『『囚われの視線』 』

エフェルメルツ・メーベルナッハ（ja7941）＆如月　統真（ja7484）

　目の前に見えるのは、優しく青い空間。
　雲一つない、青空。
　清々しい気持ちで、空の方へと、青い空間へと誘われていた。
　が、次の瞬間。
「……落ちる」
　少女が前方を見ながら言った。
「う、うわーーーーーっ」
　少年は喜びとも驚きとも言える、大きな声を上げた。
　２人が乗っていたコースターが、突然滑り落ちるかのように、下方へと走り出したのだ。
「……」
「う、おおおおー」
　コースターは速度を上げて、右へ左へと蛇行する。
　少女は顔色を変えず、風と、空と景色を堪能し。
　少年は、歓喜と恐怖の声を上げながら、スリルを楽しんだ。

「ふは〜。楽しかった。イヴちゃん、大丈夫？」
　コースターから降りた如月　統真（ja7484）は、爽やかな顔でイヴ・クロノフィル（ja7941）に尋ねた。
「……大丈夫。気持、よかった」
「うん、凄いスピードだったけど、気持ちよかったよね」
　笑顔で言って、統真はイヴと一緒に歩き出す。
　今日は２人で遊園地に遊びに来たのだ。
　統真にとってイヴはちょっと気になる後輩。
　イヴにとって、統真は兄のような存在……といったところだろうか。
　並んで歩く２人は、周りの人々に仲の良い小等部の姉妹のように見えている。
　実際はイヴは小等部３年で、統真は男の子で中等部２年なのだけれど。
「次は何乗ろうか？　それとも休憩する？」
「……休憩、する。ちょっとお腹空いた、から」
「そうだね、おやつにしよう〜」
　どこで休もうかと、統真とイヴは辺りを見回した。
「甘い、匂い……」
　ふわりと流れてきた甘い匂いに目を向けると、そこには可愛らしいクレープ屋さんがあった。
　看板には様々なクレープの写真が載っている。
「……美味し、そう」
「ホント」
　誘われるかのように、２人の足はクレープ屋に向かっていく。
「食べようか！」
　統真の言葉に、イヴはこくりと頷く。
「ええっと、どれにしようかな……」
　看板の写真を見ながら、統真は考える。
「……ストロベリー生クリーム」
　イヴは殆ど迷わずに決めて、注文をした。
「畏まりました〜」
　店員の女性が明るい声で言い、すぐに作り始めてくれる。
「よし、僕はフルーツミックス生クリームで！」
「了解しました〜♪」
　店員は器用に２枚同時に焼いていき、フルーツを乗せて、生クリームをかけて。
　くるくるっと巻いてから、また生クリームをかけ、フルーツを乗せて完成させた。
「美味しそ〜。ありがと！」
「……いただき、ます」
　統真とイヴはお金を払って、それぞれ注文したクレープを受け取った。
「それじゃ、あっちのベンチで食べようか」
「……うん」
　それから、近くのベンチに腰かけて、出来たてのクレープを食べることにした。

