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『●僕と眼鏡の『虹色の絆<エターナル・トラスト>』 』
クインV・リヒテンシュタインja8087

ひらり一片、また一片と、街を遠く見下ろす高台に、粉雪が降り積もっていく。
絶え間なく視界に降り注ぐ白は、行く先を惑わせ戻る道を隠す。
不安になる心は、暖かな我が家を思い描き――しかし、踵を返すわけにはいかない。
結果、真皓き世界を、独り彷徨う羽目にもなる。

――道の繋がる先は、何処?


しんしんと粉雪が降り積もる。遮るものの何も無い広場は、白い絨毯を敷き詰めたよう。
踏み荒らす事を僅か躊躇いつつも、クインは真っ直ぐに歩を進める。
こんな空気の澄んだ夜は、神経が研ぎ澄まされる。凍てつくような真冬なら、尚更。
衣服の境目、剥き出しの肌を刺す痛みは、いっそ心地よいほどで。
だから、あえて、防寒は最低限に。立ち昇る呼吸の白さえも、今は愛おしい。
さくりとした感触を足裏に感じながら、ゆっくりと、中央まで足跡を刻み立ち止まる。
360度、視界を遮るモノは何もない。己以外、誰も存在しない空間。
当然だ、僕は――クイン・V・リヒテンシュタインは魔法の天才。練習している姿など、人に見せられるわけがない。
そのために、この時間とこの場所を選んだのだから。
唯一、己のつけた軌跡さえも、粉雪は優しく覆い隠していく。

儀礼服の裾を払い、魔具を構える。集中する――同時に、足元から立ち昇る銀色の煌き。
舞い降りる粉雪に絡みつくように、梵字の羅列が帯となりクインの周囲で螺旋を描き。
頭頂を越えると、優しく覆うように旋回する。その間に、ひとつ、ふたつ深呼吸をして。
眼前に差し出した掌、粉雪がいくつか降り積もる暇も与えずに、光と熱が灯る。
飽和する、その一瞬の見極め。くるり、掌を翻し、突き出す――虚空に浮かぶ、仮想の強敵へ。
「――炸裂掌ッ!」
閃光のラインダンス。
ついで、追い掛ける轟音が、静寂を切り裂く。粉雪を派手に散らし、衝撃波は虚空に消えた。
威力は申し分無し、制御も許容範囲内。なのに、見据えていた魔物は、いまだこちらを向き嘲笑う。
「おかしいな、天才の僕にしては魔法のキレが悪い…」
黒いフレームに縁取られた眼鏡の、曇りなきレンズ越し。キッと睨み返しながらも、クインは首を傾げる。
再び掌を掲げる。集中する意識、集束するアウル。流れるような所作は、スキルが身体に刻み込まれている証。
だが、その程度なら誰でも出来る。天才たる己なら、きっと、もっと。
「もっと凄い魔法が出るはずだ…」
集束させたアウルを、一度離散させる。どこかしっくりこないのは、やり方がまずいのだろうか?
掛け違えたボタンを探すように、発動手順を一から丁寧になぞる。
流れる経路、留め置く容量、発動のタイミング――最小の力で、最大の効果を。
飽くこと無き探究心。聖夜に独り舞う影に、そっと寄り添うかのように、粉雪は絶え間なく降り続ける。

