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『セカイの果て 』
夜来野 遥久ja6843)&宇田川 千鶴ja1613)&石田 神楽ja4485)&加倉 一臣ja5823)&月居 愁也ja6837


 ――世界を魔王の手から救い出す!
 紅蓮の髪と同様の暑苦しさで、まばゆい笑顔で、親友は拳を突き上げた。

「行こうぜ、ハルヒサ!!」

 動機など、その一言で充分だった。
 神官であったハルヒサは、その日を境にパラディンの称号を得て、剣と盾を手にした。



●最後の街
 世界は魔王の統治下に置かれ、混沌としていた。

 砂ぼこりの舞う、辺境の街。
 酒場、武器屋、道具屋が立ち並び、魔王討伐に向かわんとする自称勇者たちの最後の門出を祝う街。
 人々は知っている、旅立った勇者たちが、二度とこの街を訪れることが無いことを。


「もう少しで『最後の街』だってェのに、運が無いな!」
 魔法剣士シュウヤは、雷光を纏った剣をかざした。
「ここで俺たちにケンカ売った不運、魔王にでも呪いな!!」
 剣先から放たれる地を這う稲妻が賊の足を拘束する。
「せめて、やすらかな祝福を与えましょうか」
 ハルヒサの白刃が追い打ちを与える。
 シュウヤのサポートに立ち回るハルヒサ、慣れた連携のはず――だった。
「! シュウヤ!!」
「わっ!?」
 倒れかけた盗賊の一人が苦し紛れに放ったボウガンのトリガーに指を掛ける。短い矢がシュウヤの頬を掠めた。

 毒でも塗られていたか、小さな傷から鮮血が吹き出す。

「許しは『向こう』で乞え」
 瞬時に、ハルヒサのブルーグレーの瞳が温度を下げる。
「ハル――……」
 ガインッ、 派手な音を立て。
 ハルヒサの盾で最後の盗賊は息を引き取った。


 ないわー、盾で殴るとかないわーー
 馴染みの傭兵ギルドで報酬を受け取った後、だらだらと酒場へ向かったシュウヤは綺麗に治療された頬を撫でながら呆れた笑いを浮かべた。
「お前の剣は、飾りかっつー」
「まぁ、咄嗟の場では効率的ではありますよね。面積も広いですし」
 シュウヤに言われたい放題でも押し黙るハルヒサへ、話を聞いていたガンナーのカグラが微笑を湛え、フォローした。
 遺跡発掘品の無骨な狙撃銃は、今は折り畳み足元に置いてある。展開すればカグラの身の丈より長大な得物となるが、見る者は皆、『折り畳んだ状態』が完成形だと思っていることだろう。
「そやけど、珍しいなぁ。シュウヤさんに手傷負わすような賊が、この辺に出るなんて」
 カグラの隣では、相棒にして恋人のシーフ・チヅルが身を乗り出している。
「私やったら、そんなもん回避しとったろうけどな。シュウヤさんもまだまだやな……」
「チヅルちゃんの鬼回避と比較したら、シュウヤがカワイソウじゃなーい」
 そこへ、ドリンクを手にしたカズオミが参加してきた。
 金目の話は好きだが、面白い話はもっと好き。
 スカウトというよりは盗賊魂の熱い青年だ。
「でさ、話は聞かせてもらっちゃったんだけど。魔王退治に出るってホント?」

 『最後の街』人々は、この街をそう呼ぶ。
 世界を混沌とせしめている、魔王の居城に最も近い街で、打倒魔王を謳う勇者たちが、最後の装備を整えてゆくことから付いた呼び名。
 それを狙う盗賊まがいも多いことから傭兵ギルドでの仕事斡旋は絶えることなく、本末転倒で入り浸る『勇者』も少なくない。
 ハルヒサにシュウヤ、そしてカグラとチヅルも、この最果ての街で出会った。

「ほら、開錠が必要な場面もあるかもしれないし。ね?」
 俺も一緒に連れて行かない?
 人懐っこい笑顔で、カズオミが自身を売り込む。
 開錠――となれば、居城に乗りこんでからのこととなろう。
 ふ、と視線を泳がせたハルヒサは、同様のカグラと目が合う。
「……」
「……まぁ、良いんじゃないでしょうか」
 笑顔という名の盾を装備したカグラが、迷う雰囲気を打破した。
「やったね! ついでに魔王の宝が手に入ればラッキーってことで!!」
 カズオミが指を鳴らす。
「ただ―― 私は大人数での行動が慣れていないものでして」
 ゴトリ、がしゃ、ガシャガシャン
 カグラが愛用の狙撃銃を展開し、銃口を、カズオミの肩へ、そっと。
「誤射したら、許して下さいね?」
 にこにこ。
((ケシズミになる、な……))
 その場の誰もが、カグラから視線を逸らし、カズオミへ同情した。



