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『+ 今宵、どんな夢を見る? + 』
小野坂源太郎(gb6063)



 貴方は、幸せそうに笑うでしょうか。
 それとも悲しみに心を沈めていますか。


 さあ、目を覚まして。
 そして教えて、そこはどんな世界?
 鏡合わせの中に存在する虚像のように、またそこには別の貴方。


 貴方は聖夜の夜にどんな夢を見るか。



■■■■■



 その『男』は強かった。


「討てー!! 焼き払え!!」
「ふぁははははは!! 無駄じゃ無駄じゃぁあ!! そのような鉛などわしには効かんっ!」
「なんだ、あの男ッ――くそ、荷を守れ! 賓客を遠ざけろ!!」


 ある一人の男性はその光景から目を離せず、視線を釘付けにされていた。
 彼はバグアに改造して貰う事で全盛期以上の肉体と強さを得た元格等家の中年男性で、基地の見回りをしていた所巨大化した潜入者に遭遇し、仲間と共にそれを追い払う役割を今背負っている。己が持ちうる限りの武器防具、能力を使用し、数十メートルクラスの巨大化した男を退けようとするが、その強大な力の前では男が改造によって手に入れた力など無力化されてしまう。
 破壊され、崩壊する基地。
 暴れられては散っていくコンクリートの破片が辺りを覆い、足場を悪くさせる。
 銃を撃つ仲間達をその手を薙ぐだけで簡単に押しのけ、まるで人形のように飛ばすその圧倒的な力――男はその光景に心を奪われ、そして唇を強く噛んだ。


 『まだ自分には力が足りない』


 急にその言葉が浮かび上がり、男を侵食していく。
 幾ら己が全盛期以上の力を手に入れたとしても巨大化の前では赤子同然。歴然とした力の差を見せ付けられて男は決意を新たにする。


 『あの巨人と戦いたい』


 それは自分にはない力への憧れの念。
 そして格闘家としての戦闘意識であった。彼は決意する。目の前で暴れている男と再び出逢った時には対等に立てる力を得ようと。
 巨大化した男――小野坂 源太郎(おのさか げんたろう)を睨みながら、彼は己の力の無さを今は悔やみつつそれでも上司の命令のままに力を揮い続けた。やがて全てが終わり、瓦礫の山と化した場所に立つことになる事が明白であっても彼には今撤退という言葉は浮かばないのだから……。


「さあさあ、わしに勝てるヤツがおるんだったら出てくるが良い!! 喜んで相手になろうぞっ!!」


 巨大化した源太郎が喜び叫ぶその声、いつかその相手になるべく彼は響くその音を心に刻んだ。



■■■■■



 あの襲撃の日からどれくらい経っただろうか。
 男は考え始める。
 己の生を。
 今、自分の手の平を改めて見下ろし、そこに掴んできた数々の栄光と絶望、そして名誉などを思い出しながら男は過去の軌跡を思い出していた。後悔はしない。後ろを振り返る事はあっても、歩んできた道程をまた戻りたいなどと彼は思わなかった。
 先日の基地は使い物にならなくなり復旧作業に入ったため、彼は別の基地へと配属される事となった。全てはあの巨大化した男のせいで――。
 憎々しく毒気付く上司や同僚達を横目に男は胸の内に抱いた憧れを形にするべく、研究に身を捧げた。
 全盛期以上の力――そんなものを手に入れてもただの凡人。より強大な力こそ、己が手にしたかったモノなのだと思い知らされた今、彼に迷いは無い。


 彼がただ欲したのは――。


「敵だ!! 例の基地を襲ったあの男がまた現れたぞっ!!」
「各部隊、敵襲に備えよ! あの男に遠慮などいらん!!」


 唸るアナウンス、聞こえる上司達の叫ぶ声。
 仲間達が配置に付き、武器を構えて応戦する激しい銃撃音。ああ……重々しい足音が聞こえてくる。やっと来たか――待ち構えていたと言う様に男は口端を持ち上げた。


「この基地は制圧させて貰う! ふんっ! 軟弱な小童共などわしの相手ではないわ!」


 男が外に出ればそこには先日と全く同じように巨大化し、基地を圧しようとし始めている源太郎の姿が在った。持ちうる限りの戦力で応戦しても彼に付くのは掠り傷程度。撤退させるにはまだまだ力が足りない。
 だからこそ、男は笑う。
 この時を待っていた。対等に立てる力を揮える日を彼は待って、待って――。


「そこの男! 私が相手だ!」
「ん? なんじゃ、貴様は。わしに勝負を挑むとは良い度胸よ!!」
「お前を倒すこの日を待っていた。さあ、……勝負!!」


 源太郎の前に立ったちっぽけな男。
 最初は誰もがそのような印象を受けた。
 だが、彼は大胆不敵に笑むと全身全霊の力を己の肉体へと注ぎ込み、筋肉を隆々と盛り上がらせ、次第にその大きさを肥大化させていく。服は破れ、最低限の布を纏っているだけの姿となり、けれど筋に血管を浮かせて立ち振る舞う姿はやがて源太郎とほぼ同等のサイズへと変化し終える。
 これには源太郎自身が目を見張る。
 対峙する二人の巨人。
 畏怖したのは周囲の人間達。味方からも巨人が出ればそれは安心感と共に恐怖をも引き連れ、戸惑いの声が上がるばかり。


「はっはっは! 面白い。これはわしも本気でやらねばいかんのう!!」
「さあ、参る!」


 豪快に笑う源太郎は口元を覆う白い髭を撫でながら、感心したように男を眺め見た。
 やっと対等に戦える相手が見つかったと嬉しくなったのはどちらも同じ。この一戦こそが運命の出会い。交える拳こそが幸福。


「お主、名はなんという?」
「名乗る名など無い」


 奇しくもこの日は男が格闘家として引退試合を行ったクリスマスの日。
 例え急激な改造の結果によって明日命が尽きると定められているとしても構わない。巨大化能力を得て、戦える事こそ格闘家として最高の誇り。
 男の目には死を覚悟したものにのみ浮かぶ光が宿る。
 その光を確認した源太郎は男の決意を静かに汲み取り――そして今、二人の戦いの火蓋が切って落とされるのであった。

















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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【gb6063 / 小野坂 源太郎(おのさか げんたろう) / 男 / 73歳 / ファイター】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、今回は発注有難う御座いました!
 発注文から読み取るにあたり、『男』からの視点で今作は書かせて頂きました。巨人二人が並んでいる姿……想像すると凡人である当方などまたちっぽけな存在ですね。ではでは!
N.Y.E煌きのドリームノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2012年12月04日

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