　青空に浮かぶ太陽が、優しく辺りを照らしている。
　ぽかぽか。気持ちの良い１日。
　辺りには、カップルや、親子連れの輝く笑顔が沢山溢れていて。
　そんな心地良い空間の中で。
　可愛い後輩。
　兄のような存在として。
　互いに好意を抱いている人と一緒に、並んで座って食べるクレープは本当に美味しくて。
「うーん、美味かった〜！」
　統真はすぐに食べ終えてしまった。
「っと」
　ここは食べ合いっことかすべきだったかな！？　と、統真はちらりとイヴを見た。
（で、でも恋人とかじゃないしな、僕たち）
　ふうと統真は息をついて、イヴを見つめる。
「……ん、美味しい。甘いのと、すっぱいのが、ちょうどいい」
　表情こそ変えないが、イヴは美味しそうに頬張って食べている。
「ふふ。良かったな」
　イヴのそんな姿を、統真は微笑みながら眺めていた。
「食べ、終わったの」
　クレープを食べ終えたイヴが、統真に愛らしい顔を向けてきた。
「お？」
　統真はイヴの顔に、生クリームがついている事に気付く。
「ははは、ほっぺにまだ残ってる」
　そう言いながら、指で拭ってあげた。
「……ほんとだ」
　ごく自然にそう言った後。
　イヴは生クリームのついている統真の手を、クレープを掴んでいたのと同じように掴むと。
　その指をぱくっとくわえた。
「！！！」
　統真は驚いて目を丸くする。
「イ、イヴちゃん！？　な、何をしているのかなー！？」
　真っ赤になって、統真はあたふたする。
「……ん？　最後まで、食べたの」
　イヴは口と手を離して、ごくんと最後の生クリームを飲み込んだ。
「そ、そっか……。お、おいしいもんね。最後まで、食べたいよね。は、はははは」
　彼女の口の中の、柔らかく暖かい温もりが残る指を、統真はそっと折り曲げて握りしめた。
　心臓がばくばく音を立てていた。
「？」
　イヴは不思議そうな目で統真を見ている。
「……統真、どうかした？」
「ど、どうもしてない、どうもしてないよ」
　ごくんと、統真も唾を飲み込む。
「そう……」
　イヴは統真に向けていた目を、園内に向けた。
　人々の笑顔と、明るい風景がそこにはあった。
　明るくて、ほのぼの、温かな空間。
「ぽかぽか……あったかい」
　イヴは座りなおすと目を細めて遠くの空を見る。
「……眠い、の。統真……」
　そして、とろんとした目を統真に向けてきた。
「そっか。ちょっと横になる？　膝くらいなら、貸せるけど」
　統真がそう言うと、イヴはこくんと頷いて。
　ベンチに深く腰掛けた統真の膝に、頭を乗せて。
　ぽかぽか、陽気の中。
　笑顔が溢れる、世界で。
　少しの間、お昼寝をすることにした。
「おやすみ、イヴちゃん」
　優しい目で、統真はイヴを見下ろす。
　小さな頭に手を置いて、銀色の髪をそっと撫でて。
　膝に感じる彼女の重さを、心地良いと思いながら。
（可愛いなぁ、イヴちゃん……………………………………ごくん）
　彼女を愛しげに見ていたはず、だけど。だけど！
　視線はつい。
　つい、本当につい！
（お、おおきい……）
　彼女のふくよかな胸にいってしまう。
　小柄で細身なイヴだけど、不釣り合いなほどに胸が大きいのだ。
　健全な中等部２年生男子の統真の視線は、どうしてもその胸に囚われてしまう。
「クレープ……温かくて、柔らかくて、美味しかった」
　眠そうな目で、イヴがそう呟く。
「そ、そうだね。温かくて、柔らかくて、美味しそ……」
　彼女の胸を見ながら、つい、本当につい統真はそう言ってしまい、首をぶんぶんと左右に振る。
「……どうしたの？」
「……はっ！？　な、なな、何でもナイヨ！」
　言って、統真は目を逸らした。
「観覧車乗って、景色を見るの……。空中ブラ、ンコも、乗って……いっぱい、楽しむの」
「そうそう、ブラ……ンコ乗ろうね！　お……いっぱい楽しもう！」
「……ん」
　イヴはそっと目を閉じた。
　それから。
　彼女が眠りに落ちたことを確認してから。
　統真はまた、彼女を――気になっている可愛い後輩を見下ろした。
　普段よりあどけなく見える寝顔が、可愛らしい。
　自分に身を預けている、無防備な彼女は本当に可愛い。
（可愛いなあ、イヴちゃん……………………………ごくっ）
　でも、視線はやはり彼女の胸元に行ってしまい……。
（ほ、本当に無防備、だよね）
　指に彼女の唇の柔らかさと温かさがよみがえり、片手がぷるぷる震えだす。
「理性よ、下りてこーい……」
　統真は１人、イヴが目を覚ます時まで。
「煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散」
　呪文のように呟き続けるのだった。

■ＷＴアナザーストーリーノベル（特別編）■

川岸満里亜

エリュシオン

2012年12月14日