●旅立ちの日
 ことの経緯を聞き、武器屋の主人・カケイが感慨深く頷く。
「そっかぁ、遂に皆も行くんだねえ」
 チヅルから修理を依頼されていた短剣の輝きを確認しながら鞘に収め、手渡す。
「一緒に削られてもいいのよ?」
「キャラ被りは致命的だろ」
 壁に掛けられている暗器を眺めていたカズオミの発言に、カケイは苦笑を返した。
「若者たちの旅路に幸あれ。――せめて、俺からはこれを贈ろうか」
「……指輪、ですか」
 受け取ったカズオミが、複雑な表情をする。
 複雑な紋様が彫りこまれた、シルバーリング。
「チヅルさんには、カグラくんから渡すだろうs」
 最後まで告げることなくカケイの耳元を銃弾が掠めた。
「店内での発砲は自重下さい!!?」
「すみません、暴発しました」
「そっちも、メンテナンスしよっか……」

 皆が皆、この街に来てから武器屋には何くれとなく世話になった。
 ギルドでは入手できないような噂を持っているのも、あの主人であった。
 仕事柄、多くの旅人を見送ってきたのだろう。そして、二度と会うことは無かったのだろう。
 そして自分たちもまた、必ず戻るという約束はせず、武器屋を――『最後の街』を、後にした。



●惑わせの森
 魔王城へ向かうには、街との間に佇む森へ入りこまねばならない。
 多くはここで迷い、帰らぬ人となる。
「ま、この辺は俺の得意分野ってことで」
 コンパスも効かない道を、それまで収集した情報を駆使してカズオミが先を歩く。
 小さな魔物程度であれば、カズオミ一人で蹴散らせられる。

「霧が濃くなってきたな。まだ昼前なのに……」
 あちこちに白骨を見つけながら、シュウヤが肩をすくめた。
「なんや、厭な予感がするねぇ」
 自分自身が、バッドステータス付与の術を操るからか、つい疑り深くなるチヅルであったが――

「ほっほっほ、わしの術を見破るとは、大したものよ」

 三下っぽい台詞が森の中に反響した!!
「そこですね!」
 展開した狙撃銃で、カグラが素早く物影を撃ち抜く。
 カズオミの悲鳴が森の中に反響した。
「あっ、すみません、3回までなら誤射ということで」
「ク、クリティカルの加護でもついてんのかな、カケイさんの指輪……!!」
 ケガには至らず、耳元の誤射でガンガン痛む頭を抑え、カズオミが体勢を整える。
 それはともかく、木陰で一つ、生き物の倒れる気配がした。
「『影』ですか…… 厄介ですね」
 笑顔のまま、カグラは敵の能力を察した。
 『影』と呼ばれる分身を操る魔導師―― おそらく、この視界不明瞭とする霧を発生させているのも。
「本体を倒せばオールオッケーなんだろ!!」
 シュウヤの剣に炎が纏う。
 灼熱が霧を蒸発させ、振るたびに視界を切り拓いてゆく。
「うわっ、えげつなー……」
 気づくと、『影』に包囲されていた。本体と思しき姿は見えない。この期に及んで、まだ隠れているというのか。
 チヅルは顔をしかめながら短剣を放ち、文字通りの『影縛り』で動きを縫い留めてゆく。
 慣れた連携でカグラがそれらを撃ち落としていった。
 カズオミは軽快な身のこなしで、ジャケットの内側から取りだすワイヤーで影達を切り刻んでゆく。
 猿のごとき素早い『影』は森の中を縦横無尽に駆け回り、一行を翻弄した。
 そして合間に、何処からともなく魔導師の放つ遠距離魔法が仕掛けられる。
「シュウヤ、頭を下げろ!」
 ハルヒサが呼びかけ、上空から降り注ぐ火球を盾で防ぐ。ジュワッ、魔力同士が蒸発する音が鈍く響く。
「サンキュ、ハルヒサ」
「なんでもアリだね、こりゃ」
 他方から落ちてきた隕石をステップで避け、カズオミが呆れ声。
 敵の魔導師、かなりの手練れか。あるいは一人ではないのかもしれない。そんな存在が、なぜこんな場所に。
 問答している時間は無かった。
 回避し、打ち返し、やり過ごし、戦い抜いてゆく。
 親玉は何処だ!!


 どれだけの時間を戦っていたのか。
 時間の感覚さえ、術中なのか。
 斬っても斬っても、影が減る気配はない。
「――くぅ!」
 意識を逸らしたところで、ハルヒサの背後に影が回り込み、その首を締めあげる!!

