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『+ 小悪魔と狐と鬼と + 』
九乃宮・十和8622)&人形屋・英里(8583)&鬼田・朱里(8596)&(登場しない)



「落ち着きそうにないから朱里兄の所に行って良い?」


 事の発端は僕、九乃宮 十和(くのみや とわ)の真剣な一言から始まった。
 此処は僕がアイドルグループ「Mist」のティールとして所属する事務所の一室。目の前には同じグループ仲間のアッシュもとい鬼田 朱里(きだ しゅり)とマネージャーの姿があり、こちらもまた困ったように顔を顰めていた。だって僕が座っているソファーの傍にはそれはもう明らかに「家出してきました」と言わんばかりの大きなカバンが存在している訳で、それを見た彼らは僕がいかに真剣に実家を出てきたのか汲み取ってくれている。


 元々僕の家庭環境は一般的に良くない傾向にあったけど、それでも何とかしようと思って僕はアイドル業界に足を入れたんだ。
 でも有名になればなるほど僕自身が家に居る時間は少ないし、目を離していた時間が増えれば増えるほど家庭崩壊は進んで……とうとう耐え切れなくなった。そこでなんとかしようと考えて一番相談しやすい事務所と、大きな洋館に住んでいるという朱里兄に相談を持ちかけているわけ。
 朱里兄も僕の相談内容を聞くをそれはもう眉根を顰めて同情っていうのかな。哀れみ……じゃないと思う。ちょっと困惑気味っぽい表情を浮かべていたよ。
 まあでも仕方ないんじゃないかなーなんて僕は思ったり。
 だってすでに朱里兄のところには僕と朱里兄以外の残りのメンバーが転がり込んでいるわけだからね!!
 ……ぶっちゃけ僕だってそれを聞いた時はずるいと思ったよ。なんで皆一緒なの! って思ったよ。だから朱里兄なら助けてくれるかなって相談したんだもんね♪


「話は分かりましたよ。でも英里にも許可を取らないと」
「だよねー。それは分かってるから連絡を取ってもらって良い?」
「英里は携帯電話を所持していないので少し時間が掛かりますが、構いませんか?」
「どれくらい掛かる〜? 一応お金は自分用に貯金してあるのを崩したら数日はどこか漫画喫茶にでも泊まって寝れるから待てるし、事務所の仮寝出来る部屋を借りても良いかなーって思ってるけど」
「いえいえ! そこまでは掛かりませんよ! 多分英里は家に居ると思うので単純に私が家に帰って相談して此処に戻ってくるまでなので……そうですね、数時間程度掛かるだけです」
「わぉ! 携帯持っていないとそんなにも時間掛かるもんなんだね! でも思ったより短いからよっゆー☆ じゃあ今日は仕事も入ってないから適当に時間を潰して待ってる!」
「すみませんね、十和。じゃあ、私は今から家に戻って――」


 対面していたソファーから朱里兄が立ち上がり、僕の為に家主である英里姉――えーっとフルネームは人形屋 英里(ひとかたや えいり)だったかなー。あの三つ編み金髪ゴスロリ少女の英里姉に僕の事を相談しに帰ろうとした瞬間、何故か動きが止まった。
 視線は一点に釘付けられ、中々動かない。
 マネージャーと僕も流石に「?」マークが浮かんでしまったので朱里兄が見ている方へと視線を追いかけると……あれ?


「ねえ、朱里兄。あれ英里姉じゃないの?」
「ですよね。何で事務所になんか……ちょっと行って来ます」
「帰る手間が省けたねー! 僕も行くー♪」


 わーいと両手を挙げながら大した高さもないソファーから足をちょっとだけ振り下ろすようにぴょんっと立ち上がる。
 朱里兄はすたすたすたと事務所の反対側に存在する目的の人達のところへと早足で移動開始。僕も後ろをたったったっと軽く駆ける程度の速さで追いかけた。


「英里! どうしてこんなところに!?」
「お、朱里。良いところに来た。ちょっとこの人の話を聞いてくれ」
「え?」
「えーっとあれだ。あれ。買い物していたらこの人にすかーと? すかうと? された」


 そんな英里姉の傍に居るのは所長のおにーさん。
 ぴっと英里姉に指差された彼は「朱里の知り合い? ならやっぱり事務所に入るべきだよ!」と何故か血眼になって説得を再開している。あれ、この光景ここの事務所じゃ結構良く見るものだけど、英里姉が対象だとなんだか新鮮だね!
 所長のおにーさんってば英里姉が気に入っちゃったらしく、それはもう朱里兄も巻き込んで英里姉を事務所に入れようと必死。それはもう大きな仕事をぶんどる時のような勢いで彼は言葉巧みにあの手この手で英里姉の興味を惹こうとしてる。


