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『+ 今宵、どんな夢を見る? + 』
桜井・L・瑞穂ja0027



 貴方は、幸せそうに笑うでしょうか。
 それとも悲しみに心を沈めていますか。


 さあ、目を覚まして。
 そして教えて、そこはどんな世界?
 鏡合わせの中に存在する虚像のように、またそこには別の貴方。


 貴方は聖夜の夜にどんな夢を見るか。



■■■■■



 聖夜の追憶。
 其れは、主従運命の出会いの記憶であった。


 時は現在より数年前。
 フランスのある地方都市では雪積もる厳寒の中、一人の少女が路地の片隅で路上生活を強いられていた。彼女の名はリネット・マリオン。襤褸布を被り寒さに震えていた彼女は温かい光が灯る邸宅を寒さによる眠気に襲われながらも見つめていた。
 薄汚れた肌、手入れのなされていないぼさぼさの髪の毛。生気のない瞳は、それでも生きる事を渇望し、日々を過ごしていた。
 だけどその日はあまりにも寒すぎた。手は痛み、感覚は麻痺し始め、毛布を握っているのかそれとも添えているだけなのかも彼女には分からない。だけど自分の体温を何とか毛布から逃がすまいと懸命に身体を縮めて耐えていた。蹲り、体力を消費しないよう努力する。早く、早く雪が溶けてくれる事を祈っていた。けれど春はまだまだ遠い事を彼女は知っていたからこそ、蒼褪めてしまった唇を過剰なまでに震わせるのみ。


「あら、貴方。ちょっとわたくしといらっしゃいな」
「……え」
「ふふ、お前達。彼女を屋敷に連れて行くわ。構いませんわよね」
「お嬢様!?」
「命令ですわ。温かい風呂を用意なさい。服はわたくしが選びましょう」


 リネットの前に立ったのは彼女の手には到底届かない上質なドレスを纏った少女。
 従者達を控えさせている事から上級家庭の生まれである事くらい浮浪児であるリネットでもすぐに理解出来た。朦朧としている意識の中、大人達の腕がリネットの細く弱った腕を掴み強制的にその身体を起こされる。リネットの身体は長い間寒空の下に晒されていた為、氷のように冷たく、そして路上生活の長さから衣服及び体臭も不衛生である事は間違いない。実際リネットを掴んだ一人の男は顔を顰め、「どうしてこんな汚い娘などを」とぶつくさ文句を呟いていた程だ。けれど指示を出した少女はそんな事など全く気にも留めず、彼女を己が住む邸宅へとつれて帰った。


 そこから先の記憶はリネットの中に「恐怖」も付与されていた事を覚えている。
 何故自分が此処に連れてこられたのか。
 何故自分が少女に声を掛けられたのか。
 どうして医師の診察を受けさせられ、風呂にも入れさせられているのか。
 更にそれが終われば目の前の少女が楽しそうに服を選んでいるのが見える。
 それは「知らないものへの畏怖」でもあった。


 けれどリネットが逃げるという選択を浮かばせる事すら出来なかったのも事実。彼女にはそもそも感情が欠落しており、恐怖はあれど自分が一体この先どうなるのかすら考える事すら諦めていたといっても過言ではなかった。
 言われるがままに服に手を通し、漉かれるがままに髪の毛を整えられ飾り立てられる。このまま売り飛ばされたとしてもそれもまたリネットは「運命」だとも考えていた。


「予想通り、綺麗になりましたわね。見違えましてよ」
「……」
「医師のいう事には健康面でも問題無いという事ですし、こちらとしても嬉しい限りですわ」


 清楚なドレスを纏った長い黒髪が美しい少女が身体を縮めながらも椅子に座ったリネットの前に立つ。
 目の前の少女のドレスに合わせたデザインの衣服を着せられたリネットは上質な布の感触に戸惑いを覚えた。しかしそれを露にする事はない。彼女の中にあったのは「何故自分が連れてこられたのか」という疑問のみ。
 だからこそただ瞬きを繰り返しながら、満足げに自分を見る少女を見返した。