「! ハルヒサにナメた真似してんじゃねーぞ!!」

 シュウヤが目を見開く。剣の先から、強大な炎球が走り、周辺の群れを焼きつくした!
 しまった、とチヅルの声。
 地面から伸びた影の腕に捕われ、バランスを崩す。
「この――っ」
 刀を取り出し周辺を威嚇する、そこへカグラが援護の弾幕を浴びせた。
 硝煙の匂いが森に広がり――、チカリ、光をハルヒサが見つける。

「そこですか!!」

 聖騎士の光を纏った剣を振るい、魔導師へ立ち向かう。
 至近距離で放たれる邪悪な魔法は盾で払って。
「お返しは、こんなもんじゃ済まさへんで!」
 チヅルの撃つ短剣が、魔導師を麻痺させる。ハルヒサが返す刀で切りあげる!!
「念入りに、吹き飛ばしてあげましょう」
 ガシャリ、カグラの狙撃銃が第二段階へ変形し、砲撃を放った。



●霧の出口
「カグラ、ハルヒサ、――魔王様の息子でありながら、我々を裏切るなど……!」

 倒れ際、魔導師の言葉で一行に動揺が走った。
「言ってませんでしたっけ?」
 呆然と立ち竦むチヅルへ、いつもの笑顔を崩すことなくカグラが告げる。
「聞いてへん、そんなん知ってたら……」
 恋人の父親の命を狙っていたと、知っていたら?
「アレが『迷惑掛ける駄目男』には変わりありません。だから、私はチヅルさんと倒したかったんですよ」
「…………」
 違和感は、あったのだ。
 チヅルだって、まったく気づいていないわけではなかった。でも、確信はなかった。
「カグラさ……」
「どういうことだよ、ハルヒサ!!!!?」
 チヅルの呼びかけは、シュウヤの叫びにかき消される。
「ずっと、ずっと隠してたのか!? 親友だと思ってたのに…… あれ、でも時々なんかオカシイって いや、俺は一度も疑わなかった! なのに!」
「疑われる前に、記憶抹消処理(物理)していたからな……」
「ハル」

 ――ガインッ

 銀の盾が、シュウヤの側頭を殴り倒した。
「……えーと」
 絶句するカズオミの横で、回復魔法を施すハルヒサ。慣れた手つきだ。
「オハヨウ、ハルヒサ これから魔王を倒しに行くんだよな!!」
「何を寝ぼけている。それは取りやめって決まったところだろう」
「え? そうなの??」
「どうやら、魔王の息子は世界に100人くらいいるらしい。誰かが倒すでしょう」
 見事な記憶操作(魔法:話題すり替え)である。
((うわぁ…………))
 こうして二人は、ずっと共にあったのだと――仲間たちは理解し、顔を合わせて肩をすくめた。
「恐らくは……」
 カズオミが装備していたシルバーリングを取りあげて、ハルヒサはそれを光にかざす。
「タカマサ―― 聞き覚えはあります。カケイ殿も、きっと」
 魔族の言葉で、裏に彫られた名前。読み解き、ハルヒサが口の端を釣りあげた。

 ファーストネームを明かすことのなかった、武器屋の主人。最後の街の住人。旅人の見届け役。100居る魔王の子のひとり。
 彼は今も、あの街に居るのだろうか。
 リングという束縛を放棄し、自由の身となっているのだろうか。

 ふと思い立ち、ハルヒサ、カグラが、それぞれに懐に忍ばせていたシルバーリングを取りだした。
「どうします?」
「……そうですねぇ」
 所持するものには魔王の加護を。
 縁起でもないとするか、些事とするか―― 捨てることだけは出来ずにいたのだけれど。

「センスが悪いです。次の街で、マシなものを購入しましょう」

 カグラが適当な木の枝に引っ掛けると、ハルヒサも目を細めて続いた。


「日が落ちる前に、次の街へ行きましょう。東へ抜ければ国境ですね」
「あー、こっちへ来るように、ツレに連絡しないと」
 カズオミが楽しげに大陸マップを広げた。




 砂ぼこりの舞う、辺境の街。
 酒場、武器屋、道具屋が立ち並び、魔王討伐に向かわんとする自称勇者たちの最後の門出を祝う街。
 人々は知らない、旅立った勇者たちが、二度とこの街を訪れることが無い本当の理由を。

 彼らはきっと、今も面白おかしく旅を続けている。





【セカイの果て 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6843 / 夜来野 遥久 / 男 / 27歳 / アストラルヴァンガード】
【ja6837 / 月居 愁也  / 男 / 23歳 / 阿修羅】
【ja5823 / 加倉 一臣  / 男 / 25歳 / インフィルトレイター】
【ja4485 / 石田 神楽  / 男 / 22歳 / インフィルトレイター】
【ja1613 / 宇田川 千鶴 / 女 / 20歳 / 鬼道忍軍】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
剣と魔法と俺とお前のファンタジー、とっても楽しく執筆させていただきました。
NPCカケイのお誘いもありがとうございます。兄弟になれてホクホクです。
皆さまの普段の関係をそのままに、ファンタジーというより実に日常という印象で御座いました。
これからの旅路にも、魔王の祝福があらんことを。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年12月05日

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