 でもそれは多分駄目だと思うよ?
 ……朱里兄、所長には何も言わないけど凄く黒いのが出てるもん。背後から。


「この人ずーっとこの調子なのだ。私はその『げいのーかい』とやらには興味がないと言っているのだが、ついつい朱里の事務所の名前だったからついてきてしまったのが悪かった」
「違っていたらどうするつもりだったんですか! 大体英里がテレビに出れるわけないじゃないですか。ちょっと油断すると電子機器を破壊してしまう体質なんですよ!?」
「いや、それを言ってもこの人全く聞いてくれないんだが……どうしたら良いのか困っている」
「じゃあそこの時計でも壊してしまったら良いですよ。英里がそういう体質の持ち主だと分かったら諦めてくれますから」
「良いのか? …………私としては物は極力壊したくないんだが」
「でも普通に考えて何百万もするスタジオのカメラとかを一気に数台壊すより良いでしょう?」
「それはそうなんだが……うーむ。どうするべきか」


 困っているのは英里姉も同じ。
 でもね、朱里兄は絶対に英里姉をテレビに出したくないんだよね。壊す、壊さないの問題じゃなくって、朱里兄は独占欲強いとこあるから。
 テレビを通じて英里姉の存在が広まって、英里姉を好きな人が出来たらそりゃあもう朱里兄は嫉妬の嵐だと思うもん。今だってそう。まだ芸能界に入っていないけど、所長のおにーさんの目に留まっちゃった事が原因で朱里兄ってば無意識なんだろうけど周囲を圧するオーラを出しまくってるもんね。周りはそれを怒りだと思っている見たいだけど……ふふん、僕には原因が何か分かっちゃった!
 だからそろそろ救いの手を出してあげないとね☆


「英里姉ー! 丁度良いところに来てくれたー! お話したい事があるからこっち来て、こっち! 所長のおにーさんもそろそろ諦めて他の子探した方がいいよ? 英里姉、本当に芸能界なんか興味ないし、電子機器破壊体質も本当だもん」
「そうですよ、十和の言う通り他の人を探して下さい。ほら、英里。ちょっとこっちへ来てください」
「う、うむ。何の話があるかは知らないが、とりあえずそっちには行く。えっとだな。所長さんはとりあえず私の事は諦めてくれ。頼む」


 英里姉の後ろに回り込んで僕はぐいぐいと彼女の腕を引っ張る。
 朱里兄もそれに続くようにもう一方の腕をさり気なく掴まえて所長から引き剥がす為に誘導を始めた。所長はそれでも微妙に諦めていないみたいだけど、僕達がガードした事により強気には出れなくなったみたい。
 まあね、一応所属アイドルの機嫌は損ねたらまずいし? 英里姉本人の意思も快いものじゃないんだから引くしかないよねー。それでも最後の足掻きとばかりに「また来てね」と声を掛けることは忘れない辺りは所長らしいや。


 僕達は先程まで相談しあっていた対面ソファーの方へと行く。
 今度はマネージャーが席を譲って朱里兄と英里姉が隣同士、その向かい側に僕とマネージャーが座る事となった。僕と朱里兄はと言うと事務所のお姉さんが飲み物と簡単なお菓子を運んできてくれるのをそれはもう良い笑顔を浮かべて応対する。
 英里姉は「また来て」の所長の言葉にまだ困惑しているみたいだけど、そろそろ話題をこっちに持っていかないとね。


「英里姉、そろそろお話いーい?」
「あ、すまん。で、何があったのだ」
「実はですね」
「僕を英里姉のところに同居させてー!」
「話が唐突過ぎて分からん」
「ああ、ちゃんと説明しますから。実はですね――」


 そこから始まる僕のちょーっと人より複雑な家庭環境のお話。
 簡単に言うと実家が家庭崩壊気味だから英里姉のところの洋館に同居させて、という話なんだけど、それを出来るだけやんわりと噛み砕いて説明してくれるあたりが朱里兄の優しいところだよね。特に僕に気を使って言葉を選んでくれているみたいだし、流石に「家出」となると気を使わせすぎちゃったみたい。反省。


