』
『『『クッテヤルー!!!』』』

「あ、わわ、どどど‥‥‥‥」
 どうしましょ、と言えずに固まったソニアはともかく、憐は落ち着いたものだった。
「‥‥ん。大丈夫。皆。仲良く。私の。胃に。ご案内してあげる」
 動こうが動くまいが食べられるなら食べ物、食べてしまえば問題ない。憐の理屈は実に単純明快だ。寧ろ可食部分が増えてラッキーとでも言わんばかりの様子で、壁に突っ込んでいた左手を抜き取ると、前のめりに突進して来たマッチョ型カボチャ団子の頭を鷲掴みにした。
「‥‥ん。意外と。柔らかいね」
 めしょ、と頭部を掴んだ憐は迷いなくマッチョの顎に齧り付いた。もしょもしょと咀嚼して、呆然としているソニアへ結構いけるよと振り返る。
「‥‥ん。カボチャ味の白玉団子。みたい」
 口に合ったらしい。瞬く間に頭一個を平らげて、憐は右手でマッチョの腕を?いだ。一見筋肉質に見えた腕だが、ぷにぷにしている。確かに、形はともかく白玉団子の弾力に見えた――が。
「‥‥ん。ソニアも。食べる?喋って。動くけど。毒は無い。美味だよ?」
「ひぃっ!」
 ほら、と腕を差し出したもので、反射的に受け取ったソニアは悲鳴を上げて取り落とした。
 ぷよんと跳ねた腕は床を跳ねてカボチャ生物達の群れへと帰ってゆく。戻って来た同胞の一部を、狼型のカボチャ生物がぱくんと咥えて呑み込んだ。
「きゃー!!」
「‥‥ん。共食い。するほど。美味」
 あらぬグロ状況を眼前に妄想して悲鳴を上げたソニアを他所に、憐は気が合いそうだねと狼型に近付いた。勿論、食す為である。
 少々固めの毛並みはオレンジ色、やはり実際には絶妙な弾力を持っている。徐に毛を毟れば容易く取れて、当の狼は悲鳴を上げた。
『イタイ! ハゲルデハナイカ!!』
「‥‥ん。こっちは。カボチャグミ」
「か、カボチャ‥‥グミ!?」
 市場に出れば売れるのだろうか、それは。いやいや、そうじゃなくて!
 動こうが動くまいが憐には全く関係ないらしい。
 団子だろうがグミだろうが、目の前で動き続ける生物っぽいモノの踊り食い。憐の一方的な蹂躙、補食するはずだった側がされる側に転換した状況。
 どういう仕組みか解らないけれど、カボチャ部屋は一向に磨り減る様子がなく、ただただ憐の時間無制限食べ放題会場と化している。
「師匠‥‥まるで師匠の方が酷い事してるみたいです‥‥」
 泣き叫び、逃げ惑い。
 牢獄から次から次へと生まれ出ては憐の胃袋に収まってゆくカボチャ生物達に同情すら覚えたソニアの声が――

●時計兎の手を引いて
 ――憐を呼んでいた。
「師匠、師匠‥‥?」
 瞼を開けると、赤茶の髪をした少女が憐を覗き込んでいた。

 髪の間から覗く白い兎耳に目を向けて、そう言えばソニアとハロウィンパーティに来ていたのだっけと憐は思い出す。
 どうやらうたたねしていたようだ。
「少しお疲れですか?」
 心配気なソニアに、憐はううんと首を横に振って目を擦った。その様子は見た目相応に幼い少女のあどけなさだ。
「‥‥ん。大丈夫。でも」
 ぐー。憐の腹の虫が鳴いた。

 カボチャの白玉にカボチャグミ、カボチャクッキーにカボチャケーキ――ほかにはどんな味があったろう。
 鼻孔をくすぐる独特の香り。今夜はハロウィンに因んだ屋台が沢山出ていて、カボチャカレーの出店もあるようだ。
「‥‥ん。何か。バイキングを。食べる夢を。見たから。お腹空いた。ソニア。露店に。突撃しよう」
 夢から覚めるにつれ益々空腹は増してきて、微笑んだ時計兎の手を取ったアリス姿の憐は立ち上がった。急かすようにソニアの手を引き、憐は足早に露店を目指し始めた。
「それで師匠、どんなバイキングだったのです?」
 暢気なソニアの問いに応えて憐は道々話し始めた。カボチャの密室内で起こった、美味しい夢の話を――



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 gb0002 / 最上 憐 / 女 / 10 / 時計兎を導く小さなアリス 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもソニアが御厚情を賜りありがとうございますv 周利でございます。
 遅くなりまして申し訳ありません! ハロウィンの頃の思い出を、お届けさせていただきます!

 ハロウィンパーティー、ハロウィンの仮装‥‥と考えて、連想したのはアリスモチーフでした。
 憐さん、きっとエプロンドレスがとてもお似合いだと思うのですよv
 でもソニアにとって憐さんは師匠であり先を導く人でもあり‥‥夢の中では時計兎にも扮していただきました。

 敵とはシリアスに、とのご要望でしたがシリアスになりきれず‥‥申し訳ありません;
 ほのぼのハロウィンの思い出、お楽しみいただけましたら幸いですv
ハロウィントリッキーノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2012年11月26日

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