「何で……私に、こんなコトを……?」
「不思議そうな顔をしていますわね。まあ、良いでしょう。理由を話してあげますわ」
「……理由」
「貴女の身柄はこの桜井・L・瑞穂(さくらい・りんだ・みずほ)が預かります。そして貴女にはわたくしの初めての専属従者になってもらいますわ。更に何よりも妹分として家族に迎え入れますので宜しいこと?」
「……じゅうしゃ? いもうとぶん?」
「ええ、そうですわ。貴女は今後わたくしに仕えなさい。その代わり不自由はさせませんことよ」
「…………よく、わからない」
「困惑しているようですわね。まあ当然かもしれませんわね、リネット・マリオン」
「名前……どうして、知って……?」
「さぁ、此の手をお取りなさいな。……勿論、貴女に拒否権はありませんわ。此のわたくしが決めた事ですもの♪」


 満面の笑顔を浮かべながら瑞穂は楽しげにリネットへと手を差し出す。
 その手にはこれまた触れれば手触りの良さそうな白手袋が嵌められており、それが清らかさを更に引き立たせていた。この手を取ってもいいのだろうか。今まで汚らしく路上生活をしていた自分が触れて汚したりしないだろうか。リネットはそう考えながら瑞穂と名乗った少女を暫しの間見つめた。
 けれど瑞穂もまた愛らしく飾り立てたばかりのリネットを見つめ返し、もう一度彼女に手を取るよう軽く指先を折り曲げてアピールする。


 リネットは己の名前を呼ばれたその時から既に糸を絡められたような気分に陥っていた。
 その名を何故知っているのか、などと疑問に思うことすら愚問だとも思える。自分の素性を調べるほどの権力を持っていることを推測する事など容易い事だ。
 何も知らない。
 何も分からない。
 だけど確かなのは求められている事。
 差し出された手を取れば運命も変わる――それだけは間違いなかった。


「良く分からないけど……あのまま凍えてるよりは、きっとずっと、良いと思う……。だから……」


 恐る恐るリネットは手を伸ばした。
 己よりも栄養をしっかりと取った健康な手の体温が彼女の手の平に伝わってくる。重ねあった手と手。明日をも知らぬ身を救ってくれた恩義を瑞穂に感じ、そっと握り返した。瑞穂は瑞穂で年齢よりも細いリネットの手をしっかりと掴む。
 あまりにも世界が違いすぎる二人。だけどリネットを引き上げたその手は温かく、優しい。


「さあ、パーティに参りましょう。わたくしの従者の初お披露目ですわね」
「ぱー、てぃ……」
「あら、気付いてませんの? 今宵はクリスマスですのよ」
「……私には関係、ない、から……」
「わたくし、ずーっと探していましたの。素敵なクリスマスプレゼントを見付けましたわ」
「クリスマスプレゼント……」


 瑞穂は嬉しそうに笑みながら彼女を連れ立って広間へと足を運ぶ。
 長い長い道のりだとリネットは感じていた。歩いた事のない柔らかな絨毯、廊下を飾る様々な絵画や彫刻に視線を向け、中々落ち着く事が出来ない。ここは知らない世界。同じ世界で暮らしていたはずなのに、リネットが今まで過ごしていた寒空を防いでくれる屋根があり、更に己の小さな身体を簡単に包んでしまう大きなベッドもある。空腹で苦しむ事もない。寒さで意識を飛ばす事もない。
 広間に行けば大勢の上流貴族達が楽しげに談話し、パーティーを楽しんでいる姿が見られリネットをまた驚かせるわけだが……。


「私……、ここにいていいの?」
「わたくしの選んだ従者が今更何を言ってますの。さあ、堂々と背を伸ばして凛とした態度で私に付いてきなさい。貴女の態度もわたくしの評価に掛かってますのよ」
「ん、がんばる……」


 これから生きていく場所。
 窓の外を見ればそこは雪に覆われた庭や遠くの方には街路が見える。リネットはもうあそこで震える事はないのだと何故か第三者のような視点で物事を考えながら今自分の手を握る少女に引かれるがままに広間へと足を踏み入れた。


 互いに繋ぎあったこれこそ運命の樹立。
 拾った彼女と拾われた少女の人生が絡み合った聖なる日。
 これが彼女達の主従関係の始まりである。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【ja0027 / 桜井・L・瑞穂 / 女 / 17歳 / アストラルヴァンガード】
【ja0184 / リネット・マリオン / 女 / 15歳 / 阿修羅】


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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、ノベル発注有難う御座いました!!

 今回は出会い編ということで、主にリネット様視点で書かせて頂きました。寒くなっている日々の中、リネット様が相当な思いをなさった事を想像すると手を取れた事は嬉しい事ですね。どうか気に入っていただけますように。
 ではでは!
N.Y.E煌きのドリームノベル -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年12月14日

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