幾度、同じ動作を繰り返しただろう。
集う熱に反して、指先は悴み感覚がなくなってきた。廻る梵字も、心なしか輝きを曇らせているようで。
前髪から雫が滴り落ちる。体温で溶けた頭上の粉雪か、はたまた額から滲み出る汗か。
遮るもののない、滑らかなレンズ表面を幾筋か流れ落ちていく。
水滴の残る視界の向こう、魔物は、まだ倒れない。
「ふぅ、今日もダメか。イメージが掴めてないのかな…?」
流れる水滴が眼にまで到達したのを切欠に、クインは、ふ、と息を吐き力を抜いた。
細く立ち昇る白い吐息と対比するように、銀の螺旋は周囲の粉雪を巻き込み、地面に吸い込まれていく。
きっちり着込んだ学校指定の制服、その内ポケットから沁み一つ無い布を取り出すと。
クインは恭しい手付きで、そっと愛しき相棒を外した。
「濡れた姿も美しいけれど、大事な君が錆びてしまっては困るからね」
己の目元は乱暴に拭い、それとは打って変わった調子で、丹念に眼鏡の水滴を拭き取っていく。
赤子の柔肌を擦るように慎重な、ゆっくりとした動き。しかしそれでは、後から後から降り積もる粉雪に追い付けない。
冷たい侵略者から庇おうと、身体の向きを変えた――刹那。きらり、と、反射する光。
遠く光る街の灯が、装飾の無いシンプルな黒縁を、鮮やかに煌かせる。
幻想的な瞬きは、結果の出ない努力を、けして無意味ではないと労わってくれているようで。
気付かなかった焦りが、柔らかに宥められていくのを感じる。
己は天才であると、信じて疑ったことなどない、けれど。時折ふと這いよる、理由のわからない焦燥。
忍び寄り心を惑わす混沌から、眼鏡の輝きは導となり引き上げてくれる。
「やっぱり僕の眼鏡は素敵だな。小さな星空のように煌いて僕の心を癒してくれる」
まったく天才たる僕らしくも無い事を、と頭をひとつ振り。頬が赤いのは、寒さのせいにした。
空いた間を誤魔化すように、物言わぬ相棒を褒めちぎる。周囲には誰も居ないけれど。
微笑ましい姿に笑いさざめくかのように、粉雪は風に踊る。

休息、というわけでもないけれど。角度を変え、しばらく、手の内の煌きを楽しむ。
様々な顔を見せてくれる相棒――光が、息つく間もなく星屑のように瞬いて、目が離せない。
「…ん?眼鏡の光…!」
唐突に思い立ち、片手で眼鏡を滑らせる。流れる瞬きは、さながら光の帯のよう。
独りでは上手く踊れなかったラインダンス――だが、この相棒となら?
衝動に突き動かされるままに、眼鏡を装着する。立ち昇る螺旋、纏う銀色の光。掌を掲げ、アウルを集束する。
慣れた動作のハズなのに小刻みに身体が震えるのは、これから起こる何かへの、期待混じりの武者震い。
身体の奥底から浮かんでくる、文字の羅列。入れ替わり、組み合わさり、段々と意味のある言葉へ。
そう、それは呪文。眼鏡と己が生み出す聖夜の魔法への、扉を開く『天啓の鍵<キィ・ワード>』
加速する鼓動。張り詰める空気。本能の囁くままに、クインは叫ぶ。照準は、いまだ嘲笑う魔物へ。
「――眼鏡光線<アッキヌフォート・ミラージュレイ>!!」
爆発する虹色の光の奔流。驚愕の表情を浮かべながら、押し流され消滅する虚空の強敵。
迸る力の反動に耐え切れず、ダァトの華奢な身体は後ろに倒れ込んでいく。
積もる粉雪が容赦なく背を濡らす、が、そんなことは如何でもいい。
「眼鏡から光線がっ!素晴らしい!」
興奮に彩られた青い眼は、虹色を追って忙しなく動く。
これが己の、いや、己と相棒との魔法。天を廃し魔を駆逐する、人類の希望の光。
完成された煌きは、なんて美しく映るのだろう――この、ぼやけた視界にさえも。
「そう、ぼやけた――えっ?」
慌てて両手で目元に触れる。
其処に居る筈の、共に奇跡を造り上げた、掛け替えの無い相棒は。

――華麗に、夜空を舞っていた。



これが僕と眼鏡光線との出会いさ。感動的だろう?
どうしたんだい、そんな呆けた顔をして。ああ、感動の余り言葉が出てこないんだね、すごくわかるよ。
あれから何度か練習してね、今では、威力の調整から手の角度まで完璧さ。
えっ、手の角度は何かって?やだなあ、そんなこともわからないのかい。
――押さえておかないと、眼鏡がずれるじゃないか。


【了】


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja8087 / クインV・リヒテンシュタイン / 男 / 16歳 / ダァト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご縁を頂き、有難うございました。
真皓き世界での特訓、いかがでしたか?

天才少年の青春の一コマ、時々(?)眼鏡、というイメージで表現しました。
あえて眼鏡で執筆してみましたが、愛は上手く表現できていますでしょうか。

格好良く、を目指して…発注文に、負けました。
シュールさが少しでも出せていましたら、僥倖です。
N.Y.E煌きのドリームノベル -
日方架音 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2012年12月21日

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