「……なるほど。うちに住むのは構わない。部屋は余っているしな」
「既に二人居候がいますからね……」
「朱里兄、なんだか遠い目してるけど仲良くしてる?」
「え、なんの事ですか。はっはっは。ちょーっと英里があの人に懐いたからって拗ねてなんか」
「――英里姉、あの二人喧嘩してない?」
「喧嘩というのか? よくこう……見えないバチバチ音が聞こえるような会話はしているが、殴り合いはしていないぞ。この間は他の三人一緒に料理をしていたし仲は良いんじゃないか?」
「…………うん! 理解した!」


 予想はしていたんだけどね。
 朱里兄とあるメンバーは喧嘩仲間だから毎日が毒舌大会なんだろうなーって。でもまあ、本当に心の底から受け付けられない相手だったら同居出来ないからきっと大丈夫☆
 喧嘩するほど仲が良いって言うし、そこに僕が加わったらそれはそれで面白いでしょ?


 マネージャーは英里姉に住所を聞いて、更に僕の保護者に連絡を取って相談する時間の許可を貰って……と忙しそう。
 んー、転居するって色々面倒だよね。特に僕まだ十二歳で保護対象だしさー。こういう時、既に自立している大人組のメンバー二人が羨ましくなっちゃうよ。
 でも英里姉も許可してくれたし、学校もちゃんと行くから問題ない。


「英里姉、朱里兄、これからよろしくね」
「こちらこそ、よろしく。部屋を開けておくので落ち着いたら引っ越しておいで」
「んー、多分今マネージャーが対応してくれるからこれから話に行ってからかな。夜にはそっちに行けると思うよ、多分だけどね!」
「私に連絡を入れてくれれば英里に話しますから、事前に電話をお願いしますね」
「はーい!」


 僕は元気よく挨拶をして、応える。
 二人はそんな僕の様子を見ておかしかったのか、少しだけ表情が緩んだ。


 ―― そしてその夜。


「十和、心配したんやで! 大丈夫やったか!?」
「連絡の方は上手くいったようですから大丈夫でしょう。ほら、中にお入りなさい。今日はわたくしが当番だったので食事の用意はしておきましたよ。十和の好物を作っておきましたので、舌にあうと良いですね」


 無事僕は英里姉達が住む一見廃屋ちっくだけど中は綺麗な洋館へと無事移住を果たす。
 その頃には既に先に同居していたメンバー二人にも話は通じていたから、それはもう手厚い歓迎を受けるわけで。
 うん、突発的な家出には心配させちゃったけど、出迎えてくれるのは嬉しいよね。大人組の一人が作ってくれた料理も結構美味しかったし、幸せー♪
 僕は割り当てられた部屋に朱里兄と英里姉と共に荷物を運び込み、とりあえず寝るところだけあればいいやと今晩は片付けを諦めた。


「しっかし朱里兄ってば多分あの様子じゃ気付いていないだろうね」


 部屋の中で僕は一人、布団の中で呟く。
 朱里兄が英里姉のことを好きなのはメンバーの中ではそれはもう話題の一つ。朱里兄がいつ英里姉に告白するかとか進展はいつだとか良く話をするんだけど。
 うん、英里姉はちゃんと朱里兄のこと好きだよ。
 だって朱里兄の事を話すと嬉しそうにしたり、嫉妬したりするんだよ。


「でも、言ってあげない」


 まだね。まだ。
 二人に色々吹き込んで変な方向に流れちゃったら嫌だもん。朱里兄は本当に気付いていないのかな。それとも朱里兄ってば好きな対象にだけ鈍くなるタイプだったのかもしれないねー。


「でも今日のところは――おやすみなさーいっと」


 何はともあれ、僕は同居に成功。
 実家では感じられなかった温かさを、どうかこの場所では感じられる事を願いながらそっと目を伏せた。








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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8583 / 人形屋・英里 (ひとかたや・えいり) / 女 / 990歳 / 人形師】
【8596 / 鬼田・朱里 (きだ・しゅり) / 男 / 990歳 / 人形師手伝い・アイドル】
【8622 / 九乃宮・十和 (くのみや・とわ) / 男 / 12歳 / 中学生・アイドル】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、発注有難う御座いました!
 今回は十和様の家出からの同居話ということでこのようなお話となりました。
 家庭環境に関してはあっさりめにして、十和様の視点から何を考え周囲がどう見えているのかに重点を置いてみましたがいかがでしょうか。
 どうか少しでも気に入って頂ける事を祈りつつ……ではでは!
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
東京怪談
2012年12月03日

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